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Disease Atlas · 全身 · 症候群

全身性炎症反応症候群(SIRS)

Systemic inflammatory response syndrome

別名
SIRS
臓器系
全身感染症
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 1/36:敗血症(定義・病態機序・微生物学的診断)
関連疾患
敗血症
症状
発熱頻脈頻呼吸
検査値
白血球数

🧠 全体像:()は、「感染に限らない、あらゆる強い侵襲に対する全身の炎症反応」を4つの・で捉えようとした、1991年のである。⚠️ 現在の(2016年)では、は敗血症のとしては使われていない。 特異度が低いうえに感度も万全ではなく、敗血症を「感染+」として定義した旧モデル(Sepsis-1/2)は、「感染に対するなによる臓器機能不全」というに基づく定義に置き換えられた1。それでもという概念そのものは消えていない——発熱以外の全身炎症を素早く拾うスクリーニングとして、そして外傷・熱傷・膵炎など感染以外の侵襲を評価する枠組みとして今も使われている。

診断基準

以下の4項目のうち2項目以上を満たすとと判定する2。

項目 基準
体温 38℃超 または 36℃未満
心拍数 90/分超
呼吸数 20/分超 または 32 mmHg未満
12,000/μL超 または 4,000/μL未満、あるいは()10%超

⚠️ どの原因でが起きたかは、この4項目だけからは分からない。 4基準に重みづけは無く、発熱とが同列に扱われる。これは感染性かかを区別できないという、この基準の本質的な限界である2。

原因——感染に限らない

⭐ の定義そのものに「感染」という条件は入っていない。 原因は大きく2系統に分かれる2。

系統 例
感染性(PAMP関連) 、腎盂腎炎、インフルエンザ・SARS-CoV-2などのウイルス感染、播種性真菌感染、
(DAMP関連) 熱傷、外傷、手術、、誤嚥、急性、、自己免疫性血管炎の増悪、、、、

💡 「感染性の(PAMP)」と「の損傷関連分子パターン(DAMP)」は、自然免疫が認識する分子の由来が違うだけで、どちらも同じを起動しうる。 これが、外傷・熱傷・膵炎という感染とはな病態がの原因になりうる理由である。

病態機序

flowchart TD
    A["侵襲(感染性PAMPまたは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-infectious'>非感染性</span>DAMP)"] --> B["発症1時間以内にIL-1・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor necrosis factor-alpha'>TNF-α</span>が活性化"]
    B --> C["サイトカイン伝播"]
    B --> D["凝固系の変化<br>微小血管内血栓"]
    B --> E["ストレスホルモン放出<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='catecholamine'>カテコラミン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasopressin'>バソプレシン</span>"]
    C --> F["炎症性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-inflammatory'>抗炎症性</span>カスケードの<br>バランスが炎症側に傾く"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic inflammatory response syndrome'>SIRS</span>(発熱・頻脈・頻呼吸・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='white blood cell count'>白血球数</span>異常)"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interleukin-4'>IL-4</span>・IL-10による<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='compensatory anti-inflammatory response syndrome, CARS'>代償性抗炎症反応症候群</span>(CARS)"]
    H -->|"制御が効けば"| I["収束"]
    H -->|"CARSが行き過ぎれば"| J["免疫抑制・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary infection'>二次感染</span>"]

の伝播・凝固系の活性化・ストレスホルモン放出という3経路が並行して進み、炎症性・カスケードのバランスが炎症側に傾いたときにとして表面化する。これに対して働く(CARS)が制御を失うと、今度は免疫抑制とのリスクが高まる2。

歴史的位置づけ——SIRSから敗血症の定義がどう変わったか

⚠️ 「SIRS→敗血症→→」という段階的モデルは、現在のな敗血症ではない。 この経緯を年代で押さえる21。

時期 定義の枠組み
1991年(Sepsis-1) 基準が標準化のために策定される。敗血症=感染によるとされた
2001年(Sepsis-2) PIROモデル(predisposition, insult, response, organ dysfunction)が導入されるが、基準自体は維持
2016年() を敗血症の診断要件から外す。敗血症を「感染に対するなによる生命を脅かす臓器機能不全」と再定義し、臨床的にはの2点以上の急性増加で操作的に判定する。「」という用語は冗長として廃止された1。ただし小児は定義の対象外とされた3
2024年(Phoenix基準・小児) SCCMの小児敗血症定義タスクフォースが、感染を疑う小児でPhoenix Sepsis Score(呼吸・循環・凝固・神経の4)2点以上を敗血症、うち1点以上をと定義。基準に基づく2005年の小児基準を置き換えた3

