婦人科学

婦人科学 · 28

子宮内膜症と子宮腺筋症

Endometriosis and adenomyosis

前提:病態
アンドロゲン・抗アンドロゲン薬
前提:正常
女性生殖:卵管と子宮骨盤・会陰:骨盤内臓
疾患
子宮内膜症・子宮腺筋症
症状
過多月経血便月経困難症深部性交痛恥骨上部痛排便痛慢性骨盤痛
検査値
糖鎖抗原125

🧠 全体像:は子宮外の内膜様組織が炎症・線維化・癒着を起こす疾患、は内膜腺・間質が内に存在する疾患である。どちらもやの原因になるが、病変部位、診断法、妊孕性への対応が異なる。

子宮内膜症

定義と好発部位

  • 子宮内膜様腺管・間質が子宮腔外に存在する、の慢性炎症性疾患である。世界で約1億9000万人が罹患すると推定される1。
  • 好発部位は卵巣、骨盤腹膜、、、、直腸S状結腸、である。
  • 手術瘢痕、虫垂、横隔膜・胸腔などにも生じうる。
  • 卵巣病変は古い血液を含むとなり、肉眼的には「」と呼ばれる。

発生機序

単一の理論では説明できず、、免疫・炎症、ホルモン環境が関与する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retrograde menstruation'>月経血の逆流</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coelomic metaplasia'>体腔上皮化生</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphatic dissemination'>リンパ行性播種</span>"] --> B["子宮外に内膜様組織が成立"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='estrogen-dependent'>エストロゲン依存性</span>の増殖・出血"]
    C --> D["反復する炎症"]
    D --> E["線維化・癒着・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neural sensitization'>神経感作</span>"]
    E --> F["疼痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organ dysfunction'>臓器機能障害</span>・不妊"]

症状と診察

病変・病態 主な所見
骨盤腹膜・ 、、
直腸・ 、月経時の・
膀胱・尿路 、血尿、、水腎症
卵巣 、破裂時の
卵管・卵巣周囲の癒着 不妊、付属器可動性低下
  • 診察では後屈・宮、の圧痛・、圧痛を伴う、の病変を認めることがある。
  • 症状の強さと病変の広がりは必ずしも一致しない。

診断

  1. 病歴とから疑う。
  2. でや深部病変を評価する。は特異度が高い第一選択、MRIは感度に優れ、とくにとの評価・手術計画で相補的に用いる2。
  3. 画像が陰性でも表在性病変は除外できない。症状・妊孕性希望に応じて経験的薬物療法または腹腔鏡を選ぶ。
  4. 画像陰性でが無効・不適切な場合、または手術適応がある場合にで診断・治療し、疑わしい病変を病理学的に確認する。

⚠️ 現行の考え方:は薬物治療開始前の必須条件ではない。CA-125単独で診断・除外はできない。

💡 診断の遅れが常態である。 症状発現から診断確定までの遅延が長いのがこの疾患の常で、治療後も症状の遷延・再発がよくみられる1。・・を訴える患者では、画像が陰性でも内膜症を念頭から外さない。

病理では内膜腺、内膜間質、などを確認する。病変は黄褐色・黒色の、白色線維化、透明小胞など多彩である。

重症度分類

は腹腔鏡所見を点数化し、I期(最小)〜IV期(重症)に分ける。病変の深さ、癒着、を反映するが、疼痛の強さや妊娠可能性を直接予測する分類ではない。

💡 分類が乱立している。 画像所見に基づく分類体系も複数提案されているが、普遍的に受け入れられた分類体系も標準化された撮像プロトコルも今のところ無い2。病期の数字だけでや予後を決めない。

治療

目標 主な選択肢
疼痛の初期治療 、、
持続する疼痛 作動薬/拮抗薬をと併用、適切な症例で手術
妊孕性温存 ホルモンは排卵を止めるため妊娠希望例には使えない。病変切除・は選択例で自然を高めうるがを損ないうる。子宮内腔人工授精・を年齢・・病変に応じて選択3
妊娠希望がなく保存治療抵抗性の場合、病変切除を伴うを検討。は利益とリスクを個別判断
  • は副作用のため現在は限定的である。
  • の手術は症状、、嚢胞径、、ART計画を総合して決める。固定した径だけで一律に手術しない。
  • では再発・疼痛を減らせる一方、正常卵巣組織を失いが低下しうる3。

💡 不妊の機序は癒着だけではない。 内膜症関連不妊は・全身性で、骨盤解剖の変化と癒着に加えて、慢性炎症、・卵巣機能の障害、内膜受容性の低下が絡む4。でもの質と着床率が下がりうる3。だけで妊孕性が回復すると考えない。

子宮腺筋症

病態と臨床像

  • ・間質が内に存在し、周囲の筋層肥大を伴う。
  • 無症状の場合もあるが、、、、貧血、不妊を生じうる。
  • 診察ではびまん性に腫大した・軟らかい圧痛子宮を触れることがある。局所型はとなる。

