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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

精巣腫瘍

Testicular cancer

別名
精巣がん
臓器系
腫瘍腎・泌尿器
科目
PathologyUrologyOncology
トピック
病理学 C/81:精巣腫瘍泌尿器科学 N-10:精巣腫瘍腫瘍学 II-21:陰茎・精巣・腎腫瘍の疫学・病因・組織・病期・症状・診断
鑑別疾患
陰嚢水腫精索静脈瘤精巣捻転・卵巣捻転
治療薬
シスプラチンエトポシドブレオマイシンカルボプラチンビンブラスチン
症状
呼吸困難背部痛浮腫疼痛女性化乳房二次原発悪性腫瘍
検査値
乳酸脱水素酵素
画像所見
砲弾状陰影
スコア
TNM分類
組織像
成熟奇形腫セミノーマ胎児性癌成熟奇形腫(HE染色)男性生殖器:セミノーマ胎児性癌胎児性癌
原因となる疾患
停留精巣
適応薬
ビンブラスチン

🧠 全体像は20〜40歳の若年成人男性に好発する、固形腫瘍の中でも治癒率が最も高い悪性腫瘍の代表格である。95%はで、大きく(放射線・化学療法に高感受性)と(NSGCT:・混合型、放射線抵抗性だがに高感受性)に分かれる。血清(AFP・hCG・LDH)が組織型の推定・・治療効果判定・再発モニタリングのすべてに関わる中核情報であり、診断は必ずアプローチので確定する(経陰嚢生検は播種経路を変えるため禁忌)。病期・組織型・IGCCCGリスク分類を軸に、経過観察・放射線療法・・プラチナベース化学療法(BEPレジメン)を個別化して選択する。

疫学・病因

  • は男性悪性腫瘍全体の1〜2%程度を占めるにすぎないが、20〜40歳の若年男性における最多の固形悪性腫瘍である。
  • 95%がで、残り約5%が、多くは良性)。
  • 危険因子:
    • :最も確立した危険因子で、リスクが3〜5倍に増加する。を行っても対側精巣を含めたリスクは完全には消えない。
    • 対側の既往・家族歴。
    • )、(縦隔原発との関連)。
    • 人種差:白人は黒人の約5倍のリスクとされる。
  • 分子病態:ほぼすべての12p(isochromosome 12p)がみられ、過剰な12pは進行・治療抵抗性と関連する。難治例ではTP53変異の頻度が高い。
  • GCNIS(上皮内、germ cell neoplasia in situ)で、・NSGCTいずれの起源にもなる。

💡 は例外的にGCNISを経由せず、高齢男性(平均55歳)に生じ、を伴わず転移しないという点でと対照的である。

病理

は単一組織型(約60%)と複数組織型が混在する混合型(約40%)に分かれる。臨床的にはかNSGCTかを左右する最重要の分類軸になる。

組織型 好発年齢 特徴 主なマーカー
30〜49歳 淡いグリコーゲンに富む細胞+、境界明瞭、壊死・出血なし hCG(約15%で軽度上昇)、AFPは上昇しない
約30歳 大型、出血・壊死を伴う進行性の腫瘍、早期転移 AFP・hCGとも上昇しうる
乳幼児期(3歳未満の小児で第1位)、成人では混合型成分として多い AFP著増
25〜35歳 細胞、出血性、早期(肺・肝・脳) hCG著増
全年齢 複数胚葉成分、成人発症は悪性として扱う、 陰性(は基本的にマーカー陰性)
平均30歳 2つ以上の組織型混在、最多の組み合わせは AFP・hCGとも上昇しうる

AFP = 、hCG = という対応をまず押さえ、混合型はしばしば両方が上昇する。LDHはの代理指標で組織型特異性はないが、・IGCCCGリスク分類に必須。

臨床像

  • 最も典型的な症状は緩徐に増大する無痛性の精巣腫大・である。
  • 様の疼痛を伴うこともあり、との鑑別を要する。
  • 約10%は転移症状で発見される:
    • (後腹膜リンパ節腫大)
    • 咳嗽・呼吸困難(肺転移)
    • 下肢浮腫(下大静脈・閉塞)
  • hCG産生腫瘍(など)ではを来しうる。
  • はアンドロゲン産生により小児の思春期を、はアンドロゲン・エストロゲンいずれも産生しうる。

⚠️ 診断・治療の遅延は転移進行と強く相関するため、無痛性の精巣腫大を軽視せず早期に精査することが重要である。

診断

陰嚢超音波

  • 第一選択の画像検査。精巣内腫瘤か、など他の陰嚢内疾患かを鑑別する。

腫瘍マーカー

  • AFP・hCG・LDHの3つを前に必ず測定する。
  • 摘除術後は各マーカーの半減期(AFP約5〜7日、hCGは1〜3日程度)に基づき低下を追跡し、期待通りに低下しなければ残存病変(微小転移)を疑う。
  • のS(serum tumor marker)カテゴリーに用いられ、後述のIGCCCGリスク分類の基盤となる。

