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卵巣腫瘍の病期・治療・病理

Staging and therapy of ovarian neoplasms. Pathology

前提:病態
卵巣腫瘍BRCA1・BRCA2・ATM遺伝子(腫瘍抑制遺伝子)
疾患
卵黄嚢腫瘍卵巣癌卵巣奇形腫卵巣顆粒膜細胞腫
検査値
糖鎖抗原125

🧠 全体像:卵巣・卵管・は共通ので整理し、手術で組織型と進展を確定する。上皮性癌では最大限の完全切除と+を軸に、BRCA・・組織型を用いて維持療法を個別化する。

FIGO病期

病期 定義
IA 卵巣/卵管に限局、被膜 intact、表面腫瘍なし、腹水・洗浄細胞診陰性
IB 両側卵巣/卵管に限局し、IAと同じ条件
IC1 術中破綻・
IC2 術前被膜破綻、または卵巣/卵管表面腫瘍
IC3 腹水または陽性
IIA 子宮・卵管・卵巣への進展/播種
IIB その他の骨盤内腹腔臓器への進展
IIIA1 のみ(腹腔内播種を伴わない)。細胞診またはによる証明が必要
IIIA2 骨盤外腹膜の顕微鏡的転移、リンパ節転移の有無を問わない
IIIB 骨盤外腹膜の肉眼的転移≤2 cm
IIIC 骨盤外腹膜の肉眼的転移>2 cm。肝・脾被膜進展を含む
IVA 細胞診陽性胸水
IVB 肝・脾実質などの遠隔臓器、鼠径リンパ節・腹腔節、腫瘤、粘膜浸潤を伴う腸管全層浸潤

IIIA1は転移最大径≤10 mmをi、>10 mmをiiに細分する1。肝・脾被膜の播種はIII期、実質転移はIVB期である。

⚠️ IIIA1は「リンパ節が腫れて見える」だけでは付けられない。 2014年FIGO分類では、は細胞診またはで証明されていなければならない(画像所見だけでIIIA1としない)2。一方IIIA2は骨盤外腹膜の顕微鏡的進展であり、の有無を問わない1。

💡 2014年改訂で変わった細部。 原発部位(ov=卵巣、ft=卵管、p=腹膜、X=評価不能)と組織型(HGSC・LGSC・MC・CCC・EC)を病期に併記する。にI期は存在しない(腹膜が原発なら定義上限局しない)。骨盤内という解剖学的位置からS状結腸への進展はII期に入り、旧IIC期は廃止された2。

診断と手術病期

  • 画像、、全身状態からと鑑別を評価する。
  • 確定診断には組織が必要だが、すべての症例でが必須というわけではない。
  • 初回手術では腹腔内観察、腹水/洗浄細胞診、必要な生検、子宮・両側付属器・切除、リンパ節評価、を組織型・病期・妊孕性希望に応じて行う。
  • 目標は肉眼的なし(complete gross resection=R0)であり、R0を目指した+が上皮性の主軸である3。
  • 上皮性卵巣癌では、に影響する遺伝子変異の検査を全例で行うのが標準治療である(一部の患者に限らない)3。
flowchart TD
    A["卵巣・卵管・腹膜癌疑い"] --> B["画像・マーカー・専門チーム評価"]
    B --> C["完全切除可能と判断"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary debulking surgery, PDS'>一次腫瘍減量手術</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='staging'>病期診断</span>"]
    B --> E["初回完全切除困難/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical risk'>手術リスク</span>大"]
    E --> F["組織診断"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoadjuvant chemotherapy'>術前化学療法</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interval debulking surgery'>中間腫瘍減量手術</span>"]
    D --> I["病理・病期・分子検査"]
    H --> I
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adjuvant therapy'>補助療法</span>・維持療法を個別化"]

上皮性卵巣・卵管・腹膜癌の治療

早期

  • 完全な手術を行い、組織型・グレード・IC細分類での必要性を決める。
  • 厳密に選択したIA期のでは、子宮と対側卵巣を温存したを検討できる。
  • 「早く妊娠してから」という一律指示ではなく、再発リスク、妊孕性計画、経過観察をする。

進行期

  • または後のを選ぶ。
  • 標準的な初回化学療法は+である。
  • 病期・・組織型によりを検討する。併用のみでは効果がなく、維持まで継続して初めて利益が出る(GOG-218:併用+維持で14.1か月 対 対照10.3か月、0.717=約4か月の延長。併用のみは0.908で有意差なし)4。
  • BRCA1/2と(homologous recombination deficiency:HRD)などに応じ、維持療法を選択する。利益が最も大きいのはBRCA変異例で、SOLO1(を最長2年間)の5年追跡では中央値56.0か月 対 13.8か月、0.33(95%CI 0.25–0.43)と、投与終了後も利益が持続した5。
  • は歴史的治療であり、現在の標準ではない。

