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Drug Atlas · A18 Antipsychotics / 抗精神病薬 · 必修

クロザピン

clozapine

分類
Antipsychotics / 抗精神病薬
商品名(日本)
クロザリル
商品名(EU)
Leponex
科目
Pharmacology
トピック
A18: Antipsychotics
承認適応
治療抵抗性統合失調症
禁忌疾患
イレウス・腸閉塞
副作用
痙攣便秘流涎過多頻脈めまい体重増加発熱
監視検査値
絶対好中球数白血球数好酸球数血小板数血糖HbA1c脂質
影響検査値
好中球減少高血糖
相互作用
カルバマゼピンメタミゾール
対象疾患
McLeod症候群統合失調感情障害
原因となる疾患
ジストニア重積悪性症候群心筋炎無顆粒球症

🧠 全体像:は抗精神病薬の中で唯一「他剤に勝る」というエビデンスを持つ、の切り札である。D2受容体への親和性が弱くすぐ解離する一方、D4・5-HT2A・M1など多数の受容体に広く弱く結合する変わった薬理プロファイルのおかげでEPS・はほとんど起きない。だがその代償としてという致死的なを負っており、定期的な好中球数モニタリングという運用そのものが薬の一部になっている。「効くが、管理コストが高い」——この一言に尽きる薬である。

薬効群の中での位置づけ

世代・型 代表薬 特徴 主な適応
定型・高力価 など D2遮断のみ→EPSが強く出やすい
非定型(第2世代) ・など D2+5-HT2A遮断→ 、
(別格) — D4/5-HT2A拮抗・低D2親和性。唯一「他剤に勝る」根拠を持つがのリスクで最終手段 (自殺行動のリスク低減は米国の適応)
(第3世代) ・ ドパミン系を「安定化」、代謝副作用少 、の補助

⭐ は「非定型の元祖」でありながら非定型の枠に収まらない。 D2親和性が低いのにEPSがほとんど出ない理由は「結合してもすぐ外れる」というの的な性質にあり、単純な率では説明できない。この特殊性が、EPSの少なさと引き換えに・心筋炎・痙攣という他の非定型薬にはないリスクを背負う理由でもある。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clozapine'>クロザピン</span>が複数受容体に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low affinity'>低親和性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fast dissociation (fast-off)'>速い解離</span>で結合"] --> B["D2受容体を弱く遮断(すぐ解離)"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='5-HT2A receptor'>5-HT2A受容体</span>を強く遮断"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='M1 muscarinic receptor'>M1受容体</span>には部分的に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='agonist'>アゴニスト</span>様作用(M4刺激含む)"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='positive symptoms'>陽性症状</span>を軽減、EPS・高プロラクチンはほぼ生じない"]
    C --> E
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paradoxically'>逆説的</span>な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sialorrhea (hypersalivation)'>唾液過多</span>"]
    A --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow progenitor cell'>骨髄前駆細胞</span>への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct toxicity'>直接毒性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune-mediated'>免疫介在性</span>機序(仮説)"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='agranulocytosis'>無顆粒球症</span>(好中球数500/μL未満)"]

D2受容体からの「」仮説は、なぜだけEPSが少ないのかを説明する代表的な理論である。率がある瞬間だけ高くても、結合がすぐ外れるためのドパミン伝達を長時間は妨げない。

💡 はの「例外」。 は全体としてを持つが、唾液腺のムスカリンにはむしろ刺激的に働くため、口渇ではなく逆に唾液が増えるという一見矛盾した副作用が高頻度に出る。試験で「が強いのに口が乾かない薬は?」と問われたらを疑う。⚠️ ただし口渇が起きないという意味ではない——日本の電子添文は(46.8%)と口渇(5%以上)の両方を副作用に挙げている1。目立つのはのほうだ、というのが正しい理解である。

薬物動態

項目 値・特徴
約50〜60%
代謝 主にCYP1A2(一部・)
排泄 代謝物として腎・胆汁排泄
半減期 約12時間
喫煙の影響 を誘導するため喫煙者は血中濃度が低下。禁煙すると急激に血中濃度が上昇しに入りうる

