病態生理学

病態生理学 · P-2-24

循環性ショック 症例3

Circulatory shock, Case 3

前提:病態
循環性ショックの定義と分類
症状
肝頸静脈逆流

🧠 全体像: ほぼ状態だった介護施設入所中の85歳男性に、右下肢の強い腫脹と痛、突然の右下胸部痛と呼吸困難増悪が起こり、・不能で蘇生を要した。 → 右下肢の深部静脈血栓 → 肺塞栓という流れから、巨大肺塞栓による・心停止を最も疑う(画像による確定は症例に示されていない)。心停止を来した肺塞栓は2019年指針の高リスクに当たり、再灌流治療を早期に判断する。

症例提示

介護施設入所中の85歳男性が、右下胸部の突然の痛みと呼吸困難増悪のため救急搬送され、へ入室した。

病歴(7日前): 7日前から呼吸困難が出現し、同時に両下腿・足部の浮腫を認めた。軽度とがあり、利尿薬が投与された。著しいのため、ほぼ状態であった。

:

  • 右下肢腫脹が有意に強く、同部に痛あり
  • 胸部X線で右下葉末梢に淡い陰影

: 診察後、呼吸が急速に不規則化して停止、不能となり、蘇生を要した。


重要な引用と示唆

引用 / 値 解釈
数日間“ほぼ状態” により(Virchow triad)→ リスク増大
“右下肢の腫脹が著明で痛あり” 片側性下肢腫脹と疼痛は()を強く示唆
“右下胸部痛が突然出現し呼吸困難” 急性 + 呼吸困難で肺塞栓症を示唆
CXR: “右下葉末梢の淡い陰影” の可能性(典型的には胸膜に接するの陰影)。所見は非特異的で、肺塞栓の確定には造影CTなどの画像検査を要する
“” / 軽度 / 下肢浮腫 上昇とを示すうっ血所見。⚠️ ただしこれらは7日前、より前に記録された所見で、両側のを伴う右心不全が先行していたことを示す。その原因(以前からの肺塞栓の反復か、別の心疾患か)は症例からは決められず、急性のそのものの所見ではない
“し不能” 巨大塞栓による路閉塞から心停止へ進展したと推定される

要点

  • ショック型: 巨大肺塞栓による(最も疑われるが、画像での確定は症例に示されていない)。
  • : 長期()で促進された右下肢深部静脈血栓。
  • 病態生理: 塞栓で肺動脈流出路が閉塞 → → 増大・虚血 → 心室中隔が左方偏位し左室前負荷が低下 → 心拍出量低下 → (PEA心停止に至りうる)。
  • 鑑別の鍵: など上昇を伴う「」はの特徴(本例のは7日前の所見なので、時の再評価が要る)。
  • 経過: 急速にへ進行し蘇生を要した。
  • 治療の要点: ⚠️ 心停止を来した本例は、2019年指針の高リスク肺塞栓症(心停止・・持続性低血圧のいずれか)に相当する(症例には血圧値が示されていないので、持続性低血圧があったかは分からない)1。同指針は、肺塞栓が原因と推定される心停止ではの指針に従ったうえでを考慮し、投与後は少なくとも60〜90分はを続けてから中止を判断するとしている。高リスク例全般では、禁忌がなければが再灌流治療の基本で、血栓溶解が禁忌または不成功なら外科的術・を検討する1。抗凝固も出血禁忌がなければ並行して開始する。2026年のAHA/ACC指針は重症度をA〜Eに分け、持続・反復する低血圧を伴うショック(カテゴリーE1)では全身血栓溶解・カテーテル血栓溶解・機械的・外科的摘除をいずれも合理的な選択肢(クラス2a)として同じ強さで並べる。一方、または30分の蘇生で自己心拍が再開しない心停止(カテゴリーE2)では、出血リスクが許容されれば全身血栓溶解が合理的(2a)で、外科的摘除を他の高度治療より優先することは勧めず、資源があればVA-(静脈・動脈の)の導入が合理的(2a)としている2。本例がE1とE2のどちらに当たるかは、までの時間と再開後の血行動態で決まる(詳細は肺塞栓症ノート)。に対してはを避け(前負荷過多は心室中隔の左方偏位をさらに助長し左室充満を悪化させる)、低血圧にはノルアドレナリンで冠・全身灌流を支え、難治例では再灌流までの橋渡しとしてVA-を検討する3(詳細はを参照)。