⚠️ の利益は無増悪生存が中心で、の延長は示されていない。 GOG-218の最終解析(追跡中央値102.9か月)で、ITT全体のはどの群でも改善しなかった(併用+維持の0.96、95%CI 0.85–1.09)。ただしIV期のサブグループでは併用+維持で中央値42.8か月 対 32.6か月(0.75、95%CI 0.59–0.95)と利益が示唆される——だから「病期・で選ぶ」のである6。

💡 HRDやBRCAは「維持療法の選択」に効くのであって、の効果予測には使えない。 GOG-218の解析ではBRCA1/2・遺伝子変異・CD31のいずれもの効果予測因子ではなかった(BRCA1/2変異例は0.62、非BRCAの異常例は0.65で、野生型より予後が良いだけ)6。

病理分類

上皮性悪性腫瘍

組織型 主な特徴
最多。起源が多く、TP53異常がほぼ必発、BRCA/HRDと関連
緩徐で、MAPK経路異常を伴うことがある
、MMR異常、CTNNB1などと関連
と関連し、が高い
原発性は稀。消化管・虫垂原発転移を除外

上皮性癌は卵巣癌の大部分を占める。乳房・消化管からのも鑑別する。

悪性胚細胞腫瘍

若年者に多く、と妊孕性温存が重要である。

腫瘍 マーカー 特徴
、一部で 最多。に関連し、化学療法感受性が高い
通常は特異的マーカーなし 急速増大。量でグレード評価
Schiller–Duval bodyなど
、 稀で
非 早期、出血

に関連する古い「」という語は用いず、など具体的な名で記載する。

悪性は多くでが可能で、術後は病期・組織型に応じ++シスプラチンなどを用いる。

性索間質性腫瘍

  • は最も一般的な悪性で、エストロゲン産生と遅発再発が特徴である。
  • Sertoli–はアンドロゲン産生性で、悪性度はなどに依存する。
  • 、(anti-Müllerian hormone:)などが診断・追跡に役立つ場合がある。

治療後評価

  • CA-125は上皮性癌の治療反応・再発評価に用いるが、単独で再発治療開始を決めない。が基準値上限の2倍を超えた時点で治療を始めても、臨床的再発まで待った場合とは変わらない(MRC OV05/EORTC 55955、529人:0.98、95%CI 0.80–1.20、生存期間中央値25.7か月 対 27.1か月)7。
  • は平均リスク無症状者のスクリーニングには使わない。
  • 症状、診察、画像、、治療毒性、妊孕性・・遺伝的課題を含めて追跡する。

まとめ

  • では、ICの破綻時期、III期の骨盤外腹膜病変径、IVAの細胞診陽性胸水、IVBの実質転移を区別する。IIIA1とするにはの細胞診・による証明が要る。
  • 上皮性癌はと+を軸に、BRCA・HRDで維持療法を個別化する。全例にを行う。
  • は無増悪生存を約4か月延ばすがITT全体のは延ばさず、BRCA変異例の維持は無増悪生存56.0か月 対 13.8か月(0.33)と別格の効果量である。
  • 追跡では上昇のみで再発治療を前倒ししない(が変わらない)。
  • 放射性リンは歴史的治療であり、組織型ごとの病理・マーカー・妊孕性を現行治療へ結びつける。

