Microbe Atlas · 細菌
Gardnerella vaginalis
- 分類
- G± 桿菌 / Gram-variable rodsGardnerella
- 性状
- Gram陽性 (G+)Gram陰性 (G−)球桿菌 Coccobacilli通性嫌気性 Facultative
- 科目
- DermatologyGynecology
- トピック
- 2-11: Bacterial Vaginosis13: Inflammatory disorders of the vulva and vagina
- 原因となる疾患
- 骨盤内炎症性疾患
🧠 全体像:Gardnerella vaginalisは「いる/いない」ではなく「どれだけ優位か」で読む菌である——無症候女性の最大50%の腟内にも常在しうるため、培養で検出されたこと自体は病的意義を持たない。臨床的な核心は、本菌が形成するバイオフィルムbiofilmバイオフィルム(biofilm)biofilm(バイオフィルム)が細菌性腟症bacterial vaginosis, BV細菌性腟症(bacterial vaginosis, BV)bacterial vaginosis, BV(細菌性腟症)(BV)の起点になるという一点にあり、乳酸桿菌Lactobacillus乳酸桿菌(Lactobacillus)Lactobacillus(乳酸桿菌)優位の腟内環境をこのバイオフィルムbiofilmバイオフィルム(biofilm)biofilm(バイオフィルム)が置き換えることで、Mobiluncus・Peptostreptococcus属・Prevotella属などの嫌気性菌が続いて増殖できる土台を作る。グラム可変という染色性の不安定さも、細胞壁が薄いという同じ性質の裏返しである。
微生物学的な特徴
非運動性nonmotile非運動性(nonmotile)nonmotile(非運動性)・非芽胞形成sporulation芽胞形成(sporulation)sporulation(芽胞形成)の小型球桿菌で、選択培地selective medium選択培地(selective medium)selective medium(選択培地)上に小型・円形・灰色のコロニーを形成する。薄いグラム陽性型の細胞壁を持つが結晶紫を安定して保持できず、グラム陽性〜陰性の間で染色像が揺れ動くためグラム可変として扱われる——同じ菌が標本ごと・視野ごとに違う色に見えることがある1。通性嫌気性菌facultative anaerobe通性嫌気性菌(facultative anaerobe)facultative anaerobe(通性嫌気性菌)であり、酸素の有無にかかわらず増殖できる。
⚠️ 「G. vaginalis」という1つの種名が、そのまま1つの生物を指さなくなっている。 約40年にわたりGardnerella属はG. vaginalisただ1種とされてきたが、近年のゲノム解析genome sequencingゲノム解析(genome sequencing)genome sequencing(ゲノム解析)によりG. leopoldii・G. piotii・G. swidsinskiiを含む13種にのぼる新種が記載された1。日常検査routine diagnostics日常検査(routine diagnostics)routine diagnostics(日常検査)室の同定や既存の臨床研究の多くは分割前の「G. vaginalis」を単位としているため、種ごとの病原性の違いはまだ臨床判断に落とし込める段階にない——本ノートも従来どおり属レベルの記述としてまとめる。
病原性の仕組み
⭐ 多くのBVはG. vaginalisが形成するバイオフィルムbiofilmバイオフィルム(biofilm)biofilm(バイオフィルム)から始まる1。腟上皮に付着してバイオフィルムbiofilmバイオフィルム(biofilm)biofilm(バイオフィルム)を作ると腟内pHが上昇し、Mobiluncus・Peptostreptococcus属・Prevotella属・Atopobium vaginaeなどの日和見opportunistic日和見(opportunistic)opportunistic(日和見)嫌気性菌が増殖しやすい環境が整う。これにより過酸化水素hydrogen peroxide過酸化水素(hydrogen peroxide)hydrogen peroxide(過酸化水素)産生性の乳酸桿菌Lactobacillus乳酸桿菌(Lactobacillus)Lactobacillus(乳酸桿菌)優位の腟内細菌叢vaginal microbiota腟内細菌叢(vaginal microbiota)vaginal microbiota(腟内細菌叢)が嫌気性多菌種優位の状態へ置き換わる——単一病原体による感染症ではなく、腟内細菌叢vaginal microbiota腟内細菌叢(vaginal microbiota)vaginal microbiota(腟内細菌叢)という生態系全体の異常として理解する。
腟上皮の扁平上皮細胞squamous epithelial cell扁平上皮細胞(squamous epithelial cell)squamous epithelial cell(扁平上皮細胞)表面に本菌を中心とする細菌が密に付着した像がclue cellであり、Amsel基準Amsel criteriaAmsel基準(Amsel criteria)Amsel criteria(Amsel基準)の一項目としてBVの診断的手がかりになる。
感染経路と疫学
- 単一病原体による古典的な性感染症ではなく、腟内細菌叢異常vaginal dysbiosis腟内細菌叢異常(vaginal dysbiosis)vaginal dysbiosis(腟内細菌叢異常)として発症する。新規・複数の性的パートナーsexual partner性的パートナー(sexual partner)sexual partner(性的パートナー)、腟洗浄douching腟洗浄(douching)douching(腟洗浄)、コンドームcondomコンドーム(condom)condom(コンドーム)不使用との関連が指摘される
- 無症候女性の腟内にも高頻度に検出される常在菌であり、培養での検出=感染ではない1
起こす疾患
| 疾患 | 特徴 |
|---|---|