⚠️ 「2016年では終わった」は成人の話である。 は小児を対象から除外していたため、小児の敗血症定義がから離れたのはその8年後である。Phoenix基準のタスクフォースは、置き換えた2005年の小児基準について「予測性能に乏しい基準を用い、冗長な『』という用語を含んでいた」と述べている3。

⭐ が退けられた理由は「特異度が低い」だけではない——感度も万全ではなかった。 特異度の低さは下の疫学の節のとおりで、外傷では92.4%が基準を満たす2。感度の側を示したのがKaukonenらの研究で、オーストラリア・ニュージーランドの172のに2000〜2013年に入室した1,171,797例のうち感染と臓器障害の両方をもつ109,663例を解析し、そのうち12.1%(13,278例)は基準を2項目以上満たしていなかったと報告した——臓器障害を来している敗血症患者を、基準だけでは8人に1人取りこぼす計算になる。さらに同研究は、の項目が1つ増えるごとに死亡のが直線的に上がるだけで(各項目あたり1.13、95%CI 1.11〜1.15)、「2項目」というところに死亡リスクのは無かったことも示した。 2項目という線引きは、感度の面でも死亡リスクの面でも特別な意味を持っていなかったことになる4。

現在も使われている文脈

⚠️ は「過去の遺物」ではない。 Surviving Sepsis Campaign 2026は、入院中の急性期患者のスクリーニングでは、qSOFAを単独のツールとするよりNEWS/NEWS2//を用いることを強く推奨している5。は特異度が高く死亡を予測しやすい一方、基準はより早期に基準を満たすため、初期の警報としての価値が残る2。

💡 もう一つの使いどころは、感染に限定されない全身炎症の評価そのものである。 熱傷・外傷・膵炎など、感染を伴わない侵襲でも全身の炎症反応が予後を左右する場面では、という「原因を問わない」枠組みが今でも臨床的に意味を持つ。

疫学と限界

基準は設定によって満たす頻度が大きく異なり、外傷では92.4%、小児では82%、発熱入院患者では95%が基準を満たす。救急外来受診の17.8%(年間約1,660万件)が該当し、一般病棟でも入院患者の47%が入院中のいずれかの時点で基準を満たす2。

⚠️ 陽性であることは、感染があることを意味しない。 ある病棟コホートでは、陽性例のうち確定診断された感染を伴っていたのは4分の1のみであった2。一方で陽性群の死亡率(4.3%)は陰性群(1.2%)より有意に高く、・敗血症・・の順に死亡率は7%・16%・20%・46%と段階的に上昇する(この段階分けは以前の旧定義によるもので、「」という区分は現在は使われない)2。⭐ 「は敗血症のではなくなったが、予後不良の指標としての意味は失っていない」——この二重性がという概念を理解するうえでの核心である。

まとめ

  • は体温・心拍数・呼吸数(または)・の4項目のうち2項目以上で定義される、感染に限らない全身炎症反応の操作的基準である。
  • ⚠️ 2016年の以降、は敗血症のとしては使われていない。 敗血症は「感染に対するなによる臓器機能不全」(SOFA 2点以上の急性増加)として再定義され、「」という用語も廃止された。ただしは小児を対象外としており、小児で基準が置き換わったのは2024年のPhoenix基準による3。
  • が退けられた理由は特異度の低さ(外傷では92.4%が該当)と感度の不足の両方である——感染と臓器障害をもつ109,663例の検討では12.1%(8人に1人)が基準を2項目以上満たさず、しかもの項目数と死亡リスクは直線的な関係で「2項目」にが無かった4。
  • ⭐ それでもは現役である。 Surviving Sepsis Campaign 2026は院内スクリーニングで単独より//の使用を強く推奨し、感染に限らない全身侵襲(外傷・熱傷・膵炎など)の評価にも使われ続けている。
  • 陽性であることは感染の証明にはならない(陽性例の4分の1のみが感染を確定)が、死亡率という点では陰性群より有意に予後不良である。

