婦人科学

婦人科学 · 31

骨盤内炎症性疾患

Pelvic inflammatory disease

前提:病態
卵巣・卵管の非腫瘍性疾患
前提:正常
骨盤・会陰:骨盤内臓
疾患
骨盤内炎症性疾患卵管卵巣膿瘍卵巣炎
症状
慢性骨盤痛

🧠 全体像:は、腟・子宮頸部から上行した微生物による、、、の連続体である。軽症でも卵管障害を残しうるため、妊娠を除外し、最小を満たせば検査結果を待たずに広域治療を始める。

病態と原因微生物

flowchart TD
    A["腟・子宮頸部の感染"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Endometritis'>子宮内膜炎</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Salpingitis'>卵管炎</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyosalpinx'>卵管留膿症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubo-ovarian abscess, TOA'>卵管卵巣膿瘍</span>"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pelvic peritonitis'>骨盤腹膜炎</span>"]
    C --> F["治癒後の線維化・癒着"]
    F --> G["不妊・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ectopic pregnancy'>異所性妊娠</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic pelvic pain'>慢性骨盤痛</span>"]
  • 重要な病原体は淋菌とである。
  • Mycoplasma genitalium、関連の嫌気性菌・、腸内グラム陰性菌、などによる多微生物感染も多い。M. genitaliumは女性の・PIDの10〜25%に関与する1。
  • 危険因子は若年、新規・複数の、不使用、既往PID・性感染症である。

臨床像

  • 両側性下腹部痛、、、発熱、悪臭または、を生じる。
  • 子宮頸部はで、では、、を認める。
  • では、強い圧痛、発熱を伴い、破裂すると敗血症性ショックとなる。
  • は肝周囲炎により右上腹部痛を来す。

診断

で他に明確な原因がないがあり、、、のいずれかを認めれば、PIDを疑ってを開始する閾値を低くする。

同時に行う評価

  • 尿または腟・頸管検体ので淋菌・クラミジアを検査する。欧州ガイドラインはPIDを疑う女性でM. genitaliumのも推奨しており2、陽性なら同時に変異を調べる1。
  • でを除外し、・梅毒検査も行う。
  • の白血球、、発熱、/上昇は診断を支持する。
  • 重症、腫瘤、診断不明ではを行う。は(TOA)の除外に必須で3、の除外にはが有用である2。必要に応じ腹腔鏡を検討する。

⚠️ 頸管が陰性でもは除外できない。

治療

外来治療(軽症〜中等症)

💡 セフトリアキソン用量と投与期間には地域差がある。 上記は米国系()の書き方で、フランスのCNGOF/SPILFガイドラインは単純性PIDの第一選択を体重によらずセフトリアキソン1 g単回(筋注または静注)+ドキシサイクリン100 mg 1日2回+メトロニダゾール500 mg 1日2回の10日間としている(grade A)3。2017欧州ガイドラインは基盤レジメンや、M. genitalium陽性PIDでのも第一選択に挙げる2。「1つの標準レジメン」ではなく、地域の耐性状況で選ぶ枠組みと理解する。

💡 メトロニダゾール併用はRCTの裏づけがある。 急性PID女性233例のRCTで、セフトリアキソン+ドキシサイクリンに14日間のメトロニダゾールを加えると、治療30日後の子宮内膜からの嫌気性菌検出が8%対21%と有意に減り、M. genitalium検出と骨盤圧痛も減った。も良好で、に併用すべきとされた4。

72時間以内に改善しなければ、診断・服薬状況を再評価し、入院・静注治療を検討する。

入院適応

  • を除外できない
  • 妊娠
  • 重症、悪心・嘔吐、38.5℃超の発熱
  • 外来薬を服用・継続できない
  • 外来治療に反応しない

静注治療の一例は、セフトリアキソン1 gを24時間ごと、ドキシサイクリン100 mgを12時間ごと、メトロニダゾール500 mgを12時間ごとに投与し、改善後に内服へ切り替えて合計14日間とする。TOAを含むPIDでは、フランスガイドラインは臨床的に改善するまでセフトリアキソン1〜2 g/日を静注し、ドキシサイクリン100 mgを1日2回、メトロニダゾール500 mgを1日3回(8時間ごと)とし、計14日間を推奨している(grade B)3。単純性PIDより抗嫌気性菌カバーを厚くする点が要点である。

⚠️ TOAではドレナージは「不応時の手段」ではなく初期治療の一部。 と診断したら入院のうえ細菌学的検体を採取し、経験的抗菌薬に加えて膿瘍のドレナージを併用する5。骨盤内貯留が3 cmを超えればドレナージの適応となる(grade B)3。やといった型では腹腔鏡または開腹手術を行うが、それ以外では、重篤な止血障害やがなければ穿刺が手術より低侵襲な代替となり、高い治癒率が得られる5。