⭐ 喫煙状態の変化はの引き金になる。 入院で急に禁煙した患者では、同じ用量でも血中濃度が上がり、痙攣・鎮静過多のリスクが増す。

適応

承認された効能・効果は国ごとに違う。 日本は1つ、米国は2つである。

国 承認された効能・効果
日本 治療抵抗性(これ1項目のみ)1
米国 ①標準的な抗精神病薬治療に十分反応しない重症のの治療、②またはで、既往と最近の臨床状態から自殺行動を繰り返すな危険があると判断される患者における再発性自殺行動のリスク低減2

⚠️ 「自殺リスクの低減」を日本の適応として覚えない。 日本の電子添文の効能又は効果は「」の1項目だけで、本文に「自殺」の語は現れない1。米国のこの適応もに限らずを含み、根拠は2年間・956例の InterSePT 試験である2。

💡 米国では、この2つの適応がガイドラインの推奨の強さでも書き分けられている。 APA 2020年ガイドラインは、へのを推奨(1B)、他の治療を行っても・自殺の危険が高いままの場合のも推奨(1B)とする一方、攻撃的行動の危険が高いままの場合は提案(2C)にとどめている(推奨の強さは1=推奨・2=提案、証拠の強さはA・B・Cの3段階)3。

日本の「治療抵抗性」の操作的定義

日本では「治療抵抗性」の中身が電子添文の〈効能又は効果に関連する注意〉に書き込まれており、反応性不良と性不良のどちらかを満たすことが適応内使用の条件になる1。

入口 基準
反応性不良(5.1.1) に問題がない限り、2種類以上の十分量の抗精神病薬(換算600 mg/日以上で、・ペロスピロン・・・等のを1種類以上含む)を4週間以上投与しても反応がみられなかった患者。「反応がみられない」とは GAF(機能の全体的評定)評点が41点以上に相当する状態になったことがないこと。については1年以上の治療歴が要る。服薬コンプライアンスの確認も求められる
性不良(5.1.2) のうち2種類以上の単剤治療を試みたが、①中等度以上の・等の遅発性の出現または悪化、②コントロール不良のパーキンソン症状・・の出現、のいずれかのため十分に増量できず治療効果が得られなかった患者。①②とも DIEPSS(薬原性評価尺度)の評点で操作化されている(・・は3点以上、パーキンソン症状は「歩行・・・振戦」の4項目のうち3点以上が1項目または2点以上が2項目以上)。パーキンソン症状・・については、常用量上限のを投与してもなお該当することが要件である

💡 2つの入口があるのが日本の基準の特徴である。 「効かなかった」だけでなく「副作用のせいで十分量まで上げられなかった」も治療抵抗性に含める。後者を忘れると、増量できずに苦しんでいる患者がの適応から外れていると誤判断されやすい。

用法・用量

リスクを避けるため、少量から開始し数日〜数週かけて緩徐に漸増する。急な増量は・・痙攣のリスクを上げる。開始前・導入後・を通じて血球数を定期的にモニタリングし、基準を下回れば中止のプロトコルに従う。

日本の電子添文が定める成人の用法・用量は次のとおりである1。

段階 用量
初日 として12.5 mg(25 mg錠の半分)を1日1回
2日目 25 mgを1日1回
3日目以降 症状に応じて1日25 mgずつ増量し、原則3週間かけて1日200 mgまで。1日量が50 mgを超える場合は2〜3回に分割
1日200〜400 mgを2〜3回に分割し、症状に応じて適宜増減
増量の制限 1回の増量は4日以上の間隔をあけ、増量幅は1日100 mgまで。最高用量は1日600 mg
  • 原則として単剤で使用し、他の抗精神病薬とは併用しない。 他剤からの切り替えでは原則として先に他剤を中止し、中に開始する場合も4週間以内に他剤の投与を中止する1
  • ⚠️ 2日以上の後に再開するときは、治療開始時と同じ低用量から漸増し直す。 💡 これは、投与初期のに急激に増量した場合に・失神・がより多く報告されているためである1
  • 終了時は2週間以上かけてすることが望ましい。副作用で直ちに中止する場合は、精神症状のと、発汗・頭痛・悪心・嘔吐・下痢といったのに注意する1

