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Disease Atlas · 呼吸器 · 疾患

特発性肺線維症

Idiopathic pulmonary fibrosis

別名
IPF
臓器系
呼吸器
科目
PulmonologyInternal MedicinePathologyPathophysiology
トピック
呼吸器内科 38:特発性肺線維症呼吸器内科 37:間質性肺疾患の病理と診断内科学 S-05:間質性肺疾患病理学 C/21:慢性間質性(拘束性)肺疾患病態生理学 II-14:COPDと肺線維症の呼吸力学・血液ガス
上位概念
間質性肺疾患
鑑別疾患
サルコイドーシス過敏性肺炎・塵肺症器質化肺炎全身性強皮症慢性閉塞性肺疾患
続発疾患
肺癌肺高血圧症
関連疾患
皮膚筋炎・多発筋炎
治療薬
ニンテダニブピルフェニドン
症状
チアノーゼ乾性咳嗽倦怠感呼吸困難末梢浮腫労作時呼吸困難
検査値
低酸素血症スパイロメトリー体プレチスモグラフィ肺拡散能
画像所見
すりガラス影蜂巣肺網状影
スコア
GAP index
適応薬
トレプロスチニルニンテダニブピルフェニドン
禁忌薬
アンブリセンタンゲフィチニブブレオマイシン

🧠 全体像は、原因不明の慢性進行性線維化性で、病理・画像上のパターンを特徴とする。診断は「既知原因の除外」+「HRCTでのUIPパターン同定」+「」の三本柱で行い、治療はで機能低下の速度を緩めながら、支持療法と早期からの評価を並行する“治すのではなく進行を遅らせる”疾患である。

疫学・危険因子

  • 主に50歳以上の成人に生じ、男性に多い
  • 斑状・両側性に進行する不可逆的な肺間質の線維化をきたす、原因不明の慢性線維化性の代表疾患である。
危険因子群 代表例 備考
環境・ 喫煙、金属・木材曝露 量がリスクに関与
消化器要因 微小誤嚥が肺胞上皮傷害の一因として検討される
感染関連 ウイルス曝露 慢性ウイルス感染が増悪や発症に関与する可能性が研究されている
MUC5Bプロモーター多型、関連遺伝子変異 家族性の発症素因となりうるが、単独で診断するものではない

💡 は「既知原因のILD」を除外して初めて診断できる病名であり、関連ILD・・薬剤性ILD・などとの鑑別が診断の出発点になる(の病理と診断)。

病態

発症機序

反復する肺胞上皮傷害に対して創傷治癒が異常化し、線維化が進行すると考えられている。

flowchart TD
  A["反復する肺胞上皮傷害<br>喫煙・GERDによる微小誤嚥・ウイルス曝露などが関与<br>MUC5B多型やテロメア関連遺伝子異常が素因となりうる"] --> B["異常な創傷治癒"]
  B --> C["線維芽細胞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibroblastic focus'>筋線維芽細胞巣</span>の形成"]
  C --> D["コラーゲンなど<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular matrix'>細胞外基質</span>の過剰沈着"]
  D --> E["肺構築破壊・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Honeycomb lung'>蜂巣肺</span>"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='restrictive ventilatory impairment'>拘束性換気障害</span>・DLCO低下・低酸素血症"]

⭐ 線維化は不可逆的な病理変化である点が、感染性・薬剤性など原因除去や治療で改善しうる他のILDと本質的に異なる。

呼吸生理への影響

  • が低下し、↓・FVC↓、FEV1は保たれるためFEV1/FVC比はほぼ正常〜上昇)を呈する。これはCOPDのような(FEV1/FVC比低下)と対照的である(COPDと・血液ガス)。
  • 肺胞壁の肥厚・破壊によりが低下する。
  • O₂はCO₂よりの影響を受けやすいため、安静時が保たれていても運動時に拡散を使い切り脱飽和しやすい。そのためなど運動負荷下でのSpO₂評価が重要になる。
  • な低酸素血症は産生を介してを、また肺の破壊はを引き起こしうる。COPDと異なりは必ずしも予後良好のではなく、背景にある低酸素血症・の重症度として評価する。

