症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

疼痛

Pain

別名
痛覚
臓器系
全身
科目
AnesthesiologyNeuroanatomy
トピック
麻酔科学 B-20:疼痛管理神経解剖学 03:侵害受容反射
関連疾患
Fournier壊疽IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)Kasabach-Merritt現象Trousseau症候群アカラシアアテローム性動脈硬化症エキノコックス症くも膜下出血クラミジア性器感染症コンパートメント症候群パーキンソン病ハンセン病プラダー・ウィリー症候群悪性末梢神経鞘腫瘍胃癌横紋筋肉腫化膿性汗腺炎化膿性関節炎(敗血症性関節炎)壊死性軟部組織感染症壊疽性膿皮症外陰癌外耳炎顎骨壊死滑膜肉腫鎌状赤血球症胸部外傷(肋骨骨折・血胸・外傷性気胸・フレイルチェスト)劇症型痤瘡血管性・レビー小体型・前頭側頭型認知症など非アルツハイマー型認知症骨髄炎細菌性髄膜炎子宮筋腫子宮破裂脂肪腫自然流産若年性特発性関節炎集簇性ざ瘡小児脳性麻痺食道癌心的外傷後ストレス障害深部静脈血栓症神経鞘腫症身体症状症・変換症・病気不安症精索静脈瘤精巣腫瘍精巣上体炎・精巣炎精巣捻転・卵巣捻転前置胎盤前立腺炎鼠径ヘルニア唾液腺炎・唾石症唾液腺腫瘍大動脈解離丹毒・蜂窩織炎単純ヘルペスウイルス感染症胆石症頭頸部癌軟部肉腫熱傷肺血栓塞栓症泌尿生殖器外傷皮膚糸状菌症(白癬)皮膚有棘細胞癌分娩後出血平滑筋肉腫閉鎖孔ヘルニア変形性関節症包茎・傍包茎末梢動脈疾患慢性静脈不全毛巣洞薬剤の血管外漏出流行性耳下腺炎良性乳房疾患良性肛門疾患(痔核・裂肛・痔瘻・肛門周囲膿瘍)膵癌蕁麻疹
スコア
PARACELSUSスコア

🧠 全体像:疼痛は信号であると同時に、感覚・情動・自律神経・認知・運動の5成分からなる体験である。だから同じでも訴えの強さは一致しない。臨床で最初に決めるのは強さではなく機序——か、か、侵害か——で、これによって効く薬が変わる(にNSAIDsは効きにくい)。そして機序の判定より前に、痛みがしている緊急病態を除外する順序を守る。

疼痛とは何を指すか

疼痛は「実際または潜在的なに関連する、またはそれに似た不快な感覚・情動体験」と定義される。がなくても疼痛は成立するという点が重要で、画像や検査で異常がないことは痛みの否定にならない。

成分 内容
部位、強度、性状、
情動 不安、恐怖、不快、抑うつ
自律神経 頻脈、発汗、血圧変化、睡眠障害
認知 意味づけ、予測、注意、過去の経験
運動 反射、防御姿勢、

⭐ 痛みは患者の自己申告が基準である。のようにな物差しはない。訴えを尊重しながら、原因検索と安全評価を並行する。

どう伝わり、なぜ増幅するか

flowchart TD
    A["機械・熱・化学刺激"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nociceptor'>侵害受容器</span>で変換"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='A-delta fiber'>Aδ線維</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='C fiber'>C線維</span>で伝導"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal horn'>脊髄後角</span>で修飾"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ascending tracts'>上行路</span>から視床・大脳へ"]
    E --> F["痛みとして知覚"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='descending inhibition'>下行性抑制</span>・促進系"]
    G --> D
線維 特徴 伝える痛み
細い、伝導が速い 鋭く局在しやすい
、伝導が遅い 灼ける・うずく、局在しにくい