血液モニタリング(日本と米国で別制度)

⚠️ 見ている指標も、止める高さも、単位の書き方も日米で違う。一方の国の基準をそのまま他方に当てはめてはならない。

項目 日本(CPMS) 米国(添付文書)
見る指標 と好中球数の両方 ()のみ
表記単位 /mm³ /μL
投与の枠組み CPMSへの登録が投与の条件(登録医療機関・登録薬局・登録・登録薬剤師・登録患者) 登録制()は2025年6月13日付で廃止。監視の義務は残る
開始できない値 登録前4週間以内の検査で4,000/mm³未満または好中球数2,000/mm³未満(禁忌) ベースライン 1500/μL未満(良性民族性好中球減少では1000/μL未満)では導入を推奨しない
中断()の段階 段階として置かれていない。②の範囲では週2回以上の検査をしながら投与を継続する ANC 500〜999/μL=中断し、 1000/μL以上で再開
中止の閾値 3,000/mm³未満または好中球数1,500/mm³未満 500/μL未満
入院 原則として投与開始後18週間は入院管理下 規定は置かれていない(重度好中球減少のリスクは最初の18週間が最も高いと記載)

⭐ 日本のほうが3倍高い好中球数で止まる。 米国が中止に踏み切る 500/μLは、日本では既に中止から遠く離れた値である(日本は好中球数1,500/mm³=1,500/μLで中止)。逆に米国には日本に無い「中断」という中間段階があり、500〜999/μLでは中止ではなくして回復を待つ2。「は500で止める」と1つの数字だけ覚えると、日本の中止基準の3分の1の高さまで見送ることになる。

日本:クロザリル患者モニタリングサービス(CPMS)

日本ではは、等の早期発見を目的に規定された手順であるクロザリル患者モニタリングサービス(CPMS)に登録された・薬剤師のいる登録医療機関・薬局において、登録患者に対し、血液検査等のCPMSに定められた基準がすべて満たされた場合にのみ投与できる。基準を満たさなくなった場合は直ちに投与を中止する1。

投与前は10日以内の血液検査で下表①の範囲にあることを確認する。CPMSの規定を遵守できない患者、登録前4週間以内の検査で①を満たさない患者は禁忌である1。

区分 ・好中球数 処置 検査頻度
① 4,000/mm³以上かつ好中球数2,000/mm³以上 投与開始可能・投与継続可能 開始から26週間は週1回。条件を満たせば26週以降は2週に1回、開始から52週以降は4週に1回
② 3,000以上4,000/mm³未満または好中球数1,500以上2,000/mm³未満 注意しながら投与継続可能 ①へ回復するまで週2回以上
③ 3,000/mm³未満または好中球数1,500/mm³未満 直ちに投与を中止し、CPMSで定められた等に連絡する ①へ回復するまで毎日。少なくとも回復後4週間までは週1回以上
  • ②では「直近3週間以内の最高値よりが3,000/mm³以上減った」という著しい減少傾向があれば、再検査で確認を考慮する1
  • ⚠️ CPMSの運用手順は②の範囲をさらに分けており、3,000以上3,500/mm³未満または好中球数1,500以上2,000/mm³未満に一度でも合致した患者は、4,000/mm³以上かつ好中球数2,000/mm³以上へ復して週1回に戻った日から26週間は週1回の検査に戻る。3,500以上4,000/mm³未満にとどまった場合はこの巻き戻しはない4
  • ⚠️ ③で中止した場合、血球数が回復してもCPMSの再投与検討基準に該当しない限り再投与してはならない(電子添文では禁忌に挙げられている)。再投与が認められた場合も、再投与開始から26週間は週1回の検査に戻る1
  • ③以外の理由で中止・終了した場合も、投与終了後4週間はそれまでと同じ頻度で検査を続ける1
  • 2週に1回・4週に1回へ移行した後に4週間以上の投与中断があった場合は、再開から26週間の週1回検査に戻る1

