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Disease Atlas · 呼吸器 · 疾患

肺高血圧症

Pulmonary hypertension

別名
PH肺高血圧
臓器系
呼吸器循環器
科目
PulmonologyInternal MedicinePathology
トピック
呼吸器内科 42:肺高血圧症内科学 S-06:原発性・続発性肺高血圧症病理学 C/23:肺高血圧症内科学 L-10:肺塞栓症と肺性心
続発疾患
肺動脈瘤
治療薬
シルデナフィルタダラフィルニフェジピンワルファリンフロセミドボゼンタンアンブリセンタンマシテンタンリオシグアトエポプロステノールイロプロストトレプロスチニルセレキシパグ
症状
胸痛倦怠感呼吸困難失神末梢浮腫労作時呼吸困難肝頸静脈逆流
検査値
ナトリウム利尿ペプチド
組織像
右心室肥大
下位分類
慢性血栓塞栓性肺高血圧症
元疾患
鎌状赤血球症胎便吸引症候群
原因となる疾患
HIV感染症・AIDS肝硬変間質性肺疾患急性呼吸窮迫症候群深部静脈血栓症進行性肺線維症先天性心疾患(非チアノーゼ性・チアノーゼ性)全身性強皮症僧帽弁狭窄症中枢性睡眠時無呼吸・肥満低換気症候群動脈管開存症特発性肺線維症肺血栓塞栓症閉塞性睡眠時無呼吸慢性閉塞性肺疾患未熟児合併症(気管支肺異形成症・未熟児網膜症・脳室内出血・新生児遷延性肺高血圧症)
適応薬
アンブリセンタンイロプロストエポプロステノールセレキシパグトレプロスチニルマシテンタンリオシグアト
禁忌薬
セリプロロールフェンフルラミン

🧠 全体像(PH)は「病名」ではなく「血行動態の状態」である。>20 mmHgを満たせば診断されるが、そこで思考を止めてはいけない。診療の骨格は、①で前毛細血管性か後毛細血管性かを区別する、②原因をWHO第1〜5群に分類する、③心エコーでスクリーニングし右心カテーテルで確定・分類する、④原因群ごとに全く異なる治療を選ぶ、の4段階である。治療薬を群を確認せずに経験的へ使うと、左心疾患や肺疾患由来のPHでは無効・有害になり得る。

病態・分類

血行動態定義

正常なは体循環圧の約1/8程度の低抵抗系である。古典的な病理学の教え方では「が体循環圧の1/4以上になったもの」を肺高血圧としてきたが、現行の血行動態的定義は比率ではなく絶対値で行う。

病型 mPAP PAWP PVR
PH(肺高血圧) >20 mmHg 問わない 問わない
>20 mmHg ≤15 mmHg >2 WU
孤立性 >20 mmHg >15 mmHg ≤2 WU
後・ >20 mmHg >15 mmHg >2 WU
PVR=mPAPPAWP心拍出量()\mathrm{PVR}=\frac{\mathrm{mPAP}-\mathrm{PAWP}}{\mathrm{心拍出量}}\quad(\text{})

PAWPは先端のバルーンを小肺動脈枝でさせて測定し、左房圧を近似する。⚠️ 旧来のmPAP≥25 mmHgという閾値やPVRを収縮期から求める式は現在使用しない。の定義には必ずPVR>2が加わる点が2022年のガイドライン改訂点であり、単にmPAP>20 mmHgを満たすだけではとは言えない。

WHO臨床分類(第1〜5群)

病態 代表的な原因
第1群:PAH 肺小動脈自体の閉塞性リモデリング 特発性、遺伝性(BMPR2など)、薬物・毒物誘発、などの結合組織病、HIV感染症、門脈圧亢進(肝硬変)、
第2群:左心疾患関連PH 左房圧上昇の逆行性伝播(後毛細血管性) (HFrEF/)、弁膜症、狭窄
第3群:肺疾患・低酸素関連PH 肺胞血管収縮+肺の破壊 などの換気障害、低換気症候群、高地
第4群:肺動脈閉塞性PH 器質化血栓・腫瘍・炎症による肺動脈内腔閉塞 が中心。、動脈炎、先天性など
第5群:機序不明・PH 複数機序が関与 などの全身性疾患、代謝疾患、

⭐ 頻度としては第2群(左心疾患関連)が圧倒的に多く、第1・4・5群は相対的に稀である。「PH=PAH」ではなく、PHの大半はPAH以外の群に属する。

💡 かつては「一次性(特発性)」と「二次性」ので教えられていた。一次性肺高血圧は現行分類の第1群(特発性・遺伝性PAH)に相当し、稀でであり、性または常染色体優性の家族性として生じる。(COPD・、反復性肺塞栓、などの左心疾患、先天性左→右シャントなど)は現行分類の第2〜4群に分散する、というのが対応関係である。