確定診断:根治的精巣摘除術

  • が疑われた場合、確定診断と局所治療を兼ねてアプローチによるを行う。長い精索とともに、を経て内鼠径輪のレベルまで摘除する。
  • ・経陰嚢的は絶対に行わない。

⚠️ を避ける理由(リンパドレナージ経路の違い):精巣は発生学的に後腹膜(腎に近い高さ)で形成され、精巣動静脈に沿って下降するため、精巣自体のリンパドレナージは精巣動静脈に伴走して後腹膜(傍大動脈・大動脈周囲)リンパ節へ向かう。一方、陰嚢の皮膚・のリンパドレナージは鼠径リンパ節という全く別の経路をとる。経陰嚢的に生検・穿刺・切開すると、腫瘍細胞が本来と異なる鼠径リンパ節経路や陰嚢局所へ播種し、(1)病期評価が不正確になる、(2)・陰嚢に新たな腫瘍再発巣を作る、(3)その後のまで拡大せざるを得なくなる、という不利益を招く。このためが疑われる場合は必ずアプローチで精索を早期に確保したうえで精巣摘除を行う。

flowchart TD
    A["若年男性の無痛性精巣腫大・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='induration'>硬結</span>"] --> B["陰嚢超音波で精巣内腫瘤を確認"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orchiectomy'>精巣摘除術</span>前にAFP・hCG・LDHを測定"]
    C --> D["胸腹部骨盤CTで転移検索"]
    D --> E["経陰嚢生検・穿刺は行わない"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='groin'>鼠径部</span>アプローチで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radical orchiectomy'>根治的精巣摘除術</span>"]
    F --> G["摘除標本の病理で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='seminoma'>セミノーマ</span>/NSGCTを確定"]
    G --> H["術後マーカーの半減期低下を確認し病期・IGCCCGリスクを決定"]

画像検査(病期評価)

  • 胸腹部骨盤CTで後腹膜リンパ節・肺転移を評価する。
  • 症状に応じ頭部MRI(など脳転移リスクが高い組織型)を追加する。

病期分類

の転移はにまず後腹膜(傍大動脈・大動脈周囲)リンパ節へ向かい、次いで縦隔・リンパ節へ、ではさらに血行性に肺・肝・脳へと進む。鼠径リンパ節はそのものの転移経路ではない点が、陰嚢皮膚病変との違いとして重要である(前述の経陰嚢生検を避ける理由と表裏一体)。

flowchart TD
    A["精巣(発生学的に後腹膜由来、精巣動静脈に伴走)"] --> B["傍大動脈・大動脈周囲リンパ節(後腹膜)が第一関門"]
    B --> C["縦隔・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Supraclavicular'>鎖骨上</span>リンパ節"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematogenous metastasis'>血行性転移</span>:肺・肝・脳(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-seminoma'>非セミノーマ</span>で早期)"]
    E["陰嚢皮膚・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tunica vaginalis'>鞘膜</span>(別のリンパ系統)"] --> F["鼠径リンパ節"]

TNM + Sカテゴリー

  • T:p(GCNIS)〜pT4(陰嚢浸潤)まで、精巣・精巣上体への限局から・精索/陰嚢浸潤の有無で分類。
  • N:所属(後腹膜)リンパ節転移の大きさ・個数で分類。
  • M:M1a(非所属リンパ節または肺転移)/M1b(それ以外の遠隔転移)。
  • S(血清:術後のAFP・hCG・LDH値で分類し、他のにはないの特徴である。
Stage 内容
Stage I 精巣に限局(Sカテゴリーも含め遠隔・所属リンパ節転移なし)
Stage II のみ
Stage III リンパ節転移または内臓転移

IGCCCGリスク分類(国際胚細胞腫瘍共同分類)

  • 組織型()、原発部位(精巣/縦隔原発)、転移部位(肺以外の内臓転移の有無)、術後のAFP・hCG・LDH値を統合し、good/intermediate/poor riskの3群に層別化する。
  • にpoor riskは存在しない(肺以外の内臓転移があってもintermediate riskまで)。
  • このリスク分類が、におけるBEPレジメンのサイクル数(good risk=3サイクル、intermediate/poor risk=4サイクル)を直接決定する。

