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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

糖尿病性ニューロパチー

Diabetic neuropathy

別名
糖尿病性神経障害糖尿病神経障害
臓器系
内分泌・代謝神経
科目
Translational Medicine and PathophysiologyInternal MedicineNeurology
トピック
病態生理学 P-1-23:糖尿病性神経障害の症状と病態機序内科学 L-23:糖尿病の細小血管・大血管合併症神経内科 G1-36:多発ニューロパチーの症候と主な原因病態生理学 P-1-24:体性神経障害の診断のための診察法
鑑別疾患
亜急性連合性脊髄変性症家族性アミロイドポリニューロパチー感覚性ニューロノパチー自己免疫性自律神経節障害慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー
関連疾患
小径線維ニューロパチー
治療薬
プレガバリンデュロキセチンガバペンチンアミトリプチリン
症状
しびれ神経障害性疼痛知覚異常灼熱痛感覚性運動失調筋力低下
検査値
神経伝導検査HbA1c表皮内神経線維密度定量的感覚検査Neuropad
下位分類
治療誘発性糖尿病性ニューロパチー糖尿病性筋萎縮糖尿病性自律神経障害
元疾患
糖尿病

🧠 全体像:は1つの病型ではなく、侵される神経の分布が違う4つの型の総称である。しかし臨床の判断を決めるのは、型の名前よりも「どの太さの線維が落ちているか」という一本の軸である。(振動覚・・腱反射)が落ちれば足の感覚が消えて潰瘍と転倒のリスクになり、(・自律神経)が落ちれば灼けるような痛みが出る。⚠️ そしてはに映らない。「は正常だった」は障害を否定しない——この一点が、痛みを訴える患者を「異常なし」で帰してしまう事故を防ぐ。もう一つの幹は、これがであるということ。糖尿病があるという事実は、他の治療可能な原因を探さない理由にはならない。

病型を分ける

米国糖尿病学会の分類は、びまん性・・の3群からなる1。

群 病型 特徴
びまん性 (DSPN) 最多での約75%1。・左右対称の。優位・優位・混合型(最も多い)に細分される1
びまん性 心血管・消化管・泌尿生殖器・発汗・低血糖・。詳細はそちらのノートに譲る
単一の脳神経・末梢神経、 正中・・橈骨・、脳神経ではIII・IV・VI・VII。急性発症で数か月かけてすることが多い1
()、 2型糖尿病の男性に多く、片側の強い大腿痛と体重減少に続いて筋力低下が出る。多くは自然軽快する1

💡 は「対称・遠位・感覚優位」というDSPNの型から3つとも外れる。 非対称で、近位で、痛みとが主役になる。この非典型パターンを見たら、・腫瘍・感染・をと画像で除外する必要がある1。

大径線維と小径線維で、症状も検査も違う

(Aα・Aβ) (Aδ・C)
担うもの ・振動覚・・バランス 痛覚・温度覚・掻痒、および自律神経2
症状 、ピリピリ感、痛みを伴わない感覚消失、バランス不良 灼けるような痛み、、刺すような痛み
診察 128 Hzによる振動覚、、、10 g1 、温度覚(冷温の識別)1
異常が出る 正常になる2

⚠️ が正常でも障害は否定できない。 は伝導が遅く、ではそもそも捉えられない。この検査が見ているのはだけであり、が単独で侵された患者ではもも正常に出る2。疑いが残るなら皮膚生検によるやへ進む(詳細は)。

💡 早期に出るのは症状の方である。 痛み・といった由来の訴えが最初に受診の動機になり、DSPN患者の最大25%がを持つ1。逆にが落ちると「厚い靴下を履いて歩いている感じ」という表現になり、痛みというが失われるために潰瘍の上を歩き続けてしまう1。

診断は除外診断である

⚠️ 糖尿病があるというだけでDSPNと決めつけない。 家族歴・を聴取したうえで、血清ビタミンB12・葉酸・甲状腺機能・血算・・を確認して他の原因を除外する1。挙げられている鑑別には(頻度が高い)、腎疾患、(頻度が高い)、、血管炎、、、ビタミンB12欠乏()、アルコール・・・・・・、・、が含まれる1。

⭐ や神経内科紹介は、診断のためには通常必要ない。 典型的な症候と左右対称・遠位優位のがあれば臨床診断でよい。紹介の閾値になるのは非典型所見——①感覚障害より運動障害が強い、②急速に進行する、③左右非対称——の3つである1。

