病態生理学

病態生理学 · P-2-23

循環性ショック 症例2

Circulatory shock, Case 2

前提:病態
循環性ショックの定義と分類

🧠 全体像: 既往のない12歳男児が、ハチに刺されて約15分後に呼吸困難と喘鳴を起こし、全身の蕁麻疹、血圧69/45 mmHg、心拍数120/分、の延長を示した。状に呼吸器症状と低血圧が重なるのでアナフィラキシーの臨床基準を満たし、()と解釈する。最優先は大腿前外側へのアドレナリン筋注で、改善してもに備えて観察を続ける(本例は入院観察の対象になりうる)。

症例提示

既往のない12歳男児。右上腕をハチに刺された後、救急外来へ搬送。刺咬後まず局所痛と腫脹があり、その約15分後に呼吸困難が出現。両親は喘鳴を認め、患児本人はめまいと脱力感を訴えた。

来院時評価

:

  • 血圧: 69/45 mmHg
  • 呼吸数: 39/min
  • 心拍数: 120/min
  • 体温: 37.1°C

所見:

  • 傾眠傾向と蒼白を認めるが、質問には適切に応答可能
  • 全身に蕁麻疹を認める
  • 口唇・舌の腫脹なし。嗄声なし
  • 呼吸診察: 頻呼吸と軽度喘鳴、軽度下
  • 腹部は軟で
  • 右前腕の刺咬部に中等度腫脹

重要な引用と示唆

引用 / 値 解釈
“ハチ後約15分で呼吸困難が出現” 急速発症のIgE介在(I型)過敏反応で、アナフィラキシーを示唆
BP 69/45 mmHg 全身性血管拡張(血管トーン低下)による著明低血圧。世界アレルギー機構2020は、10歳を超える小児と成人では90 mmHg未満を低血圧とする1
HR 120/min、RR 39/min と頻呼吸
“全身性蕁麻疹” 肥満細胞/によるヒスタミン放出
“頻呼吸と軽度喘鳴、軽度肋骨下陥凹” と下気道狭窄により増大
“口唇なく音声は正常” 現時点ではは顕著でなく上気道は保たれるが、厳重監視が必要
“” 分布異常機序でも低下が進行
全身の蕁麻疹+呼吸困難・喘鳴+低血圧 皮膚・粘膜症状の急性発症に、呼吸器症状または血圧低下のいずれか1つ以上を伴えば、アナフィラキシーの可能性が高い(世界アレルギー機構2020の臨床基準1)。本例は両方を伴う1
刺された部位“右上腕”と、腫脹の部位“右前腕” ⚠️ 症例提示の中で部位が食い違う。どちらであってもショックの解釈は変わらない

要点

  • ショック型: ()。
  • 誘因: ハチ毒アレルゲンによるIgE介在の(IgE介在の反応は先行する感作を前提とするが、本例に以前の歴の記載はない)。
  • 病態生理: ヒスタミン等メディエーター大量放出 → 全身血管拡張 + → 相対的と低血圧、さらに。
  • 多臓器関与: 皮膚(蕁麻疹)、呼吸(喘鳴・)、循環(低血圧・頻脈)。
  • 治療優先: 第一選択はエピネフリンの大腿前外側への。若年成人男性のでは、大腿への筋注は上腕への筋注・皮下注よりのピークが有意に高かった2。用量は0.01 mg/kg(1 mg/mL製剤、最大0.5 mg)で、世界アレルギー機構2020の簡略表では6〜12歳が0.3 mg、10代と成人が0.5 mgであり、症状が治まらなければ5〜15分ごとに反復する1。💡 α₁作用(血管収縮→血圧・の改善)、β₁作用(・心拍数↑)、β₂作用(気管支拡張+メディエーター放出の抑制)が同時に働き、アナフィラキシーの(血管拡張・・)のすべてに同時に対応する。抗ヒスタミン薬(状のみ)・全身性ステロイド(急性期には効果発現が遅い)・吸入(のみ)はいずれも一部にしか働かず、アドレナリンの代替にはならない補助的な位置づけである。エピネフリンは・いずれのアナフィラキシーにも第一選択の薬物療法で、抗ヒスタミン薬・全身性ステロイドはの予防に信頼できる介入ではない3。気道確保と輸液を速やかに実施し、急速な気道閉塞進展に備える。
  • 観察と入院: ⚠️ 症状がいったん改善してもがしうる。重症の初回反応・複数回のエピネフリン投与・初回投与の遅れはの予測因子として挙がり、観察時間は固定せずこれらに応じて決める方向にある4。英国(英国国立医療技術評価機構)の2026年指針は、30分以内に1回の筋注で速やかに反応して症状が完全に消え、使用期限内のを2本持ち使い方を理解している場合などに限って2時間の観察後の退院を考慮し、2回の筋注を要した例は症状消失から少なくとも6時間、2回を超える投与を要した重症例や重いを伴った例などは少なくとも12時間観察するとしている。16歳未満でこの2時間の退院基準を満たさない場合は小児科の入院管理とする5。本例は低血圧を伴う初回のアナフィラキシーで、を持っていなければ2時間の退院基準を満たさないので、この枠組みでは入院で観察する側に入る。

