病態生理学

病態生理学 · 2-20

循環性ショックの定義と分類

Definition and classification of circulatory shock

応用トピック
急性心不全・心原性ショック―病因、症状、診断ショックの病態・分類・診断・治療閉塞性ショック小児ショックの認識・病型・治療循環性ショック 症例2循環性ショック 症例3
疾患
循環性ショック(心原性・循環血液量減少性・閉塞性・血液分布異常性)
症状
低血圧毛細血管再充満時間延長橈骨脈拍減弱

🧠 本質は「需要に供給が追いつかない」。 血圧が低いこと自体ではなく、組織が酸素を受け取れていないことがショック。4つの型(・・閉塞性・)は、どこで心拍出量(CO)が落ちるかと、CO と血管抵抗がどちらへ動くかで見分ける。血圧は遅れて落ちるので、皮膚・尿量・意識・乳酸で灌流を読む。

定義

  • 複雑な 急性の → 組織への不足 → 細胞・臓器障害 → 介入しなければ最終的に と死。詳しい臨床像と初期治療はで扱う。
  • 血圧が保たれていてもショックでありうる(後述の)。欧州医学会の2014年の合意文書は、低血圧( <90 mmHg、 <65 mmHg、または基礎値から40 mmHg 以上の低下)はよくみられるがショックの定義に必須としないよう推奨している1。逆に、血圧が低いこと自体はショックの定義ではない(例:健常な若年者の安静時血圧はもともと低いことがある)。
  • ⚠️ には独自の定義がある。 (2016年)は、敗血症のうち循環と細胞・代謝の異常が死亡率を大きく上げるほど重いものをとし、十分な輸液を行っても 65 mmHg 以上を保つのにを要し、かつ血清乳酸 >2 mmol/L のものとして臨床的に特定する(この組み合わせでは40%を超える)2。機序と治療はの機序と治療原則で扱う。

分類

分類 説明 例
血液/↓ 出血、または(嘔吐、下痢、熱傷)。型はの諸型を参照
心由来の CO↓ 虚血性、、(の原因)
閉塞性 心臓・大血管の流れの物理的な妨げ → CO↓(講義は「大血管の閉塞」とする) 肺塞栓、心タンポナーデ、
血管容量の増大 敗血症性、アナフィラキシー性、(全身・、中枢神経損傷)

⚠️ 複数の型が同時に存在しうる。 にが加わる、外傷でとが併存するなど、実地では混合型が珍しくない。1つの型に決めつけず、経過中にが移り変わりうることも念頭に置く。

血行動態パラメータによる見分け方

以下は各型の典型的な組み合わせであり、実測値が必ずこの向きになるわけではない(混合型、、すでに始まっている治療で容易にずれる)。

分類 前負荷(CVP) 心拍出量(CO) 体血管抵抗(SVR)
低下 低下 上昇 低下
上昇しやすい 低下 上昇 低下
閉塞性 有効なは低下(うっ滞で CVP 自体は上昇し得る) 低下 上昇 低下
正常〜低下 初期は上昇し得る 低下 正常〜上昇(進行すると低下しうる)

💡 だけが「CO↑・SVR↓」になる。 他の3型(・・閉塞性)はいずれも一次的に CO↓ → に SVR↑ という共通パターンを取るため、CO と SVR の向きだけでかどうかを素早く見分けられる。SvO₂(あるいはScvO₂)もの初期だけ正常〜上昇する点が特徴で、末梢での酸素利用障害と微小循環シャントを反映すると説明される。ただしが加わるなど進行すれば他の型と同様に低下しうる。

⚠️ SvO₂/ScvO₂ は「正常だから灌流が足りている」の根拠にならない。 この値はと酸素消費の釣り合いを映すだけなので、Hb・SaO₂・代謝需要にも左右される。低値はの不足を示す有用な所見だが、乳酸が高いのに SvO₂/ScvO₂ が高いという組み合わせでは、局所の低灌流に対して値が「盲目」になっている可能性がある1。同じ欧州医学会の2025年ガイドラインも、中心静脈カテーテルがある患者では(中心)と静脈-動脈の分圧較差を単回ではなくに測るとしている(等級づけのない good practice statement)3。