flowchart TD
    A["糖尿病患者の足の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='numbness'>しびれ</span>・痛み"] --> B{"分布は左右対称で<br>遠位優位か"}
    B -->|"いいえ(非対称・近位・運動優位)"| C["非典型パターン<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrophysiology'>電気生理</span>と画像へ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='diabetic amyotrophy'>糖尿病性筋萎縮</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mononeuritis multiplex'>多発単神経炎</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='compressive lesion'>圧迫性病変</span>を鑑別"]
    B -->|"はい"| D["他原因の除外検査<br>B12・葉酸・甲状腺機能・血算・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='metabolic panel'>代謝パネル</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serum protein immunoelectrophoresis'>血清蛋白免疫電気泳動</span>"]
    D --> E{"他の原因で説明できるか"}
    E -->|"できる"| F["その原因の治療を優先"]
    E -->|"できない"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='distal symmetric polyneuropathy'>遠位対称性多発ニューロパチー</span>と診断"]
    G --> H["線維の太さを診察で分ける"]
    H --> I["大径:128 Hz<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tuning fork'>音叉</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='position sense (proprioception)'>位置覚</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Achilles reflex'>アキレス腱反射</span>・10 g<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monofilament (Semmes-Weinstein test)'>モノフィラメント</span>"]
    H --> J["小径:痛覚・温度覚"]
    I --> K["潰瘍リスクの層別と<br>予防的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foot care'>フットケア</span>教育"]
    J --> L["疼痛が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chief complaint'>主訴</span>なら薬物療法へ"]

スクリーニングと足病変の予防

💡 も対象になりうる。 ADA 2017 は「末梢神経障害の症状があるの患者ではスクリーニングを考慮する」(グレードB)としており、の10〜30%にがみられると述べている1。

  • 2型は診断時から、1型は診断5年後から、少なくとも年1回評価する1。2型では診断以前にが長く続いていることが多いため、開始時期が1型と異なる。
  • 評価は+温度覚か痛覚()+128 Hzによる振動覚()で行い、全例に年1回の10 g検査を加える1。2種類以上の検査を組み合わせると検出の感度・特異度が上がる1。
  • ⚠️ 10 gを早期発見のと誤解しない。 これは主に進行した神経障害を拾い、潰瘍・切断のリスクが高い足を同定するための検査である1。年1回のスクリーニングとしての実施法(背面から開始し近位へ)と、「ハイリスク足」の判定法(各足4部位)は目的も手順も別物である1。
  • ⚠️ DSPNはの最大の原因であり、の発症にも必須の前提条件である1。感覚とと温度識別が同時に落ちることで転倒・骨折も増える1。
  • DSPN患者の最大50%は無症状であり、症状が無いことは神経障害が無いことを意味しない1。無痛性のが初発症状になることがある。

疼痛の薬物療法

⚠️ ・の増量は答えにならない。 の機序に基づいた薬剤を選ぶ(は)。米国糖尿病学会の推奨は薬剤ごとにグレードが違う1。

以下は2017年版の位置づけである。

薬剤 位置づけ(2017年版) グレード
・ 症状治療の初期選択として考慮する A
経済状況・併存症・薬物相互作用を踏まえたうえで有効な初期選択 B
などの 有効だが未承認。⚠️ 重篤な副作用のリスクがより高く慎重に用いる B
オピオイド(・を含む) 依存その他のが高く、第一選択・第二選択のいずれとしても非推奨 E

⭐ 2026年版で階層が消えた。 ADA Standards of Care 2026 の推奨12.22 は、・・・の4クラスを横並びの初期選択(グレードA)とし、これらの併用が追加の鎮痛をもたらすことも A で認めた。には・・カルバマゼピン・・バルプロ酸が含まれる。オピオイド(・を含む)は「まれな状況を除き用いるべきでない」とグレードEからBへ変わった3。⚠️ 年数を書かずに「グレードA」「グレードE」と引かない。

⚠️ 「血糖を整えれば痛みも取れる」と説明しない。 やの改善そのものがの治療になるという説得力ある証拠は無い1。確立した神経障害を元に戻す薬剤も、現時点では存在しない1。

予防——1型と2型で血糖管理の効き方が違う

⭐ これはの中でも、1型と2型の差が最も際立つ場面である。

1型糖尿病 2型糖尿病
厳格なによるDSPNの 78%(劇的) 5〜9%(わずか)1
推奨 「可能な限り早期に血糖を最適化して発症を予防する」(2017年版・2026年版ともグレードA) 「進行を遅らせるために血糖を最適化する」(2017年版はグレードB、2026年版はC)13
DCCTで45%・EDICで31%のリスク減少1 単独では一貫した効果が無く、を含むで60%減少1

💡 差が生まれる理由は「2型では血糖以外の要因が多すぎる」ことにある。 併存症・・低血糖・体重増加がの効果を打ち消し、さらに診断前にが何年も続いていた分の障害は取り返せない1。だから2型では、血糖だけを追うのではなく血圧・脂質・を含めた多因子アプローチが推奨される(グレードC)1。

💡 逆に急激な血糖改善が神経障害を起こすこともある。 慢性高血糖の状態から血糖を急に改善させたときに生じる医原性の(治療誘発性、旧称)が知られており、特にコントロールが極端に悪かった患者で起こるとされる1。

