病理学

病理学 · C/75

卵巣腫瘍

Ovarian tumors

応用トピック
卵巣の良性腫瘍卵巣腫瘍の病因・臨床像・スクリーニング卵巣腫瘍の病期・治療・病理外陰・腟・卵巣腫瘍の疫学・病因・組織・病期・症状・診断
疾患
Krukenberg腫瘍Meigs症候群Sertoli-Leydig細胞腫アンドロゲン産生腫瘍卵巣過剰莢膜症卵巣癌卵巣甲状腺腫卵巣顆粒膜細胞腫莢膜細胞腫
検査値
ヒト精巣上体蛋白4糖鎖抗原125

🧠 全体像:は婦人科癌の中で診断例あたりの死亡が最も多く、進行するまで無症状という「静かな臓器」の代表——正常卵巣の3つの細胞型(表層上皮、胚細胞、間質)がそれぞれ異なる腫瘍群を生み、は反復する排卵によるを起点に化生を経てする点、は若年女性に偏る点、はホルモン産生で発症する点が鑑別の軸になる。

💡 のうち最多かつ最も攻撃的なは、近年の理解では起源そのものが卵巣表面上皮ではなく卵管(部)にあり、そのが(STIC)であるという説が有力になっている。12

概要

  • の中で診断例あたりの死亡が最も多い。2024年の世界推計では卵巣癌は新規約33.1万例・死亡約20.4万人で、死亡数そのものは(約28.0万人)より少ないが、死亡数を罹患数で割ると約0.62と(約0.46)・(約0.23)より高い(割り算は本ノートでの計算)3。
  • 正常卵巣の3つの細胞型による多様な病理学的疾患単位。

3つの主要カテゴリー

  1. (良性//悪性)

発生機序と危険因子

症状

表層上皮性腫瘍

  • 卵巣を覆うから生じる。
  • 反復排卵+ → 表層上皮が皮質へ引き込まれる → 小上皮嚢胞 → 化生 → 腫瘍性転化。
flowchart TD
    A["反復する排卵+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scarring'>瘢痕化</span>"] --> B["表層上皮が皮質へ引き込まれる"]
    B --> C["小上皮嚢胞の形成"]
    C --> D["化生"]
    D --> E["腫瘍性転化"]

A)漿液性腫瘍(表層上皮性腫瘍で最多)

💡 漿液性腫瘍の起源と「/」の。 (下記)の多くは、かつて考えられていた卵巣表面上皮由来ではなく、端の内癌(STIC)に由来するという理解が広まっている。この理解が、良性疾患で子宮摘出や骨盤手術を受ける平均リスクの女性に、卵巣は温存して卵管だけを切除しておくという選択肢をもたらした。⚠️ 一方、BRCA1/2病的変異保持者などの高リスク女性では、(卵管と卵巣の両方を切除)が引き続き推奨されており、卵管切除のみ(または卵管切除後にを遅らせる方法)はで評価中の段階である——すべてのHGSCが卵管由来とは限らず、卵巣を残せばリスクが残るためである1。卵管起源説の出発点になった研究では、卵管を全割して調べた骨盤内55例中41例(75%)に卵管内膜(部を含む)の病変があり、内癌の93%が部にあり、比較できた5例全例で内癌と卵巣癌が同一のTP53変異を共有していた。著者は内癌を「多くの骨盤内のもっともらしい起源」としつつ、卵管病変の無い14例中13例は卵巣原発と分類されており、因果の確定にはさらなる研究が要るとも述べている2。 また漿液性腫瘍はとで分子背景・臨床像がまったく異なる別の疾患とみなされる:はKRAS・BRAF変異が多く進行は緩徐だが化学療法に抵抗性、はTP53変異がほぼ全例に認められBRCA関連で化学療法感受性が高い。4

(良性)

  • 25%が両側性、30〜40歳の女性。
  • 肉眼:平滑で光沢のある嚢胞壁。
  • 組織像:小さな多小葉状、単純な。

漿液性

  • 稀にしか悪性化しない、通常。
  • より若い女性、しばしば妊娠中。
  • 1/3で両側性。
  • 5年生存:卵巣に限局すれば100%、腹膜病変があれば75%。

(悪性)

  • しばしば両側性。
  • 肉眼:結節状、、出血性、壊死性。
  • 組織像:核異型、重層化、腺の複雑さ、分岐するの葉。
  • (の層状Ca²⁺)→ 予後良好。
  • p53+BRCA1変異。TP53変異はほぼ全例に、BRCA1/2変異は既知の家族性因子として認められる。4
  • 5年生存:限局すれば70%、腹膜病変があればわずか25%。

