病態生理学

病態生理学 · 2-25

心原性ショックの原因

Possible causes of cardiogenic shock

応用トピック
急性心不全・心原性ショック―病因、症状、診断機械的循環補助による末期心不全の治療心筋梗塞の合併症と治療緊急心臓血管外科手術心原性ショック小児ショックの認識・病型・治療

🧠 は「一次的な心による臓器低灌流」。 単一の原因では心筋梗塞が最多で(ただし現代の循環器では3分の1未満)、心筋梗塞では頻脈・左室上昇などの代償反応がかえって心筋の酸素需給を悪化させる悪循環に入る。治療の軸はの再灌流との修復であり、・・補助循環はそこまでをつなぐ手段にとどまる。

心原性ショック— 原因

  • 心臓のの低下で起こる。
  • ショックの頻度順:敗血症性 > > 。を要したショック1,679例の多施設RCTでは、敗血症性1,044例・280例・263例だった1。⚠️ でを要した患者の内訳であってショック全般の疫学ではなく、との差はわずかである。

最も多い原因

  1. ⭐ 心筋梗塞(MI)——の最多原因
  2. (急性重症、急性大動脈弁逆流など)
  3. 不整脈
  4. 心筋症
  5. 心筋炎、(心タンポナーデやで心室の充満が妨げられる場合は、ショックの分類では閉塞性に入る)
  6. (MI後):、による急性、 — ⚠️ いずれも薬物治療では救命できず、外科またはカテーテルによる緊急修復を要する

⚠️ 「心筋梗塞が最多」は単一の原因としての話で、過半数ではない。 北米の高度な循環器 16施設(2017〜2018年)の450例では、によるものは30%にとどまり、を伴わない18%、非28%、心筋機能障害以外の心臓の原因17%だった。著者は、によるはいまや全体の3分の1未満であるとしている2。心筋梗塞が無くても、虚血性・非虚血性の心筋症によるがあることを念頭に置く。

進行の機序(MI後)

🧠 の皮肉: 心臓を救うには冠動脈の血流が要るのに、ショックの代償反応(HR↑・LVEDP↑)がことごとくを減らしを増やす方向に働く。すべての悪循環が「心筋酸素の需給ギャップ」に収束する。

  • 大きな冠動脈の閉塞 → 低酸素が を下方シフト(同じ前負荷 → 小さい CO)。
  • 心筋機能障害:+。
flowchart TD
  MI["MI → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial oxygen supply'>心筋酸素供給</span>↓"] --> D1["収縮期+拡張期機能障害"]
  D1 --> S["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Baroreceptor reflex'>圧受容器反射</span>で交感神経↑ → HR↑"]
  S --> S2["拡張期短縮 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronary perfusion'>冠灌流</span>↓ + 心筋O₂需要↑"]
  D1 --> L["弱い拡張 → LVEDP↑ → 冠動脈を圧迫 → O₂供給↓"]
  D1 --> P["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diastolic dysfunction'>拡張機能障害</span>→ 肺うっ血 → 肺水腫 → 動脈低酸素 → 心筋O₂供給↓"]
  S2 --> END["進行性の心筋機能障害 → 死"]
  L --> END
  P --> END
機序 効果
交感神経トーン↑() HR↑ で拡張期短縮 → ↓(充満は拡張期)+心筋 O₂ 需要↑
LVEDP↑ 弱い拡張 → ↑ → 壁伸展 → 冠動脈を圧迫 → O₂ 供給↓
→ 肺うっ血 → 肺水腫 → 動脈低酸素 → 酸素化された血液が心筋へ届きにくい → O₂ 供給↓
  • すべてが 進行性の心筋機能障害 → 死に収束。

