病態生理学

病態生理学 · 2-24

循環性ショックの臓器症状(MODS)

Organ manifestations of circulatory shock (MODS)

疾患
多臓器機能障害症候群
症状
出血性ショック

🧠 MODS = 「持続する低灌流が臓器ごとに同じ筋書きを繰り返す」。 どの臓器も〈低灌流 → 低酸素 → ATP↓ → 〉という共通の幹を辿り、臓器特有の弱点(心は、肝は、肺はサーファクタント…)が表現型を決める。⚠️ ただしMODSに至った=不可逆ではない。臓器ごとに回復のしかたが異なり、などでな改善・悪化を追いながら「まだ戻せる」前提で介入を続ける。

ショックの臓器症状(MOF/MODS)

(MOF)/(MODS)は、持続する低灌流が臓器ごとに同じ筋書き(低灌流 → 低酸素 → ATP↓ → )を繰り返すことで生じる、〜を特徴づける病態である。

⚠️ 「=すべての臓器が同じように不可逆」ではない。 臓器によって回復のしかたが大きく異なる:による腎機能は、基底膜が保たれていればが再生し多くは可逆的に回復しうる()一方、重症後の肺は線維化が残存しなを残すことがある。「」という分類自体、実際に治療が奏功しなかった結果から振り返って初めて言える事後的な分類であり(ショックの進行参照)、その場で「もう戻らない」と決めつけて臓器支持を諦める根拠にはならない。

臓器 症状 原版SOFAでの定量指標
心臓(心) 原因が安定しても CO が落ち続ける:↓ → ↓ → CO↓ → 動脈圧↓ → さらに↓(悪循環)→ ;・アシドーシス・毒素(等)で悪化 循環:・の種類と用量
CNS 心呼吸・その他の調節機能の破綻 → が機能を失う 中枢神経:()
肺(ショック肺/) 障害;活性化+サイトカイン → ↑ → → O₂↑;上皮障害 → サーファクタント↓ → ;滲出液が肺胞を満たす → ガス交換面積↓ → () 呼吸:PaO₂/FiO₂比
腎(ショック腎/(ATN)) 圧↓+(交感神経↑、ANGII↑、)→ 虚血;尿細管低酸素 → ATP↓ → 脱分極・Ca²⁺流入・細胞骨格再編;Na⁺/K⁺ ATPase の局在異常 → Na⁺再吸収↓ → での Na⁺↑ → → ↓;喪失、細胞死/剥離 → → 腎:クレアチニン、または尿量
肝臓(/) の低酸素(O₂勾配が最もな領域)→ → 代謝・解毒機能障害+凝固因子産生低下 肝:ビリルビン
消化管 強い消化管血管収縮(血流再分配)→ 極端な低流速 → → /閉塞 → → 細菌・の血流侵入(転座)→ 敗血症 (SOFAに専用項目なし)
凝固 によると、血小板・凝固因子の消費による出血が同時進行 → () 凝固:
血漿/体液喪失(熱傷、下痢、利尿、発汗)→ → 粘度↑ → ↓ → さらなる (SOFAに専用項目なし)
flowchart TD
  A["持続する低灌流"] --> B["腸管:強い血管収縮 → 低流速 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='RBC sludging'>赤血球うっ滞</span>"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microthrombi'>微小血栓</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='barrier'>腸管バリア</span>破綻"]
  C --> D["腸内細菌・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endotoxin'>エンドトキシン</span>が血流へ侵入(転座)"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic inflammatory response'>全身性炎症反応</span> → 灌流をさらに悪化 → MODS"]
  E --> A

💡 腸管は「MOFの起爆装置」と呼ばれる。 血流再分配で真っ先に切り捨てられる臓器であるうえ、が壊れて腸内細菌・が血流へ転座すると、出血性・のように感染が一次原因でない場合でも二次的に敗血症を合併し、→→凝固活性化という別経路から悪循環を加速させる。「だけがMODSを起こす」のではなく、あらゆる型のショックがこの腸管経由の経路でMODSへ収束しうる点が重要。

肺:死亡率を下げた介入(肺保護換気・腹臥位)

⭐ の治療の中心は原因治療に加えてである。を(ではない)1 kgあたり約6 mLに抑え、を30 cmH₂O以下に保つ戦略が、これまでに死亡率を明確に低下させたと示されている数少ない介入である1。大きな・高いは、健常な肺胞をさせる(VILI)を起こし、かえって炎症・臓器障害を悪化させるため、「酸素化を急いで正常化する」よりも肺そのものへの追加ダメージを避けることを優先する。

