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Disease Atlas · 全身 · 症候群

多臓器機能障害症候群

Multiple organ dysfunction syndrome

別名
MODS多臓器不全MOFMultiple organ failure
臓器系
全身
科目
Translational Medicine and PathophysiologyMedical Microbiology
トピック
病態生理学 2-24:循環性ショックの臓器症状(MODS)微生物学 1/36:敗血症(定義・病態機序・微生物学的診断)
治療薬
ノルアドレナリン
症状
低血圧乏尿黄疸傾眠
検査値
クレアチニンビリルビン血小板数乳酸
スコア
SOFAスコア
元疾患
敗血症

🧠 全体像:(MODS)は、単一の病名ではなく「複数の臓器が同時または順次に機能不全へ陥った状態」を指す症候群である。敗血症・外傷・熱傷・・大手術など出発点となる原疾患は多岐にわたるが、そこから先は → → → という共通の経路をたどる。臨床ではで臓器障害を定量し、障害臓器数がそのまま死亡率に直結するという単純な関係が、この症候群の重症度を理解するうえで最も重要な軸になる。

定義

MODSは、2つ以上の臓器の同時または順次的な機能障害により恒常性を維持できなくなると定義される1。かつては「(MOF)」と不可逆的な臓器の「」を前提とする用語が使われていたが、実際には臓器ごとに回復のしかたが異なり、可逆的な機能低下から不可逆的な不全まで連続体をなすため、現在は程度を問わない「」という語を用いるのが一般的である。

原因となる病態

MODSは特定の疾患ではなく、さまざまな重症病態の終末像として生じる。代表的な原因は次のとおりである1。

  • 敗血症・(最多の原因)
  • 外傷・
  • 熱傷
  • 重症
  • 大手術後の侵襲
  • 重症の、など

外傷患者における遅発性死亡(受傷後の早期を乗り越えたあとの死亡)の51〜61%はMODSに起因するとされ、初期救命後の経過観察においてもMODSの発症・進行を監視する意義は大きい1。

病態機序

原疾患の種類を問わず、MODSへ至る経路は共通の骨格を持つ。感染やを契機に自然免疫が活性化し、・IL-1・IL-6などのと・プロスタグランジンなどのメディエーターが放出されて過剰な炎症反応が生じる。これが血管内皮を活性化し、・・凝固因子の放出をさらに増加させる2。

flowchart TD
    A["原疾患<br>(敗血症・外傷・熱傷・膵炎・大手術など)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory cytokine'>炎症性サイトカイン</span>・メディエーターの放出<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor necrosis factor-alpha'>TNF-α</span>・IL-1・IL-6・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high mobility group box 1'>HMGB1</span>)"]
    B --> C["血管内皮の活性化<br>凝固活性化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nitric oxide, NO'>一酸化窒素</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet-activating factor'>血小板活性化因子</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary blood'>毛細血管血</span>流の断続的・完全な停止<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microcirculatory dysfunction'>微小循環障害</span>)"]
    D --> E["臓器血流が保たれていても<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue hypoxia'>組織低酸素</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cellular'>細胞レベル</span>の酸素利用障害"]
    E --> F["臓器ごとの機能障害が同時・順次に進行"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multiple organ dysfunction syndrome, MODS'>多臓器機能障害症候群</span>(MODS)"]

💡 MODSの本質は「血流が来ていても細胞が酸素を使えない」という点にある。 が進むと、たとえ心拍出量や大血管の灌流を保っても、末梢の毛細血管レベルで血流が途絶えたり、細胞のミトコンドリア機能そのものが障害されたりする(cytopathic hypoxia)。「輸液とでマクロな血行動態を正常化すれば臓器は守れる」という単純な図式では説明しきれない理由がここにある。

腸管は血流再分配で真っ先に犠牲になる臓器であり、が破綻して腸内細菌・が血流へ転座すると、原因が感染でなくても二次的に敗血症様の反応を来し、悪循環をさらに加速させる。

臓器別の障害パターン

各臓器は「低灌流 → 低酸素 → ATP産生低下 → 細胞傷害」という共通の筋書きをたどるが、臓器ごとの構造的な弱点が表現型を決める(詳細は病態生理学 2-24を参照)。

臓器 主な障害像 SOFAでの評価指標
循環 低下→低下→心拍出量低下という悪循環、 ・の種類と用量
呼吸 サーファクタント低下・亢進による() 比
腎 虚血・尿細管低酸素による クレアチニンまたは尿量
肝 の() ビリルビン
中枢神経 意識障害、の破綻
凝固 とが同時進行する()

⚠️ 「」は結果から振り返って初めて言える分類であり、その場で臓器支持を諦める根拠にはならない。 は基底膜が保たれていれば再生し可逆的なことが多い一方、重症後の肺には線維化が残ることがあるなど、臓器ごとに回復の見込みは大きく異なる。

SOFAスコアとの関係

(Sequential Organ Failure Assessment)は、呼吸・凝固・肝・循環・中枢神経・腎の6系統をそれぞれ0〜4点で評価し合算する、MODSの重症度を定量する代表的なスコアである3。単回の点数よりもな変化(sequential)を追うことが本来の狙いであり、臓器障害の悪化・改善をモニタリングするとして使う。

