病理学

病理学 · C/74

卵巣・卵管の非腫瘍性疾患

Non-neoplastic diseases of the ovary and fallopian tube

応用トピック
多嚢胞性卵巣症候群(PMOS、旧PCOS)卵巣機能性嚢胞骨盤内炎症性疾患異所性妊娠
疾患
多嚢胞性卵巣症候群卵管卵巣膿瘍

🧠 全体像:卵巣の非腫瘍性疾患は濾胞/(無害、単なる排卵の残骸)とPMOS(旧PCOS、内分泌疾患としての多発性)を区別することが軸になる——「多嚢胞性」という名称に反し、PMOSの卵胞は真の嚢胞ではなく発育停止したである。卵管側では、炎症()がヒダの癒着を通じてのリスクを高める、という一本の糸でつながっている。

卵巣の非腫瘍性疾患

A)濾胞嚢胞・黄体嚢胞

(卵巣・良性腫瘍も参照)

  • 非常に多い、無害な病変。
  • 由来:破裂しなかった濾胞、または破裂してすぐに閉鎖した濾胞。
  • しばしば多発、漿膜被覆の下。
  • 通常は小さく、+に裏打ちされ、透明な漿液で満たされる。
  • 液体貯留 → 裏打ち細胞の。
  • 時に10 cm超 → な腫瘤+。
  • 破裂 → +。

B)多嚢胞性卵巣疾患(PMOS、旧称PCOS)

  • 生殖年齢女性で最も多い内分泌疾患(は世界で10〜13%)1。2026年5月、国際的な合意を経て名称がpolyendocrine metabolic ovarian syndrome(PMOS)に改められた(旧称:polycystic ovary syndrome、PCOS、さらに旧いStein-Leventhal症候群)。「多嚢胞性」という呼称は病態を正しく表していない(下記参照)ための改称である。2
  • 緻密なに覆われた多嚢胞性卵巣。

臨床像

💡 診断は2023年国際エビデンスに基づくガイドラインによる。 2003年のを土台とした基準で、①(希発排卵・)、②臨床的または生化学的な、③超音波での多嚢胞性卵巣所見(成人では代わりに血清でもよいが、両方は行わない)の3項目中2項目を満たし、他の原因を除外して診断する。多嚢胞性卵巣所見は3項目の一つにすぎず必須ではない——とが揃えば超音波もも要らない。思春期では①と②の両方が必要で、超音波とは特異度が低いため勧められない1。

発生機序

flowchart TD
    A["エストロゲン+アンドロゲンの過剰産生"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span>増加・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>低下(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>比の上昇)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic anovulation'>慢性無排卵</span>"]
    C --> D["拮抗されないエストロゲンの増加"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endometrial hyperplasia'>子宮内膜増殖症</span>・癌のリスク増加"]

形態

  • 卵巣は正常の2倍、灰白色、平滑な質。
  • 多数の皮質下小胞状構造。💡 これらは発育が停止したであり、破裂しなかった濾胞嚢胞などとは異なり真の病的嚢胞ではない。この点が「多嚢胞性」という呼称の不正確さの根拠であり、PMOSへの改称理由の一つになっている。
  • 組織像:肥厚した線維性の外膜に覆われた、発育停止した群。

卵管の非腫瘍性疾患

A)卵管炎

臨床像

  • 発熱+下腹部・+骨盤腫瘤(滲出物による拡張)。
  • — 卵管と卵巣の癒着から。
  • 卵管卵巣複合 — 感染が治まった後の遺残腫瘤。
  • — への炎症進展による肝周囲炎で、PID患者の最大4分の1に生じ、鋭い右上腹部痛を来す。4
  • ヒダの癒着 → のリスク増加。
  • その他の合併症:不妊、、。

B)子宮外妊娠(卵管妊娠)

  • が子宮腔外に着床。
  • 90%超が卵管、他部位:卵巣、腹腔、子宮頸部。
  • 機序:胚の卵管内輸送の障害+卵管環境の変化が早期着床を許す。
  • 約50%に慢性の既往。の既往回数が増えるほどでの入院リスクは上昇する(既往2回で2.1、既往3回以上で4.5)。5
  • その他の危険因子:、子宮内腫瘍、卵管手術の既往、使用。

臨床経過

C)その他の非腫瘍性卵管疾患

  • :慢性閉塞後の透明液で満たされた拡張卵管。
  • :急性後の膿で満たされた卵管。
  • :血液で満たされた卵管(破裂後)。

比較 — 卵巣嚢胞とPMOS(旧PCOS)

