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Disease Atlas · 免疫・膠原病 · 疾患

全身性強皮症

Systemic sclerosis

別名
SSc強皮症全身性硬化症
臓器系
免疫・膠原病全身皮膚
科目
Internal MedicineDermatologyPathologyPathophysiology
トピック
内科学 R-12:全身性強皮症内科学 S-46:全身性自己免疫疾患:全身性強皮症・炎症性筋疾患・混合性結合組織病皮膚科 3-05:限局性強皮症と全身性強皮症病理学 A/40:シェーグレン症候群/強皮症(全身性硬化症)/結節性多発動脈炎病態生理学 I-33:SLE・全身性硬化症・シェーグレン症候群
鑑別疾患
過敏性肺炎・塵肺症混合性結合組織病特発性肺線維症
続発疾患
急性腎障害肺高血圧症小腸内細菌異常増殖
関連疾患
シェーグレン症候群関節リウマチ全身性エリテマトーデス皮膚筋炎・多発筋炎
治療薬
ニフェジピンシルデナフィルタダラフィルカプトプリルエナラプリルメトトレキサートニンテダニブ葉酸ミコフェノール酸モフェチルシクロホスファミドリツキシマブトシリズマブパントプラゾール(エソメプラゾール)メトクロプラミドボゼンタンイロプロストエポプロステノール
症状
毛細血管拡張レイノー現象
検査値
抗核抗体ナトリウム利尿ペプチド抗セントロメア抗体抗トポイソメラーゼI抗体抗RNAポリメラーゼIII抗体
スコア
ACR/EULAR分類基準
組織像
全身性強皮症の皮膚病変
適応薬
イロプロストニンテダニブ

🧠 全体像は、血管障害・自己免疫・線維化という3つの機序が互いを増幅しながら皮膚と内臓を硬化させていく疾患である。「皮膚が硬い」ことだけに注目すると、致死的な臓器病変()を見逃す。診療の骨格は、①皮膚硬化の分布で病型()をする、②自己抗体でのリスクを層別化する、③肺・腎・心・消化管を定期的にスクリーニングする、④臓器ごとに現行治療を選ぶ、の4段階である。なお「強皮症」という名前を共有するが、皮膚・皮下に限局し内臓病変を伴わない)はSScとは別疾患であり、本ノートはSScを主眼とする。

病態

による血管障害、自然免疫・獲得免疫の活性化、線維芽細胞の持続的活性化という3つの過程が相互に増幅し合い、皮膚・肺・消化管・腎・心筋にコラーゲンなどのが過剰に沈着する。(SLE)のような免疫複合体の臓器沈着は主要な機序ではなく、線維化そのものが臓器障害の本体になる点がSLEとの大きな違いである。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic predisposition'>遺伝素因</span>+環境因子(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='silica'>シリカ</span>曝露など)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular endothelial damage'>血管内皮障害</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasospasm'>血管攣縮</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='obliterative microangiopathy'>閉塞性微小血管症</span>"]
    C --> D["Raynaud現象・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='digital ulcer'>指尖潰瘍</span>・肺高血圧"]
    A --> E["自然・獲得免疫の活性化"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoantibody production'>自己抗体産生</span>(抗<span class='jp-term jp-term-diagram' title='centromere'>セントロメア</span>・抗<span class='jp-term jp-term-diagram' title='topoisomerase I'>トポイソメラーゼI</span>・抗<span class='jp-term jp-term-diagram' title='RNA polymerase III'>RNAポリメラーゼIII</span>)"]
    E --> G["TGF-β・PDGF・IL-13などのサイトカイン"]
    G --> H["線維芽細胞の持続的活性化"]
    H --> I["コラーゲン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular matrix'>細胞外基質</span>の過剰沈着"]
    I --> J["皮膚・肺・消化管・心臓・腎の線維化"]
    C --> J

💡 3つの機序は独立ではなく、血管傷害が線維化を促進し、線維化がを悪化させるという悪循環を形成する。したがって・免疫は、それぞれ別の臓器・別の段階を狙う治療として併用される。

限局性強皮症との違い

項目
皮膚・皮下組織に限局した線維化 ・自己免疫・皮膚と内臓の線維化
Raynaud現象 通常なし 高頻度で、しばしば初発症状
診断特異的自己抗体 なし 、抗(Scl-70)抗体、など
内臓病変 原則として伴わない 肺・消化管・腎・心臓など、生命予後を左右する
代表的病型 局面型、線状型、汎発型、深在型

