疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 消化器 · 疾患

イレウス・腸閉塞

Ileus and intestinal obstruction

臓器系
消化器
科目
Surgery
トピック
外科学 A/09:イレウス(腸閉塞)の診断と治療外科学 S-24:麻痺性イレウスと機械的腸閉塞
鑑別疾患
中毒性巨大結腸症
続発疾患
腸間膜虚血
治療薬
セフトリアキソンメトロニダゾールピペラシリンタゾバクタム
原因微生物
Ascaris lumbricoides
症状
腹部膨満吃逆
画像所見
気液面コーヒー豆徴候
下位分類
Ogilvie症候群悪性腸閉塞大腸軸捻転
元疾患
消化管間質腫瘍腸回転異常・中腸軸捻転
原因となる疾患
クローン病ヒルシュスプルング病メッケル憩室癌性腹膜炎鼠径ヘルニア大腸癌腸重積症腹壁ヘルニア(腹側・臍・瘢痕ヘルニア)腹膜偽粘液腫閉鎖孔ヘルニア
禁忌薬
アカルボースアトロピンアンベノニウムエドロフォニウムオキシコドングリコピロニウムクロザピンコデインコレスチラミンコレセベラムジオスメクタイトジスチグミンジヒドロコデインジフェノキシレートスコポラミンセビメリンセンノシドソリフェナシンナルデメジンネオスチグミンネオマイシンパラフィンオイルビサコジルヒドロモルホンビペリデンピリドスチグミンピロカルピンフィゾスチグミンブプレノルフィンプルカロプリドベタネコールポリエチレングリコールポリスチレンスルホン酸ナトリウムメタドンメチルナルトレキソンモルヒネラクツロースリナクロチド亜酸化窒素活性炭、カオリン植物繊維水酸化マグネシウム硫酸マグネシウム

🧠 全体像:腸のはまず「詰まっている(機械性)」か「動いていない(麻痺性)」かを区別する。機械性は内腔圧上昇→静脈・迫→浮腫→動脈圧迫→虚血→壊死・穿孔という一本道で進みうる怖いタイプで、麻痺性は基本的に保存的治療でよい。病型が決まったら「部分か完全か」「絞扼はあるか」を追加で詰めるのが診断の流れであり、絞扼を示唆する古典的な臨床徴候は感度・特異度が低いため、造影CTとを軸に総合判断する。

定義と分類

  • 腸閉塞:腸管内容物の通常の流れが遮断された状態の総称。
  • :機械的な閉塞がないのにが低下・停止した状態。
  • ():腫瘤・癒着・ヘルニアなどの物理的障害物によって物の流れが遮断された状態。

⚠️ 英語の “ileus” は本来「麻痺性」を指すことが多いが、文脈によっては腸閉塞全般を意味することもあり、用語が紛らわしい。本ノートでは機械性と麻痺性を明確に区別して記載する。

閉塞部位による分類

  • (LBO):盲腸・結腸・直腸レベルでの閉塞
  • (SBO):十二指腸・空腸・回腸レベルでの閉塞
  • (GOO):または十二指腸レベルでの閉塞

機械性 vs 麻痺性の比較

項目
本態 構造的な障害物による通過遮断 のないの一時的停止
主因 癒着、ヘルニア、腫瘍、、、狭窄 後、腹膜炎、、オピオイド・、
痛み 疝痛様。絞扼では持続痛へ変化 持続性の軽いびまん痛
早期は亢進・金属音、進行すると低下 低下・消失
単純X線 閉塞拡張、、遠位腸管の虚脱、結腸内ガス消失 小腸〜結腸〜直腸まで一様にガス拡張
明確なあり 明確ななし

