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Disease Atlas · 消化器 · 病態

胃不全麻痺

Gastroparesis

臓器系
消化器
科目
Internal MedicinePharmacology
トピック
内科学 G-01:食道・胃疾患薬理学 B24:制吐薬・消化管運動促進薬
鑑別疾患
機能性ディスペプシア
治療薬
メトクロプラミド
原因薬剤
モルヒネセマグルチドリラグルチド
症状
早期満腹感悪心嘔吐腹部膨満
元疾患
糖尿病性自律神経障害

🧠 全体像は「機械的ながないのに、胃がに空にならない」病態である。診断の骨格は除外+証明の2段階——①内視鏡・画像でを除外し、②4時間固形食で排出遅延をに証明する——であり、症状だけではと見分けがつかない。原因は糖尿病性が代表格として語られがちだが、実際には特発性が最も多く、術後(迷走神経損傷)・薬剤性(オピオイド、GLP-1受容体作動薬)が続く。治療の柱は少量頻回・低脂肪ので、薬物治療の主役であるは⚠️ のリスクから長期使用を避けるというが常につきまとう。

定義と診断の骨格

は、がないにもかかわらずが遅延し、、食後、悪心、嘔吐、上腹部痛を来す病態である1。定義の核は2つの要素に分解できる。

要素 確認方法
が無いこと または画像検査で腫瘤・狭窄・瘢痕による閉塞を除外する
に証明されていること 4時間固形食が標準検査。短時間の検査だけで除外しない1

⚠️ 症状だけで診断してはいけない。 症状の重症度は排出遅延の程度と必ずしも相関せず、検査で明らかな排出遅延があっても無症状の例がある一方、症状が強くても排出は正常という例もある2。だからこそ①②のな手順を踏む必要がある。

⚠️ の結果は検査条件に左右される。 高血糖、、オピオイド、などは結果に影響するため、可能な限り血糖を最適化し、これらの薬剤の影響を考慮したうえで判定する1

原因

「糖尿病性が最多」というイメージに反し、母集団全体で最も多いのは特発性である。 次いで糖尿病性、術後性、感染後性が続く2。ただし糖尿病性は最も研究され、機序が最もよく分かっている型であるため、教育上・臨床上の代表格として扱われることが多い。

分類 代表例
特発性 原因不明(頻度は最多)
代謝・内分泌 糖尿病(特に長期罹患・不良例)、
術後・神経損傷 、胃・食道手術
神経・結合組織疾患 パーキンソン病
薬剤性 オピオイド、GLP-1受容体作動薬(など)、
その他 感染後、放射線照射後

💡 糖尿病性の機序は、迷走神経障害と)の減少である。 生検では特発性・糖尿病性のいずれでもと腸管神経の減少がみられ、両者は病理学的にも重なる2。糖尿病ではは単独で起こるのではなく、心血管・泌尿生殖器・発汗異常など他の臓器にも及ぶの一部として現れることが多い。臓器横断的な全体像はに譲る。

診断の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='early satiety'>早期満腹感</span>・食後膨満・悪心・嘔吐"] --> B["内視鏡・画像で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mechanical obstruction'>機械的閉塞</span>を除外"]
    B --> C["4時間固形食<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric emptying'>胃排出</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='scintigraphy'>シンチグラフィ</span>"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='objective'>客観的</span>な排出遅延があるか"}
    D -->|"あり"| E["血糖・甲状腺・術後歴・薬剤歴を評価"]
    D -->|"なし"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional dyspepsia'>機能性ディスペプシア</span>など<br>他の機能性疾患を検討"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dietary therapy'>食事療法</span>+原因への対応"]

機能性ディスペプシアとの重なり

⚠️ 症状だけではを見分けられない。 ・食後膨満・悪心というは共通しており、多くの患者が両方の基準を同時に満たしうる2。両者を分けるのは検査の結果であり、症状の強さそのものではない——排出がに遅延していれば、遅延がなければ(などが主体の)として扱う。

症状の強さと排出遅延の程度は相関しない。 これは両者を隔てる線が「検査で引く線」であって「症状の重さで引く線」ではないことを意味する。ノートで扱う(PDS)はとの関連が強いとされるが、と診断するにはな排出遅延の証明が必須という一線が引かれている。

治療

  • が基本。 少量頻回、低脂肪・低不溶性繊維、の食事に切り替える。重症例ではを空腸へ投与する1
  • 原因への対応。 血糖を最適化し、可能ならオピオイド・GLP-1受容体作動薬など原因薬を減量・中止する。
  • ⚠️ 薬物治療の中心はだが、のリスクから最小・最短期間にとどめる。 FDAのに基づき、65歳未満の患者で総投与期間12週未満にとどめることが推奨される1
  • は利用可能な地域・制度に従う。はモチリン受容体刺激作用を利用するが、速やかな耐性化のため主に短期使用にとどめる。
  • は悪心を軽減するが排出そのものは改善しない。
  • 難治例では、栄養経路の変更、などを専門施設で検討する。をルーチンの治療にしない。

まとめ

  • は「がないのにに遅延している」病態で、診断は除外(内視鏡・画像)と証明(4時間固形食)の2段階で組み立てる。
  • 症状の強さは排出遅延の程度と相関せず、症状だけでと区別できない。両者を分けるのは検査結果である。
  • 頻度は特発性が最多で、糖尿病性・術後性・薬剤性(オピオイド、GLP-1受容体作動薬)が続く。
  • 糖尿病性は単独ではなく、心血管・泌尿生殖器・発汗異常にも及ぶの一部として現れることが多い。
  • 治療は少量頻回・が基本。は有効だがのリスクから最小限の使用にとどめる。

出典

  1. 1.ACG Clinical Guideline: Gastroparesis(American College of Gastroenterology (ACG)・2022)機械的閉塞のない固形食胃排出遅延という定義、糖尿病が代表的な原因の一つであること、診断は4時間固形食を用いた胃排出シンチグラフィが標準であること、治療は少量・低脂肪・小粒子食を基本とし、メトクロプラミドは遅発性ジスキネジアのリスクから65歳未満の患者で総投与期間12週未満にとどめることが推奨されることを確認した。閲覧 2026-08-12
  2. 2.Gastroparesis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)病因は特発性が最も多く、次いで糖尿病性・術後性・感染後性が多いこと、原因薬にオピオイド・GLP-1受容体作動薬が含まれること、多くの患者で機能性ディスペプシアと症状が重なり両者は臨床的に併存しうるため胃排出検査による鑑別が必要であること、症状は排出遅延の程度と必ずしも相関せず検査陽性でも無症状の例があること、糖尿病性・特発性ともに生検でCajal介在細胞と腸管神経の減少がみられることを、Introduction・Etiology・History and Physical・Pathophysiology・Histopathologyの各節で確認した。閲覧 2026-08-12