⚠️ 「強皮症」という診断名だけでSSc型の内臓スクリーニング(HRCT、心エコー、腎機能など)を開始しない。であれば、通常はこれらの臓器評価は不要である。

病型分類

病型 皮膚硬化の範囲 内臓病変の傾向 代表的自己抗体
(limited cutaneous SSc) 肘・膝より末梢と顔面に限られる 長い経過を経てからの、消化管病変、
SSc(diffuse cutaneous SSc) 近位四肢・体幹にも及び、進行が速い 早期からの、心筋病変 (Scl-70)抗体、
SSc(SSc sine scleroderma) 明らかな皮膚硬化を欠く 自己抗体・血管所見・内臓所見でSScと認識する SSc特異抗体のいずれか

CREST症候群はの臨床像を表す頭字語で、Calcinosis)、Raynaud現象(Raynaud’s phenomenon)、Esophageal dysmotility)、Sclerodactyly)、Telangiectasia)から成る。

⭐ 病型は皮膚硬化が生じてから何年経過しているかではなく、診断された時点での皮膚硬化の分布で分類する。は診断早期(発症から数年以内)にILD・腎クリーゼのリスクが集中するため、病型判定そのものが臓器スクリーニングのを決める。

自己抗体

自己抗体 主な臨床的関連
に多い。緩徐な経過、長期経過後のPAHリスク
(Scl-70)抗体 に多い。ILD、皮膚硬化の進行と関連
急速に進行する皮膚硬化、、発症時期に近接した悪性腫瘍との関連が指摘される

は大多数の患者で陽性となるが、感度が高く特異度は低いため単独では診断根拠にならない。抗体は特定の割合を機械的に暗記する対象ではなく、臨床像と組み合わせてどの臓器を重点的に追跡するかを決めるための層別化ツールとして使う。SLEと異なり、これらの自己抗体自体が組織に沈着して直接障害を起こすわけではない。

臨床像(臓器別)

血管・皮膚

Raynaud現象は寒冷・情動刺激で指が白色(虚血)→青紫色(脱酸素)→赤色(再灌流)と変化する現象で、SScでは非常に高頻度にみられ、しばしば皮膚硬化に先行する初発症状となる。三相すべてが毎回そろうとは限らない。

経過 所見
早期 手指のこわばり・浮腫(puffy fingers)
皮膚の硬化・萎縮、(開口制限)
血管性合併症 毛細血管の巨大化・脱落・出血、

は、巨大血管ループ・血管脱落・出血といったSSc型を捉える検査として診断・経過観察の両方に有用である。

呼吸器

は、SScにおける主要な死亡原因である。陽性ではILDが、陽性では長期経過後のPAHが、それぞれ相対的に多い。

は「加齢のせい」「体力低下」で済ませず、ILDとPAHの両方を疑って評価する。両者は合併することもあり、片方を確認できても他方の評価を省略しない。

腎(強皮症腎クリーゼ)

は、急激な高血圧、急速に進行するを来す救急疾患である。陽性・の短い患者で頻度が高い。

⚠️ 高用量の全身性グルココルチコイドはの誘因として知られており、SScでグルココルチコイドを使う際は必ず血圧を厳密に監視する。

消化管

食道下部2/3の化により運動低下が生じ、、嚥下障害、のリスクが高まる。(GAVE、いわゆるwatermelon stomach)は消化管出血の原因になり得る。小腸・大腸の運動低下は、吸収不良、を来す。

心臓・筋骨格

心筋の線維化は不整脈、、心不全の基盤となる。関節痛、がみられ、関節リウマチとのオーバーラップを合併することもある。

診断

典型的にはRaynaud現象と・皮膚硬化を契機に疑い、ANAとSSc特異抗体、で裏付ける。診断そのものは臨床的に行い、以下の分類基準は臨床研究・臨床診断の補助として用いる。

2013 ACR/EULAR分類基準

両手のMCP関節より近位に及ぶ皮膚硬化があれば、それだけで単独でSScに分類できる。それ以外は下記項目をし、合計9点以上でSScに分類する。

項目 点数
手指の皮膚硬化(MCPより近位、単独で分類可) 9
手指の腫脹/MCPより遠位の皮膚硬化 2/4
病変( 2/3
2
2
または 2
Raynaud現象 3
SSc関連自己抗体(抗・抗・抗、いずれか) 3