⚠️ その「再投与検討基準」は2つしかない。 CPMS運用手順11.2が挙げるのは、①CPMS登録医により本剤と発現した・好中球数減少との関連がないと考えられること、②患者または代諾者が再投与を希望し、同意を得ていること、の2つである。CPMS登録医がこれを満たすことを確認したうえで委員会へ提出するが、⭐ 提出する書類も、そのあとの審査の重さも、レッド判定後の最低値で2つに分かれる4。

レッド判定後の最低値 提出する書類 委員会の扱い
2,000/mm³以上かつ好中球数1,000/mm³以上(12.1.1) 「クロザリル再投与に関する申請書」 事務局が必要事項の記載状況を確認し、受領可否を診療科長宛に連絡する。⚠️ ただし再投与後に再びレッドと判定された患者はこの経路から除かれる
2,000/mm³未満、または好中球数1,000/mm³未満(12.1.2) 「クロザリル再投与に関する検討依頼書」に等のコメントを付す を必ず出席させて委員会が審査し、可否を診療科長宛に文書で伝える

💡 軽いほうは「書類が整っているか」の確認、重いほうは「再投与してよいか」の審査という違いである。どちらの経路でも11.2の再投与検討基準を満たすことが前提で、満たさなければ再投与はできない4。

💡 要点は1つ目の条件である。 が原因と考えられる好中球減少で中止した患者は、血球数が回復しても再投与の対象にならない。回復を待てば再開できる米国の重度好中球減少(回復し、利益が危険を上回ると判断されれば再開しうる)とは、この点でも設計が違う2。

服薬しない期間が4週間以上になった場合は、ではなく「中止」として扱う4。

血液障害は投与初期に多いため、原則として投与開始後18週間は入院管理下で投与する。有効性・安全性が十分確認され、①投与後3週間を経過しかつ設定後1週間以上経過、②患者と同居して症状を確認し、規定量の服薬とCPMSどおりの通院を支援できる者がいる、の両方を満たせば外来治療へ移行できる1。

監視するのは血球だけではない

⚠️ CPMSの運用では、白血球・好中球以外にも中止基準の置かれた項目がある1。

項目 基準
3,000/mm³以上で投与中止が望ましい。再開は1,000/mm³未満に回復した場合にのみ
50,000/mm³未満で投与中止が望ましい
血糖値 ・糖尿病性昏睡がに挙げられており、投与中はCPMSに準拠して定期的に測定する。測定間隔の数値は電子添文には無く、CPMSの運用手順が定める(下表)
肝機能 のある患者では定期的に検査。悪心・嘔吐・があれば直ちに検査し、著明な上昇や黄疸があれば中止して正常化まで再開しない

💡 血糖の測定間隔だけ数値が書かれていないのは、電子添文がCPMSの規定に委ねているためである。 数値はCPMSの運用手順(第9.0版)の側にあり、投与前ので患者を3区分して間隔を決める4。

区分 値 値 血糖値・の測定間隔
プロトコールA(正常型) 110 mg/dL未満 140 mg/dL未満 6.0%未満 投与開始4週間後と12週間後、以降12週間ごと
プロトコールB(境界型) 110〜125 mg/dL 140〜179 mg/dL 6.0〜6.4% 4週間ごと
プロトコールC(糖尿病・糖尿病を強く疑う) 126 mg/dL以上 180 mg/dL以上 6.5%以上 血糖値は2週間ごと、HbA1cは4週間ごと
  • 投与開始前10日以内に血糖値(空腹時または随時)とを測って区分を決める。CPMSへの患者登録前(4週間前以内)にも同じ検査を行う4
  • プロトコールAの4週間後・12週間後の検査は固定日で、それぞれ7日前までを許容範囲とする4
  • ⚠️ プロトコールCに合致した場合は、あらかじめ施設で決めた糖尿病内科医への相談が必須で、以降はごとに本剤継続の可否を協議する。一度Cに合致すると、数値がA・Bに回復してもeCPMSの判定はCのままで、協議と報告は続く。C→B・A、B→Aへ検査間隔を変更する場合も糖尿病内科医の指示のもとで行う4
  • 同じ表で血清脂質値(・コレステロール・)と身長・体重・糖尿病の既往と家族歴も追う。体重と(口渇・・多尿・頻尿・ソフトドリンク摂取)は来院ごとに確認する4