特徴 濾胞/ PMOS(旧PCOS、Stein-Leventhal症候群)
数 少数、しばしば単発 多発
被膜 薄い 厚い線維性
ホルモン 正常 アンドロゲン・エストロゲン増加、/比上昇
症状 通常なし、破裂 → 疼痛 ++不妊+肥満
子宮内膜リスク なし 増殖症+癌の増加

💡 ポイント: 濾胞/ = 無害、破裂 → 。PMOS(旧PCOS、Stein-Leventhal症候群) = 女性で第1位の内分泌疾患、++++肥満+不妊、/比上昇、卵巣は2倍で厚い線維性外膜+多数の(真の嚢胞ではない)、+癌の増加。 = 上行性の淋菌/クラミジア/、合併症 = 、、不妊。 = 90%超が卵管、50%にの既往、破裂 = 外科的緊急事態。

まとめ

  • 濾胞嚢胞・は非常に多い無害な病変で、破裂すると・を来しうる。
  • PMOS(旧PCOS、2026年5月改称)は女性で最多クラスの内分泌疾患で、・・・・不妊・肥満を呈する。
  • PMOSの発生機序はエストロゲン・産生→/比上昇→→拮抗されないエストロゲン増加→・癌リスク増加という連鎖。
  • PMOSの卵巣にみられる多数の小胞状構造は発育停止したであり、真の病的嚢胞ではない。
  • 診断は2023年国際ガイドラインに従い、・・多嚢胞性卵巣所見(成人ではで代替可)の3項目中2項目+他疾患の除外で行う。思春期ではとの両方が必要。
  • はほぼ常に上行性の微生物感染(淋菌、クラミジア、)で、やのリスクを高める。
  • は90%超が卵管に生じ、約50%に慢性の既往があり、破裂は外科的緊急事態となる。

出典

  1. 1.Recommendations From the 2023 International Evidence-based Guideline for the Assessment and Management of Polycystic Ovary Syndrome(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism・2023)全文(PMC10505534)で確認した。診断は2003年Rotterdam基準を土台とした2018年国際ガイドラインの基準で行い、臨床的または生化学的な高アンドロゲン血症・排卵障害・超音波での多嚢胞性卵巣の3項目中2項目を満たし、他の原因を除外して成立すること。成人に限り超音波の代わりに血清AMHを用いてよいが、過剰診断を避けるため両方は行わないこと(1.5.5)。月経不順と高アンドロゲン血症が揃えば超音波もAMHも診断に不要であること。思春期では高アンドロゲン血症と排卵障害の両方が必要で、特異度が低いため超音波とAMHは勧められないこと。インスリン抵抗性はPCOSの主要な特徴と認識されるが、日常的に使える測定は不正確で臨床的な測定は現時点で勧められないこと。有病率は世界で10〜13%とされること閲覧 2026-08-27
  2. 2.Polyendocrine metabolic ovarian syndrome, the new name for polycystic ovary syndrome: a multistep global consensus process(The Lancet・2026)PCOSという名称が病的な卵巣嚢胞を含意して不正確であり、多様な内分泌・代謝的特徴を覆い隠して診断の遅れ・分断された医療・スティグマにつながっていたこと。56の学術・臨床・患者団体が参加し全世界から14,360人の当事者と多職種医療者の回答を集めた反復的調査・修正Delphi法・名義集団技法を経た多段階の国際コンセンサス過程でpolyendocrine metabolic ovarian syndrome(PMOS)が新名称として合意されたこと。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Diagnosis and Management of Infertility: A Review(JAMA・2021)無排卵の女性の70%が多嚢胞性卵巣症候群であること。排卵誘発に用いるゴナドトロピンの有害事象として多胎(最大36%)と卵巣過剰刺激症候群(1〜5%)があること。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Fitz-Hugh-Curtis syndrome: a diagnosis to consider in women with right upper quadrant pain(Cleveland Clinic Journal of Medicine・2004)Fitz-Hugh-Curtis症候群(性器感染症に伴う肝被膜の炎症)が骨盤内炎症性疾患患者の最大4分の1に生じ、典型的には鋭い胸膜性の右上腹部痛を呈し、多くは卵管炎の徴候を伴うが伴わないこともあり、胆嚢炎や腎盂腎炎など他疾患に類似しうることを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Recurrent chlamydial infections increase the risks of hospitalization for ectopic pregnancy and pelvic inflammatory disease(American Journal of Obstetrics and Gynecology・1997)米国ウィスコンシン州の女性11,000人を対象とした後方視的コホート研究で、クラミジア感染の既往回数が増えるほど子宮外妊娠での入院リスクが上昇し(既往2回でオッズ比2.1、95%CI 1.3-3.4/既往3回以上で4.5、95%CI 1.8-5.3)、骨盤内炎症性疾患での入院リスクも同様に上昇したことを確認した。閲覧 2026-08-27