臨床像

  • に進行する感・易疲労
  • 両側優位の(いわゆる
  • 進行例ではチアノーゼ、
  • 初期の診察所見は正常なこともあり、症状が非特異的なため診断まで時間を要することが多い

⚠️ 呼吸困難・咳嗽を訴える患者では、薬剤歴・職業歴・住居環境(鳥・カビ)・症状を同時に聴取し、既知原因ILDの手がかりを見逃さないことが重要である。

診断

診断の基本方針

  1. 薬剤性、環境・など既知原因を除外する。
  2. HRCTでUIPパターンを評価する。
  3. 臨床像・画像・(必要時)病理所見をで統合する。

では、FVC低下に加えで確認するTLC低下を伴うと、DLCO低下を認める。FEV1/FVCは正常〜上昇し、とは逆のパターンを示す。

HRCTパターン分類

現行の//JRS/ALATガイドラインでは、HRCT所見を以下の4カテゴリーに分類する。

分類 主な特徴
UIP pattern 部・優位の不均一な分布、は伴っても伴わなくてもよい
probable UIP 部・優位の不均一なを認めるが、を欠く。軽度のは伴いうる
indeterminate for UIP 線維化はあるが、UIP・非UIPいずれとも判定しがたい所見
を示唆する所見 上肺優位、周囲分布、広範な、多発、嚢胞、など

臨床的に典型的な文脈でUIP patternを認めれば、外科的を経ずにの臨床診断が可能である。probable UIPも、の懸念が低ければで生検なしに診断できる場合がある。indeterminateやが疑われる例を含め、生検で得られる情報が診断・を変えるかを利益と危険で個別に判断する。

気管支鏡・生検の位置づけ

  • は好酸球性肺疾患・感染・・薬剤性ILDなどの鑑別に有用だが、の異常だけでを確定・除外しない。
  • は感度・特異度が確立されておらずルーチンには推奨されないが、は、経験ある施設でと診断的価値を比較して選択する。
  • 全ILD患者に気管支鏡・生検を一律施行するものではない。

診断アルゴリズム

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effort dyspnea'>労作時呼吸困難</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dry cough'>乾性咳嗽</span><br>両側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lower lung field'>下肺野</span>の吸気性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crackles (lung); crepitus (joint)'>捻髪音</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='digital clubbing'>ばち指</span>"] --> B["薬剤・職業/環境曝露・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='connective tissue disease (collagen vascular disease)'>膠原病</span>歴を聴取し<br>既知原因のILDを除外"]
  B --> C["HRCTでパターンを分類"]
  C --> D{"UIP pattern?"}
  D -->|"はい"| E["MDDで臨床診断(生検不要)"]
  D -->|"probable UIP/indeterminate"| F["MDDで生検なしに診断できるか<br>BAL・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cryobiopsy'>凍結生検</span>・外科的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lung biopsy'>肺生検</span>が必要かを判断"]
  F --> E
  D -->|"矛盾する所見あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alternative diagnosis'>代替診断</span>を検討"]
  E --> H["GAP indexで重症度評価"]
  H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antifibrotic therapy'>抗線維化薬</span>・支持療法・<br>移植適応を検討"]

重症度評価・予後

進行速度はが大きく、緩徐進行の経過中にを起こすこともある。診断後生存3〜5年としばしば言われるが、これは歴史的な集団データであり、個々の患者の予後をに予測するものではない。

GAP index(Gender・Age・Physiology)は、性別・年齢・肺機能()から算出する重症度・死亡リスクの層別化指標である。

0点 1点 2点 3点
性別 女性 男性
年齢 ≤60歳 61〜65歳 >65歳
>75% 50〜75% <50%
>55% 36〜55% ≤35% 測定不能

合計0〜8点をI(0〜3点)、II(4〜5点)、III(6〜8点)に分け、が上がるほど1〜3年死亡率が高くなる。診断時だけでなく経過中の再評価にも使える点が実用的である。