治療

⚠️ 治療の中心は「原因の解除」——への迅速な冠(/)である。 ・は再灌流までをつなぐ対症療法にすぎず、薬で血圧を上げること自体はゴールではない。

血行再建は責任病変のみ、IABPはルーチンで使わない

  • ⚠️ 多枝病変でも、以外への同時(即時)はしない。 多枝病変を伴う・706例を、のみの(非はに)と即時多枝に割り付けたRCT(CULPRIT-SHOCK試験)では、のみのが即時多枝より30日時点の複合評価項目(死亡+を要する腎不全)を有意に減らした(45.9% vs 55.4%、0.83)3。ただし1年時点の死亡には両群で有意差がなかった4。これを受けて2023年のガイドラインは、を伴う多枝病変のでは初回の手技でのみのを推奨し(Class I/レベルB)、非は段階的なを考慮する(Class IIa/レベルC)としている。のができない・不成功なら緊急を推奨する(Class I/レベルB)4。
  • ⚠️ ()のルーチン使用は推奨されない。 早期を予定した合併600例のRCT(-SHOCK II試験)で、は30日を有意に減らさなかった(39.7% vs 41.3%)5。2023年のガイドラインは、の無い合併でののルーチン使用を推奨しない(Class III/レベルB)4。2026年の心不全ガイドラインも、選別しないへのを効果が無いため推奨しない(Class III/レベルB1)とする6。の手術など選択例では依然として使われる。
  • 💡 補助循環は「選別すれば考慮、選別せずには入れない」。 2026年の心不全ガイドラインは、によるで左室収縮不全がありのおそれがない選ばれた患者に、死亡を減らす目的で微小軸流ポンプを考慮するとした(Class IIa/レベルB1)。根拠のDanGer Shock試験(選別された360例)では180日死亡が減った(0.74、95%信頼区間0.55〜0.99)一方、出血と下肢虚血が増えた。選別しない関連のへの一時的補助循環は、害のおそれがあるため推奨しない(Class III/レベルB1)。心筋梗塞のでは、への橋渡しとして一時的補助循環を考慮する(Class IIa/レベルC)6。

機械的合併症は薬物で救えない

  • 、による急性、は、新規雑音・急激な肺水腫・突然の血行動態虚脱として現れる。薬物治療では止められず、外科またはカテーテルによる緊急修復が必要——見逃すと致死的。

右室梗塞は前負荷依存——輸液が要り、硝酸薬・利尿薬は禁忌に近い

  • 💡 右室は左室に比べ壁が薄く低圧系のため、ではを失った右室が前負荷にほぼ全面的に依存して左室への流入を保つ。左室不全と同じ発想で・利尿薬を使って前負荷を下げると、右室からの拍出がさらに落ちて血圧が急落する。輸液で前負荷を保ちながら再灌流するのが原則で、2023年のガイドラインも、低血圧・著しい徐脈または頻脈・などではを投与しないとしている4。で低血圧・があるのに肺うっ血に乏しい所見はを疑う手がかりになる。

無再流現象

  • MI 治療: 閉塞した冠動脈を()。しかし血流が再開しないことがある = 。
  • の原因:
    • 低酸素による 浮腫 が血管を圧迫(腫脹した平滑筋/心筋/内皮細胞)
    • (低酸素+)→ 血小板の接着/凝集 → 塞栓
    • 小血管での白血球・赤血球の うっ滞 →
    • → 大血管を開けても、微小循環が灌流しないことがある。

昇圧薬・強心薬

  • 著しい低血圧にはノルアドレナリンを第一選択とする。血圧が確保されてもなお低心拍出・低灌流が続く場合に、を伴わない(β1薬)を追加検討する。
  • ⚠️ ただし推奨の強さは弱い。 2026年の心不全ガイドラインは、(望ましくはノルアドレナリン)をで血圧と重要臓器の灌流を上げるために「考慮してもよい」(Class IIb/レベルC)、を輸液負荷を含む標準治療に反応しない <90 mmHg かつ低灌流の患者に「考慮してもよい」(Class IIb/レベルC)とし、ノルアドレナリンを第一選択とする根拠は「限界はあるが」いくつかの研究にとどまると書く6。
  • は不整脈を増やしやすく、ルーチンの第一選択にはしない。を要するショック1,679例のRCTでは、群で不整脈イベントがノルアドレナリン群のほぼ2倍(24.1% vs 12.4%)で、280例のサブグループでは28日死亡が群で多かった(全体の28日死亡には有意差なし)1。心不全ガイドラインは、このサブグループの差について作用のP値は有意でなかったと注記している6。