⚠️ 重症例(PaO₂/FiO₂ <150程度)では早期・長時間(1回16時間以上が目安)の療法を追加する。 を行ったうえでを早期に行った群は仰臥位のまま管理した群より28日死亡率が有意に低かった(16.0% vs 32.8%)2。の高い背側肺胞のを改善し、の不均衡を減らすことが機序として考えられている。定義・・VV-の適応など詳細はのノートに譲る。

腎:利尿薬は尿を出しても腎機能そのものは改善しない

腎の障害度は(基準)の分類で定量する。虚血性のでは、が脱落・壊死しても基底膜が保たれていれば再生しうるため、多くは可逆的である。

⚠️ でいったん尿量を増やせても、それ自体がを回復させるわけではない。 利尿薬はNa⁺/K⁺/2Cl⁻を阻害して尿細管での再吸収を減らすことで尿量を増やすのであり、虚血で壊れたや尿細管機能そのものを治す作用ではない。乏尿を利尿薬で見かけ上「解除」すると、の評価を誤らせたりの開始判断を遅らせたりする害がありうる。利尿薬はあくまでの症状管理に用い、AKIの予防・腎回復の促進・回避を目的に使わない。 2012のAKIガイドラインも、利尿薬をAKIの予防に用いないことを推奨し(1B)、の管理を除いてAKIの治療に用いないこと(2C)、腎機能回復の促進やの期間・頻度の短縮を目的に用いないこと(2B)を提案している3。

肝臓:ショック肝(虚血性肝炎)とウイルス性・薬剤性肝障害の見分け方

⚠️ ()は、・がの数十〜100倍(しばしば数千 IU/L)までするが、灌流が回復すれば数日というごく短い経過で急速に低下していく点が特徴である。 これは、やで/が数日〜数週間かけて緩やかに上昇・下降する経過とは形が異なる——数値の高さだけでなく、と下降の速さ(時間の形)で鑑別する。はほぼ必ず低血圧・低酸素・などのの破綻を背景に起こるため、原因になり得る循環イベントが先行しているかどうかも重要な手がかりになる。

肝細胞は(から最も遠く、O₂勾配が最もな領域)が最も低酸素に弱く、ここがに壊死することで代謝・解毒機能に加えて凝固因子産生も低下し、を伴いうる(へ進行しうる)。⚠️ /の低下は必ずしも回復を意味しない——肝細胞量そのものが枯渇していても数値は下がりうるため、意識状態・/・乳酸・血糖・腎機能の推移とあわせて評価する。

凝固:播種性血管内凝固(DIC)

持続する低灌流・組織障害・はを活性化し、によると、血小板・凝固因子の消費による出血が同時進行する()を合併しうる。が最多の原因だが、外傷・熱傷・産科合併症などのショックでも起こる。2025年改訂のISTHスコアは・等フィブリン関連マーカー・延長・フィブリノゲンの4項目を採点し、合計5点以上をに合致するとする4。診断の要点・鑑別(・HITとの違い)は・HIT・の比較に譲る。

臓器不全の定量評価:SOFAスコアとSepsis-3の誤解されやすい点

⭐ (Sequential Organ Failure Assessment)は、上表の6系統(呼吸・凝固・肝・循環・中枢神経・腎)をそれぞれ0〜4点で評価し合算する、MODSの重症度を定量するスコアである。単回点数よりもな変化(sequential)が本来の狙いで、臓器障害の悪化・改善を追跡する。

💡 2025年に改訂版のSOFA-2が発表された。 9か国・1,319のの成人約334万例のデータをもとに、原版と同じ6系統(脳・呼吸・循環・肝・腎・止血)を、現在の臓器を反映した新しいと閾値で組み直したもので、初日の点数による死亡の予測能は原版と同程度かやや高かった( 0.79対0.77)。消化管と免疫の障害は、データ不足と内容的の欠如から組み込まれなかった5——上表で消化管・に「専用項目なし」としたのは改訂版でも同じである。上表の定量指標は原版の項目で書いている。

⚠️ ()は「感染+SOFAの急性2点以上の上昇」であり、qSOFA(呼吸数・意識・の3項目)は感染が疑われる患者で転帰不良のおそれを拾うためにベッドサイドで使う簡便な指標であって、そのものではない6。が2点未満でも敗血症を除外できず、逆に2点以上でも即座に敗血症と確定するわけではない——「陽性=敗血症診断」と読み替えるのは典型的な誤解であり、確定的な臓器障害の評価にはを要するSOFAが必要になる。さらに2026年の敗血症診療国際ガイドラインは、院内の急性期患者の敗血症スクリーニングに、を単独のとして使うよりNEWS・NEWS2・・を用いるよう推奨している(強い推奨・エビデンスの確実性は中等度)7。