B)粘液性腫瘍

  • 80%が良性、10%が、10%が悪性(漿液性より悪性化しにくい)。
  • 細胞、より大きく、しばしば片側性、粘稠なゼラチン状液体で満たされる。

  • 通常は頸管型上皮。
  • 細胞内粘液に富む、背の高い無線毛の円柱細胞。

  • 上皮、・に類似。

・癌

  • 77%が転移性、23%が卵巣原発。
  • が癌とを区別。
  • — 卵巣への(胃、大腸)。原発は胃・大腸で約90%(胃が約70%)を占め、両側性が約80%と特徴的。5
  • 転移性の起源:結腸、直腸、虫垂、膵、胆管。
  • 原発:片側性、>10 cm、平滑な被膜。

C)類内膜腫瘍

D)淡明細胞腫瘍

  • 大部分が悪性、・良性は稀。
  • に発生しうる。
  • 、 → 予後不良。

E)Brenner腫瘍

  • 大部分が良性。
  • 片側性、+様の胞巣(尿路のに類似)。
  • 平滑に、灰白色。

胚細胞腫瘍

奇形腫

(も参照)

  • 3つの胚葉すべて(外胚葉、内胚葉、中胚葉)からの組織。
  • 最初の20年に生じる(若いほどリスクが高い)。

A)良性(成熟)嚢胞性

  • 3胚葉すべてを表す成熟組織。若年女性の卵巣の69%を占める最多の。6
  • — を伴う表皮に裏打ちされた嚢胞、毛髪+物質で満たされる。
  • よくある組織:歯、骨、軟骨、甲状腺、神経。
  • — 甲状腺組織が主体の → 甲状腺機能亢進。
  • 💡 成熟(良性)嚢胞性は3胚葉すべてが成熟した組織からなり圧倒的に良性であるのに対し、未熟悪性(下記)は未成熟な胎児様組織(とくに神経上皮)を含み進行性・転移性という対極の性質を持つ。両者は「同じ」の成熟度による別カテゴリーである。

B)未熟悪性

  • 稀、最初の20年。
  • 大きく、、壊死性。
  • 様々な未熟組織(特に神経上皮)→ 進行性+転移性。

その他の悪性胚細胞腫瘍

下の簡易まとめ表との項に出てくる3つを、ここで対比しておく。いずれも若年女性に多い。

腫瘍 組織像の要点 マーカー
精巣のに相当する大型の胚細胞のシート+。化学療法・放射線への感受性が高い (非特異的)
(血管を芯に腫瘍細胞が囲む構造) AFP
(非妊娠性) +細胞 β-hCG

性索間質性腫瘍

  • ・胚性の由来。

純粋間質性腫瘍

  • 線維腫 — 最も多い、良性、腹水+胸水を来しうる = 。は線維腫に限らず全般で起こりうる良性腫瘍の腹水・胸水・上昇であり、悪性腫瘍によるとの鑑別を要する。7
  • — 良性、高齢女性、エストロゲン産生 → ・癌。

純粋性索腫瘍

  • — 悪性の挙動、遅発性再発、エストロゲン産生 → ・癌、(腺様腔)、マーカー。
  • — 良性、卵巣では稀(精巣で多い)。

混合性索間質性腫瘍

臨床的意義(すべての卵巣腫瘍)

簡易まとめ表

カテゴリー 例 特徴
表層上皮性 漿液性、、類内膜、、Brenner 最多、CA-125、漿液性 =
胚細胞 、、卵黄嚢、 若年女性(<20)
線維腫、、顆粒膜(エストロゲン)、Sertoli-Leydig(アンドロゲン) ホルモン産生、マーカー
転移性 Krukenberg(胃/結腸からの) 両側性、

💡 ポイント: 診断例あたりの死亡が婦人科癌で最多(世界の死亡数ではに次ぐ)。表層上皮性 = 第1の型:漿液性(最多、、p53/BRCA1)、(Krukenberg = 消化管からの転移性)、類内膜(内、子宮内膜を除外)、(内)、Brenner(胞巣)。胚細胞: = (毛髪、歯、)、未熟 = 進行性。:線維腫+(腹水+胸水)、顆粒膜(エストロゲン、、)、Sertoli-Leydig(アンドロゲン → 男性化)。リスク:+BRCA1/2。マーカー:CA-125。

