症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

頻脈

Tachycardia

別名
頻拍tachycardia
臓器系
循環器
科目
Internal MedicineCardiology
トピック
内科学 L-07:頻脈患者の鑑別診断と管理内科学 S-02:心臓の刺激生成・伝導障害循環器内科 A-30:上室性不整脈循環器内科 A-33:心室性不整脈
関連疾患
悪性高熱症急性冠症候群抗コリン薬中毒市中肺炎心房粗動中毒性巨大結腸症糖尿病性自律神経障害肺血栓塞栓症脾捕捉症候群
起因薬
アルグルコシダーゼアルファキサノメリン・トロスピウムソルリアムフェトールトロピカミドヒドロキシアンフェタミンミノキシジル大麻
スコア
Burch-WartofskyスコアGorelick scoreSCORTEN

🧠 全体像:頻脈は「心拍数が上がっている」という所見であって、不整脈と同義ではない。最初に置くべき分岐は、これが不整脈そのものか、それとも出血・低酸素・発熱など他の病態に対する生理的な代償(かである。次に血行動態が保たれているかを確認する。この2軸だけで初期対応の方向性がほぼ決まる——不安定なら機序を問わず電気治療、代償性のなら心拍数そのものではなく背景疾患を治療する。個々の不整脈(性頻拍心房細動)の各論は専用ノートに譲り、この症状ノートは頻脈という所見をどう最初に捌くかを扱う。

定義と用語の整理

成人では、100/分を超える状態を頻脈とする。小児は年齢によってが異なり、同じ心拍数でも新生児では正常範囲、学童期以降では明らかな頻脈になりうる。

頻脈は心電図や脈拍測定で確認されるな所見であり、患者が「脈が速い」と感じる症状ではない。症状として拍動を意識する訴えはと呼び、独立した軸として評価する。頻脈があってもを訴えない患者もいれば、心拍数が正常範囲でもを強く訴える患者もいる。

「頻脈」と「頻拍」はしばしば同じ意味で使われるが、慣用として使い分けると理解しやすい。頻脈は心拍数が速いという所見全般を指す包括語で、のような生理的な状態も含む。頻拍は、性頻拍・のように、特定の機序で生じる不整脈エピソードを指す病名の構成要素として使われることが多い。

鑑別を進める枠組みは、QRS幅(狭い:<120 ms/広い:≥120 ms)との規則性(整/不整)の組合せで決まる。この2軸に血行動態の安定性を重ねると、後述の鑑別アルゴリズムがそのまま導かれる。

触知した脈拍数と心電図上の心拍数は、必ずしも一致しない。心房細動などでが不十分なまま収縮すると、拍出量の乏しい拍動は末梢で触知できず、脈拍数が心拍数より少なく数えられる()。頻脈を評価するときは、可能なら心電図またはによる心拍数で判断する。

用語 種類 意味
頻脈 所見 心拍数>100/分という所見全般。を含む
頻拍 病名の構成要素 など特定の機序による不整脈エピソード
症状 心拍動を意識してしまうという訴え。頻脈の有無と必ずしも一致しない

病態生理

頻脈の機序は3群に大別すると鑑別が整理しやすい。

機序 代表例
(生理的代償) の亢進・の低下によるの亢進 発熱、脱水・出血、貧血、低酸素、疼痛、甲状腺機能亢進症
心房・由来の、または 性頻拍心房細動
③心室性 分岐部より下の・瘢痕を介した

①は不整脈そのものではなく、心拍出量や酸素需給の不均衡を代償するための生理反応である。原因が是正されれば頻脈も解消するため、治療対象は頻脈ではなく背景にある脱水貧血敗血症などの原因疾患である。

②③はいずれも心臓の電気的活動そのものが異常な不整脈であり、が正常に興奮を作っていない。②は心房・を含む回路やが起源で、通常QRS幅は狭い(の関与では広くなりうる)。③は分岐部より下が起源で、通常QRS幅は広い。

⭐ 実地では、機序ではなく所見からこの3群を推定する。突然発症・突然停止し、で止まるなら②のうち依存性の回路を疑う。じわじわ上下し、発熱・脱水・疼痛など明らかな誘因があれば①を疑う。幅広いQRSで規則的なら③を第一候補に置く。

⚠️ 見逃してはいけないこと

⚠️ 血行動態が不安定な頻脈は、機序の特定を待たずを行う。 低血圧、意識変容、虚血性胸痛、のいずれかが頻脈に起因すると判断すれば、心電図で機序を突き止めるより先に電気治療へ進む1

⚠️ 頻拍は、証明されるまでとして扱う。 「若年だから性だろう」という年齢だけの推定でを投与しない。の既往はいずれもを支持する所見であり、判断に迷う波形は安全側に倒す1

⚠️ 代償性の薬で機械的に抑えると危険である。 、敗血症、などでは、頻脈は低下した心拍出量やを補う代償反応であり、β遮断薬などで心拍数だけ下げるとを奪ってを悪化させる。