💡 血糖には好中球のような「この値で中止」という一本の線が引かれていない。 血糖値は変動しやすく単回の高値で中止を判断するのは難しいため、CPMSは中止基準ではなく検査を確実に行わせる仕組みとして設計されており、最終的に継続か中止かは精神科医と糖尿病内科医の合議で決める4。

米国:ANCのみを見る

米国添付文書は、開始前のが1500/μL未満(良性民族性好中球減少では1000/μL未満)なら導入を推奨せず、開始後は1日目〜6か月目は毎週、7〜12か月目は2週ごと、13か月目以降は月1回の測定を定めている2。 1000〜1499/μL(軽度好中球減少)では減量せず週3回の検査で継続、500〜999/μL(中等度)では中断して血液内科へのコンサルトを推奨し1000/μL以上で再開、500/μL未満(重度)で中止する2。

⚠️ 米国の()は2段階で解除された。2025年2月24日から、は処方医・薬局・患者にへの参加も、薬局が調剤する前の検査結果の報告も求めない運用へ切り替え5、2025年6月13日付で自体を正式に廃止した6。これはモニタリングを不要にする変更ではなく、は添付文書に記載された頻度での監視を続けるよう求めており、重度好中球減少に関する情報はを含めて添付文書に残る6。米国臨床精神会も添付文書に従った監視の継続を推奨している7。2025年6月改訂版のCLOZARIL添付文書本文にはに関する記載がない2。監視の(登録制の有無、節目となる週数)は国ごとに異なるため、実際の運用は自国の添付文書・管理プログラムで確認する。

禁忌・注意

日本の電子添文は禁忌を15項目挙げている。系統立てて覚えると抜けにくい1。

系統 禁忌
血液・管理 登録前4週間以内の検査で4,000/mm³未満または好中球数2,000/mm³未満/CPMSの規定を遵守できない/CPMSの中止基準で中止し、再投与検討基準に該当しない/骨髄機能障害/骨髄抑制を起こす可能性のある薬剤の投与中、放射線療法・化学療法中
併用薬 抗精神病薬(・フルフェナジン・懸濁注射液・・持続性注射剤)の投与中/(アドレナリン・ノルアドレナリン)の投与中。⚠️ 除外規定はアドレナリンにだけ掛かる——「アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療、又は歯科領域におけるもしくはに使用する場合を除く」であって、ノルアドレナリンには除外が置かれていない
神経 重度の痙攣性疾患、または治療により十分な管理がされていないてんかん
循環・意識 重度の心疾患(心筋炎等)/状態または状態/アルコール・薬物による、昏睡状態
臓器障害 重度の/重度の
消化管 (により症状が悪化する)
過敏症 本剤の成分に対する過敏症の既往歴

⚠️ 痙攣性疾患・心疾患・腎障害・肝障害の禁忌には「重度の」という限定が付いている。 軽度〜中等度は禁忌ではなく「特定の背景を有する患者に関する注意」(悪化のおそれ)に置かれている。この線引きを平坦化すると、投与できる患者を誤って除外することにも、危険な投与を許すことにも倒れる1。

⚠️ 一方で、糖尿病は禁忌ではない。 糖尿病またはその既往歴のある患者は「治療上やむを得ないと判断される場合を除き投与しない」、危険因子を有する患者は「有益性が危険性を上回る場合にのみ投与」という段階的な扱いである1。