💡 「では血管収縮を避ける」という原則と、ノルアドレナリンを第一選択にすることは矛盾しない。 末梢血管を締めれば↑ → 1回拍出量↓となり、弱った左室にはそのままでは不利である——これが「を漫然と使わない」と教えられる理由。しかしは拡張期のに依存するため、血圧が保てないほど低ければ心筋自身へのが断たれ、の話をする以前に悪循環が回り始める。そこで、まず最低限のをノルアドレナリンで確保し、圧が確保できたら血管を締めないで心拍出量を補う、という順序になる。いずれも再灌流までの「つなぎ」であって、の害がある以上、必要最小量・最短期間にとどめる。

まとめ

項目 要点
本態 の低下による臓器低灌流。を要した のショックでは敗血症性に次ぎ、とほぼ同数
原因 単一の原因では心筋梗塞が最多だが、現代の循環器ではの3分の1未満。ほかに・不整脈・心筋症・心筋炎/、の(・・)
悪循環 頻脈で拡張期が短縮し↓・↑、左室↑で冠動脈が圧迫、肺うっ血で動脈血が低酸素 → すべて心筋の酸素需給ギャップへ
への迅速な (不能なら )が中心。多枝病変でも初回はのみ、非は段階的に
補助循環 のルーチン使用は推奨されない。選ばれた ST 上昇型心筋梗塞のでは微小軸流ポンプを考慮、選別せずには入れない
新規雑音・急激な肺水腫・突然の虚脱で気づく。薬では止められず緊急修復
前負荷依存。輸液で前負荷を保ちながら再灌流し、で前負荷を下げない
浮腫・による塞栓・血球のうっ滞で微小循環が閉塞し、大血管を開けても灌流が戻らない
・ 低血圧にはノルアドレナリン、灌流不足が残れば。いずれも推奨は弱く( 2026で Class IIb)、再灌流までのつなぎ。は不整脈が多く第一選択にしない