診断と治療

  • を第一選択とし、嚢胞、不均一な筋層、、内膜筋層境界の不整などを評価する。は診断不明例や手術計画に有用である。
  • 病理は確定診断となるが、画像の進歩により子宮摘出前・生殖年齢のうちに臨床診断できるようになった5。
  • ・としばしば併存し、症状が重なるうえがなお統一されていないため、の報告は大きくばらつく5。
  • 治療は・疼痛・不妊のどれが問題かを軸に選ぶ。薬物療法は、、放出、、ジエノゲストを含む、関連薬6。
  • 妊娠希望がなく保存療法で制御できない場合、が最も確実な治療となる。・切除・は適応を選ぶ6。

まとめ

  • は子宮外病変による炎症・癒着、は内病変によるびまん性子宮腫大が中心である。
  • 内膜症の診断は症状、診察、超音波・から始め、腹腔鏡は全例必須ではない。は特異度、は感度で優れ、両者は相補的である2。診断の遅れが常態であることを踏まえ、疑いを早く持つ。
  • も画像で臨床診断でき、内膜症・筋腫との併存が診断を難しくする5。
  • 治療は疼痛、出血、年齢、妊孕性希望、を軸に個別化する。妊娠希望例ではホルモンが使えず、手術との得失を天秤にかける3。

出典

  1. 1.Pathophysiology, diagnosis, and management of endometriosis(BMJ・2022)子宮内膜症が世界で**約1億9000万人**の女性・出生時女性割当の人に生じる慢性炎症性婦人科疾患で、子宮外の内膜様組織を特徴とし、多くの患者で強い疼痛症状を伴うこと。不妊・倦怠感・多部位疼痛・その他の併存疾患のリスクが高いこと。**症状発現から診断までの遅延が長いのが普通**で、治療をしても症状の遷延・再発がよくみられること。多系統疾患であり、個別化された多面的・多職種の治療が望ましいこと閲覧 2026-08-21
  2. 2.Navigating complexity: review and updates of endometriosis and adenomyosis imaging(The British Journal of Radiology・2026)子宮内膜症・子宮腺筋症の画像診断で、**経腟超音波検査が特異度の高い信頼できる第一選択**であり、**MRIは感度で優れ、とくに内膜症性嚢胞と深部子宮内膜症の評価に有用**で、両者は術前評価・治療計画で相補的であること。病変部位・現れ方の多様性から診断は難しく、**普遍的に受け入れられた分類体系と標準化された撮像プロトコルが無い**ことが課題として残ること閲覧 2026-08-21
  3. 3.Endometriosis and infertility: pathophysiology, treatment strategies, and reproductive outcomes(Archives of Gynecology and Obstetrics・2025)ホルモン抑制療法は症状を軽減するが**妊娠希望の女性には適さない**こと。手術は**選択された症例で自然妊娠率を高めうる一方、卵巣予備能に負の影響を与えうる**こと。子宮内腔人工授精・体外受精などの生殖補助医療が有効だが、子宮内膜症は**卵子の質と着床率に悪影響**を及ぼしうること閲覧 2026-08-21
  4. 4.Endometriosis-associated infertility: From pathophysiology to tailored treatment(Frontiers in Endocrinology・2022)子宮内膜症関連不妊が**多因子性・全身性**で、病型、疼痛、炎症、骨盤解剖の変化、癒着、**卵巣予備能/機能の障害**、**内膜受容性の低下**が複雑に絡むこと。患者集団は不均一で単一の機序に帰せられないため、治療は臨床像と障害の推定レベルに応じて個別化すべきこと閲覧 2026-08-21
  5. 5.Diagnosing adenomyosis: an integrated clinical and imaging approach(Human Reproduction Update・2020)子宮腺筋症が長らく**子宮摘出後の病理組織診断**とされてきたが、画像の進歩により**超音波・MRIで非侵襲的に診断でき**、生殖年齢の女性で診断される例が増えていること。無症状例もあること。**子宮内膜症・子宮筋腫としばしば併存**し、**診断基準がなお統一されていない**ため診断が難しいこと。限局性病変では病理診断の観察者間再現性が低く、有病率の報告が大きくばらつくこと閲覧 2026-08-21
  6. 6.Guideline No. 437: Diagnosis and Management of Adenomyosis(Journal of Obstetrics and Gynaecology Canada・2023)子宮腺筋症の診断選択肢が**経腟超音波検査とMRI**であること。治療は**過多月経・疼痛・不妊のどれが問題か**に合わせて選び、薬物療法(NSAIDs、トラネキサム酸、複合経口避妊薬、レボノルゲストレル放出子宮内システム、ジエノゲスト、その他のプロゲスチン、GnRH関連薬)、**インターベンション(子宮動脈塞栓術)**、手術(子宮内膜アブレーション、腺筋症病巣切除、子宮摘出術)から選ぶこと。妊孕性温存を望む患者にも選択肢があること閲覧 2026-08-21