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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 疾患

骨盤内炎症性疾患

Pelvic inflammatory disease

臓器系
生殖・産婦人科感染症
科目
GynecologyInternal Medicine
トピック
婦人科 31:骨盤内炎症性疾患内科学 I-12:腹腔内感染症:胆管炎・胆嚢炎・腹腔内膿瘍・憩室炎・腹膜炎
鑑別疾患
異所性妊娠急性虫垂炎
合併症
卵巣炎
関連疾患
産褥敗血症・産褥感染
治療薬
セフトリアキソンドキシサイクリンメトロニダゾールアジスロマイシンセフォキシチンレボフロキサシンモキシフロキサシン
原因微生物
Neisseria gonorrhoeaeChlamydia trachomatis D-KMycoplasma genitaliumGardnerella vaginalisPeptostreptococcus
症状
圧痛異常子宮出血骨盤痛性交痛排尿痛発熱
検査値
CRPESR
原因となる疾患
クラミジア性器感染症細菌性腟症淋菌感染症
適応薬
セフォペラゾンセフメタゾール

🧠 全体像(PID)は、腟・の感染が子宮内膜→卵管→へと上行していく連続体であり、(TOA)・骨盤腹膜炎はすべて同じ一本道の異なる到達点にすぎない。最大の学習ポイントは「確定診断を待たない」こと:妊娠可能年齢の女性がを訴え、のいずれか1つでもあれば、NAAT結果を待たずにを直ちに開始する。もう一つの軸は、軽症に見えても卵管の炎症・線維化が不可逆な(不妊・)を残しうるという「軽症=軽視してよい、ではない」という非対称性である。

概要

PIDは、主に性感染した微生物がを越えて上部生殖器(子宮内膜・卵管・卵巣・骨盤腹膜)へ波及することで生じる感染性炎症性疾患の総称であり、・骨盤腹膜炎を単一の病態スペクトラムとして捉える。

  • 好発は性活動のある若年女性で、新規・複数の不使用、既往PID・既往STIが危険因子となる。
  • 診断は培養・NAATの結果を待たない臨床診断が原則であり、治療開始の遅れがそのまま卵管障害・の増大に直結する。
  • 無症候〜軽微な症状で経過し診断が遅れる例(いわゆる sub-clinical PID)でも、などのを残しうる。

病態と原因微生物

flowchart TD
    A["腟・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical canal (uterine cervix)'>子宮頸管</span>の感染(淋菌・クラミジア等)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical canal (uterine cervix)'>子宮頸管</span>の防御破綻・上行性進展"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Endometritis'>子宮内膜炎</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Salpingitis'>卵管炎</span>"]
    D --> E{"進展の方向"}
    E -->|"卵<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraluminal'>管腔内</span>に膿が貯留"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyosalpinx'>卵管留膿症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubo-ovarian abscess, TOA'>卵管卵巣膿瘍</span>(TOA)"]
    E -->|"腹腔面へ波及"| G["骨盤腹膜炎"]
    E -->|"右上腹部・肝表面へ波及(まれ)"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fitz-Hugh-Curtis syndrome'>Fitz-Hugh-Curtis症候群</span>(肝周囲炎)"]
    D --> I["治癒後の卵管線維化・癒着"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubal infertility'>卵管性不妊</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ectopic pregnancy'>異所性妊娠</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic pelvic pain'>慢性骨盤痛</span>"]
  • 淋菌Neisseria gonorrhoeae)とクラミジアChlamydia trachomatis)が古典的かつ最重要の原因微生物である。
  • Mycoplasma genitaliumは近年重要性が認識されてきた病原体で、淋菌・クラミジア陰性のPIDの一部を説明しうる。ただし現行のCDCガイドラインでは、PID診断時にM. genitaliumをルーチンで検査・治療する根拠はまだ十分でないとされており、標準治療に反応しない、あるいは再発を繰り返す例で個別に検討する位置づけにとどまる。
  • 実際のPIDの多くは感染であり、関連の嫌気性菌・Gardnerella vaginalisPrevotella属、Peptostreptococcus属など)、腸内グラム陰性桿菌、なども上部生殖器から検出される。そのものがPIDの危険因子でもある。
  • 危険因子は若年、新規・複数の不使用、既往PID・既往STIである。