()は「感染+の急性2点以上の上昇」であり、この「2点以上の上昇」自体がMODSの発生を実務的に検出する基準になっている3。ただし、MODSは敗血症に限らず外傷・熱傷などの原疾患からも生じるため、SOFAは敗血症のであると同時に、原因を問わないMODSの重症度評価としても用いられる。

診断

MODSに単一の確定検査はなく、原疾患を疑うのもとで、複数臓器の機能低下を・で確認することで診断する。実務的には、感染症状に伴うSOFA急性2点以上の上昇、あるいは外傷・熱傷などの侵襲後に2臓器以上の機能障害が同時または順次にみられることをもって認識する。クレアチニン・ビリルビン・・乳酸などのと、乏尿・黄疸・傾眠・低血圧といったを系統的に評価し、臓器ごとの障害の有無・程度を確認する。

管理の考え方

MODSそのものを直接治す薬剤はなく、管理は次の2本柱で構成される。

  1. 原疾患の治療:感染源のコントロールと抗菌薬(敗血症の場合)、出血源の制御(外傷の場合)、壊死組織の(熱傷の場合)など、MODSを引き起こしている根本病態を止める
  2. 臓器支持療法:ノルアドレナリンなどのによる循環サポート、人工呼吸によるへの、、輸血・によるへの対応など、機能を失った臓器を時間的に代替する

原疾患の治療と臓器支持は並行して行い、どちらか一方を優先して他方を後回しにしない。

予後

障害臓器数が増えるほど死亡率は直線的に上昇する——これがMODSの重症度を理解する最も重要な事実である。ある総説では、2臓器障害での平均死亡率が59%、3臓器障害で75%、4臓器以上ではほぼ100%に達するとされる2。臓器別ではを伴う例の死亡率が79%と最も高く、次いで呼吸機能障害が68%である2。

近年のメタ分析ではMODSのは11〜56%とばらつきが大きく、患者全体の死亡率も44〜76%の範囲で報告されており、経過を左右する背景因子(原疾患の種類、年齢、既存の臓器など)が大きいことがうかがえる1。

まとめ

  • MODSは単一の疾患ではなく、敗血症・外傷・熱傷・膵炎・大手術など多様な原疾患から生じる「2つ以上の臓器の同時・順次の機能障害」という症候群である。
  • 病態の骨格は、・メディエーターの放出→→→というであり、臓器血流が保たれていてものが起こりうる。
  • で6系統の臓器機能を定量し、な変化を追う。(感染+SOFA急性2点以上の上昇)はMODSの実務的な検出基準にもなっている。
  • 管理は原疾患の治療と臓器支持療法の2本柱を並行して行う。
  • ⚠️ 障害臓器数がそのまま死亡率に直結する(2臓器で約59%、3臓器で約75%、4臓器以上でほぼ100%)。早期に臓器障害の進行を検出し、原疾患の治療を遅らせないことが予後を左右する。

出典

  1. 1.Braden score for early mortality risk assessment in critically ill intensive care patients with multiple organ dysfunction syndrome(Scientific Reports・2025)MODSは、2つ以上の臓器の同時または順次的な機能障害により恒常性を維持できなくなる臨床症候群と定義される。近年のメタ分析ではMODSの有病率は11〜56%の範囲で報告され、有意な改善は認められていない。患者全体の死亡率は44〜76%の範囲で変動し、障害臓器数の増加に伴い上昇する。外傷患者における遅発性死亡の51〜61%はMODSに起因する。主要な原因として敗血症・外傷・感染症が挙げられる。閲覧 2026-09-08
  2. 2.Research status and advances in dexmedetomidine for sepsis‑induced multiple organ dysfunction syndrome (Review)(International Journal of Molecular Medicine・2025)敗血症誘発性多臓器機能障害症候群(MODS)に関する総説。MODSは感染に対する調節不全な宿主反応により2つ以上の臓器機能障害が生じた状態と定義される。感染初期にTNF-α・IL-1・IL-6などのサイトカインとHMGB1・プロスタグランジン等の炎症メディエーターが放出されて免疫が過剰活性化し、血管内皮が活性化してサイトカイン・一酸化窒素・血小板活性化因子・凝固因子の放出がさらに増加する。これにより毛細血管血流の断続的または完全な停止が生じ、臓器への血流供給が保たれていても組織低酸素状態と細胞レベルの酸素供給異常(cytopathic hypoxia)が起こって臓器機能不全へ進行する。WHOの2020年データでは世界の敗血症関連死は1,100万件で全世界死亡の約20%を占める。米国におけるMODSの発生率は約240〜300/10万人で、ICU入院患者の約54%がMODSを発症する。障害臓器数が増えるほど死亡率は上昇し、2臓器障害で平均死亡率59%、3臓器障害で75%、4臓器以上ではほぼ100%に達するとされる。臓器別では腎機能障害の死亡率が79%と最も高く、次いで呼吸機能障害が68%である。閲覧 2026-09-08
  3. 3.The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3)(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine / JAMA・2016)敗血症を「感染に対する調節不全の宿主反応による生命を脅かす臓器障害」と再定義し、実務上はSOFAスコアの急性2点以上の上昇で表すとした。SOFAは呼吸・凝固・肝・循環・中枢神経・腎の6系統をそれぞれ0〜4点で評価し合算する臓器機能不全の重症度スコアである。閲覧 2026-09-08