微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · 細菌

Lactobacillus

乳酸桿菌

分類
G+ 桿菌・非芽胞 / Gram+ rods (non-spore)Lactobacillus
性状
Gram陽性 (G+)桿菌 Bacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/28: Listeria monocytogenes. Erysipelothrix rhusiopathiae, Lactobacillus and Bifidobacterium genus. Pre- and probiotics1/37: Normal microbial flora of humans and its significance5/5: Normal flora of the oral cavity. Microbes causing infections of the oral cavity (list)
自然耐性薬
バンコマイシン
原因となる疾患
う蝕歯髄炎

🧠 全体像:Lactobacillusはこの群の中で唯一「いる方が病気を防ぐ」菌である。腟内では糖を乳酸へ変換してpHを酸性(約3.8〜4.5)に保つことで病原菌の定着を防ぐバリアそのものとして働き、そのが減ることがという病気の成立過程になる——菌の増殖ではなく菌の喪失が病態という、この群の他のメンバーとは逆向きの読み方をする菌である。もう一点、グラム陽性菌でありながら種によってはバンコマイシンが本質的に効かないという事実は、の標的そのものを欠くという機序まで含めて覚える価値がある——ただし属全体が一律に耐性なわけではない。

微生物学的な特徴

長い、しばしばので、(好気耐性)、、。糖を発酵して乳酸を産生するの代表属である。

💡 「Lactobacillus属」の範囲は2020年に大きく変わった。 表現型では区別しにくい170を超える種を含み、しばしばを要する1。全ゲノム配列に基づく再分類で、2020年3月時点で261種を抱えていた旧来の属は25属に分けられ、改訂後のLactobacillus属にはL. crispatus・L. iners・L. jensenii・L. acidophilusなど脊椎動物に適応した種が残った2。腟内で優占する主な種はこの改訂後の属に含まれる。旧来の範囲の菌全体は、総称として引き続き「」と呼べる。

項目 内容
形態 長い、を示すことがある
生息部位 口腔、腸管、腟(エストロゲンの影響でグリコーゲンが豊富な生殖年齢女性で優占する)
培養 (下、低pH5.6〜6.5、高濃度グルコース)が。血液寒天培地では5%CO₂・25時間培養で白〜黄色・円形隆起のコロニーを形成し、「ヨーグルト様の匂い」を放つ(溶血なし、一部株はβ溶血)

防御の仕組み:病原性ではなく「守る」機序

Lactobacillusの本質はではなく乳酸産生による酸性バリアにある。

⚠️ は「の喪失」が本体。 抗菌薬使用・・パートナーの変化などでLactobacillus優位のフローラが崩れると腟内pHが上昇し、嫌気性菌が優勢な多菌種に置き換わる——これがの病態である。Lactobacillusが増えて病気になるのではなく、減って病気になるという向きを取り違えないこと。

感染経路と日和見感染

Lactobacillus自体は極めて病原性が低い常在菌で、健常人に感染症を起こすことはまれである。日和見感染が問題になるのは次のような状況に限られる。

  • 高度の免疫抑制状態
  • ・を背景とした歯科処置後の菌血症(心内膜炎)
  • 製剤の投与を受けている重症患者・中心静脈カテーテル留置患者。患者では、投与群のLactobacillus菌血症のリスクが非投与群より著しく高く、血液と製剤の菌がで区別できなかった——製剤の菌そのものが血流へ入りうる3

起こす疾患

疾患 特徴
() Streptococcus mutansなどのと共に、による酸産生で歯質をする
心内膜炎・髄膜炎・敗血症・蜂窩織炎 いずれもまれな日和見感染。基礎疾患・免疫状態が背景にあることが多い

なおはLactobacillusが「起こす」疾患ではなく、Lactobacillusが失われることで起こる疾患である点は上記の通り。

診断

  • 検体は脳脊髄液・羊水・滲出液などからの培養
  • または血液寒天培地(ヨーグルト様の匂いが手がかり)で発育を確認する
  • 血液培養で検出された場合、製剤の摂取歴を必ず確認する——製剤由来の一過性の検出と真の菌血症を区別する必要がある

