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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

卵黄嚢腫瘍

Yolk sac tumor

別名
内胚葉洞腫瘍卵黄嚢癌yolk sac tumor
臓器系
腫瘍生殖・産婦人科小児
科目
PathologyObstetrics and Gynecology (Gynecology)Urology
トピック
病理学 C/81:精巣腫瘍婦人科 27:卵巣腫瘍の病期・治療・病理泌尿器科学 N-10:精巣腫瘍
関連疾患
縦隔原発胚細胞腫瘍精巣腫瘍仙尾部奇形腫卵巣癌
治療薬
シスプラチンエトポシドブレオマイシン
症状
腹痛腫脹
検査値
AFPLDH

🧠 全体像:は「の出どころ」そのものである。のを覚えるときの軸は「=卵黄嚢成分、=栄養膜()成分」で、()とは原則どちらも上げない。名の通り胎児の卵黄嚢へ分化する腫瘍で、組織学的な指標がである。臨床像は年齢で二つに割れる——小児では・精巣に純型として生じて予後がよく、成人では卵巣に単独で、あるいは精巣のの一成分として現れる1。悪性だがを含む化学療法への感受性が高いため、進行例でも治癒が狙える。

定義と位置づけ

・とも呼ばれる悪性ので、である卵黄嚢の方向へ分化する1。性腺(精巣・卵巣)だけでなく、の移動経路にあたる上——・後腹膜・縦隔・——にも生じる。

発生部位 典型像
精巣(小児) 3歳未満で最も多い。小児の約30%、診断時年齢中央値18か月1。純型が多く予後良好
精巣(成人) 単独ではまれで、の混合型の一成分として現れることが多い1
卵巣 卵巣癌のうち群に属する。全卵巣の15%、診断時年齢中央値19歳、40%が思春期前の診断、60%が純型1。急速に増大し腹痛・腹部腫瘤で発症する
の悪性成分として。診断が遅れた乳児ほどの比率が上がる

腫瘍マーカー:なぜ卵黄嚢だけがAFPを上げるのか

は本来、胎児の卵黄嚢と肝で作られる血清蛋白である。腫瘍が卵黄嚢へ分化すれば、そのの機能ごと再現される——これが「=AFP高値」の実体である。

組織型
著明に上昇 上昇しない
上昇しない 著明に上昇
・ 原則上昇しない を伴えば軽度上昇しうる
上昇しうる(微小な卵黄嚢分化を伴うことが多い) 上昇しうる
上昇しない 上昇しない
含まれる成分に応じて両方が上がりうる 同左

⚠️ 組織診断がなのに血清が高い場合、診断はではない。 見逃された卵黄嚢成分の存在を意味し、臨床的にはとして治療する。LDHはのであり、組織型を示さない。

⭐ のは約5〜7日である。腫瘍摘出後に半減期どおりに下がらなければ、残存病変・を疑う。小児では生理的に高いが生後数か月続くため、乳児の値はで読む(この点はの術後経過観察でも同じ落とし穴になる)。

病理

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='germ cell tumour'>胚細胞腫瘍</span>の組織像"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extraembryonic tissue'>胚外組織</span>へ分化しているか"}
    B -->|"卵黄嚢方向"| C["網状・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microcystic'>微小嚢胞状</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='honeycomb(-like)'>蜂巣状</span>構築"]
    B -->|"栄養膜方向"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Choriocarcinoma'>絨毛癌</span>"]
    B -->|"分化していない"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='seminoma'>セミノーマ</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Embryonal carcinoma'>胎児性癌</span>"]
    C --> P["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='papillary'>乳頭状</span>(内胚葉洞)型の領域"]
    P --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Schiller-Duval body'>Schiller-Duval小体</span><br>中心の血管を腫瘍細胞が囲む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomeruloid'>糸球体様</span>構造<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='papillary'>乳頭状</span>型でのみみられ全体の3分の2〜4分の3にとどまる"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyaline globule'>硝子小球</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='PAS-positive'>PAS陽性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diastase-resistant'>ジアスターゼ抵抗性</span>"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='SALL4 (spalt-like transcription factor 4)'>SALL4</span>陽性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glypican-3'>glypican-3</span>陽性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='OCT4 (POU5F1)'>OCT4</span>陰性で確認する"]
    G --> H
  • 最も多いはで、顕微鏡下ではに見える1。ほかに・・・・・・など多彩な像を取り、他の成分と紛らわしい2。
  • はを中心に腫瘍細胞が取り囲むの像で、に特徴的とされる。⚠️ ただし(内胚葉洞)型でみられるものであり、認められるのは3分の2〜4分の3の症例にとどまる1。最多のだけを見ている切片には出ないため、無いことは否定の根拠にならない。
  • 細胞質内・細胞外にを認める。

免疫染色

マーカー 使いどころ
陽性(31例全例で90%超の細胞が強陽性)3 であることを示す
陰性3 ・(ともに陽性)と切り分ける
陽性(39例全例、うち87%が3+、強度の平均2.9)2 を問わず高感度
陽性だが(24例中58%、強度の平均1.0)2 陰性でも否定できない
陰性1 (陽性)と切り分ける
陰性1 (陽性)と切り分ける