腹部膨満、悪心・嘔吐、排便・、を認める。近位では早期から嘔吐が頻回で膨満は目立たず、遠位閉塞では膨満が強く嘔吐は遅れて便臭を伴うことがある。

病態生理(機械性イレウス)

flowchart TD
    O["腸閉塞(機械性)"] --> S["閉塞近位側での内容物・ガスの停滞"]
    S --> P["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased intraluminal pressure'>管腔内圧上昇</span>"]
    P --> D["ガスによる腹部膨満"]
    D --> T["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='third space'>サードスペース</span>への移行<br>(拡張腸管への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluid retention'>体液貯留</span>)"]
    T --> H["脱水・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypovolemia'>循環血液量減少</span>"]
    P --> V["嘔吐"]
    V --> E["体液・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrolyte wasting'>電解質喪失</span>"]
    E --> HK["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypokalemia'>低カリウム血症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metabolic alkalosis'>代謝性アルカローシス</span>"]
    P --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mesenteric vein'>腸間膜静脈</span>・リンパ管の圧迫"]
    C --> W["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bowel wall edema'>腸管壁浮腫</span>"]
    W --> A["腸間膜動脈・毛細血管の圧迫"]
    A --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bowel ischemia'>腸管虚血</span>"]
    I --> PM["透過性亢進 → 細菌の腹腔内移行 → 敗血症"]
    I --> N["壊死・穿孔 → 腹膜炎"]
    I --> LA["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic metabolism'>嫌気性代謝</span>・虚血細胞の崩壊 → 乳酸蓄積 + 細胞内K+放出"]
    LA --> MA["代謝性アシドーシス・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hyperkalemia'>高カリウム血症</span>"]

💡 の怖さは「圧上昇→静脈・リンパ管の圧迫が先に起こる→うっ血・浮腫→動脈まで圧迫されて初めて虚血」という順番にある。動脈が先に潰れるわけではないため、進行するまで気づきにくい。

麻痺性イレウス

  • 病因:開腹手術後(特に長時間手術)、腹膜炎、、、電解質異常、遷延する低血圧・低酸素。
  • 臨床像:悪心・嘔吐、、腹部膨満、〜の音。
  • 治療:原因(感染・電解質異常)を治療し、オピオイド・を減量する。嘔吐・高度膨満ではで減圧するが、無症候の全例にには留置しない。輸液・、、適切な鎮痛、の回避、選択例のチューインガムなどの回復促進策を行う。

機械性イレウス

原因(部位別)

分類 原因
異物、、胆石
腫瘍(大腸癌など)、、狭窄、
腫瘍、癒着(術後性・先天性)、、ヘルニア、膿瘍

部分閉塞 vs 完全閉塞

項目
通過 一部内容物は通過する 完全な排便停止
保存的治療での軽快 60〜80%が非治療で軽快(全体では70〜90%と報告される)1 稀
48時間で改善がなければ手術を検討。⚠️ のBolognaガイドラインは、腹膜炎・絞扼・の徴候がなければ非手術管理を72時間まで安全に継続できるとしており、48時間で一律に打ち切る根拠ではない1 ほぼ全例24時間以内に手術

絞扼性イレウス

腸管への外部からの圧迫閉塞により腸間膜動脈の血流が障害され、虚血と蠕動消失をきたす病態である。詳細な病型・診断はと共通する部分が多い。

⚠️ 絞扼の古典的4徴候(発熱、頻脈、限局した腹部圧痛、)は絞扼例で高頻度にみられるが、単独でも組み合わせても感度・特異度は低く、4徴候がそろわなくても絞扼を否定できない21。緊急手術の判断はだけに頼らず、造影CT所見(腸壁造影不良、、腸間膜浮腫・き、腹水、・)や・代謝性アシドーシスと総合して行う。乳酸が正常でも早期虚血は除外できない。

診断

診断で決めるべき4つのポイント:①機械性か麻痺性か、②閉塞の原因、③かか、④絞扼(組織破壊)の有無。

病歴・身体診察

  • 既往(癒着の可能性)、既知の腹腔内疾患(腫瘍、)、小児での異物の可能性を確認する。
  • (鼠径・は肥満患者で見落としやすい)を必ず診察する。
  • :早期は蠕動亢進・金属音様、後期は蠕動低下〜無音、。
  • 触診・:(S状結腸型)は触知できることがある、腹部膨満、。
  • は必須——直腸内が空か、Douglas窩の異常、血便の有無を確認する。