パートナーと再検査

  • 症状発現前60日以内のを淋菌・クラミジアについて評価・治療する。
  • 本人とパートナーの治療完了かつ症状消失まで性交を避ける。
  • 淋菌・クラミジア関連PIDでは約3か月後に再検査する。フランスガイドラインはPID後3〜6か月に腟検体で微生物学的な再評価を行うことを勧めている(grade C)3。

💡 パートナー管理は淋菌・クラミジアだけでは狭い。 PIDの多くは淋菌・クラミジア・M. genitalium以外の多微生物感染であり、2017欧州ガイドラインは男性パートナーへドキシサイクリンを経験的に投与することを提案している(マクロライド曝露を避け、M. genitaliumの耐性化を抑える意図)。女性でM. genitalium感染が確定した場合は、その男性パートナーにもM. genitalium検査を行う2。M. genitalium陽性PIDの治療は400 mgを1日1回14日間である1。

まとめ

  • PIDはによる〜の連続体で、軽症でも不妊・につながる。
  • と最小のいずれかがあれば、結果を待たずを開始する。
  • 外来標準治療はセフトリアキソン単回+ドキシサイクリン14日+メトロニダゾール14日である(フランスガイドラインはセフトリアキソン1 g単回+同2剤10日間を第一選択とし、期間・用量には地域差がある)3。
  • メトロニダゾール併用はRCTで嫌気性菌残存を8%対21%へ減らすことが示されており、省略しない4。
  • TOAは入院・抗菌薬に加えてドレナージを併用し、3 cm超はドレナージ適応、型は手術を選ぶ35。

出典

  1. 1.2021 European guideline on the management of Mycoplasma genitalium infections(Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology(IUSTI Europe)・2022)女性ではM. genitaliumが子宮頸管炎とPIDの10〜25%に関与する。診断は核酸増幅検査でのみ可能で、マクロライド耐性変異の検索を必ず含める。PIDなど複雑性M. genitalium感染の治療はモキシフロキサシン400 mg 1日1回14日間閲覧 2026-08-21
  2. 2.2017 European guideline for the management of pelvic inflammatory disease(International Journal of STD & AIDS(IUSTI/WHO Europe)・2018)PIDが疑われる女性ではMycoplasma genitalium検査を推奨し、M. genitalium陽性PIDを含めモキシフロキサシンを第一選択治療の一つとする。男性パートナーにはマクロライド曝露とM. genitaliumの耐性化を減らす目的でドキシサイクリンの経験的投与を提案する。MRIは鑑別診断の除外に有用閲覧 2026-08-21
  3. 3.Pelvic inflammatory diseases: Updated French guidelines(Journal of Gynecology Obstetrics and Human Reproduction(CNGOF・SPILF)・2020)単純性PIDの第一選択はセフトリアキソン1 g単回(筋注または静注)+ドキシサイクリン100 mg 1日2回+メトロニダゾール500 mg 1日2回を10日間(grade A)。複雑性PIDは臨床的改善までセフトリアキソン1〜2 g/日静注+ドキシサイクリン100 mg 1日2回+メトロニダゾール500 mg 1日3回を計14日間(grade B)。骨盤内貯留が3 cmを超える卵管卵巣膿瘍はドレナージの適応(grade B)。PID後3〜6か月に腟検体で微生物学的再評価を行う(grade C)閲覧 2026-08-21
  4. 4.A Randomized Controlled Trial of Ceftriaxone and Doxycycline, With or Without Metronidazole, for the Treatment of Acute Pelvic Inflammatory Disease(Clinical Infectious Diseases・2021)急性PID女性233例の二重盲検RCTで、セフトリアキソン+ドキシサイクリンにメトロニダゾール14日間を追加すると、治療30日後の子宮内膜嫌気性菌検出が8%対21%と有意に低下し、M. genitalium検出と骨盤圧痛も減少した。忍容性は良好で、メトロニダゾールを定型的に併用すべきとした閲覧 2026-08-21
  5. 5.[Management of tubo-ovarian abscesses and complicated pelvic inflammatory disease: CNGOF and SPILF Pelvic Inflammatory Diseases Guidelines](Gynécologie Obstétrique Fertilité & Sénologie(CNGOF・SPILF)・2019)卵管卵巣膿瘍と診断したら入院・細菌学的検体採取・経験的抗菌薬に加えて膿瘍のドレナージを併用する。汎発性腹膜炎や敗血症性ショックなど重症敗血症型では腹腔鏡または開腹手術を行い、それ以外では止血障害や重症敗血症がなければ経腟超音波ガイド下穿刺が手術より低侵襲な代替として高い治癒率を示す閲覧 2026-08-21