継時評価にはFVC・DLCOのほか、症状、運動時脱飽和、、画像所見、の有無を組み合わせる。

治療

抗線維化薬

薬剤 作用機序 主な有害事象
TGF-β関連の線維化・コラーゲン産生を抑制 悪心、食欲低下、発疹、、肝障害
VEGF・PDGF・FGF受容体などのチロシンキナーゼを阻害 下痢、悪心、肝障害、出血リスク

両薬ともFVC低下速度を遅らせ、疾患進行を抑制するが、既存の線維化を改善する治癒薬ではない以外の線維化性ILDでも、代替説明のない症状悪化・画像上の線維化進行・肺機能低下のいずれか複数を1年以内に満たすと判断される例では、原因治療・を最適化してもなお進行する場合にの使用が検討される()。

避けるべき治療・見直された治療

  • ⚠️ への(±)による慢性免疫抑制の併用は、無治療群より有害であることが示されており、標準治療ではない。
  • ⚠️ 従来はに対する制酸療法(など)や抗逆流手術がの進行抑制に有用とする条件付き推奨があったが、現行ガイドラインではルーチンでの・抗逆流手術は条件付きで推奨しない方向へ見直されている。GERDの評価自体は併存症として引き続き重要である。
  • 一方、「ステロイドは全てのILDで禁忌」ではない。時のステロイドは限定的な根拠のもとで個別に用いられ、関連ILD・など病型が異なればステロイド/免疫調節薬が有効なこともある。病型を確定したうえで使い分ける。

急性増悪

  • 1か月以内の急性の呼吸困難増悪で、感染、心不全、、気胸などの代替説明を除外し、背景のUIPパターンに新たな両側性のまたはが重畳することで診断する。
  • 関連死の約半数に先行するとされ、予測・予防が難しく死亡率が高い。
  • ステロイドが現在も治療の中心だが、用量・方法には議論があり、ステロイド+併用はかえって予後を悪化させるため避ける。
  • )はの発生自体を減らす可能性が報告されている。

非薬物療法・併存症管理

  • 禁煙、ワクチン接種、
  • 低酸素血症への、咳・への支持療法
  • 、GERD、などの併存症評価と個別管理

肺移植

年齢だけを理由に紹介を遅らせず、適格性があり進行リスクの高い患者は診断早期から施設へ紹介する。

関連疾患・合併症

  • :喫煙歴のある患者では気腫とが併存する(combined pulmonary fibrosis and emphysema: CPFE)を呈することがあり、は保たれつつDLCOが著明に低下し、のリスクが高い点に注意する。
  • 肺癌は肺癌の危険因子であり、既存の線維化のため画像診断・生検・手術・放射線療法のいずれもリスク評価が複雑になる。
  • :慢性低酸素血症と肺の破壊により生じ、予後を悪化させる主要な合併症である。

まとめ

  • は既知原因を除外したうえでUIPパターンを同定し、MDDで統合して診断する原因不明の慢性進行性線維化性である。
  • HRCTパターンはUIP/probable UIP/indeterminate for UIP/示唆の4分類で評価し、UIPなら生検なしで、が適切なprobable UIPもにより生検なしで診断できる場合がある。
  • GAP indexで重症度・死亡リスクを層別化できるが、固定された肺機能値や「3〜5年」という数字だけで個々の患者を診断・予測しない。
  • )は進行を遅らせるが治癒薬ではなく、支持療法・併存症管理・早期の移植評価を並行する。
  • 慢性期の免疫抑制併用とルーチンの・抗逆流手術は現行ガイドラインで推奨されない一方、や病型の異なるILDではステロイド・免疫調節薬の位置づけが異なる。