出典

  1. 1.2019 ESC Guidelines for the diagnosis and management of acute pulmonary embolism developed in collaboration with the European Respiratory Society (ERS): The Task Force for the diagnosis and management of acute pulmonary embolism of the European Society of Cardiology (ESC)(European Society of Cardiology / European Respiratory Society・2019)高リスク(血行動態不安定な)急性肺塞栓症では全身血栓溶解を基本とし、禁忌または不成功時に外科的摘除・カテーテル治療を検討する枠組みであること。2026-09-24 に Wayback 保存版(academic.oup.com、2020-05-04)の全文で、Table 4 が高リスク肺塞栓症を画する血行動態不安定を「心停止(心肺蘇生を要する)」「閉塞性ショック」「持続性低血圧」のいずれか1つと定義すること、6.1.4 が肺塞栓が原因と推定される心停止では二次救命処置の指針に従い、血栓溶解療法を考慮し、投与後は蘇生の中止を判断する前に少なくとも60〜90分は心肺蘇生を続けるとしていること、Table 9 が右室不全への輸液を中心静脈圧が正常〜低値の例で500 mL以下を15〜30分かける慎重な負荷に限り、容量負荷は右室を過伸展させ心室間相互依存を悪化させ心拍出量を下げうるとしていることを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.2026 AHA/ACC/ACCP/ACEP/CHEST/SCAI/SHM/SIR/SVM/SVN Guideline for the Evaluation and Management of Acute Pulmonary Embolism in Adults: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines(American Heart Association / American College of Cardiology・2026)2026-09-24 に JACC 掲載版の Wayback 保存版(2026-06-10、ブラウザUA)の全文で確認した。カテゴリーEは心肺不全の状態で、E1は持続・反復する低血圧を伴う心原性ショック(SCAI SHOCK分類のC相当)、E2は難治性心原性ショック(SCAI D〜E)または30分の蘇生で自己心拍が再開しない心停止と定義される。全身血栓溶解と抗凝固の併用は、出血リスクが許容でき高度治療を検討するE1〜E2で抗凝固単独より合理的(2a、C-LD)。高度治療の一覧表では、E1は全身血栓溶解・カテーテル血栓溶解・機械的血栓除去・外科的摘除がいずれも2a、E2は全身血栓溶解が2aで外科的摘除は3(利益なし)。機械的循環補助を受けていないE2では外科的摘除を他の高度治療より勧めない(3:利益なし、B-NR)。E2の難治性心原性ショックでは資源があればVA-ECMOの導入が合理的(2a、B-NR)。閲覧 2026-09-24
  3. 3.Diagnosis and treatment of right ventricular failure secondary to acutely increased right ventricular afterload (acute cor pulmonale): a clinical consensus statement of the Association for Acute CardioVascular Care of the European Society of Cardiology(Association for Acute CardioVascular Care, European Society of Cardiology・2024)急性肺塞栓症などによる急性肺性心(右室後負荷急増)では、大半の患者で輸液負荷はむしろ有害となりうるため慎重に行うべきこと(右心の過拡張・心室間相互依存の悪化・左室充満障害を来しうる)。ノルアドレナリンは肺血管抵抗への影響が少なく全身血行動態と冠灌流を改善しうること。難治例ではVA-ECMOが回復までの橋渡しとして用いられること。閲覧 2026-08-26