画像診断

検査 特徴
迅速だが原因・絞扼評価は不十分。近位、遠位小腸虚脱、、結腸内ガス消失などが手掛かり
造影CT 閉塞部位・原因・、腸管生存性を評価する中心検査。・経口造影を用い、腹膜炎・絞扼・虚血の徴候(腸壁造影不良、腸間膜浮腫、腹水、、)を確認する1
による 再発性・慢性閉塞の評価に有用で、24時間以内に結腸へ到達するかどうかが保存的治療の改善予測に役立つ(手術回避の予測に感度92%・特異度93%。X線は投与から8時間以降に撮ると精度が上がる)。時にに働き、手術の必要性・・閉塞解除までの時間をいずれも減らす31
flowchart TD
    A["膨満・嘔吐・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='absence of flatus'>排ガス停止</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nil per os (NPO)'>絶飲食</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV access'>静脈路確保</span>、晶質液、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrolyte correction'>電解質補正</span>"]
    B --> C["造影CTと<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hernial gate'>ヘルニア門</span>診察"]
    C --> D{"腹膜炎・絞扼・虚血・穿孔の徴候"}
    D -->|"あり"| E["緊急手術+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='broad-spectrum antibiotics'>広域抗菌薬</span>"]
    D -->|"なし"| F{"麻痺性か機械性か"}
    F -->|"麻痺性"| G["原因治療、オピオイド減量、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='early mobilization'>早期離床</span>"]
    F -->|"単純癒着性閉塞"| H["選択例で非手術管理・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='water-soluble contrast medium'>水溶性造影剤</span>評価"]
    H --> I{"24時間で造影剤が結腸へ到達<br>または72時間以内に改善"}
    I -->|"あり"| J["段階的に経口再開"]
    I -->|"なし・悪化"| E

治療

一般療法

  • 輸液・電解質・の補正が中心となる。拡張とへ大量の体液・電解質がとして失われるため、必要量=++進行中のの式で考える。
    • 近位閉塞:嘔吐が早期に出現し、脱水・・アルカローシスを来しやすい。
    • 遠位閉塞:膨満が強く嘔吐は遅れ、脱水は高度だが電解質異常は少ない傾向がある。
  • 消化管減圧のための。
  • 抗菌薬(セフトリアキソン+メトロニダゾールや/など)はルーチンでは使用せず、虚血・壊死・穿孔の徴候があるときのみ投与する。
  • 尿量などによる厳重なモニタリングを行う。

手術適応

、、嵌頓・絞扼ヘルニア、腹膜炎、()、絞扼が疑われる場合、は手術適応である。

⭐ 開腹歴のない腹部(過去に腹部が一切ない)での閉塞では、癒着が原因として成立しにくいためで悪性腫瘍・内ヘルニアなど別の原因を必ず探す。⚠️ ただし「開腹歴がないこと自体が手術適応」ではない。 の立場表明は「悪性が主因という旧来の想定は支持されず、全例にを要するという意見はエビデンスと矛盾する」として、がなければ通常の・と同じガイドラインに沿って非手術管理を試みてよいとしている4。解除後の原因精査と追跡は必須である。

保存的治療でよい場合

  • 。
  • 絞扼の徴候がない場合。
  • 癒着が疑われる単純(過去の腹部があることが前提)。がなければ厳密な観察下で非手術管理を試み、が24時間以内に結腸へ到達するかを改善予測の目安にする1。改善しない、臨床悪化、原因が腫瘍・など自然解除しにくい場合は手術する。

まとめ

  • まず「機械性 vs 麻痺性」を区別する。機械性は構造的障害物、麻痺性は蠕動麻痺で機序が異なり、も異なる。
  • の病態生理は「→膨満・への移行・嘔吐→静脈/迫→浮腫→動脈圧迫→虚血→壊死・穿孔(腹膜炎)or 透過性亢進(敗血症)」の一直線で理解する。
  • 絞扼の古典的4徴候は手掛かりにはなるが感度・特異度が低く(術前の臨床判断でも絞扼検出の感度は48%)、単独で緊急手術を決めず造影CT・と併せて判断する2。
  • 画像診断の中心は造影CTで、閉塞部位・原因・・腸管生存性を評価する。
  • 治療の骨格は「輸液+消化管減圧+必要時抗菌薬」で、・・絞扼疑い・腹膜炎は手術適応(⚠️ 開腹歴がないこと自体は手術適応ではない)、のない単純は観察下の非手術管理が可能である。