発生機序

肺小動脈の・血管収縮・内膜/中膜肥厚・(plexiform lesion)などにより内腔が狭まり、PVRが上昇する。右室は初め肥大で代償するが、やがて拡張し右心不全へ進む。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮傷害</span>(特発性:BMPR2変異・5-HTT多型/続発性:基礎疾患による機械的・生化学的傷害)"] --> B["血管拡張物質の減少+血管収縮物質・サイトカイン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth factor'>増殖因子</span>の増加"]
    B --> C["血管収縮・内膜/中膜肥厚・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='smooth muscle proliferation'>平滑筋増殖</span>"]
    C --> D["特発性PHでは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plexiform lesion'>叢状病変</span>(拡張した薄壁小動脈内の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary network'>毛細血管網</span>)"]
    C --> E["PVR上昇"]
    D --> E
    E --> F["右室<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afterload'>後負荷</span>上昇"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right ventricular hypertrophy'>右室肥大</span>(代償)"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right ventricular dilatation'>右室拡張</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tricuspid regurgitation'>三尖弁逆流</span>"]
    H --> I["右心不全・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cor pulmonale'>肺性心</span>・心拍出量低下"]

💡 BMPR2はTGF-βスーパーファミリーのをコードし、通常は・内皮の増殖を抑制している。この機能喪失変異により増殖抑制が外れ、内皮・平滑筋が異常増殖する。これが特発性・遺伝性PAH(第1群)の中核機序であり、Ca拮抗薬が効くのはこの群でも成分(急性肺血管反応性)が残っている一部の患者に限られる。

臨床像

初期は、胸痛、失神など非特異的な症状にとどまり、見逃されやすい。進行すると右心不全所見(、右室性III音、、腹水、)が加わる。身体所見としてはII音肺動脈成分の亢進、右室拍動、雑音も特徴的である。

⭐ 特発性PAH(かつての一次性肺高血圧)は若年・女性に多く発症し、治療が確立する以前は失神・呼吸困難で発症して2〜5年以内に右心不全で死亡する予後不良な疾患だった。続発性PH(第2〜5群)はあらゆる年齢で発症し、臨床像は基礎疾患を反映する。

⚠️ 心疾患の診療で原因不明のPHを認めた場合や、肺疾患の診療で肺病変の程度に不釣合いなPHを認めた場合は、専門施設への紹介を検討する。を「加齢」「体力低下」で片付けず、基礎疾患のスクリーニングを進める。

肺性心

は、左心疾患ではなく肺・肺血管・胸郭疾患による肺高血圧に伴う右室の構造・機能異常である。慢性肺疾患(COPD、、睡眠時無呼吸)、肺血管疾患(PAH、CTEPH)、胸郭・換気障害(高度肥満低換気、)が原因となる。心エコーで右室と推定を評価し、確定・分類にはを用いる。治療は原因疾患・低酸素・・慢性血栓塞栓などを標的とし、うっ血には慎重になどの利尿薬を用いる。

診断

典型的には原因不明の・失神を契機に疑い、心電図・胸部画像・BNP・肺・心エコーでPH確率を推定し、で確定・血行動態分類を行う。

検査 主な役割
心電図 、右・負荷所見
胸部X線 中枢肺動脈の拡大、右
肺機能・DLCO 第3群(肺疾患)の評価、低DLCOの検出
CT 肺実質・肺動脈・左心・縦隔の評価
換気血流(V/Q) 多区域の灌流欠損からCTEPH(第4群)をスクリーニング。正常であればCTEPHをほぼ除外できる
心エコー 右室拡大・肥大・機能、、心室中隔の)、推定
PHの確定診断、mPAP・PAWP・心拍出量・PVRの実測、血行動態分類

💡 心エコーはPH確率を推定し右心を評価する優れただが、を確定する検査ではない。確定診断と血行動態分類(前毛細血管性か後毛細血管性か、PVRはどの程度か)は必ず右心カテーテルで行う。RHCの心拍出量は(冷却生食を注入した後の血液温度変化から算出)で求める。

flowchart TD
    A["原因不明の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effort dyspnea'>労作時呼吸困難</span>・易疲労・失神"] --> B["心電図・胸部画像・BNP・肺<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional test'>機能検査</span>・心エコーでPH確率を推定"]
    B --> C{"PH確率は中〜高いか"}
    C -->|"低い"| D["他の原因を検索"]
    C -->|"中〜高"| E["左心疾患・肺疾患を評価し、V/Q<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scintigraphy'>シンチグラフィ</span>で第4群CTEPHを検索"]
    E --> F["PH専門施設で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right heart catheterization'>右心カテーテル検査</span>"]
    F --> G["mPAP・PAWP・PVRを実測し血行動態分類"]
    G --> H["WHO第1〜5群のいずれかに分類"]
    H --> I["群別に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]

⚠️ 群分類が確定する前に、肺高血圧治療薬(PAH薬)を経験的に開始しない。第2・3群のPHにPAH薬を無批判に転用すると、無効なだけでなく肺水腫の悪化などで有害となり得る。

