内科学

内科学 · L-23

糖尿病の細小血管・大血管合併症

Microvascular and macrovascular complications of diabetes mellitus

前提:病態
糖尿病性神経障害の症状と病態機序糖尿病性腎症動脈硬化(アテローム性動脈硬化症)
前提:正常
1型・2型糖尿病の生化学
疾患
黄斑浮腫硝子体出血糖尿病糖尿病性ニューロパチー糖尿病性筋梗塞糖尿病性自律神経障害糖尿病性腎症糖尿病網膜症網膜剥離
検査値
Neuropad
スコア
イプスウィッチタッチテスト

🧠 全体像:糖尿病の慢性合併症は、網膜・腎・神経のと、冠・脳・末梢動脈の大血管障害に整理できる。症状が出てから探すのではなく、病型とに応じ定期スクリーニングし、血糖、血圧、脂質、喫煙、心腎保護薬を一体として管理する。

合併症の全体像

flowchart TD
    A["慢性高血糖・高血圧・脂質異常・喫煙"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮障害</span>・炎症・AGE蓄積"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microvascular complications'>細小血管障害</span>"]
    B --> D["動脈硬化性大血管障害"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinopathy'>網膜症</span>・腎症・神経障害"]
    D --> F["冠動脈・脳血管・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral artery disease, PAD'>末梢動脈疾患</span>"]

糖尿病網膜症

病型 主な所見・問題
、出血、、
、、、
病期を問わず起こり、を障害

初回の総合は、2型は診断時(推奨12.4)、1型は糖尿病の発症から5年後(推奨12.3)に行い、以後は通常毎年行う1。⚠️ 1型の起点は「5年以内」ではなく「5年後」である。 高血糖の発症からが現れるまでに少なくとも5年を要すると見積もられていることが根拠で、逆に2型は診断前にの高血糖期間が長く診断時点で既にを持つ相当のリスクがあるため待たない。なお同じ章の中でも、推奨文(12.3)は起点を「糖尿病の発症」、解説文は「糖尿病の診断」と書いており、原文の表現が揺れている1。

年1回以上の検査で所見が無く血糖指標も目標域なら、以後は1〜2年ごとの検査を考慮してよい(原文は「考慮してよい」であって「そうせよ」ではない)が、何らかの程度のがあれば少なくとも年1回に戻し、が進行しているか視力を脅かしているなら眼科医によるさらに頻回の検査を要する1。良好に管理された2型糖尿病では、正常眼底の後3年以内に有意なが生じるリスクは小さいという報告があり1、系統的レビューでも低リスク例で3〜5年への延長可能性が示されている2。ただし血糖目標未達、進行、といったリスク因子があれば間隔を短くする1。・は緊急眼科評価を要する。治療は(米国がの治療薬として承認しているのはとで、実地ではも用いられる)、レーザー、を病型に応じ選ぶ1。急速な血糖改善で一時悪化することがあり、進行例は眼科と連携する。病型分類・治療の詳細はの項に譲る。

糖尿病性腎臓病

UACRとeGFRを、2型は診断時から、1型は5年以上で少なくとも年1回評価する(推奨11.1a)3。 30〜299 mg/gを中等度増加、≥300 mg/gをと呼ぶ。は24時間以内の運動、発熱、感染、月経、著明高血糖、心不全、高度高血圧で一過性に増え、測定間の生物学的変動も20%を超えるため、3〜6か月以内に採った3検体のうち2検体が異常であることを確認してから中等度・高度増加と判定する3。は人種係数を含まない2021年-EPIクレアチニン式で算出する3。

💡 呼称は「」から「糖尿病関連腎臓病(DKD)/糖尿病患者の」へ移った。 腎生検で証明された糸球体病変を指す古い「」に対し、現行のADA・はとの持続的異常という機能的定義で捉える。⚠️ 原文は「腎生検を行わない限り、その人のが糖尿病によるものだと確定的には言えない」とし、生検のない例では「糖尿病患者の」または「推定」と記載することを勧めている3。病期はのG区分とのA区分の組み合わせ(のヒートマップ)で決まり、両方を定量しないと治療も紹介時期も決められない4。糖尿病患者の20〜40%にが生じ、1型では罹病5〜15年後に現れることが多い一方、2型では診断時に既に存在しうる3。腎機能の急低下、、急速な蛋白増加、を欠くなどは、非糖尿病性腎疾患を疑う手掛かりである。