出典

  1. 1.Bologna guidelines for diagnosis and management of adhesive small bowel obstruction (ASBO): 2017 update of the evidence-based guidelines from the world society of emergency surgery ASBO working group(World Journal of Emergency Surgery(World Society of Emergency Surgery)・2018)WSESのBolognaガイドライン2017年改訂版。「癒着性小腸閉塞(ASBO)の病歴聴取と身体診察は、腸管の絞扼・虚血の検出感度が低い。経験を積んだ手であっても絞扼検出の身体診察の感度は48%にすぎない」。腹膜炎・絞扼・腸管虚血の徴候がない限り非手術管理が第一選択であり、「非手術管理の試みは72時間まで安全に継続できる(Level IIB、推奨度B)」。単純X線は腹膜炎や絞扼の早期徴候を検出せず閉塞の原因も区別できないため、初期評価の画像は経口水溶性造影剤を用いた造影CTが第一選択とされ、非手術管理中は24時間後に腹部X線で造影剤の進行を確認し、造影剤が結腸に到達していれば閉塞の解除を示す。造影剤投与後に結腸へ到達しないことは非手術管理の失敗を強く示唆する。水溶性造影剤には手術の必要性を減らす治療的役割があるとする報告がある。非手術管理はASBO患者の約70〜90%で有効。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Preoperative recognition of intestinal strangulation obstruction. Prospective evaluation of diagnostic capability(The American Journal of Surgery・1983)完全機械性小腸閉塞で開腹予定の連続51例を前向きに評価し、21例(42%)に絞扼を認めた。「持続性腹痛、発熱、腹膜刺激徴候、白血球増多、アシドーシスを含むいかなる術前臨床パラメータも、またそれらの組み合わせも、絞扼に対して感度・特異度・予測能のいずれも備えていなかった」。上級指導医の臨床判断でも絞扼21例中10例しか術前に検出できず(感度48%)、しかもそのうち早期可逆性病変は1例のみで9例は既に不可逆性梗塞であった。絞扼なしという術前評価の的中率は69%、全体の正診率は70%にとどまった。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Water-soluble contrast agent in adhesive small bowel obstruction: a systematic review and meta-analysis of diagnostic and therapeutic value(The American Journal of Surgery・2016)経口水溶性造影剤の診断的・治療的役割を検討したシステマティックレビューとメタ解析。手術によらない閉塞解除の予測について感度92%・特異度93%で、腹部X線を投与から8時間以降に撮影すると診断精度が有意に上がる。経口水溶性造影剤の投与は手術の必要性(オッズ比0.55、P=0.003)、在院日数(加重平均差 −2.18日、P<0.00001)、閉塞解除までの時間(加重平均差 −28.25時間、P<0.00001)をいずれも減らし、合併症率・死亡率に差はなかった。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-05
  4. 4.Diagnosis and management of small bowel obstruction in virgin abdomen: a WSES position paper(World Society of Emergency Surgery・2021)「The available evidence however contradicts the opinion suggesting that most cases of SBO-VA have non-adhesion cause, and all patients with SBO-VA, therefore, require surgical exploration.」「Based on the findings in our review, SBO-VA mostly has a benign cause; this is in contrast to older literature and surgical textbooks that suggest malignancy as the main cause」「fear of the previously assumed high rate of malignancies is not justified. As a consequence, the need to perform surgical exploration in every patient with SBO-VA can also be waived」と述べ、結論として「We therefore propose that patients with a virgin abdomen could be treated according to existing guidelines for SBO and ASBO.」としていることを確認した。閲覧 2026-09-05