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Disease Atlas · 消化器 · 先天性疾患

腸回転異常・中腸軸捻転

Intestinal malrotation and midgut volvulus

別名
Malrotation
臓器系
消化器
科目
Embryology
トピック
発生学 14.5:消化器系の臨床相関
鑑別疾患
壊死性腸炎十二指腸閉鎖腸重積症
合併症
イレウス・腸閉塞腹膜炎
続発疾患
短腸症候群
症状
血行動態不安定血便発熱腹痛嘔吐腹部膨満
画像所見
渦巻き徴候ダブルバブルサインコークスクリュー徴候

🧠 全体像は、を軸に270度回転する過程が不完全なまま止まった状態で、それ自体は無症状のこともある。真の緊急事態は、その結果として腸間膜の付着基部が異常に狭くなり、腸管全体がSMAを軸にねじれるである——これはSMA本幹の血流を断つため、数時間で広範な腸管壊死に至りうる外科的最重症疾患。「胆汁性嘔吐をする乳児はがある(ある前提)まで否定できない」という原則が臨床対応の核心になる。

病態

(十二指腸下部〜の中央付近まで)はに体外()で発育した後、腹腔内へしながらSMAを軸に反時計回りへ270度回転し、最終的に)が左上腹部、盲腸がに固定される。この回転・固定が途中で止まると、腸間膜が広く扇状に固定されるはずが、SMAの起始部という一点に近い狭い基部だけで腸管全体を支える状態になる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='midgut'>中腸</span>のSMA軸270度回転が不完全"] --> B["盲腸が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right lower quadrant'>右下腹部</span>まで下降せず、右上腹部〜<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epigastric'>心窩部</span>に留まる"]
    B --> C["盲腸から腹壁へ張る<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Ladd bands'>Ladd靱帯</span>が十二指腸を圧迫・狭窄させうる"]
    A --> D["腸間膜の付着基部が狭くなる"]
    D --> E["腸管全体がSMAを軸に容易にねじれる(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='volvulus'>軸捻転</span>しやすい状態)"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='midgut volvulus'>中腸軸捻転</span>:SMA本幹の血流が絞扼される"]
    F --> G["広範な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='midgut'>中腸</span>(十二指腸〜<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transverse colon'>横行結腸</span>)の虚血・壊死"]

(異常な位置に留まった盲腸から右上腹部の後腹膜・腹壁へ張る物)は十二指腸の前面を横切り、外因性に十二指腸を圧迫して閉塞症状(胆汁性嘔吐)を引き起こしうる。がなくても単独で症状を来すことがある点に注意する。

💡 などの腹壁形成異常やに高率に合併する。これは、腹腔外に脱出・が遅れた腸管では正常な回転・固定が完成しにくいためである。

臨床像

  • 胆汁性嘔吐が最も重要な症状であり、特に生後1か月以内の乳児における胆汁性嘔吐は、証明されるまでとして扱う。
  • が進行すると、腹部膨満血便を示唆)、が出現する。
  • 全身状態の急速な悪化(頻脈、循環不全発熱、腹壁の発赤・)は広範な腸管壊死・腹膜炎を示唆し、直ちに手術を要する。
  • 年長児・成人で診断される例では、間欠的な腹痛な吸収不良として発見されることもある。