治療

PHを一剤で治す薬はなく、WHO群ごとに全く異なる治療原則を適用する。

治療原則
第1群:PAH 専門施設で(WHO-FC)・・BNP/などからリスクを反復評価し、に応じて薬物療法を選択する
第2群:左心疾患関連PH 心不全・弁膜症など基礎疾患を最適治療する。PAH薬をルーチンに用いない
第3群:肺疾患・低酸素関連PH 基礎肺疾患・低酸素・を治療し、適応があれば・在宅NIV・移植評価を行う。PH-ILDでは選択例で吸入を検討できる
第4群:CTEPH 生涯抗凝固を基本とし、による根治可能性を専門チームで評価する。手術不能・残存例ではを検討する
第5群:機序不明・ 機序に応じて原疾患を個別に治療する

第1群PAHの薬物療法

治療経路 代表薬 要点
血管経路を阻害する
NO–cGMP経路 )、 は併用しない
経路 静注、経口(受容体作動薬) 高リスク例で非(特に)を組み込む
Ca拮抗薬 など 右心カテーテル時の陽性の、特発性・遺伝性・薬物誘発性PAHの一部にのみ用いる

多くの低〜例ではERA+などの初期併用療法を第一選択とし、高リスク例では静注を含む治療を追加する。リスク評価は診断時には低・中・高の3層モデル、経過観察時には・BNP/などに基づく低・中低・中高・高の4層モデルを用いる。

⚠️ Ca拮抗薬はPAH全般に効くわけではない。急性陰性の患者や、他のWHO群のPHに投与しても効果がなく、むしろ全身性低血圧や右心不全の悪化を招き得る。

⚠️ 静注は半減期が極めて短く、とポンプによるを要する。ライン感染、血栓、ポンプ故障、カテーテルのによる投与の急な中断の肺高血圧・右心不全・死亡に直結するため、緊急事態として扱う。

⚠️ 第3群(特になどのILD)に対してを使用しない。かつて検討されたが、悪化・入院増加が示され禁忌/非推奨となっている。

第4群CTEPHの抗凝固と外科治療

CTEPHの多くは下肢・骨盤のに由来する反復性・遷延性のから生じる。CTEPHでは生涯抗凝固が治療の土台であり、2022年のガイドラインではを積極的に推奨するだけの根拠がまだ乏しく、2〜3を目標とするワルファリンなどのが標準治療とされる。抗凝固と並行して、専門チームがによる外科的根治の可否を評価する。手術不能例や術後残存・再発例では、を検討する。

flowchart TD
    A["RHCでPH確定・WHO群を分類"] --> B{"WHO群は?"}
    B -->|"第1群 PAH"| C["専門施設で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='risk stratification'>リスク層別化</span>"]
    C --> D["低〜<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medium risk'>中リスク</span>:ERA+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PDE5 inhibitors'>PDE5阻害薬</span>などの初期併用"]
    C --> E["高リスク:静注<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prostacyclin analog'>プロスタサイクリン系薬</span>を追加"]
    C --> F["急性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasoreactivity testing'>血管反応性試験</span>陽性の一部のみCa拮抗薬"]
    B -->|"第2群 左心疾患"| G["心不全・弁膜症の最適治療。PAH薬は用いない"]
    B -->|"第3群 肺疾患・低酸素"| H["基礎肺疾患・低酸素・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sleep-disordered breathing'>睡眠呼吸障害</span>を治療。ILDに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ambrisentan'>アンブリセンタン</span>禁忌"]
    B -->|"第4群 CTEPH"| I["生涯抗凝固(ワルファリン標準)"]
    I --> J["PEAで根治可能性を評価"]
    J --> K["手術不能・残存例はBPAまたは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='riociguat'>リオシグアト</span>"]
    B -->|"第5群 不明・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multifactorial (polygenic)'>多因子性</span>"| L["原疾患を個別に治療"]
    D --> M["定期的に症状・BNP・6分間歩行・血行動態を再評価"]
    E --> M
    G --> M
    H --> M
    K --> M
    L --> M

まとめ

  • PHは右心カテーテルでmPAP >20 mmHgと定義し、はこれに加えてPAWP ≤15 mmHg・PVR >2を満たす。旧来のmPAP≥25 mmHgという閾値は用いない。
  • 原因はWHO第1群(PAH)〜第5群(機序不明・)に分類し、頻度は第2群(左心疾患関連)が最多で第1・4・5群は相対的に稀である。
  • 心エコーはスクリーニング、右心カテーテルは確定・血行動態分類に用いる。CTEPHの検索にはが重要で、正常ならほぼ除外できる。
  • 群分類が確定する前にPAH治療薬を経験的に開始しない。第2・3群にERA・を無批判に転用しない。
  • 第1群PAHは(診断時3層・経過観察時4層モデル)に基づきERA+の初期併用を中心に、高リスク例では静注を追加する。Ca拮抗薬は急性陽性の一部にのみ用いる。
  • 第3群のILDには禁忌/非推奨である。
  • 第4群CTEPHは生涯抗凝固(ワルファリンが標準)に加え、PEAによる根治可能性を必ず評価し、手術不能・残存例ではBPAやを検討する。
  • 特発性PAH(旧・一次性肺高血圧)は若年女性に多く、無治療では2〜5年以内に右心不全で死亡し得る予後不良な疾患である。