  • 高血圧+では阻害薬またはをまで用い、K・腎機能を監視する。血圧目標は130/80 mmHg未満で、高度ではより低い目標が妥当なこともある3。血圧・・がいずれも正常な糖尿病患者へ、目的で阻害薬・を使うことは推奨されない3。
  • 2型糖尿病では 20 mL/min/1.73 m²以上で阻害薬(、など)を腎・目的に用い、できれば透析開始まで続ける3。これに受容体作動薬、非ステロイド型MRA()を病態別に積み上げる4。FLOW試験(3,533例)ではが主要腎イベントを24%減らした3。
  • 阻害薬とを併用しない。腎機能急低下、、急速な蛋白増加では非糖尿病性腎疾患を疑う。一方、阻害薬・・阻害薬・受容体作動薬の開始直後に起こる30%未満のクレアチニン上昇は、がなければ中止理由にしない3。
  • 治療効果はの変化で確かめる。 ≥300 mg/g の例では尿アルブミンを30%以上減らすことを目標にする3。

糖尿病性神経障害

とは、2型糖尿病では診断時から、1型糖尿病では診断から5年後から、少なくとも年1回評価する(推奨12.17・12.19)1。⚠️ 1型の起点は「発症」ではなく「診断」から数える——の12.3が「発症から5年後」と書くのと、原文の語が違う。

  • の評価は、丁寧なに加えて、温度覚または痛覚のいずれか(機能)と、128 Hzによる振動覚(機能)を調べる。これとは別に、潰瘍・切断のリスクがある足を同定するため全例に年1回の10 g検査を行う(推奨12.18)1。の感覚消失に他の1つの検査の異常が加わればLOPS(保護知覚の消失)と判定する1。
  • ⚠️ 10 g単独では、進行した神経障害と潰瘍リスクは拾えても、介入の利益が最も大きい早期の神経障害を確実には同定できない。単独の診断法にしない1。・・神経内科紹介は、急性〜、、非対称、運動障害を伴うといった非典型例か診断が不明な場合を除き、通常は不要である1。
  • は、、、は・無痛性外傷。⚠️ はである——アルコール、化学療法などの神経毒性薬剤、ビタミンB12欠乏(長期投与例でとくに)、甲状腺機能低下症、腎疾患、悪性腫瘍、感染症、慢性炎症性脱髄性多発、、血管炎を考慮する1。
  • 疼痛には、、などを背景に応じ使用する。血糖改善は進行を抑えるが、失われた感覚を直ちに戻さない。
  • は、、、下痢・便秘、、を来す。は早期には無症状で、深呼吸時の低下でしか捉えられないことがあり、(100/分超)と(起立時に収縮期20 mmHg超または拡張期10 mmHg超の低下が、心拍数の適切な増加を伴わずに起こる)は進行例の所見である1。・不整脈・の独立した危険因子でもある5。⚠️ 低血糖への反応の障害によるは、と直接には結びついていないと原文が明記している1。

糖尿病足

感覚消失や潰瘍・切断の既往がある患者では毎回足を観察し、少なくとも年1回は、皮膚、足変形、(10 gまたはIpswich touch testに、痛覚・温度覚・振動覚のうち少なくとも1つを追加)、下肢・足の動脈拍動を含む血管評価を包括的に行う(推奨12.23〜12.25)1。で、のある糖尿病患者の78%において末梢神経障害が構成原因であった1。評価の頻度はLOPSと()の有無で層別する1。

リスク区分 所見 評価間隔
0(きわめて低い) LOPSももない 年1回
1(低い) LOPSまたはがある 6〜12か月ごと
2(中等度) LOPS+、LOPS+足変形、+足変形のいずれか 3〜6か月ごと
3(高い) LOPSまたはに加え、既往・切断既往・腎不全のいずれかがある 1〜3か月ごと

潰瘍では感染、虚血、深さ、骨髄炎を評価し、、、適切な創傷管理を行う。感染がなければ抗菌薬を投与しない。虚血は早期に血管評価・へつなぐ。

大血管合併症

スタチン、、禁煙、、阻害薬/受容体作動薬をリスクに応じ用いる。40〜75歳でが無ければ中等度強度スタチン、リスクが高ければでLDL-Cを50%以上かつ70 mg/dL未満まで下げ、確立したのでは55 mg/dL未満を目標とする6。はが中心で、(低用量アスピリン75〜162 mg/日)は心血管リスクが高い例に限って出血リスクを話し合ったうえで考慮するにとどまり(推奨10.36)、70歳を超える人では害が利益を上回るようだと本文が述べている6。