まとめ

項目 要点
共通の筋書き 低灌流 → 低酸素 → ATP↓ → 。臓器ごとの弱点(・・サーファクタント・尿細管)が表現型を決める
回復のしかた 臓器で異なる。は基底膜が保たれていれば多くが可逆、重症後の肺は線維化が残りうる。MODS=不可逆ではない
腸管 血流再分配で最初に犠牲になり、バリア破綻で細菌・が転座する。感染が一次原因でないショックでも二次性敗血症を介して MODS へ
肺 をあたり約6 mL・30 cmH₂O以下に抑える。重症例(PaO₂/FiO₂ <150程度)では早期・長時間のを追加
腎 重症度は ので定量。利尿薬はの管理に限り、AKI の予防・治療・腎回復の促進を目的に使わない
肝 は / がし灌流回復で数日のうちに急速に下がる。値の低下が回復とは限らず、/・意識・乳酸・血糖も併せて見る
凝固 と消費性の出血が同時進行する 。2025年 ISTH スコアは4項目で5点以上
定量評価 SOFA は6系統を0〜4点で採点しを追う。2025年に改訂版 SOFA-2 が出た(6系統は同じ、消化管・免疫は入らず)
と 敗血症=感染+SOFA の急性2点以上上昇。 はではなく、院内スクリーニングでも単独使用より NEWS・・ などが推奨される

出典

  1. 1.Ventilation with lower tidal volumes as compared with traditional tidal volumes for acute lung injury and the acute respiratory distress syndrome(New England Journal of Medicine・2000)予測体重1kgあたり6 mLを目標とする低一回換気量換気(プラトー圧30 cmH₂O以下)が、従来の一回換気量に比べ死亡率を低下させたことを確認した。閲覧 2026-08-14
  2. 2.Prone positioning in severe acute respiratory distress syndrome(New England Journal of Medicine・2013)肺保護換気を行った重症ARDS(PaO₂/FiO₂ <150)患者において、1回16時間以上の腹臥位療法を早期に行った群は仰臥位群に比べ28日死亡率が有意に低かった(16.0% vs 32.8%)ことを確認した。閲覧 2026-08-14
  3. 3.KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury(KDIGO・2012)全文PDFを取得して利尿薬に関する推奨を逐語確認した。3.4.1 利尿薬をAKIの予防に用いないことを推奨する(1B)、3.4.2 体液過剰の管理を除き利尿薬をAKIの治療に用いないことを提案する(2C)、5.2.2 腎機能回復の促進や腎代替療法の期間・頻度の短縮を目的に利尿薬を用いないことを提案する(2B)閲覧 2026-09-24
  4. 4.Updated definition and scoring of disseminated intravascular coagulation in 2025: communication from the ISTH SSC Subcommittee on Disseminated Intravascular Coagulation(International Society on Thrombosis and Haemostasis (ISTH) SSC・2025)顕性DICスコアが血小板数・Dダイマー・PT延長・フィブリノゲンの4項目からなり、合計5点以上を顕性DICに合致するとしたことを確認した。閲覧 2026-08-14
  5. 5.Development and Validation of the Sequential Organ Failure Assessment (SOFA)-2 Score(JAMA・2025)抄録(Europe PMC、PMC12573119)で確認した。修正デルファイ法による専門家の合意のあと、9か国1,319のICU(2014〜2023年)の成人データで開発・内部検証(4コホート2,098,356例)と外部検証(6コホート1,241,114例)を行った。SOFA-2は原版の6系統(脳・呼吸・循環・肝・腎・止血)を、新しい変数と改めた閾値で組み直し、ICU初日のAUROCは0.79(原版0.77)だった。消化管と免疫の障害はデータ不足と内容的妥当性の欠如のため組み込まれなかった閲覧 2026-09-24
  6. 6.The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3)(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine / JAMA・2016)敗血症を「感染に対する調節不全の宿主反応による生命を脅かす臓器障害」と再定義し、実務上はSOFAスコアの急性2点以上の上昇で表すとした。qSOFAは院内の確定診断・除外ツールではなくベッドサイドの簡便な予後不良予測指標として提案した。閲覧 2026-08-14
  7. 7.Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2026(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine・2026)DOI本体(Springer)はbot判定で取得できず、発行元SCCMの推奨一覧ページ(Surviving Sepsis Campaign Adult Guidelines)で逐語確認した。院内の急性期患者の敗血症スクリーニングでは、単一の道具としてqSOFAを用いるよりNEWS・NEW2(原文の表記)・MEWS・SIRSを用いることを推奨する(強い推奨、確実性は中等度)。敗血症は臨床診断であり単一のバイオマーカーや検査で確定も除外もしない(good practice statement)閲覧 2026-09-24