💡 「頸管NAATが陰性=PIDではない」ではない。頸管の淋菌・クラミジアが陰性化していても上部生殖器にはすでに感染が成立している場合があり、頸管検査の結果は治療開始の可否を左右しない

臨床像

  • 両側性の下腹部・が主症状で、発熱、悪臭を伴う粘液膿性を伴うことがある。
  • ではが中心的所見で、子宮頸部はであることが多い。
  • (TOA)では・強い圧痛・発熱を伴い、破裂すればからに至る外科的緊急症となる。
  • (肝周囲炎)を合併すると右上腹部痛を来し、胆嚢炎など他の急性右上腹部痛疾患との鑑別が問題になる。
  • 症状が軽微、あるいは無症候に近い経過(subclinical PID)をとる例もあり、症状の強さとのリスクは必ずしも一致しない。

診断

診断の核心は「確定診断を待たずに治療を始める」ことである。妊娠可能年齢の女性に他に明確な原因のない・下腹部痛があり、のいずれか1つでも認めれば、性感染症のリスクがある限りPIDを疑ってを開始する閾値を低くする。

基準の段階 内容 位置づけ
のいずれか1つ これだけで開始をする
追加支持所見 38.3℃超の発熱、異常な頸管・腟粘液CRPESR上昇、頸管の淋菌・クラミジア陽性 診断の確からしさを高めるが必須ではない
確定所見 での組織学的/MRIでの肥厚・液体貯留した卵管や卵管卵巣腫瘤、腹腔鏡所見 特異度は高いが感度は限られ、選択的に用いる

同時に行う評価

  • 尿または腟・頸管検体のNAATで淋菌・クラミジアを検査する。
  • 妊娠反応検査でを必ず除外し、HIV・梅毒検査も併せて行う。
  • 重症例、の触知、診断が不確実な例ではを行い、TOAの評価(片側性の卵巣腫大、隔壁を伴う複雑な、液面形成など)を行う。超音波で不明瞭ならMRIを、外科的診断が必要ならば腹腔鏡を検討する。

⚠️ 頸管NAATが陰性でもは除外できない。検査結果を待って治療を遅らせることが最大のリスクであり、臨床的疑いが最を満たす時点で治療を開始する。

治療

セフトリアキソンドキシサイクリンメトロニダゾールを基本とするカバーが、外来・入院いずれのレジメンでも共通の軸になる。⭐ メトロニダゾールは「嫌気性菌感染が疑われる場合だけ追加する」ものではなく、現行ガイドラインでは全例の基本レジメンに含める関連の嫌気性菌がPIDの起因菌としてしばしば分離されること、メトロニダゾール併用群で短期が改善したとするエビデンスの蓄積を根拠に、以前の「嫌気性菌カバーは選択的に追加」という位置づけから変更された。

項目 外来治療(軽症〜中等症) 入院・静注治療
基本レジメン セフトリアキソン500 mg筋注単回+ドキシサイクリン100 mg 1日2回14日間+メトロニダゾール500 mg 1日2回14日間 セフトリアキソン1 gを24時間ごと+ドキシサイクリン100 mgを12時間ごと+メトロニダゾール500 mgを12時間ごと
体重による調整 体重150 kg以上ではセフトリアキソン1 gとする(淋菌感染の確認は条件としない)1 同左の体重基準を適用する
セファロスポリンアレルギー時の代替 地域の淋菌感受性が良好で追跡可能なら+メトロニダゾール、単剤、あるいはアジスロマイシンを含むレジメンを検討 同様の代替方針を個別に検討
セフトリアキソン入手困難時 2 g筋注単回+1 g経口+ドキシサイクリン+メトロニダゾールを代替とする1 同左
再評価・ 72時間以内に改善しなければ診断・服薬状況を再評価し、入院・静注治療へのを検討 臨床的に改善後は内服(ドキシサイクリン+メトロニダゾール)へ、合計14日間をする
TOA合併時 原則として入院管理へ 少なくとも24時間の入院観察。抗菌薬に反応しない、増大する、破裂が疑われる場合は画像下ドレナージまたは手術を行う