💡 病期・組織型・IGCCCGリスクの3つを揃えて初めて、後述の(経過観察/放射線//BEP化学療法とそのサイクル数)が一意に決まる。

治療

後の治療は組織型( vs NSGCT)と病期・リスクによって大きく分岐する。

セミノーマ vs 非セミノーマの比較

AFP陽性率 上昇しない(AFP上昇があれば病理上でも臨床的にNSGCTとして扱う) 卵黄嚢・成分で高率に上昇
hCG陽性率 約15%で軽度上昇 で著増、・混合型でも上昇しうる
非常に高い 低い(放射線抵抗性)
化学療法感受性 高い に高感受性
Stage I の基本方針 経過観察が第一選択、代替は放射線または単剤 経過観察が第一選択(低リスク)、危険因子があれば経過観察・・化学療法のいずれも選択肢
Stage II〜IIIの基本方針 放射線療法(II期)または化学療法 +残存腫瘤の外科的摘除

⚠️ 血清AFPが上昇している場合、病理組織が単独であっても臨床的にはとして扱い、化学療法を含めた型の治療戦略で管理する自体はAFPを産生しないため、AFP上昇は見逃された成分の存在を示唆する)。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radical orchiectomy'>根治的精巣摘除術</span>後"] --> B{"組織型は?"}
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='seminoma'>セミノーマ</span>"| C{"病期は?"}
    C -->|"Stage I"| D["経過観察を第一選択(代替:放射線療法/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carboplatin'>カルボプラチン</span>1〜2サイクル)"]
    C -->|"Stage II-III"| E["IGCCCGリスクに応じたBEP化学療法(good risk 3サイクル/intermediate risk 4サイクル)"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-seminoma'>非セミノーマ</span>(NSGCT)"| F{"病期・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphovascular invasion'>脈管侵襲</span>は?"}
    F -->|"Stage I・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphovascular invasion'>脈管侵襲</span>なし(低リスク)"| G["経過観察を第一選択"]
    F -->|"Stage I・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphovascular invasion'>脈管侵襲</span>あり(高リスク)"| H["経過観察・神経温存<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retroperitoneal lymph node dissection (RPLND)'>後腹膜リンパ節郭清</span>・BEP1サイクルのいずれも選択肢"]
    F -->|"Stage II-III"| I["IGCCCGリスクに応じたBEP化学療法(good risk 3サイクル/intermediate-poor risk 4サイクル)"]
    I --> J["化学療法後の残存腫瘤(>1cm)は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retroperitoneal lymph node dissection (RPLND)'>後腹膜リンパ節郭清</span>で摘除"]

セミノーマの治療

💡 は化学療法後の残存腫瘤が壊死・線維化のみであることが多く、ほど積極的な残存腫瘤切除の適応にならない。

非セミノーマ(NSGCT)の治療

  • Stage I・なし(低リスク):経過観察が第一選択。
  • Stage I・あり(高リスク):経過観察・・BEP1サイクルのいずれも同等の選択肢として提示し、患者の価値観・フォロー遵守能力を踏まえて個別化する。
  • Stage II〜III:IGCCCGリスクに応じたBEP化学療法が中心(good risk:3サイクル、intermediate/poor risk:4サイクル)。
  • の位置づけ:Stage I高リスク例の代替的な根治手段であることに加え、化学療法後に残存する1cm超のを摘除する目的でも行われる。の残存腫瘤には成分(化学療法に抵抗性で、二次的な体細胞悪性腫瘍への転化もありうる)が含まれることが多く、画像・マーカーが陰性化しても残存腫瘤があれば切除して組織学的に評価する。

⚠️ は良性の組織像を呈しても、化学療法が効かないため外科的完全切除が唯一の根治手段である。

支持療法・フォローアップ

  • 精巣摘除・化学療法開始前にを含む妊孕性温存について相談する。
  • はAFP・hCG・LDH測定と胸腹部骨盤CTを、病期・治療内容に応じた間隔で継続する。

まとめ

  • は20〜40歳の若年男性に好発する固形腫瘍で、95%ががリスクを3〜5倍に高める最も確立した危険因子である。
  • (放射線・化学療法高感受性)と(NSGCT:・混合型、放射線抵抗性だがに高感受性)に大別され、AFP=、hCG=というの対応が診断の軸になる。
  • 診断は陰嚢超音波・術前AFP/hCG/LDHのあと、アプローチので確定する。精巣は精巣動静脈に沿って後腹膜へリンパ排出するため、鼠径リンパ節に流れる陰嚢皮膚とはリンパドレナージ経路が異なり、経陰嚢生検・穿刺は播種を招くため禁忌である。
  • 病期はTNMに術後のS(血清)カテゴリーを加えて評価し、後腹膜(傍大動脈)リンパ節が最初の転移部位になる。IGCCCGリスク分類(good/intermediate/poor)がBEP化学療法のサイクル数を決める。
  • Stage Iはとも経過観察が第一選択で、陽性例では・BEP1サイクルも選択肢になる。進行例はIGCCCGリスクに応じたBEP化学療法(good risk 3サイクル/intermediate・poor risk 4サイクル)を行い、の化学療法後残存腫瘤は成分を念頭にで摘除する。
  • 治療により固形腫瘍の中でも治癒率が最も高い悪性腫瘍のひとつである。