まとめ

  • は、びまん性(と)・/・()の総称で、DSPNが約75%を占める。
  • 判断の軸は線維の太さ。は振動覚・・腱反射・10 gで、は痛覚・温度覚で診る。
  • ⚠️ はに映らない。が正常でも障害は否定できない。
  • である。B12・葉酸・甲状腺機能・血算・・で他の原因を外す。運動優位・急速進行・非対称という非典型所見は神経内科紹介の閾値になる。
  • スクリーニングは2型が診断時から、1型が診断5年後から年1回。10 gは早期発見ではなく潰瘍・切断リスクの同定に使う。DSPNはとの前提条件で、患者の最大半数は無症状である。
  • 疼痛の初期選択は、2017年版では・(A)>・(B)という階層だったが、2026年版では4クラス(・・三環系・)が横並びのAになり併用もAで認められた。オピオイドはE→B(まれな状況を除き用いない)。は痛みの治療にならない。
  • 厳格なはDSPNを1型で78%、2型では5〜9%しか減らさない。2型ではが要る。

出典

  1. 1.Diabetic Neuropathy: A Position Statement by the American Diabetes Association(American Diabetes Association (Diabetes Care)・2017)Table 1の分類がびまん性(遠位対称性多発ニューロパチー〈小径線維優位・大径線維優位・混合型(最多)〉と自律神経障害)・単ニューロパチー/多発単神経炎・神経根症/多発神経根症(腰仙部神経根神経叢ニューロパチー=糖尿病性筋萎縮、胸髄神経根症)から成ること、遠位対称性多発ニューロパチーが糖尿病性ニューロパチーの約75%を占め1型では罹病20年で20%以上、2型では新規診断時に10〜15%・罹病10年で50%に達すること、糖尿病性ニューロパチーは除外診断でありTable 3の鑑別(甲状腺疾患・腎疾患・傍蛋白血症・ビタミンB12など)を血清B12・葉酸・甲状腺機能・血算・代謝パネル・血清蛋白免疫電気泳動で除外すること、スクリーニングは2型は診断時から・1型は診断5年後から少なくとも年1回で温度覚または痛覚(小径線維)と128 Hz音叉による振動覚(大径線維)を用い、10 gモノフィラメントは全例に年1回行うが主に進行例と潰瘍・切断リスクの同定に有用であること、電気生理検査や神経内科紹介は運動優位・急速発症・非対称という非典型所見がある場合を除き診断にほとんど必要ないこと、疼痛治療はプレガバリンまたはデュロキセチンを初期選択(グレードA)・ガバペンチンも有効な初期選択(B)・三環系抗うつ薬はFDA未承認だが有効で重篤な副作用リスクが高い(B)・タペンタドールとトラマドールを含むオピオイドは第一選択・第二選択のいずれとしても非推奨(E)とすること、血糖管理や生活習慣管理が神経障害性疼痛の治療になる説得力ある証拠は無いこと、厳格な血糖管理による遠位対称性多発ニューロパチーの相対リスク減少が1型で78%・2型で5〜9%であり心血管自律神経障害の発症リスクもDCCTで45%・EDICで31%減少した一方、2型では血糖管理単独では一貫せず生活習慣を含む多因子介入が60%減少させたことを、Classification・Prevention・DSPN・Screening and Diagnosis・Pain Management・Atypical Neuropathies各節で確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Small Fiber Neuropathy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2022)小径線維はAδ線維とC線維であり体性側は痛覚・温度覚・掻痒を、自律神経側は体温調節・心血管・消化管・発汗・泌尿生殖器の信号を伝えること、大径線維(Aα・Aβ)障害の所見は筋力低下・固有感覚低下・深部腱反射消失であること、小径線維は伝導が遅く神経伝導検査では捉えられないため大径線維の障害しか検出できず、小径線維単独障害では神経伝導検査・針筋電図が正常になること、確定には皮膚生検(表皮内神経線維密度、感度88%)や定量的軸索反射性発汗試験(感度80%)を用いること、代謝性の原因として糖尿病・耐糖能異常・ビタミンB12欠乏・銅欠乏・甲状腺機能異常が挙がることを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.12. Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)推奨12.22が「ガバペンチノイド、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、三環系抗うつ薬、ナトリウムチャネル遮断薬を糖尿病の神経障害性疼痛に対する初期薬物治療として推奨する(グレードA)」「これらの併用が追加の鎮痛をもたらしうる(グレードA)」とし、「トラマドール・タペンタドールを含むオピオイドは有害事象の可能性を踏まえ、まれな状況を除き糖尿病の神経障害性疼痛に用いるべきでない(グレードB)」としていること。本文が三環系抗うつ薬・SNRI・ガバペンチノイドの治療的同等性を示す直接比較試験に言及し、ナトリウムチャネル遮断薬としてラモトリギン・ラコサミド・カルバマゼピン・オクスカルバゼピン・バルプロ酸を挙げていること。推奨12.20が2型糖尿病では神経障害の進行を遅らせるために血糖を最適化するとしてグレードCを与えていること(2017年版はB)。スクリーニングの時期と年1回の10 gモノフィラメント検査は2017年版から変更されていないこと。別ホストで公開されたPDFを取得して確認した(diabetesjournals.orgは403)。閲覧 2026-09-03