出典

  1. 1.The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3)(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine / JAMA・2016)2016年のSepsis-3で敗血症は「感染に対する調節不全な宿主反応による生命を脅かす臓器機能不全」と再定義され、臨床的にはSOFAスコアの2点以上の急性増加(院内死亡率10%超に相当)で操作的に判定する。SIRS基準は感度・特異度が不十分として退けられ、「重症敗血症(severe sepsis)」という用語は冗長として廃止された。敗血症性ショックは輸液後もMAP 65 mmHg以上の維持に昇圧薬を要し血中乳酸値が2 mmol/L超の病態と定義され、院内死亡率は40%を超える閲覧 2026-09-07
  2. 2.Systemic Inflammatory Response Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)2025年6月20日改訂版の全文を自分で取得して確認した。SIRSが体温・心拍数・呼吸数(またはPaCO2)・白血球数の4項目のうち2項目以上を満たすことで定義されること(体温38℃超または36℃未満、心拍数90/分超、呼吸数20/分超またはPaCO2 32 mmHg未満、白血球数12,000/μL超または4,000/μL未満または幼若球10%超)、原因が感染性(細菌性肺炎・腎盂腎炎・インフルエンザやSARS-CoV-2などのウイルス感染・播種性真菌感染・毒素性ショック症候群などのPAMP関連)と非感染性(熱傷・外傷・手術・急性膵炎・誤嚥・臓器虚血・薬物毒性・自己免疫性血管炎の増悪・腸管穿孔・血液悪性腫瘍・Stevens-Johnson症候群・ECMOなどのDAMP関連)に分かれること、病態機序がBoneの提唱した5段階モデルに沿い発症1時間以内のIL-1・TNF-α活性化がサイトカイン伝播・凝固系の変化(微小血管内血栓)・ストレスホルモン(カテコラミン・バソプレシン)放出という3経路の引き金となること、炎症性・抗炎症性カスケードのバランスが前者に傾くとSIRSが進行すること、IL-4・IL-10による代償性抗炎症反応症候群(CARS)が制御を失うと免疫抑制と二次感染を招くこと、定義の変遷として1991年のコンセンサス会議でSIRS基準が標準化のために策定されたこと、2001年のSepsis-1/2でPIROモデル(predisposition, insult, response, organ dysfunction)が導入されたこと、2016年のSepsis-3がSIRSを要件から外し敗血症を「感染に対する調節不全な宿主反応による生命を脅かす臓器機能不全」と再定義してSOFA・qSOFAを優先したこと、「重症敗血症」という用語は2016年にSepsis-3タスクフォースが廃止したことを明記していること、SIRS基準は感度は高いが特異度を欠き外傷ICUでは基準を満たす患者が92%に達すること、原疾患が感染性か非感染性かを区別できないこと、各基準に重みづけが無く発熱と白血球増加が同列に扱われること、臓器障害を確実に予測できないこと、Kaukonenらの13万例超の敗血症患者を対象にした研究で8人に1人がSIRS基準2項目以上を満たさなかったと報告されていること、2023年のシステマティックレビューでqSOFAはより高い特異度で死亡を予測する一方SIRS基準はより早期に基準を満たすことが示されたこと、疫学として救急外来受診の17.8%(年間約1,660万件)・小児ICUの82%・外傷ICUの92.4%・発熱入院患者の95%・冠疾患ICU入院時の33.9%でSIRS基準を満たすこと、一般病棟患者の47%が入院中のいずれかの時点で基準を満たしSIRS陽性群の死亡率(4.3%)がSIRS陰性群(1.2%)より有意に高かったこと、SIRS・敗血症・重症敗血症・敗血症性ショックの順に死亡率がそれぞれ7%・16%・20%・46%と段階的に上昇すること、ある病棟コホートでSIRS陽性例の4分の1のみが感染の確定診断を伴っていたことを確認した。⚠️ ただしこの改訂版はKaukonenらの研究を「13万例超の敗血症患者」と記述しており、原著(NEJM 2015)で解析されたのはICU入室1,171,797例のうち感染と臓器障害を併せもつ109,663例なので、この数字は総説側の誤記である。閲覧 2026-09-07