重大な副作用として押さえるもの

  • ⚠️ ・(いずれも2.6%)・好中球減少症(7.8%):通常は中止で回復するが致死的転帰もありうる。米国添付文書は重度好中球減少を 500/μL未満と定義し、その危険は最初の18週間に最も高いとする2。日本では3,000/mm³未満または好中球数1,500/mm³未満で直ちに中止する1
  • ⚠️ 心筋炎・心筋症(いずれも頻度不明)・(1.3%)・(5.2%):死亡例が報告されている。安静時の持続性頻脈・・不整脈・胸痛や、原因不明の疲労・呼吸困難・頻呼吸といった心不全の徴候があれば循環器内科医と相談し中止する。投与初期および増量時により多く報告される1。米国添付文書はより具体的に、心筋炎・は最初の2か月以内の発症が最も多く、心筋症の症状はそれより遅く通常8週以降に出るが、いずれも治療中のどの時期にも起こりうるとしている2
  • ⚠️ (1.3%)・痙攣(2.6%)・発作(1.3%):にを下げる。急激な増量を避け、既往のある患者では注意深く観察する1
  • ⚠️ 腸閉塞(5.2%)・・腸潰瘍・(いずれも頻度不明):による低下。死亡例がある。便秘を「よくある副作用」で済ませない1
  • ⚠️ 高血糖(9.1%)・・糖尿病性昏睡(いずれも頻度不明):死亡例がある。口渇・・多尿・頻尿を患者・代諾者に説明し、徴候があれば中止してを投与する1
  • ⚠️ (1.3%):・強度の・・頻脈・血圧変動・発汗に引き続く発熱1
  • ⚠️ (15.6%)・失神・(いずれも頻度不明):から心停止・に至ることがあり、投与初期のに急激に増量した場合に多い1
  • ⚠️ 肺塞栓症・(いずれも頻度不明):死亡例がある。・胸痛・四肢の疼痛・浮腫に注意する1
  • ⚠️ 感染を伴わない(頻度不明)・・肝炎・(いずれも頻度不明)1

相互作用

⚠️ カルバマゼピンとの併用は、電子添文では「誘導による血中濃度低下」として併用注意に置かれている。 骨髄抑制が重なる点は「骨髄抑制を起こす可能性のある薬剤」のとして別に扱われており、臨床上は両方の理由で避ける1。

副作用

日本の電子添文が挙げる頻度(国内)を添える1。

頻度 内容
特に高頻度(20%以上) 傾眠(63.6%)、(46.8%)、(33.8%)、便秘(33.8%)、増加(33.8%)、頻脈(26.0%)、悪心(24.7%)、嘔吐(23.4%)、めまい(20.8%)
高頻度(10〜20%) 振戦(19.5%)、体重増加(18.2%)、疲労・けん怠感(16.9%)、発熱(16.9%)、増加・γ-GTP増加・(各15.6%。は電子添文では重大な副作用に置かれている)、(14.3%)、増加(14.3%)、(13.0%)、尿失禁(13.0%)、プロラクチン増加(13.0%)、頭痛(10.4%)、増加(10.4%)、低下(10.4%)
5%以上(数値の記載なし) 口渇、体重減少、、心電図変化、血圧低下、増加、発汗・、、構語障害、
5%未満・頻度不明 、血小板減少・・貧血、QT延長、不整脈・・心房細動、高血圧、鎮静、・せん妄、、筋・、嚥下障害・耳下腺腫大・下痢・、肺炎・誤嚥・嚥下性肺炎・呼吸抑制、尿閉・間質性腎炎、、発疹・、膵炎、・、異常
重篤 、心筋炎・心筋症・、痙攣・、・腸閉塞・、、、肺塞栓症・、、