まとめ

  • 卵巣癌はで診断例あたりの死亡が最も多く(世界の死亡数そのものはが上回る)、進行するまで無症状であることが多い。
  • 危険因子は・家族歴・BRCA1/2変異(5〜10%が家族性)で、排卵周期の増加もリスクを上げる。
  • は反復排卵による→上皮の引き込み→小上皮嚢胞→化生→という経路で生じる。
  • 漿液性腫瘍が表層上皮性で最多、・p53/BRCA1変異を伴う。
  • の多くはの(STIC)に由来すると考えられ、平均リスク女性の骨盤手術時の的卵管切除につながったが、BRCA1/2保持者などの高リスク女性では卵管術が引き続き推奨される。
  • は77%が転移性(=胃・大腸からの)で、23%が卵巣原発。
  • (など)は最初の20年に多く、()は良性、は進行性。
  • はホルモン産生が特徴で、線維腫は、はエストロゲン産生、はアンドロゲン産生による男性化を来す。
  • は(上皮性)、(卵黄嚢)、β-()、()。

出典

  1. 1.Cell Origins of High-Grade Serous Ovarian Cancer(Cancers・2018)高異型度漿液性癌(HGSC)の起源として1990年代後半以降卵管遠位部(采部)上皮が有力視され、漿液性卵管上皮内癌(STIC)が前駆病変として提唱されたこと。臨床研究とマウスモデルの多くがこの卵管起源説を支持するが、すべてのSTICが臨床的HGSCへ進展するわけではなく、すべてのHGSCがSTIC由来でもないこと。全文(PMC6267333)の予防の節で、BRCA1/2病的変異保持者などの高リスク女性ではリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO、BRCA1は40歳まで・BRCA2は45歳まで)が引き続き推奨され、卵管切除のみ・卵管切除後の遅延卵巣摘出は臨床試験で評価中であること、一方で卵管起源説は、良性疾患で子宮摘出や骨盤手術を受ける平均リスクの女性に対する日和見的卵管切除(卵巣は温存)という選択肢をもたらしたと述べていることを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Intraepithelial carcinoma of the fimbria and pelvic serous carcinoma: Evidence for a causal relationship(The American Journal of Surgical Pathology・2007)卵管を全割するSEE-FIMプロトコルで検索した骨盤内漿液性癌55例のうち41例(75%)に卵管内膜(卵管采を含む)病変を認め、卵管上皮内癌(TIC)の93%は卵管采にあったこと。TICと同時性卵巣癌を比較しえた5例では5例とも同一のTP53変異を共有しており、卵管上皮内癌が漿液性癌の前駆病変であるという因果関係を支持したこと。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Global cancer statistics 2024: GLOBOCAN estimates of incidence and mortality worldwide for 34 cancers in 186 countries(American Cancer Society / International Agency for Research on Cancer (IARC)・2026)全文(PMC13343830)のTable 1・Table 2で、2024年の世界推計が卵巣癌で新規330,731例・死亡203,850人、子宮頸癌で新規604,196例・死亡279,583人、子宮体癌で新規434,620例・死亡100,680人であることを確認した。死亡数を罹患数で割った比(卵巣約0.62、子宮頸約0.46、子宮体約0.23)は本文での計算値で、原文には書かれていない閲覧 2026-09-24
  4. 4.Low-grade serous ovarian cancer: A review(Gynecologic Oncology・2016)漿液性卵巣癌の2段階(高異型度・低異型度)分類がより細分化した分類より生存予測に優れること。低異型度漿液性癌は若年に多く化学療法に抵抗性であるにもかかわらず比較的予後が良く、KRAS・BRAF変異の頻度が高くTP53変異の頻度が低いのに対し、TP53変異は高異型度漿液性癌にほぼ全例で認められる特徴であること。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Krukenberg Tumor(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)Krukenberg腫瘍の組織学的定義(粘液を含む印環細胞と、それに伴う卵巣間質の増生)、原発部位は胃と大腸で約90%を占め胃が約70%と最多であること、両側性が約80%であること、卵巣転移巣の発見が原発巣の診断に先行することが多いこと。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Mature Cystic Teratoma: An Integrated Review(International Journal of Molecular Sciences・2023)成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)が若年女性の卵巣胚細胞腫瘍の69%を占め、三胚葉由来の組織からなり脂腺成分が最も多いこと。約20%は無症状で超音波で診断されることが多く、悪性転化は稀だが高齢女性で起こりうること。閲覧 2026-08-27
  7. 7.18F-FDG PET/CT features of Meigs syndrome induced by ovarian sex cord stromal tumors: a retrospective clinical study(Scientific Reports・2024)Meigs症候群が卵巣性索間質性腫瘍全般(線維腫を含む)によって起こりうること(21例を解析)。良性卵巣腫瘍に腹水・胸水を伴い、CA-125が上昇しうるため卵巣癌との鑑別が必要であること。閲覧 2026-08-27