⚠️ 「胆汁性嘔吐=がある前提で動く」が原則。 画像検査や採血の結果を待つ間に不必要に治療を遅らせてはならず、全身状態が不安定な患児では緊急開腹を優先する。

診断

flowchart TD
    A["乳児の胆汁性嘔吐"] --> B{"全身状態は安定か"}
    B -->|"不安定・腹膜炎徴候あり"| C["画像を待たず緊急開腹"]
    B -->|"安定"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Upper GI series'>上部消化管造影</span>(第一選択)"]
    D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='duodenojejunal flexure'>十二指腸空腸曲</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ligament of Treitz'>Treitz靱帯</span>)の位置は正常か"}
    E -->|"右側に偏位・下降不良、または<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='corkscrew sign'>コークスクリュー徴候</span>"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal malrotation'>腸回転異常</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='volvulus'>軸捻転</span>と診断し緊急手術"]
    E -->|"正常"| G["他の原因を検索"]
  • が診断のである。)が正常な位置(左上腹部、幽門とほぼ同じ高さ)にないこと、またはを示唆する十二指腸〜が診断的である1
  • 腹部超音波では、性質の異なる2つの所見を区別して読む。SMAとの位置関係の逆転(SMVがSMAの左側に来る)は、という解剖学的素因を示す所見で、に対する感度は80〜90%だが、位置関係が正常でもは否定できない。これに対し、SMVと腸間膜がSMAの周囲を渦を巻くように取り巻くは、現に起きているを示す所見であり、緊急手術の判断に直結する2。両者を同一視すると、素因にすぎない所見を捻転の証拠と取り違える、あるいは逆にを単なる補助所見として過小評価することになる。従来はの補助という位置づけだったが、超音波(ドプラでSMA・SMV関係を評価)の94%・特異度100%を報告した系統的レビューを根拠に、を避けられる第一選択検査として超音波を運用する小児放射線科施設も増えている3。造影所見が曖昧な場合や超音波が使えない状況では、依然としてが確定検査として重要である。
  • 全身状態が不安定でが強く疑われる場合は、画像検査・採血結果を待たずに緊急開腹を優先する。 遅延は腸管壊死の範囲を広げ、のリスクを高める。

治療

Ladd手術(外科的根治術)

  1. 捻転した腸管を(多くは反時計回りに)整復する。
  2. を切離し、十二指腸の圧迫を解除する。
  3. 腸間膜を可及的に広く展開し、の癒着を除く。
  4. 小腸を右側、大腸を左側に配置する(正常回転位へのは目指さず、を広く保つことが目的)。
  5. を併せて行う(将来虫垂炎を発症した際にな位置により診断が遅れることを避けるため)。
  • は、を伴わない症例では低侵襲アプローチとして受け入れられているが、明らかなが疑われる緊急例では、開腹による迅速な整復を優先し、腹腔鏡導入のために評価・整復を遅らせない。 新生児の緊急では実際に大多数(多施設研究で約9割)が開腹で行われており、腹腔鏡は・年長例で選択される頻度が高い4
  • 広範な腸管壊死が生じている場合は、壊死部の切除に加え、生存の可能性がある腸管を温存するためのな再開腹(24〜48時間後の再評価)を検討する。

⚠️ 迅速な外科的整復が唯一の根本治療であり、内科的経過観察でそのものは解除されない。 症状が安定して見えても、が疑われる時点で外科医への相談を遅らせない。

長期合併症

  • 後も腸管の癒着による(0.5〜7%程度)や、まれに再が報告されており、長期的な経過観察を要する。
  • 広範な腸管切除を要した例ではとなり、栄養管理が長期的課題となる。

まとめ

  • のSMA軸270度回転が不完全な状態で、腸間膜付着基部が狭くなることで(SMA血流の絞扼)を来しやすくなる。
  • は十二指腸を圧迫して単独でも症状を来しうる。
  • 乳児の胆汁性嘔吐はがある前提で対応し、全身状態が不安定なら画像を待たず緊急開腹する。
  • 安定例ではの位置異常・)が診断のである。
  • 治療は(捻転整復・切離・の展開・)で、緊急例では開腹を優先する。

出典

  1. 1.Diagnostic accuracy of upper gastrointestinal series in children with suspected intestinal malrotation(Updates in Surgery・2023)上部消化管造影(AP撮影)が現在も診断の中心であること、および側面撮影のみでは精度が大きく落ちることを確認した閲覧 2026-08-02
  2. 2.Ultrasound for the diagnosis of malrotation and volvulus in children and adolescents: a systematic review and meta-analysis(Archives of Disease in Childhood・2021)超音波(SMA・SMVのドプラ評価)の統合感度94%・特異度100%という精度から、被曝を避けられる第一選択検査として運用する施設が増えていることを確認した閲覧 2026-08-02
  3. 3.Imaging Review of Intestinal Malrotation and Midgut Volvulus(RadioGraphics・2025)SMA-SMVの位置関係の逆転は腸回転異常という解剖学的素因を示す所見であり(正常な位置関係でも一部の腸回転異常は起こりうる)、渦巻き徴候は腸間膜軸周囲の動的な渦巻きとして現に起きている中腸軸捻転を示し緊急手術につながる所見である、という2つの所見の区別を確認した閲覧 2026-08-02
  4. 4.Identification and treatment of intestinal malrotation with midgut volvulus in childhood: a multicenter retrospective study(Frontiers in Pediatrics・2024)新生児の緊急軸捻転では開腹Ladd手術が大多数(約9割)を占め、腹腔鏡は待機的・年長例で選択される頻度が高いことを確認した閲覧 2026-08-02