⭐ 傾眠63.6%・46.8%・便秘33.8%という数字の大きさが、のの実態を決めている。 ばかりが強調されるが、患者が実際に困るのはこの3つである。

💡 による誤嚥は「気になる副作用」ではなく肺炎の入口である。 電子添文は誤嚥・嚥下性肺炎・を頻度不明の副作用として挙げている1。

まとめ

  • に唯一「他剤に勝る」エビデンスを持つ切り札。日本の効能・効果はこの1項目だけで、自殺行動のリスク低減は米国の適応である(または)。
  • 日本の「治療抵抗性」は電子添文が操作的に定義しており、反応性不良(非定型を1剤以上含む2剤以上を換算600 mg/日以上・4週間以上でGAF 41点以上に達したことがない)と性不良(非定型2剤以上でのため増量できない)の2つの入口がある。
  • D2親和性は弱く速く解離するため、EPS・はほとんど生じない。
  • 代償としてのリスクを負い、血球数の定期モニタリングが治療の一部になっている。
  • 日本ではCPMSへの登録が投与の条件で、と好中球数の両方を見る。 3,000/mm³未満または好中球数1,500/mm³未満で直ちに中止し、再投与はCPMSの再投与検討基準に該当しない限り禁忌。原則として開始後18週間は入院管理下で投与する。
  • 米国はだけを見る。 500〜999/μLで中断、500/μL未満で中止。は2025年6月13日付で廃止されたが添付文書の監視は続く。日米の閾値を混ぜない。
  • 血糖・・もCPMSの監視対象で、3,000/mm³以上・50,000/mm³未満では中止が望ましい。
  • 傾眠(63.6%)・(46.8%)・便秘(33.8%)・体重増加(18.2%)が高頻度。便秘は・腸閉塞に進展しうるため軽視しない。
  • 心筋炎は投与初期・増量時に多く(米国添付文書は最初の2か月以内が最多とする)、発熱・持続性頻脈・胸痛があれば早期に疑う。心筋症はより遅く、通常8週以降に出る。
  • 痙攣は。急な増量を避け緩徐に漸増する。
  • 喫煙状態の変化(特に禁煙)はを介して血中濃度を大きく動かす。の中止でも下がる。
  • はが反転するため。抗精神病薬・骨髄抑制薬も。