まとめ

  • 網膜、・、神経・足を症状前から定期的にスクリーニングする。⚠️ 開始時期は「5年以内」ではなく「5年後」——眼底は2型が診断時・1型が発症から5年後、神経は2型が診断時・1型が診断から5年後、・は2型が診断時・1型が5年以上である。
  • では阻害、阻害薬などを血圧・K・とともに管理する。
  • 大血管予防は血糖だけでなく、脂質、血圧、喫煙、体重、心腎保護薬を統合する。

出典

  1. 1.12. Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)PMC12690177で全文を閲覧した(diabetesjournals.orgは403)。推奨12.3が1型糖尿病の初回散瞳総合眼底検査を「糖尿病の発症から5年後(5 years after the onset of diabetes)」、12.4が2型糖尿病では「診断時(at the time of the diabetes diagnosis)」としており、いずれも「5年以内」ではないこと(ただし同章の解説文は1型について「5 years after the diagnosis of diabetes」と書いており、推奨文の onset と解説文の diagnosis で表現が揺れている)、その根拠として「retinopathy is estimated to take at least 5 years to develop after the onset of hyperglycemia」を挙げ、2型は診断前に無自覚の高血糖が続き診断時点で網膜症を持つリスクがあるためとしていること、推奨12.5で、年1回以上の眼底検査で網膜症所見が無く血糖指標も目標域なら以後は1〜2年ごとの検査を考慮してよい(may be considered)が、何らかの程度の網膜症があれば少なくとも年1回の散瞳検査を要し、進行性あるいは視力を脅かす網膜症ではさらに頻回を要するとすること、米国FDAが糖尿病網膜症の治療薬として承認しているのがアフリベルセプトとラニビズマブであること、推奨12.17・12.19で末梢神経障害と自律神経障害の評価を2型は診断時から・1型は「診断から5年後(5 years after the diagnosis of type 1 diabetes)」から少なくとも年1回行うとすること、心血管自律神経障害は早期には無症状で深呼吸時の心拍変動低下でしか検出されないことがあり、安静時頻脈(100/分超)と起立性低血圧(起立時に収縮期20 mmHg超または拡張期10 mmHg超の低下)は進行例(advanced disease)の所見とされること、低血糖への拮抗調節反応の障害による低血糖無自覚が自律神経障害と直接には結びついていないと明記すること、モノフィラメントの感覚消失と他の1つの検査の異常が揃うとLOPSと確定すること、糖尿病性末梢神経障害では他の原因(アルコール等の毒物、化学療法などの神経毒性薬剤、ビタミンB12欠乏〈とくにメトホルミン長期投与例〉、その他の栄養欠乏、甲状腺機能低下症、腎疾患、悪性腫瘍、感染症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、遺伝性ニューロパチー、血管炎)を考慮すべきこと、電気生理検査・脊椎MRI・神経内科紹介は急性/亜急性発症・非長さ依存性・非対称・運動障害を伴うといった非典型例か診断が不明な場合を除き稀にしか必要でないこと、推奨12.18で遠位対称性多発神経障害の評価には丁寧な問診に加え「温度覚または痛覚のいずれか(小径線維機能)と、128 Hz音叉による振動覚(大径線維機能)」を用い、これとは別に潰瘍・切断リスクのある足の同定のため全例に年1回の10 gモノフィラメント検査を行うとすること、10 gモノフィラメント単独では進行例しか拾えず早期の神経障害を確実には同定できないため単独の診断法にしてはならないこと、推奨12.23・12.24で年1回以上の包括的足評価(皮膚の視診、足変形の評価、神経学的評価=10 gモノフィラメント検査またはIpswich touch testに加えて痛覚・温度覚・振動覚のうち少なくとも1つ、下肢・足の動脈拍動を含む血管評価)を求め、12.25が感覚消失または潰瘍・切断の既往のある者では受診のたびに足を診るとすること、表12.1がIWGDFのリスク層別(カテゴリー0〜3)と検査間隔(年1回/6〜12か月/3〜6か月/1〜3か月)を示すこと、多施設試験で足潰瘍のある糖尿病患者の78%において末梢神経障害が構成原因であり、末梢感覚神経障害・軽微な外傷・足変形の三徴が参加者の63%超に存在したことを確認した。閲覧 2026-08-25
  2. 2.A systematic review of diabetic retinopathy screening intervals(Acta Ophthalmologica・2024)網膜症のない低リスク2型糖尿病では、選択例で検査間隔を3〜5年へ延長できる可能性を示した。閲覧 2026-08-25
