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Symptoms · Published

肝頸静脈逆流

Hepatojugular reflux

別名
腹部頸静脈逆流HJR
臓器系
循環器
科目
PathophysiologyCardiology
トピック
病態生理学 1-3:心不全の原因と症状循環器内科 A-06:急性心不全・心原性ショック―病因、症状、診断病態生理学 P-2-24:循環性ショック 症例3
関連疾患
急性冠症候群急性心膜炎拘束型心筋症肺高血圧症慢性心不全

🧠 全体像は症状ではなく、右室が静脈還流の急な増加をどれだけ受け止められるかを見る誘発試験である。腹部を圧迫すること自体に意味はなく、増えた静脈血を右室が飲み込めなければが上がったまま下がらない——見ているのはそのものではなく右室のである。

定義と用語の整理

」と「」は同じ手技を指す同義語である。もともと肝臓の上を圧迫する想定でされたが、標準化された手技では正中腹部を圧迫すれば十分であることが示されており1、肝臓を狙って圧迫する必要はない。この点で」の呼称の方が手技の実態に即している

手技

  1. 体位:仰臥位、上体を30〜45°挙上し、頸静脈の拍動が観察できる角度に調整する。
  2. 呼吸:口を開けて安静に呼吸させる。息を止めたりいきんだりするを行わせるとが上がり、それだけでが見かけ上上昇して偽陽性になる。
  3. 圧迫:腹部中央を20〜35mmHgの圧で10〜15秒間、持続的に圧迫する2
  4. 観察:圧迫している間、頸静脈拍動の頂点(の拍動の最高点)を見続ける。

判定:圧迫中にが3cmを超えて上昇し、圧迫を続けている間ずっと持続することをもって陽性とする2。上昇が15秒以上持続することを目安とする定義もある3。圧迫直後に一過性に上がってすぐ元に戻るのは陰性である——「上がるかどうか」ではなく「上がったまま保たれるかどうか」が判定の核心である。

病態生理

腹部を圧迫すると内臓静脈床が絞り出され、静脈還流が一時的に増加する。健常な右室はこの増分ををもって受け止められるため、はわずかに上がってもすぐ元の高さへ戻る。ところが右室のが乏しいと、増えた前負荷を吸収しきれずが上がったまま下がらない。つまりこの試験が映し出しているのは一過性のそのものではなく、その負荷に対する右室の代償能力である3

⚠️ 何を示唆するか

は特定の一疾患に固有の所見ではなく、「増加した静脈還流を受け止めきれない右室」という状態を映す。陽性のときに考えるべき病態は次の通り。

  • 右心不全の増悪でみられる代表的な所見。
  • :肥厚・石灰化した心膜が拡張期充満を制限し、右室が拡張できない
  • :心筋そのものが硬く拡張できないとはが大きく異なるため、この所見だけでは両者を鑑別できない。
  • では右室のそのものが落ち、前負荷増加を受け止められない。
  • があると右房への逆流が加わり、静脈還流増加への力がさらに下がる。
  • 肺高血圧肺高血圧による右室増大も、同じ機序で陽性になりうる。
  • が15mmHgを超えている場合には、でも陽性になりうる3

一方、心タンポナーデでは陽性にならない——の急速な液体貯留は心臓全体を外側から均等に締め付けるため、静脈還流の増加が右房・頸静脈へそのまま伝わらない2。同じ「拡張期充満障害」を来すとの対比で、この違いは覚えておく価値がある。

⚠️ 手技上の落とし穴

  • 偽陽性:疼痛や不快感で患者が息を止める、あるいはいきむとValsalva様の反応が生じ、の上昇だけでが見かけ上上がる。腹部を強く押しすぎない、圧迫前に手技を説明して不安を減らす、口を開けたを保たせることが対策になる2
  • 偽陰性のように肝うっ血の原因が下大静脈の閉塞にある場合、腹部圧迫による静脈還流増加がそもそもへ伝わらないため、右心機能が低下していても陽性にならないことがある。
  • 観察不能:肥満やCOPDでは頸静脈の拍動そのものが視認しづらく、判定できないことがある。