  3. 3.International Consensus Criteria for Pediatric Sepsis and Septic Shock(Society of Critical Care Medicine / JAMA・2024)Europe PMC(PMID 38245889、PMC10900966)で抄録全文を取得して確認した。2016年のSepsis-3は敗血症を「感染に対する調節不全な宿主反応による生命を脅かす臓器機能不全」と定義したが小児を対象から除外していたこと(but it excluded children)、従来の小児基準は2005年に専門家の合意として公表されSIRS基準を用いていたが予測性能に乏しく「重症敗血症」という冗長な用語を含んでいたこと(prior pediatric sepsis criteria that used systemic inflammatory response syndrome (SIRS) criteria, which have poor predictive properties, and included the redundant term, severe sepsis)、SCCMの小児敗血症定義タスクフォース(6大陸35名)が感染を疑う小児でPhoenix Sepsis Score 2点以上を敗血症と定めたこと、Phoenix 2点以上の小児の院内死亡率が高資源環境7.1%・低資源環境28.5%であったこと、敗血症性ショックを循環器系1点以上(年齢別の高度低血圧・血中乳酸5 mmol/L超・血管作動薬の必要性のいずれか)と定義したことを確認した閲覧 2026-09-08
  4. 4.Systemic Inflammatory Response Syndrome Criteria in Defining Severe Sepsis(New England Journal of Medicine・2015)Europe PMC(PMID 25776936)で抄録全文を取得して確認した。オーストラリア・ニュージーランドの172のICUで2000〜2013年に登録された1,171,797例のうち、感染と臓器障害を併せもつ患者は109,663例であり、うち96,385例(87.9%)がSIRS陽性の重症敗血症、13,278例(12.1%)がSIRS陰性の重症敗血症であった。調整解析ではSIRSの基準が1つ増えるごとに死亡のオッズが上昇し(各基準あたりオッズ比1.13、95%CI 1.11〜1.15)、2基準という閾値で死亡リスクが段差をなす所見は得られなかった。結論は、重症敗血症の定義に2項目以上のSIRS基準を求めることが、感染・臓器障害・相当の死亡率をもつ他は同様の患者を8人に1人除外し、死亡リスクの遷移点を定義できていないというもの(excluded one in eight otherwise similar patients)である。閲覧 2026-09-08
  5. 5.Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2026(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine・2026)2021年版を土台にした成人ガイドライン。発行元SCCMの推奨一覧(Intensive Care Medicine 52巻5号863〜936頁、2026年3月23日公開)で各推奨の文言と格付けを確認した。院内の急性期患者ではqSOFAを単独ツールとするよりNEWS/NEW2/MEWS/SIRSを用いる(強い推奨・中等度)。敗血症は臨床診断であり単一のバイオマーカー・検査で確定も除外もしない(good practice statement)。抗菌薬は敗血症性ショック、およびショックのない確実・可能性の高い敗血症で「直ちに、理想的には認識1時間以内」(いずれも強い推奨・きわめて低い)、ショックのない可能性のある敗血症では時間限定の迅速評価を行い懸念が残れば初回疑いから3時間以内(条件付き・きわめて低い)、感染の可能性が低くショックがなければ、厳重な監視を続けながら投与を差し控える(条件付き・きわめて低い。原文は deferring antimicrobial therapy while continuing to closely monitor the patient で、投与しない許可ではなく監視の継続とセットの提案である)。初期MAP目標65 mmHg(強い推奨・中等度)。ノルアドレナリンを第一選択(ドパミン・アドレナリン・セレプレシンに対して強い推奨)。敗血症性ショックには静注副腎皮質ステロイドを使用(条件付き・低い)。閲覧 2026-09-07