出典

  1. 1.クロザリル錠25mg/クロザリル錠100mg 電子添文(ノバルティスファーマ/医薬品医療機器総合機構・2024)2024年10月改訂(第4版)の電子添文本文で、日本の効能又は効果が「治療抵抗性統合失調症」の1つだけであること(「自殺」の語は本文に一度も出てこない)、5.1.1の反応性不良の基準と5.1.2の耐容性不良の基準、6項の用法(初日12.5mg・2日目25mg・3日目以降1日25mgずつ増量し原則3週間で200mg、維持量200〜400mg、1回の増量は4日以上あけ増量幅は1日100mgまで、最高1日600mg)、8.2の表(①白血球数4,000/mm3以上かつ好中球数2,000/mm3以上=投与開始・継続可、開始から26週間は週1回、条件を満たせば26週以降2週に1回・52週以降4週に1回/②白血球数3,000以上4,000/mm3未満または好中球数1,500以上2,000/mm3未満=①へ回復するまで週2回以上で継続可/③白血球数3,000/mm3未満または好中球数1,500/mm3未満=直ちに中止・①へ回復するまで毎日・回復後4週間までは週1回以上)、8.2.1の投与前10日以内の確認、警告1.5と8.11の原則18週間の入院管理下投与とその外来移行の2条件、8.3(好酸球数3,000/mm3以上で中止が望ましく再開は1,000/mm3未満に回復した場合のみ)、8.4(血小板数50,000/mm3未満で中止が望ましい)、警告1.3・8.6(糖尿病性ケトアシドーシス・糖尿病性昏睡のためCPMSに準拠して定期的に血糖値等を測定。間隔の数値は電子添文に示されていない)、禁忌2.1〜2.15、11.1の重大な副作用と発現頻度を確認した閲覧 2026-09-05
  2. 2.CLOZARIL (clozapine) tablets, for oral use — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / HLS Therapeutics(DailyMed)・2025)2025年6月改訂版の添付文書で、開始前ANCが1500/μL未満(良性民族性好中球減少では1000/μL未満)では導入を推奨しないこと、ANC測定を1日目〜6か月目は毎週・7か月目〜12か月目は2週ごと・13か月目以降は月1回行うこと、重度好中球減少がANC 500/μL未満と定義されボックス警告の筆頭に置かれていることを確認した閲覧 2026-09-05
  3. 3.APA Practice Guideline on the Treatment of Patients With Schizophrenia — official training slides (September 2020)(American Psychiatric Association・2020)米国精神医学会が自サイトで公開している2020年統合失調症ガイドラインの公式トレーニングスライド(137枚)で、推奨文が逐語で再掲されていることを確認した。「recommendation(1)=利益が害を明らかに上回る確信」「suggestion(2)=より不確実」で、証拠の強さはA・B・Cである。クロザピンに関する推奨文は、治療抵抗性統合失調症への使用(recommends、1B)、他の治療を行っても自殺企図・自殺の危険が高いままの場合の使用(recommends、1B)、攻撃的行動の危険が高いままの場合の使用(suggests、2C)の3つであることを確認した。⚠️ ガイドライン本体(DOI 10.1176/appi.books.9780890424841)はpsychiatryonline.orgの全経路が403、psychiatry.orgのPDFは404、PMC7725162は書誌のみのスタブで、取得できたのはこのスライドのみである閲覧 2026-09-05
  4. 4.クロザリル患者モニタリングサービス(CPMS)運用手順 第9.0版(クロザリル適正使用委員会・2026)2026年7月21日改訂の第9.0版(2026年7月作成)の全文PDFで、電子添文が数値を示していない血糖モニタリングの間隔を確認した。9.2.2の表2が投与前の検査値で3区分(プロトコールA=空腹時血糖110mg/dL未満・随時血糖140mg/dL未満・HbA1c 6.0%未満/プロトコールB=110〜125mg/dL・140〜179mg/dL・6.0〜6.4%/プロトコールC=126mg/dL以上・180mg/dL以上・6.5%以上)を定め、測定間隔をプロトコールA「投与開始4週間後、12週間後、以降12週間ごと」、プロトコールB「4週間ごと」、プロトコールC「血糖値は2週間ごと、HbA1cは4週間ごと」としていること、プロトコールAの4週間後・12週間後は固定日で7日前までが許容範囲であること、9.1がCPMS登録前4週間前以内、9.2.1が投与開始前10日以内の測定を求めていること、9.2.3が一度プロトコールCに合致すると数値が回復してもeCPMS上の判定はCのままで血糖検査ごとに糖尿病内科医と継続の可否を協議し続けること、9.2.4がB・CからA・Bへの間隔変更を糖尿病内科医の指示のもとで行うと定めていること、表1が血清脂質値(総コレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪)・身長・体重・臨床症状(口渇・多飲・多尿・頻尿・ソフトドリンク摂取)・糖尿病の既往と家族歴を同じスケジュールに載せ体重と臨床症状は来院ごととしていること、前文が「血糖値は変動しやすく単回の高血糖で中止を即断するのは困難」として中止基準ではなく検査の確実な実施を支援する仕組みだと説明し継続の可否は精神科医と糖尿病内科医の合議で決めるとしていることを確認した。あわせて11.2の再投与検討基準が「CPMS登録医により、本剤と発現した白血球数・好中球数減少の関連がないと考えられること」「患者または代諾者が本剤の再投与を希望し、同意を得ていること」の2項目だけであること、12.1でクロザリル適正使用委員会の承認が必要であること、8.2.2が白血球数3,000以上3,500/mm3未満または好中球数1,500以上2,000/mm3未満に合致した場合に回復後26週間の週1回検査へ戻ると定め白血球数3,500以上4,000/mm3未満のみの場合は戻らないこと、11.3が血液検査以外の理由による中止でも中止前と同じ頻度で中止後4週間の検査を続け服薬しない期間が4週間以上になれば中止として扱うことも確認した閲覧 2026-09-05
  5. 5.Frequently Asked Questions: Clozapine REMS Modification(U.S. Food and Drug Administration・2025)FDA自身の案内が「2025年2月24日以降、FDAは処方医・薬局・患者にクロザピンのREMSへの参加を求めず、薬局が調剤する前に好中球絶対数(ANC)の検査結果を報告することも求めない」と述べていること、それでもFDAは処方医がANCを監視し続けることを推奨していることを確認した閲覧 2026-09-05
  6. 6.FDA removes risk evaluation and mitigation strategy (REMS) program for the antipsychotic drug clozapine — Drug Safety Communication(U.S. Food and Drug Administration・2025)2025年8月27日付の医薬品安全性情報で、FDAがクロザピンのREMSを2025年6月13日付で廃止したこと、それでも「処方医は添付文書に記載された頻度で患者のANCを監視し続けるべきである」と明記していることを確認した閲覧 2026-09-05
  7. 7.ASCP Statement on the Elimination of the Clozapine REMS(American Society of Clinical Psychopharmacology・2025)2025年2月24日付でFDAがクロザピンREMSによるANC報告義務を撤廃したが、添付文書に基づくANCモニタリング自体は引き続き推奨されていること閲覧 2026-09-05