⚠️ 分類基準はあくまで研究用の分類ツールであり、早期例やスコア未満の非典型例を機械的に除外しない。臨床的にSScが疑われる場合は専門的評価を続ける。

flowchart TD
    A["Raynaud現象+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='puffy fingers'>手指腫脹</span>・皮膚硬化"] --> B["ANA+SSc特異抗体を測定"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nailfold capillaroscopy'>爪郭毛細血管鏡</span>でSSc型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microangiopathy'>微小血管障害</span>を確認"]
    C --> D["2013 <span class='jp-term jp-term-diagram' title='ACR/EULAR classification criteria'>ACR/EULAR分類基準</span>で臨床診断を補強"]
    D --> E["病型(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='limited cutaneous SSc'>限局皮膚型</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diffuse cutaneous type'>びまん皮膚型</span>)を確定"]
    E --> F["HRCT・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary function test'>呼吸機能検査</span>(FVC・DLCO)でILDを評価"]
    E --> G["心エコー・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='N-terminal pro-B-type natriuretic peptide'>NT-proBNP</span>で肺高血圧を評価し、疑えば右心カテーテル"]
    E --> H["血圧・血清Crを定期測定し腎クリーゼを監視"]
    F --> I["臓器別治療へ"]
    G --> I
    H --> I

定期的な臓器スクリーニング

対象 内容
診断時に(FVC・DLCO)とHRCTを行い、以降は症状・重症度に応じて定期的に反復する
心血管 心エコー・・呼吸機能を定期評価し、PAHを疑えば右心カテーテルで確定する
血圧測定と腎機能を定期的に追跡し、急な頭痛・・Cr上昇を見逃さない
皮膚・血管 でSSc型を評価する

治療(臓器別)

SScを一剤で治す治療はなく、臓器ごとに現行の第一選択・第二選択を組み合わせる。

病態 現行の主な選択肢
Raynaud現象 保温・禁煙・の回避を土台に、などのを第一選択とする。難治例は)や重症例で静注を追加する
創傷・感染管理に加え、や静注で治癒を促し、など)は新規潰瘍の発生予防に用いる
皮膚線維化 第一選択はメトトレキサート葉酸併用)、リツキシマブ。早期の炎症性ではの追加を検討する
SSc関連(SSc-ILD) 第一選択はリツキシマブの治療薬としても承認されたは単独またはと併用でき、も選択肢に入る
新規診断例ではの併用を第一選択とし、進行例(III〜IV)では静注などのを追加する。Ca拮抗薬はが陽性の一部の患者のみに限る
診断次第、など短時間作用型ACE阻害薬から直ちに開始し、血圧に応じて速やかに増量する。血圧が正常でも腎クリーゼが強く疑われれば開始する。長期管理にはなども用いる
障害 などのなどの。SIBOには周期的・交替性の抗菌薬投与を検討する
関節痛・筋骨格症状 メトトレキサートを中心に、NSAIDsは対症療法として用いるがはない

⚠️ へのACE阻害薬の予防投与は、腎クリーゼ発症後の予後を悪化させ得るとする観察研究があり、一律には行わない。ACE阻害薬は腎クリーゼを発症してから直ちに開始する薬である。

⚠️ SSc関連PAHへ抗凝固薬を一律に投与しない。Ca拮抗薬もPAH全般ではなく、血管反応性が確認された限られた患者にのみ用いる。

flowchart TD
    A["SSc診断・病型確定"] --> B["Raynaud現象・皮膚硬化の重症度を評価"]
    B --> C["肺・心・腎・消化管を定期スクリーニング"]
    C --> D{"ILD・PAH・腎クリーゼのいずれかを認めるか"}
    D -->|"はい"| E["臓器別治療を直ちに開始"]
    D -->|"いいえ"| F["Raynaud・皮膚・消化管症状の対症的管理を継続"]
    E --> G["1〜数か月ごとに臓器機能を再評価"]
    F --> G
    G --> H["治療反応に応じて薬剤を調整・追加"]

まとめ

  • SScは血管障害・自己免疫・線維化の3機序が相互に増幅する全身性疾患であり、皮膚硬化のみに注目すると致死的な内臓病変を見逃す。)はSScとは別疾患で、内臓病変を伴わない。
  • 病型はに分け、・抗(Scl-70)抗体・に用いる。
  • 2013 (9点以上)は臨床診断を補助するツールであり、基準未満でも臨床的にSScを否定しない。
  • 肺(ILD・PAH)と腎()は主要な死亡原因であり、診断時から定期的にスクリーニングする。
  • 治療は臓器別に選ぶ:Raynaud現象には、皮膚硬化・ILDにはメトトレキサート//リツキシマブを中心とした免疫、PAHにはの併用、にはACE阻害薬の即時開始が骨格となる。
  • は腎クリーゼの誘因となり得るため慎重に用い、ACE阻害薬の予防投与は行わない。