判定から解釈までの流れ

flowchart TD
    A["仰臥位・上体30〜45°挙上<br>口を開けて安静に呼吸"] --> B["腹部正中を20〜35mmHgで<br>10〜15秒圧迫し頸静脈拍動を観察"]
    B --> C{"3cm以上の上昇が<br>圧迫中ずっと持続するか"}
    C -->|"一過性ですぐ戻る"| D["陰性"]
    C -->|"持続する"| E["陽性"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='jugular venous distension'>頸静脈怒張</span>・Ⅲ音・<br>浮腫を伴うか"}
    F -->|"乏しい"| G["疼痛・Valsalva・体位など<br>技術的偽陽性を再検討"]
    F -->|"あり"| H["右心不全・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='constrictive pericarditis'>収縮性心膜炎</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='restrictive cardiomyopathy, RCM'>拘束型心筋症</span>などを検討"]

単独では診断にならない

は右室のを映す一つの手がかりにすぎず、単独で疾患を確定できる所見ではない。、Ⅲ音、など他のうっ血所見と組み合わせて初めて解釈に値する。特にうっ血所見が乏しいまま陽性と判定された場合は、疾患を疑う前に手技上の偽陽性(疼痛・Valsalva・体位)を再検討すべきである。

まとめ

  • 」と「」は同じ手技の同義語で、肝臓を狙って圧迫する必要はなく後者の呼称が実態に即している。
  • 仰臥位・上体挙上、口を開けたのもとで腹部中央を20〜35mmHgで10〜15秒圧迫し、が3cmを超えて圧迫中ずっと持続的に上昇すれば陽性。一過性の上昇はすぐ戻るので陰性。
  • 見ているのはではなく、その負荷を受け止める右室のである。
  • 陽性は右心不全・・肺高血圧、および>15mmHgのを示唆するが、心タンポナーデでは陽性にならない。
  • 疼痛による・Valsalvaは偽陽性を、など下大静脈の閉塞は偽陰性を生む。肥満・COPDでは頸静脈が見えず判定できないことがある。
  • 単独では診断にならず、・Ⅲ音・浮腫と合わせて解釈する。

出典

  1. 1.Hepatojugular Reflux(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)腹部を20〜35mmHgで10〜15秒圧迫し頸静脈圧が3cmを超えて持続的に上昇すれば陽性と判定すること、陽性所見はうっ血性心不全・収縮性心膜炎・拘束型心筋症など右室拡張障害を反映することを確認した。また、手技が不適切な場合や腹部不快感・腹腔内圧上昇があると偽陽性を生じうること、心タンポナーデでは心膜による外的な制約が静脈還流増加の伝達を妨げるため陽性所見を呈さないことも確認した。閲覧 2026-08-04
  2. 2.The abdominojugular test: technique and hemodynamic correlates(Annals of Internal Medicine・1988)標準化された手技として正中腹部を10秒間圧迫する方法(肝臓の直上に限定しない)を確立し、右房圧よりも肺動脈楔入圧との相関が明確であること(陰性群で平均10.5±1mmHg、陽性群で平均19±3mmHgに分離すること)を確認した。閲覧 2026-08-04
  3. 3.The abdominojugular reflux sign(The American Journal of Medicine・2000)陽性の判定基準を頸静脈圧が3cmを超えて上昇し15秒以上持続することと定義し、この徴候は特定疾患に固有ではなく増加した静脈還流を代償できない右室を反映すること、原因として収縮性心膜炎・右室梗塞・拘束型心筋症のほか肺動脈楔入圧が15mmHgを超える場合の左心不全もあり、心タンポナーデでは陽性にならないことを確認した。呼吸困難患者における尤度比は、うっ血性心不全の予測でLR+ 6.0/LR− 0.78、肺動脈楔入圧>15mmHgの予測でLR+ 6.7/LR− 0.08であった。閲覧 2026-08-04