💡 と免疫染色での立ち位置が逆転する。 血清ではの最も鋭い手掛かりだが、では染色がで弱く、感度は60%程度にとどまる1。組織診断ではとのほうが頼りになる2。

診断と治療

  1. 精巣ではで診断と局所治療を兼ねる1。は播種経路を変えるため行わない。
  2. 卵巣・性腺外病変では外科的切除を基本とし、卵巣では若年例が多いことから妊孕性温存を前提に術式を組む。
  3. 治療前後に血清を測り、な低下を治療反応の指標にする。
  4. 化学療法はシスプラチン・・併用()が良好な反応を示す1。 3〜4コースが標準で、EP 4コースが代替となる1。病期1ではほぼ全例が治癒しうる1。

⭐ が「悪性でも治る腫瘍」の代表であるのは、この化学療法感受性の高さによる。 進行例でも根治を目標に据える点が、同じ病期のと決定的に異なる。

鑑別

  • ・:を上げず、陽性・陽性。
  • :陽性・陽性。が上がることもあるため血清値だけでは分けられない。
  • (成熟型):マーカー陰性。混合型では卵黄嚢成分の有無がを変える。
  • :小児のという点で紛らわしいが、の局在で分かれる。

まとめ

  • ()は卵黄嚢へ分化する悪性で、血清上昇の産生源である。は、・は原則どちらも上げない。
  • 小児では3歳未満のの第1位(の約30%、年齢中央値18か月)で純型が多く、成人では卵巣に単独で、精巣では混合型の一成分として現れる。
  • 組織像はが最多で、は特徴的だが(内胚葉洞)型に限られ3分の2〜4分の3にしか出ない。を伴う。
  • 免疫染色は陽性・陰性・陽性。組織の染色はで感度が低く、のほうが高感度である。
  • 治療は外科的切除とを中心とするで、化学療法感受性が高く病期1ではほぼ全例が治癒しうる。

出典

  1. 1.Yolk Sac Tumor(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)卵黄嚢腫瘍が原始内胚葉腫瘍・内胚葉洞腫瘍とも呼ばれる悪性の未分化胚細胞腫瘍であること、3歳未満の小児で最も多い精巣腫瘍であり小児の胚細胞腫瘍の約30%を占め診断時年齢中央値が18か月であること、小児では純型が多く予後良好であるのに対し成人では奇形腫や胎児性癌など他の胚細胞腫瘍成分と併存することが多いこと、卵巣では全卵巣胚細胞腫瘍の15%を占め診断時年齢中央値19歳・40%が思春期前に診断され60%が純型であること、ほぼ全例がAFP陽性に染まる一方で感度は60%程度にとどまること、組織像で最も多いのは網状・微小嚢胞型で顕微鏡下に蜂巣状に見えること、Schiller-Duval小体が線維血管性の芯を持つ糸球体様の像として卵黄嚢腫瘍に病理学的特徴的である一方、認められるのは3分の2〜4分の3にとどまり乳頭状型でのみみられると明記されていること、免疫染色でAFP・サイトケラチン・glypican-3・SALL4・胎盤性アルカリホスファターゼが陽性、CD117・CD30・S-100・白血球共通抗原・ミエロペルオキシダーゼ・OCT4が陰性であること、治療が精巣では経鼠径的根治的精巣摘除術、その他では外科的切除を基本とし、シスプラチン・エトポシド・ブレオマイシン併用が良好な反応を示すこと、BEP 3〜4コースが標準でEP 4コースが代替であること、病期1ではほぼ全例が治癒しうることを確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Glypican 3 has a higher sensitivity than alpha-fetoprotein for testicular and ovarian yolk sac tumour: immunohistochemical investigation with analysis of histological growth patterns(Histopathology・2010)精巣・卵巣の卵黄嚢腫瘍を対象にglypican-3(39例)とAFP(24例)の免疫染色を比較した研究で、glypican-3は全例が陽性(3+が87%、2+が8%、1+が5%)で染色強度の平均が2.9であったのに対し、AFPの陽性は58%にとどまり染色は巣状であることが多く(0が42%、1+が33%、2+が25%)強度の平均は1.0であったこと、glypican-3では微小嚢胞型・大嚢胞型・充実型・腺管胞状型・内胚葉洞型・多小胞卵黄型・腸型・微小乳頭型のいずれの発育様式でも75%超の症例が2+以上の陽性を示したこと、卵黄嚢腫瘍が多彩な発育様式を取り他の胚細胞腫瘍成分と紛らわしいことを確認した。閲覧 2026-09-02
  3. 3.SALL4 is a novel diagnostic marker for testicular germ cell tumors(The American Journal of Surgical Pathology・2009)原発性精巣胚細胞腫瘍110例の検討で、卵黄嚢腫瘍31例は全例SALL4が腫瘍細胞の90%超に強陽性である一方OCT4は陰性であり、胚細胞腫瘍性上皮内病変・古典的セミノーマ・胎児性癌ではSALL4とOCT4がいずれも90%超に強陽性であったこと、精母細胞性腫瘍・絨毛癌・奇形腫もOCT4陰性であったこと、SALL4が精巣非胚細胞腫瘍23例すべてで陰性であったことを確認した。閲覧 2026-09-02