血行動態の2型

flowchart TD
  S["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='circulatory shock'>循環性ショック</span>"] --> A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasoconstrictive'>低拍出型</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypodynamic/vasoconstrictive'>血管収縮型</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypovolemic'>循環血液量減少性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiogenic'>心原性</span>・閉塞性)"]
  S --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasodilative'>高拍出型</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperdynamic/vasodilative'>血管拡張型</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='distributive'>血液分布異常性</span>)"]
  A --> A1["一次的に CO↓"]
  A1 --> A2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='compensatory'>代償的</span>に全身血管収縮(TPR↑)で BP 維持"]
  B --> B1["一次的に TPR↓(血管拡張)→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='afterload'>後負荷</span>↓"]
  B1 --> B2["一過性に CO↑"]
  B2 --> B3["やがて静脈還流↓ → CO↓(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasoconstrictive'>低拍出型</span>に似てくる)"]
  • /(、、閉塞性):一次的に CO↓ → に全身血管収縮(TPR↑) で BP を保つ。
  • /():初めに TPR↓(血管拡張)→ ↓、一過性に CO↑ → その後静脈還流↓ → CO↓(に似る)。
  • 講義はが最も多く、ショックの原因の50%を超えるとする。ただしこの数字の裏づけになるのは、を要する重症のショック患者の内訳である。を要するショック患者1,679例を組み入れた多施設無作為化試験(SOAP II)では、敗血症性1,044例・280例・263例だった4。救急外来や院外を含むすべてのショックの分布ではない。

型別の CO↓ の原因

  • ・: 前負荷↓ → CO↓。
  • : の喪失。
  • 閉塞性: 講義は「または体循環の大血管が閉塞してが上がり、CO が下がる」とする。これは肺塞栓(右室の↑)によく当てはまる。心タンポナーデとでは、心臓の外からの圧迫や静脈還流の妨げで心室が十分に充満できない(有効な前負荷↓)ことが CO 低下の中心になる。上の血行動態の表で閉塞性の「有効なは低下」としているのはこのためである。

心臓へ血液を戻す力

  • Vis a fronte — 拡張期の吸引(に依存)。
  • Vis a tergo — 前方への押し出し(大血管の伸展と発生圧)。
  • : 血液量↓ → ↓ → 前負荷↓ → CO↓。
  • : /の境界が右へずれる → 正常な血液量でも十分なを作れない → 前負荷↓ → CO↓。

末梢灌流の評価

血圧はショックの検出において遅れて落ちる指標であり、には正常なままのことが多い。血圧に頼らず、次の所見を組み合わせて低灌流を捉える。2014年の欧州の合意文書は、を見る「3つの窓」として皮膚(冷たく湿って青い・蒼白・)、腎(尿量 <0.5 mL/kg/時)、神経(意識の変容)を挙げ、乳酸をに測ることを推奨している1。2025年ガイドラインは、皮膚灌流をで評価し、皮膚温とまだら模様で補うとしている3。

所見 何を反映するか
延長・皮膚の/まだら模様 なによる皮膚灌流の犠牲
乏尿 の低下
意識障害・ の低下(代償が破綻に近いことを示唆)
乳酸上昇 によるの指標

⚠️ の初期は皮膚が温かいままのことがあり、・まだら模様に乏しくても除外できない。

⚠️ 乳酸上昇=とは限らない。 以外に、β刺激(投与・内因性ストレス反応)による解糖亢進や、肝でのクリアランス低下(肝不全・)でも乳酸は上昇する。単回値だけで灌流状態を断定せず、・酸塩基状態・推移とあわせて読む(詳細は 乳酸)。

💡 乳酸クリアランス(値が下がっていく速さ)は予後と相関する指標として使われる。 ただし乳酸単独ではなくのと併用するのが実際的である。を対象にの正常化を指標とした蘇生との正常化を指標とした蘇生を比較したRCTでは、28日死亡率に有意差はなかったが、を指標にした群で72時間後の臓器不全スコアが有意に低かった5。続く ANDROMEDA-SHOCK-2(19か国86施設、発症4時間以内の早期1,467例)は、を目標に脈圧・・・心エコーで輸液とを個別に調整する蘇生を通常治療と比べ、死亡・生命の期間・を順に比べる階層的複合評価項目で優越を示した(勝 1.16、95%CI 1.02〜1.33)。ただし差は主に生命の期間の短縮によるもので、死亡で決着した勝ちは 19.1% 対 17.8% だった6。

まとめ

分類 一次的な異常 CO 体血管抵抗 例
血液・↓ → 前負荷↓ 低下 上昇(代償) 出血、嘔吐・下痢・熱傷
の喪失 低下 上昇(代償) 虚血性、、
閉塞性 流れの物理的な妨げ(↑または充満障害) 低下 上昇(代償) 肺塞栓、心タンポナーデ、
血管拡張(↑)→ 前負荷↓ 初期は上昇しうる → やがて低下 低下 敗血症性、アナフィラキシー性、
  • ショックの本質は組織の酸素不足で、低血圧は定義に必須ではない。
  • は、十分な輸液後も 65 mmHg 以上を保つのにを要し、かつ乳酸 >2 mmol/L のもの。
  • を要するショック患者を組み入れた試験では敗血症性が半数を超えるが、これはすべてのショックの分布ではない。
  • 灌流は・皮膚所見・尿量・意識・乳酸を組み合わせて読み、SvO₂/ScvO₂ が正常でも灌流が足りているとは限らない。
  • 複数の型が同時に、または経過中に入れ替わって存在しうる。