⚠️ を伴う不規則な頻拍では、を避ける。 心房細動する場合、アデノシン・β遮断薬・ジゴキシンの伝導を相対的に強め、へ移行しうる2

⚠️ 失神・を伴う頻脈は、頻脈の鑑別に載せず、危険な失神として評価する。 頻拍が心拍出量を保てないところまで進んでいる可能性があり、失神の枠組みで原因検索と入院判断を行う。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["頻脈を確認<br>成人で安静時>100/分"] --> B{"血行動態は安定か"}
    B -->|"不安定:低血圧・意識変容・虚血性胸痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute HF'>急性心不全</span>"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synchronized cardioversion'>同期下カルディオバージョン</span><br>機序の特定を待たない"]
    B -->|"安定"| D["12誘導ECGでQRS幅を確認"]
    D --> E{"QRS幅 ≥120 msか"}
    E -->|"狭い"| F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhythm'>調律</span>は規則的か"}
    E -->|"広い"| G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhythm'>調律</span>は規則的か"}
    F -->|"規則的"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinus tachycardia'>洞性頻脈</span>・AVNRT・AVRT・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atrial flutter'>心房粗動</span>2:1を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='vagal stimulation (vagal maneuver)'>迷走神経刺激</span>→アデノシン"]
    F -->|"不規則"| I["心房細動・可変伝導の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atrial flutter'>心房粗動</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multifocal atrial tachycardia, MAT'>多源性心房頻拍</span>を疑う"]
    G -->|"規則的・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monomorphic'>単形性</span>"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventricular tachycardia, VT'>心室頻拍</span>として扱う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='antiarrhythmics'>抗不整脈薬</span>・専門医コンサルト"]
    G -->|"不規則・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleomorphism'>多形性</span>"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polymorphic ventricular tachycardia'>多形性心室頻拍</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='torsades de pointes'>トルサード・ド・ポアン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pre-excitation'>早期興奮</span>を伴う心房細動を疑う"]

では、突然発症・突然停止か、じわじわ上下するかを最初に聞く。前者は依存性の性頻拍、後者は①の生理的代償を示唆する。誘因(発熱、脱水、疼痛、、労作、)、(息こらえ・冷水・しゃがみ込み)で止まるか、めまい失神呼吸困難胸痛を伴うかを確認する。

身体所見では、発熱、脱水所見、蒼白・貧血様所見、甲状腺腫大・振戦、出血源の有無、、肺うっ血所見を評価し、①の原因検索を並行する。

検査は12誘導ECGを軸に、血算、電解質、甲状腺機能、必要に応じてを追加する。QT延長の有無はQT延長としてのリスク評価に用いる。発作性で症状時のECGが取れない場合は、など記録手段を発作頻度に合わせて選ぶ。心エコーはの有無を確認し、繰り返す性頻拍やの基質検索につなげる。

⭐ 機序が確定できない発作性の頻拍、の疑い、を示唆する所見があれば、外来での経過観察を急がず入院または専門科紹介を優先する。

対応の考え方

頻脈という所見そのものを治療するかどうかは、①か②③かで方針が逆転する。

  • ①生理的代償のは、心拍数そのものを治療対象にしない。原因である脱水貧血・発熱・疼痛・甲状腺機能亢進症などを是正すれば、頻脈は結果として解消する。
  • ②③の不整脈は、頻脈という現象自体が介入対象になりうる。ただし急性期の一段目は機序ではなく血行動態で決まる。不安定なら、無脈なら心停止として、安定な狭いQRS頻拍では→アデノシン→、安定な頻拍(として扱う)ではなどのによる薬物治療に進む。
  • 薬剤の用量、の適応、などの長期管理は、性頻拍心房細動の各論に委ねる。この症状ノートが扱うのは、頻脈をどちらの分岐に載せるかという最初の判断までである。
  • 頻脈がのように他疾患のとして現れている場合、頻脈自体への介入より原疾患の診断・治療を優先する。
  • 原因を是正した後も頻脈が続く場合は、代償反応の見立てを見直し、隠れた不整脈や治療が不十分な原疾患を再評価する。

まとめ

  • 頻脈は成人で>100/分という所見であり、症状であるとは別物である。
  • 最初の分岐は、不整脈そのものか、他の病態への生理的な代償()かである。
  • 次の分岐は血行動態が保たれているかで、不安定なら機序を問わずを行う。
  • 機序は(代償)、性、心室性の3群に分け、QRS幅と規則性で絞り込む。
  • 頻拍は証明されるまでとして扱い、判断に迷えば安全側に倒す。
  • 代償性の薬で抑えると、を奪いを招く。
  • を伴う不規則な頻拍ではを避ける。
  • 失神を伴う頻脈は、頻脈の鑑別ではなく失神として評価する。

出典

  1. 1.Part 9: Adult Advanced Life Support: 2025 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care(American Heart Association・2025)血行動態不安定な頻脈は機序を問わず同期下カルディオバージョンが第一選択であり、幅広QRS頻拍は原則として心室頻拍として扱うことを、Adult Tachyarrhythmia With a Pulseアルゴリズムで確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.2015 ACC/AHA/HRS Guideline for the Management of Adult Patients With Supraventricular Tachycardia(American College of Cardiology / American Heart Association / Heart Rhythm Society・2015)早期興奮を伴う不規則な幅広QRS頻拍(心房細動が副伝導路を順行する場合)では房室結節伝導抑制薬を避けるべきであることを確認した閲覧 2026-08-03