出典

  1. 1.World allergy organization anaphylaxis guidance 2020(World Allergy Organization Journal・2020)PMC7607509 の全文で確認した。アナフィラキシーの臨床基準1は、皮膚・粘膜症状(全身の蕁麻疹など)の急性発症に、呼吸器症状(呼吸困難・喘鳴など)、血圧低下または末端臓器障害の症状、重い消化器症状のいずれか1つ以上を伴うもの。低血圧は、10歳を超える小児と成人では収縮期血圧90 mmHg未満、または本人の基礎値から30%を超える低下。医療者が用いるアドレナリン筋注量は0.01 mg/kg(最大0.5 mg、1 mg/mL製剤)で、簡略表は6〜12歳0.3 mg・10代と成人0.5 mg、症状が治まらなければ5〜15分ごとに反復する。注射部位は大腿前外側(外側広筋)。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Epinephrine absorption in adults: intramuscular versus subcutaneous injection(Journal of Allergy and Clinical Immunology・2001)若年成人男性を対象にした無作為化クロスオーバー試験で、エピネフリンの血漿中濃度ピークは大腿への筋肉内注射の方が上腕への筋肉内注射・皮下注射より有意に高く、大腿への筋肉内注射をアナフィラキシー初期治療の推奨経路・部位としている閲覧 2026-08-26
  3. 3.Anaphylaxis-a 2020 practice parameter update, systematic review, and Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation (GRADE) analysis(American Academy of Allergy, Asthma & Immunology / American College of Allergy, Asthma, and Immunology・2020)エピネフリンは単相性・二相性いずれのアナフィラキシーにも第一選択薬であり、抗ヒスタミン薬・全身性グルココルチコイドは二相性反応の予防に信頼できる介入ではないとしている閲覧 2026-08-26
  4. 4.Post-anaphylaxis observation in the ED: a decade of data challenging the traditional 24-hour rule(International Journal of Emergency Medicine・2026)抄録(PMC12990544)で確認した。2015〜2025年の文献をまとめた叙述的総説で、重症の初回反応(低血圧・低酸素など)・複数回のエピネフリン投与・初回投与の遅れが二相性反応の予測因子として一貫して挙がるとし、固定時間ではなくリスク層別化した観察経路(低血圧・低酸素や2回以上の投与などの高リスク例は6時間以上の観察または入院)を提言している。観察時間ごとの陰性的中率(1時間で約95%、6時間以上で約97%)は、この総説自身の解析ではなく総説が引く先行のメタ解析の値である。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Anaphylaxis: assessment and referral after emergency treatment (NG258)(National Institute for Health and Care Excellence・2026)2026-09-24 に Period of observation と Admission to inpatient care の章をブラウザUA付きで取得し逐語確認した(2026年5月27日公表。旧CG134はこの指針で置き換えられた)。1.1.7 症状出現から30分以内に1回のアドレナリン筋注で5〜10分以内に良好に反応して症状が完全に消え、使用期限内の自己注射器を2本持ち使い方を理解し、必要なら退院後に適切な大人の見守りがある場合に、気道腫脹の消失と呼吸・血圧・心拍の安定から2時間の観察後の退院を考慮する。1.1.8 2回の筋注を要した例や二相性反応の既往がある例は症状消失から少なくとも6時間観察。1.1.9 2回を超える投与を要した重症例、重い喘息または重い呼吸障害を伴った例、アレルゲンの吸収が続く可能性、時間外受診、悪化時に対応できない可能性、救急へのアクセスが難しい地域への退院のいずれかでは少なくとも12時間観察。1.1.11 16歳未満で1.1.7の退院基準を満たさない場合は小児科の入院管理とする。閲覧 2026-09-24