出典

  1. 1.Cancer of the ovary, fallopian tube, and peritoneum: 2025 update(International Journal of Gynaecology and Obstetrics・2025)2014年にFIGO婦人科腫瘍委員会が卵巣・卵管・腹膜癌を同一の病期分類へ統合したこと。**IC期はIC1(術中破綻)・IC2(術前の被膜破綻または卵巣/卵管表面の腫瘍)・IC3(腹水または腹腔洗浄液中の悪性細胞)**の3つに分けられること。**腹腔内播種を伴わず後腹膜リンパ節転移のみの症例はIIIA1**とされ、転移最大径**≤10 mmをIIIA1(i)、>10 mmをIIIA1(ii)**に細分すること。**IIIA2は「後腹膜リンパ節転移の有無を問わない骨盤外腹膜の顕微鏡的進展」**と定義されること。これらの悪性腫瘍の大半は高異型度漿液性癌(HGSC)であること閲覧 2026-08-21
  2. 2.The new FIGO staging system for ovarian, fallopian tube, and primary peritoneal cancer(Archives of Gynecology and Obstetrics・2014)2014年FIGO分類では**後腹膜リンパ節転移は細胞診または組織診で証明されていなければならない**こと。原発部位(ov/ft/p/X)と組織型(HGSC・LGSC・MC・CCC・EC)を記載すること。**原発性腹膜癌にI期は存在しない**こと。骨盤内という解剖学的位置からS状結腸への転移はII期とされ、旧IIC期は廃止されたこと。IV期はIVA(悪性胸水)とIVB(実質転移、および鼠径リンパ節・腹腔外リンパ節・臍部腫瘤・粘膜浸潤を伴う腸管全層浸潤を含む腹腔外転移)に細分されたこと閲覧 2026-08-21
  3. 3.Treatment of epithelial ovarian cancer(BMJ・2020)卵巣癌は世界で3番目に多い婦人科悪性腫瘍だが婦人科癌のなかで死亡率が最も高いこと。**R0(肉眼的残存腫瘍なし)を目指す腫瘍減量手術が治療の主軸**であり、その後に補助化学療法を行うこと。**治療方針に影響する遺伝子変異の検査は上皮性卵巣癌の女性全例で標準治療**であること。ほぼ全例が再発すること。PARP阻害薬・ベバシズマブ・相同組換え修復欠損を標的とする薬剤による維持療法の使用が広がっていること閲覧 2026-08-21
  4. 4.Incorporation of bevacizumab in the primary treatment of ovarian cancer(The New England Journal of Medicine・2011)GOG-218(1,873人、III期不完全切除またはIV期)で、カルボプラチン+パクリタキセルへベバシズマブ15 mg/kgを併用し維持まで継続した群の**無増悪生存期間中央値は14.1か月、対照10.3か月**(ハザード比0.717、95%CI 0.625–0.824)で、**約4か月の延長**であったこと。併用のみで維持を行わない群は対照と差がなかった(ハザード比0.908、95%CI 0.795–1.040、P=0.16)こと閲覧 2026-08-21
  5. 5.Maintenance olaparib for patients with newly diagnosed advanced ovarian cancer and a BRCA mutation (SOLO1/GOG 3004): 5-year follow-up of a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial(The Lancet Oncology・2021)SOLO1(`BRCA`変異を有する新規診断の進行卵巣癌391人、オラパリブ300 mg 1日2回を最長2年間維持投与)の5年追跡で、**無増悪生存期間中央値はオラパリブ56.0か月 対 プラセボ13.8か月、ハザード比0.33**(95%CI 0.25–0.43)であったこと。2年間の維持投与の利益は投与終了後も持続したこと。Grade 3–4の有害事象で最多は貧血(22% 対 2%)と好中球減少(8% 対 5%)であったこと閲覧 2026-08-21
  6. 6.Final Overall Survival of a Randomized Trial of Bevacizumab for Primary Treatment of Ovarian Cancer(Journal of Clinical Oncology・2019)GOG-218の最終解析(追跡中央値102.9か月)で、**ITT全体の全生存期間はベバシズマブ併用でも改善しなかった**こと(併用のみ ハザード比1.06、95%CI 0.94–1.20/併用+維持 ハザード比0.96、95%CI 0.85–1.09)。疾患特異的生存もどの群でも改善しなかったこと。ただし**IV期では併用+維持で全生存期間中央値42.8か月 対 32.6か月**(ハザード比0.75、95%CI 0.59–0.95)であったこと。`BRCA1/2`・相同組換え修復遺伝子変異・CD31はいずれもベバシズマブの効果予測因子ではなく、`BRCA1/2`変異例(ハザード比0.62)と非BRCA相同組換え修復異常例(ハザード比0.65)は野生型より予後良好であったこと閲覧 2026-08-21
  7. 7.Early versus delayed treatment of relapsed ovarian cancer (MRC OV05/EORTC 55955): a randomised trial(The Lancet・2010)一次白金製剤化学療法後に完全寛解しCA-125が正常化した女性を3か月ごとに追跡し、**CA-125が基準値上限の2倍を超えた時点で早期治療するか、臨床的再発まで待つか**を無作為化した529人の試験で、**全生存期間に差はなかった**こと(ハザード比0.98、95%CI 0.80–1.20、p=0.85。生存期間中央値は早期治療25.7か月 対 遅延治療27.1か月)。**CA-125上昇のみを根拠に再発治療を早期開始する生存利益は示されず**、完全奏効例の追跡でCA-125を定期測定する価値は証明されていないこと閲覧 2026-08-21