出典

  1. 1.Consensus on circulatory shock and hemodynamic monitoring. Task force of the European Society of Intensive Care Medicine(European Society of Intensive Care Medicine(Intensive Care Medicine)・2014)低値の中心静脈血酸素飽和度(ScvO2)は、とくに高乳酸血症を伴う文脈で酸素運搬の不足を示す一方、高乳酸血症下での高いScvO2値は有用性が限られ局所の低灌流に対して「盲目」となりうることを確認した。2026-09-24 に PMC4239778 の全文で追加確認:推奨9として、動脈性低血圧(収縮期血圧<90 mmHg、平均動脈圧<65 mmHg、または基礎値から40 mmHg以上の低下)はよくみられるがショックの定義に必須としないこと(Level 1、QoE moderate)、組織灌流の臨床徴候を皮膚(冷たく湿って青い・蒼白・変色)・腎(尿量<0.5 mL/kg/h)・神経(意識の変容)の「3つの窓」で見ること、推奨19として乳酸の経時的測定を推奨すること(Level 1、QoE low)。閲覧 2026-08-14
  2. 2.The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3)(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine / JAMA・2016)PMC4968574 の全文で確認:敗血症性ショックは、循環と細胞・代謝の異常が死亡率を大きく上げるほど重い敗血症の一部と定義され、十分な輸液を行っても平均動脈圧65 mmHg以上を保つのに昇圧薬を要し、かつ血清乳酸が2 mmol/L(18 mg/dL)を超えるものとして臨床的に特定され、この組み合わせで院内死亡率は40%を超えること。閲覧 2026-09-24
  3. 3.ESICM guidelines on circulatory shock and hemodynamic monitoring 2025(European Society of Intensive Care Medicine(Intensive Care Medicine 51:1971–2012)・2025)Europe PMC の抄録(PMID 41236566)で確認:成人重症患者のショックの診断と血行動態モニタリングについて50の推奨を示し、皮膚灌流は毛細血管再充満時間で評価し皮膚温とまだら模様で補うこと、中心静脈カテーテルのある患者では(中心)静脈血酸素飽和度と静脈-動脈の二酸化炭素分圧較差を経時的に測ること(いずれも等級づけのない good practice statement)、ショックの型の評価には心エコーを第一の画像検査とすることを提案すること。本文は出版社・機関リポジトリとも bot 判定で取得できず、抄録の範囲でのみ用いた。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Comparison of dopamine and norepinephrine in the treatment of shock(The New England Journal of Medicine・2010)Europe PMC の抄録(PMID 20200382)で確認:昇圧薬を要するショック患者1,679例を組み入れた多施設無作為化試験で、サブグループ解析の記載から敗血症性1,044例・心原性280例・循環血液量減少性263例であること。昇圧薬を要したショック患者の内訳であって、ショック全般の疫学ではない。閲覧 2026-09-24
  5. 5.Effect of a Resuscitation Strategy Targeting Peripheral Perfusion Status vs Serum Lactate Levels on 28-Day Mortality Among Patients With Septic Shock: The ANDROMEDA-SHOCK Randomized Clinical Trial(JAMA・2019)敗血症性ショック患者を対象に毛細血管再充満時間の正常化を指標とする蘇生戦略と乳酸値の正常化を指標とする蘇生戦略を比較したRCTで、28日死亡率に統計的有意差はなかったが(34.9% vs 43.4%、P=.06)、副次評価項目の72時間後SOFAスコアは毛細血管再充満時間群で有意に低かったことを確認した。閲覧 2026-08-14
  6. 6.Personalized Hemodynamic Resuscitation Targeting Capillary Refill Time in Early Septic Shock: The ANDROMEDA-SHOCK-2 Randomized Clinical Trial(JAMA・2025)Europe PMC の抄録(PMID 41159835)で確認:19か国86施設で発症4時間以内の敗血症性ショック患者を、毛細血管再充満時間を目標に脈圧・拡張期血圧・輸液反応性・心エコーで輸液・昇圧薬・強心薬を調整する個別化蘇生(720例)と通常治療(747例)に割り付けた。28日時点の死亡・生命維持治療の期間・在院日数の階層的複合評価項目で勝率比1.16(95%CI 1.02〜1.33、P=.04)と介入が優越し、死亡での勝ち19.1%対17.8%、生命維持期間26.4%対21.1%、在院日数3.4%対3.2%で、優越は主に生命維持期間の短縮によること。閲覧 2026-09-24