| 細菌性腟症bacterial vaginosis, BV細菌性腟症(bacterial vaginosis, BV)bacterial vaginosis, BV(細菌性腟症) | 本菌のバイオフィルムbiofilmバイオフィルム(biofilm)biofilm(バイオフィルム)が起点となる腟内細菌叢異常vaginal dysbiosis腟内細菌叢異常(vaginal dysbiosis)vaginal dysbiosis(腟内細菌叢異常)。均一な灰白色分泌物・魚臭fishy odor魚臭(fishy odor)fishy odor(魚臭)が前景に立つ |
| 骨盤内炎症性疾患pelvic inflammatory disease, PID骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease, PID)pelvic inflammatory disease, PID(骨盤内炎症性疾患)(PID) | BV関連の嫌気性菌の一員として、多菌性polymicrobial多菌性(polymicrobial)polymicrobial(多菌性)感染の起因菌に含まれることがある |
診断
- 培養は診断に用いない——無症候女性にも高頻度に定着するため、検出しても病的意義を判断できない
- Amsel基準Amsel criteriaAmsel基準(Amsel criteria)Amsel criteria(Amsel基準)(均一分泌物・腟pHvaginal pH腟pH(vaginal pH)vaginal pH(腟pH)>4.5・アミン試験whiff test (amine test)アミン試験(whiff test (amine test))whiff test (amine test)(アミン試験)陽性・clue cellの4項目中3項目以上)が臨床現場での標準的な診断法
- 腟グラム染色vaginal Gram stain腟グラム染色(vaginal Gram stain)vaginal Gram stain(腟グラム染色)によるNugentスコアNugent scoreNugentスコア(Nugent score)Nugent score(Nugentスコア)は研究領域での基準法で、Gardnerella・Bacteroides様形態Gardnerella/Bacteroides morphotypesGardnerella・Bacteroides様形態(Gardnerella/Bacteroides morphotypes)Gardnerella/Bacteroides morphotypes(Gardnerella・Bacteroides様形態)として小型グラム可変桿菌small gram-variable rod小型グラム可変桿菌(small gram-variable rod)small gram-variable rod(小型グラム可変桿菌)を採点する
治療と予防
- 第一選択はメトロニダゾール500 mg 1日2回7日間内服、または腟用クリンダマイシン2%クリームcreamクリーム(cream)cream(クリーム)5 g連日7日間
- 単回投与の選択肢としてセクニダゾール2 g単回内pronation回内(pronation)pronation(回内)服がある2
- BVは性感染症とみなされてこなかったため男性パートナーへのルーチン治療は従来行われてこなかったが、⚠️ 2025年のACOG改訂では初発・再発の症候例で男性パートナーへの内服・外用治療の考慮が推奨に加わった——パートナー治療が再発を減らすという新しいエビデンスが根拠である2
まとめ
- G. vaginalisは非運動性nonmotile非運動性(nonmotile)nonmotile(非運動性)の球桿菌で、薄いグラム陽性型の細胞壁ゆえに染色像が定まらないグラム可変菌である。無症候女性の最大50%に定着しうる常在菌でもあり、培養での検出は病的意義を持たない。近年Gardnerella属は13種にのぼる複数種へ分割されたが、臨床判断は依然として属レベルで行う。
- 本菌のバイオフィルムbiofilmバイオフィルム(biofilm)biofilm(バイオフィルム)がBVの起点となり、乳酸桿菌Lactobacillus乳酸桿菌(Lactobacillus)Lactobacillus(乳酸桿菌)優位の腟内環境を嫌気性多菌種優位の状態へ置き換える。腟上皮に細菌が密集する像がclue cellである。
- 診断は培養ではなくAmsel基準Amsel criteriaAmsel基準(Amsel criteria)Amsel criteria(Amsel基準)または腟グラム染色vaginal Gram stain腟グラム染色(vaginal Gram stain)vaginal Gram stain(腟グラム染色)によるNugentスコアNugent scoreNugentスコア(Nugent score)Nugent score(Nugentスコア)で行う。
- 治療はメトロニダゾールまたはクリンダマイシンが第一選択で、2025年のACOG改訂以降は症候例で男性パートナーへの治療も考慮されるようになった。
出典
- 1.Gardnerella Vaginalis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)本菌が非運動性・非芽胞形成の球桿菌であること、薄いグラム陽性型の細胞壁を持ちながら染色像がグラム陽性〜陰性の間で揺れ動くためグラム可変と扱われること、通性嫌気性菌であること、無症候女性の最大50%で腟内に検出されうる常在菌でもあること、約40年間G. vaginalis 1種のみとされてきた本属に近年13種にのぼる新種(G. leopoldii・G. piotii・G. swidsinskiiなど)が記載されたことを確認した閲覧 2026-08-10
- 2.Bacterial Vaginosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)経口メトロニダゾール500 mg 1日2回7日間・腟用クリンダマイシン2%クリーム5 g連日7日間・セクニダゾール2 g単回内服が主要な治療選択肢であること、BVは常在腟内細菌叢の過増殖であり性感染症とはみなされてこなかったため男性パートナーへのルーチン治療は行われてこなかったが、2025年のACOG改訂で初発・再発症候例における男性パートナーへの治療の考慮が推奨に加わったことを確認した閲覧 2026-08-10