出典

  1. 1.Comparison of dopamine and norepinephrine in the treatment of shock(The New England Journal of Medicine・2010)PubMedの抄録で確認した。昇圧薬を要するショック1,679例(ドパミン858例、ノルアドレナリン821例)の多施設RCTで、28日死亡は52.5%対48.5%(オッズ比1.17、P=0.10)で有意差がなく、不整脈イベントはドパミン群で多かった(24.1%対12.4%、P<0.001)。サブグループ解析ではドパミン群の28日死亡の増加が心原性ショック280例でみられ(P=0.03)、敗血症性ショック1,044例と循環血液量減少性ショック263例ではみられなかった。これはICUで昇圧薬を要した患者の内訳であって、ショック全般の疫学調査ではない閲覧 2026-09-24
  2. 2.Epidemiology of Shock in Contemporary Cardiac Intensive Care Units(Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes・2019)抄録(Europe PMC、PMC11032172)で確認した。北米の高度な循環器ICU 16施設が2017年9月〜2018年9月のうち2か月間の連続内科入院を提出した観察研究で、3,049入院のうち677例(22%)がショック(収縮期血圧90 mmHg未満の持続と低血圧による臓器障害)を満たし、66%が心原性、7%が血液分布異常性、3%が循環血液量減少性、20%が混合性だった。心原性ショック450例の内訳は急性心筋梗塞30%、急性心筋梗塞を伴わない虚血性心筋症18%、非虚血性心筋症28%、心筋機能障害以外の心臓の原因17%で、著者は急性心筋梗塞による心原性ショックが心原性ショック全体の3分の1未満になったと結論した閲覧 2026-09-24
  3. 3.PCI Strategies in Patients with Acute Myocardial Infarction and Cardiogenic Shock(The New England Journal of Medicine(Thiele H, et al., CULPRIT-SHOCK Investigators, 2017)・2017)多枝病変を伴う急性心筋梗塞・心原性ショック706例のRCTで、責任病変のみのPCI(非責任病変は待機的に段階的治療)は即時多枝PCIに比べ、30日時点の複合評価項目(死亡+腎代替療法を要する腎不全)を有意に減らした(45.9% vs 55.4%、相対リスク0.83、95%CI 0.71-0.96、P=.01)ことを確認した。閲覧 2026-08-14
  4. 4.2023 ESC Guidelines for the management of acute coronary syndromes(European Society of Cardiology・2023)誌上版PDF(リエージュ大学リポジトリ ORBi の ehad191.pdf、107頁、出版社サイトからのダウンロード版)を取得して逐語確認した。推奨表12は、心原性ショックを呈する急性冠症候群の多枝病変で初回の手技での責任病変のみのPCIを推奨し(I/B)、非責任病変の段階的PCIを考慮する(IIa/C)。推奨表9は、急性冠症候群に合併した心原性ショックで緊急冠動脈造影と責任病変のPCIを推奨し(I/B)、PCI不能・不成功なら緊急CABGを推奨し(I/B)、機械的合併症の無い心原性ショックでのIABPのルーチン使用を推奨しない(III/B)。本文はCULPRIT-SHOCKで責任病変のみのPCIが30日の全死亡または腎代替療法を減らした(RR 0.83、95%CI 0.71〜0.96)が1年時点の死亡には有意差がなかったと述べ、4.2.2.2節は低血圧・著しい徐脈または頻脈・右室梗塞・既知の重症大動脈弁狭窄・24〜48時間以内のPDE5阻害薬使用では硝酸薬を投与しないとする閲覧 2026-09-24
  5. 5.Intraaortic balloon support for myocardial infarction with cardiogenic shock(The New England Journal of Medicine(Thiele H, et al., IABP-SHOCK II Trial Investigators, 2012, DOI 10.1056/NEJMoa1208410)・2012)早期血行再建を予定した急性心筋梗塞合併心原性ショック600例のRCTで、大動脈内バルーンパンピングは30日全死亡を有意に減らさなかったこと(39.7% vs 41.3%、相対リスク0.96)を確認した。閲覧 2026-08-14
  6. 6.2026 ESC Guidelines for the management of heart failure(European Society of Cardiology・2026)出版社ページのWayback Machine保存版(20260910061149、id_付き、ブラウザUA+--compressed で HTTP 200・656,758バイト)で逐語確認した。推奨表9は昇圧薬(望ましくはノルアドレナリン)を心原性ショックで血圧と重要臓器灌流を上げるために考慮してよい(IIb/C)、強心薬を輸液負荷を含む標準治療に反応しない収縮期血圧 <90 mmHg かつ低灌流の患者に考慮してよい(IIb/C)とする。7.5.9節は、限界はあるがいくつかの研究がドパミンやアドレナリンよりノルアドレナリンを第一選択とすることを支持するとし、原因を特定しないショックのRCTでドパミンは不整脈イベントが多く、心原性ショックのサブグループではノルアドレナリンに死亡の利益がみられたが交互作用のP値は有意でなかったと述べる。推奨表10は、ST上昇型心筋梗塞による心原性ショックで左室収縮不全があり低酸素性脳障害のおそれがない選択例への微小軸流ポンプを考慮する(IIa/B1)、選別しない急性心筋梗塞関連の心原性ショックへの一時的補助循環は害のおそれがあるため推奨しない(III/B1)、選別しない心原性ショックへのIABPは効果が無いため推奨しない(III/B1)、心筋梗塞の機械的合併症では根治治療への橋渡しとして一時的補助循環を考慮する(IIa/C)とする。本文はDanGer Shock(選別された360例)の180日死亡をハザード比0.74(95%CI 0.55〜0.99、P=.04)と要約し、出血と下肢虚血の増加に触れる閲覧 2026-09-24