  3. 3.11. Chronic Kidney Disease and Risk Management: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)PMC12690176で全文を閲覧した(diabetesjournals.orgは403)。糖尿病に起因するCKDが糖尿病患者の20〜40%に生じること、1型では罹病10年後に生じるのが典型で最も多い現れ方は診断から5〜15年後だが2型では診断時に既に存在しうること、推奨11.1aがUACRとeGFRの年1回以上の評価を「罹病期間5年以上(duration of ≥5 years)の1型糖尿病」と「治療によらず全ての2型糖尿病」に求めること、尿アルブミン・クレアチニン比(UACR)の正常〜軽度増加が30 mg/gCr未満・中等度増加が30以上300 mg/gCr未満・高度増加が300 mg/gCr以上であること、UACRの生物学的変動が20%を超えるため3〜6か月以内に採取した3検体のうち2検体が異常であることを確認してから中等度・高度増加と判定すること、24時間以内の運動・感染・発熱・心不全・著明高血糖・月経・高度高血圧がUACRを腎障害と無関係に上昇させうること、腎生検を行わない限りその人のCKDが糖尿病によるものだと確定的には言えず、生検のない例では「糖尿病患者のCKD」または「推定糖尿病性腎症(presumed diabetic nephropathy)」と記載することを勧めていること、eGFRは人種係数を含まない2021年CKD-EPIクレアチニン式で算出すること、推奨11.2でUACR 300 mg/gCr以上の例では尿アルブミンを30%以上減らすことを目標とすること、推奨11.6cで血圧・UACR・eGFRがいずれも正常な糖尿病患者へのACE阻害薬・ARBによるCKD一次予防は推奨しないこと、糖尿病患者の血圧目標が130/80 mmHg未満であること、2型糖尿病ではeGFR 20 mL/min/1.73 m²以上でSGLT2阻害薬を推奨し忍容できれば透析開始まで継続すること、FLOW試験(3,533例)でセマグルチドが主要腎イベントを24%減らしたこと、ACE阻害薬・ARB・SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬の開始直後の30%未満のクレアチニン上昇は循環血漿量減少がなければ中止理由にしないことを確認した。閲覧 2026-08-25
  4. 4.KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease(KDIGO・2024)CKDをeGFRのG区分とアルブミン尿のA区分の組み合わせ(いわゆるヒートマップ)で層別し、両方を定量しないと治療方針が決められないこと、2型糖尿病合併CKDではRAS阻害薬とSGLT2阻害薬(eGFR 20以上)を土台に、血清Kが正常で最大耐用量のRAS阻害薬でもアルブミン尿(30 mg/g超)が残る例に非ステロイド型MRA(eGFR 25超。推奨3.8.1、2A=提案)を加え、メトホルミンとSGLT2阻害薬でも個別の血糖目標に届かない(またはそれらを使えない)例に長時間作用型GLP-1受容体作動薬を用いる(推奨3.9.1、1B。条件はアルブミン尿ではなく血糖目標の未達)という戦略を示すこと。閲覧 2026-09-24
  5. 5.Diabetic Neuropathy: A Position Statement by the American Diabetes Association(American Diabetes Association (Diabetes Care)・2017)心血管自律神経障害の診断に安静時頻脈(100/分超)と起立性低血圧(収縮期20 mmHg超または拡張期10 mmHg超の低下)を用いること、心血管自律神経障害が心血管死亡・不整脈・無痛性心筋虚血の独立した危険因子であること、消化管(胃不全麻痺・便秘・下痢・便失禁)・泌尿生殖器(膀胱機能障害、勃起障害は糖尿病男性で非糖尿病男性の3倍)・発汗異常が自律神経障害の主要な表現型であることを確認した。閲覧 2026-08-25
  6. 6.10. Cardiovascular Disease and Risk Management: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)40〜75歳でASCVDが無ければ中等度強度スタチン、高リスクなら高強度スタチンでLDL-Cを50%以上かつ70 mg/dL未満まで下げること、確立したASCVDの二次予防ではLDL-C 55 mg/dL未満を目標とすること、一次予防の低用量アスピリン(75〜162 mg/日)は心血管リスクが高い例に限り出血リスクを話し合ったうえで考慮するにとどまり(推奨10.36)、本文は70歳を超える人(糖尿病の有無を問わず)では害が利益を上回るようだと述べること、心血管・腎保護作用が示されたSGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬はHbA1cの値によらずリスク低減の基本治療要素であることを確認した。閲覧 2026-09-24