入院適応

  • 外科的緊急疾患(虫垂炎など)を除外できない
  • (TOA)
  • 妊娠
  • 重症、悪心・嘔吐で経口摂取困難、38.5℃超の発熱
  • 外来薬を服用・継続できない
  • 外来治療に反応しない

IUDの扱い

IUD使用中にPIDと診断されても、IUDをルーチンにする必要はない。抗菌薬治療を開始したうえで経過をみて、48〜72時間で臨床的改善が得られない場合にIUDを検討するという運用が現実的である。

パートナーと再検査

  • 症状発現前60日以内を淋菌・クラミジアについて評価・治療する。
  • 本人とパートナー双方の治療完了かつ症状消失まで性交を避ける。
  • 淋菌・クラミジア関連PIDでは約3か月後に再検査する(の確認)。

合併症

  • (肝周囲炎):炎症が右上腹部の表面まで波及し右上腹部痛を来す。腹腔鏡では肝表面と腹壁・横隔膜の間に特徴的な「バイオリン線様」の癒着を認めることがある。
  • 不妊(:卵管の炎症・線維化・閉塞により生じ、PIDのエピソード回数が増えるほどリスクが上昇する(1回のエピソードでも一定割合に生じ、繰り返すほど頻度が上がる)。
  • :卵管・骨盤内の癒着に起因し、PID既往女性の相当数にみられる長期的である。
  • :卵管のにより、PID既往のない女性と比べてリスクが有意に上昇する。
  • (TOA):抗菌薬単独で反応しない場合や増大・破裂が疑われる場合は画像下ドレナージまたは外科的介入が必要になる。破裂はを来す外科的緊急症である。

⚠️ 症状が軽い、あるいは自然に軽快したようにみえるPIDでも、卵管の炎症・線維化そのものは進行しうる。「症状が軽い=のリスクも低い」ではないため、軽症例でもを満たせば治療を省略しない。

まとめ

  • PIDは腟・頸管感染が子宮内膜→卵管→へ上行する連続体であり、淋菌・クラミジアが古典的起因菌だが、関連の嫌気性菌を含む感染であることが多く、Mycoplasma genitaliumも次点の原因として認識されている。
  • 診断は培養・NAAT結果を待たない臨床診断が原則で、のいずれか1つを満たせばを開始する。
  • 標準治療はセフトリアキソン単回筋注+ドキシサイクリン14日+メトロニダゾール14日であり、メトロニダゾールは現行ガイドラインでは選択的追加ではなく全例の基本レジメンに含まれる。
  • 入院適応は外科的緊急疾患を除外できない、TOA、妊娠、重症、経口治療継続不能、外来治療無効の場合であり、TOAは少なくとも24時間の入院観察を要する。
  • IUDはルーチン不要だが、48〜72時間で改善がなければを検討する。パートナーは60日以内のを評価・治療し、淋菌・クラミジア関連PIDでは約3か月後に再検査する。
  • 合併症としてリスク上昇、TOAがあり、軽症に見えても卵管障害のを軽視してはならない。

出典

  1. 1.Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021 — Pelvic Inflammatory Disease(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2021)PIDの外来レジメンはセフトリアキソン500 mg単回筋注+ドキシサイクリン14日間+メトロニダゾール14日間が基本で、体重150 kg以上ではセフトリアキソン1 gを投与するという体重による調整であり、淋菌感染の確認の有無を条件としないことを確認した閲覧 2026-08-02