💡 「ぶつけた瞬間の鋭い痛み」の後に「じんじんする鈍い痛み」が来るのは、の違う2本の線維が順に届くためである。

損傷組織からプロスタグランジン、、H⁺、ATP、サイトカインが放出されるとの閾値が下がる()。さらに強い入力が続くとの興奮性が高まり、通常なら痛くない刺激で痛む、刺激以上に痛むが生じる()。

⚠️ が成立すると、原因が治っても痛みが残る。の治療不足がを作る道筋であり、「我慢させる」ことに医学的な利点はない。

機序による分類

効く治療が変わるため、強さより先に機序を決める。

分類 機序 代表例 性状の手掛かり
が活性化 術後創、骨折、関節炎、内臓痛 鋭い、、体動で増悪
の病変・疾患 灼ける、を伴う
・神経病変では説明できない処理異常 広範、、睡眠障害を伴う
複数機序が併存 、術後遷延痛 上記が重なる

⚠️ にNSAIDsやは効きにくい。「が効かない痛み」は薬の増量ではなく、機序の再評価を促すである。

は損傷や手術に伴う機能を持つ。は通常3か月を超えて持続・反復し、生物心理要因そのものが病態を維持するため、原因臓器だけを見ても解決しない。

見逃してはいけない痛み

⚠️ 痛みの強さと危険度は比例しない。以下は機序を論じる前に除外する。

示唆する病態
突然発症で最強に達する 、消化管穿孔、精巣・
痛みの性状がした 虚血の進行、穿孔、絞扼
を伴う 脊髄圧迫、
発熱を伴う 深部感染、膿瘍、
循環不安定を伴う 出血、敗血症、心筋梗塞
所見に不釣り合いな強い痛み

「所見に不釣り合いな強い痛み」は特に重要である。診察所見が乏しいのに患者が激痛を訴える場合、虚血や壊死が進行していることがある。所見の乏しさを安心材料にしない。

評価の進め方

flowchart TD
    A["痛みの訴え"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='red flag'>危険徴候</span>があるか"}
    B -->|"あり"| C["原因検索と蘇生を優先"]
    B -->|"なし"| D["発症・誘因・部位・放散<br>性状・強度・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='time course'>時間経過</span>"]
    D --> E["増悪因子と軽減因子"]
    E --> F["機能への影響:睡眠・歩行<br>咳・深呼吸・食事・仕事"]
    F --> G{"機序はどれか"}
    G -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nociceptive'>侵害受容性</span>"| H["原因の治療+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Multimodal analgesia'>多角的鎮痛</span>"]
    G -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuropathic'>神経障害性</span>"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuropathic pain'>神経障害性疼痛</span>の薬物を選ぶ"]
    G -->|"侵害<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasticity'>可塑性</span>"| J["生物心理<span class='jp-term jp-term-diagram' title='social'>社会的</span>アプローチ"]

強度の評価には、自己申告できる患者ではを使う。自己申告できない患者(挿管中、認知症、乳幼児)では行動観察による尺度を用いる。

⚠️ 尺度の数値は同じ患者のを見るためのであり、患者間で比較するものではない。「他の人は5と言うのにこの人は8と言う」という読み方をしない。

鎮痛の考え方

(作用機序の違う手段を組み合わせ、単剤の増量を避ける)が基本である。原因治療と鎮痛は二者択一ではなく、鎮痛したから診断が遅れるという前提は現在は否定されているでも適切な鎮痛は診察を妨げない)。

⚠️ 痛みの評価を「への反応」で代用しない。で胸痛が消えても心臓由来とは限らず、モルヒネで腹痛が和らいでも重症度は下がっていない。

まとめ

  • 疼痛は感覚だけでなく情動・自律神経・認知・運動を含む体験で、患者の自己申告が基準になる。
  • 強さより先に機序(・侵害)を決める。効く治療が変わる。
  • により、原因が治っても痛みが残ることがある。の放置がを作る。
  • 機序の判定より前に、突然発症・性状の・神経脱落・発熱・循環不安定を除外する。
  • 所見に不釣り合いな強い痛みは虚血・壊死ので、所見の乏しさを安心材料にしない。
  • 評価尺度はを見るであり、患者間の比較には使わない。