治療と予防

⚠️ バンコマイシンが本質的に効かない種がある——ただし種によって違う。 L. rhamnosus・L. caseiはバンコマイシンに耐性だが、L. acidophilusは感受性を示す1。耐性の種は細胞壁の末端が、バンコマイシンの標的であるD-Ala-D-Alaではなく、D-Ala-D-Lactateに置き換わっており、薬剤の結合標的そのものを欠く。これはが獲得すると構造的には同じ標的改変だが、Lactobacillusでは遺伝子獲得を経ない、種として元から持つである点が異なる。

  • 一般にメトロニダゾール・アミノグリコシド系・にも耐性を示す1
  • 分類の複雑さと検査法の違いから感受性の判定基準が十分に定まっていない1。菌種を同定し、感受性結果を解釈する
  • 真の感染が疑われる場合はに基づき、やアンピシリンなどバンコマイシン以外の薬剤を選択する
  • としての利用は多くの人では問題になりにくいが、製剤の菌が菌血症を起こしうるため、重症患者・易感染性宿主・中心静脈カテーテル留置患者では慎重に判断する3

まとめ

  • Lactobacillusは口腔・腸管・腟の常在菌で、糖を乳酸へ変換するの代表属。腟では乳酸産生により酸性バリアを作り病原菌の定着を防ぐ——この群で唯一「守る」役割を持つ菌である。
  • はLactobacillusが増える病気ではなく、減ることで嫌気性菌が優勢になる病気であることを取り違えない。
  • 口腔ではStreptococcus mutansと共にの原因となる——同じ酸産生性が場所によって防御にも病害にもなる。
  • 病原性は低く、日和見感染(心内膜炎・髄膜炎・敗血症)はまれ。ただしの重症患者では製剤の菌が菌血症を起こしうる。
  • グラム陽性菌でありながら、L. rhamnosus・L. caseiなどはバンコマイシンにを持つ(D-Ala-D-Lactate末端によるターゲット欠如)が、L. acidophilusのように感受性の種もある。真の感染では菌種を同定し、など感受性のある薬を用いる。

出典

  1. 1.Lactobacillus species: taxonomic complexity and controversial susceptibilities(Clinical Infectious Diseases・2015)抄録で確認した。Lactobacillus属は表現型では区別しにくい170を超える種からなり、しばしば分子同定を要すること、消化管・腟の常在菌だがときにヒトの病原体となること、分類の複雑さと推奨される検査法の違いから抗菌薬感受性が十分に定まっていないこと、一般にメトロニダゾール・アミノグリコシド系・シプロフロキサシンに耐性で、L. acidophilusはペニシリンとバンコマイシンに感受性である一方、L. rhamnosusとL. caseiはメトロニダゾールとバンコマイシンに耐性であること。閲覧 2026-09-27
  2. 2.A taxonomic note on the genus Lactobacillus: Description of 23 novel genera, emended description of the genus Lactobacillus Beijerinck 1901, and union of Lactobacillaceae and Leuconostocaceae(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology・2020)抄録で確認した。2020年3月時点で261種を含んでいた旧来のLactobacillus属を全ゲノム配列に基づいて25属(改訂されたLactobacillus属、Paralactobacillus属と23の新属)に再編し、改訂後のLactobacillus属にはL. delbrueckii・L. iners・L. crispatus・L. jensenii・L. johnsonii・L. acidophilusなど脊椎動物に適応した種が残ること、2020年までにLactobacillaceaeに分類されていた菌全体を指す総称として「lactobacilli」を使い続けられるとしていること。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Genomic and epidemiological evidence of bacterial transmission from probiotic capsule to blood in ICU patients(Nature Medicine・2019)抄録で確認した。プロバイオティクスを投与されたICU患者では、投与されていない患者に比べLactobacillus菌血症のリスクが著しく高く、全ゲノム系統解析で患者血液の分離株が投与された製剤の菌と系統的に区別できなかったこと、一部の血液分離株には抗菌薬耐性をもたらす変異も生じており、プロバイオティクス株が直接菌血症を起こしうると結論していること。閲覧 2026-09-27