疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 消化器 · 疾患

S状結腸捻転

Sigmoid volvulus

別名
S状結腸軸捻転
臓器系
消化器
科目
PathologySurgery
トピック
病理学 C/39:結腸憩室症/腸閉塞外科学 A/09:イレウス(腸閉塞)の診断と治療外科学 S-24:麻痺性イレウスと機械的腸閉塞
上位概念
大腸軸捻転
鑑別疾患
Ogilvie症候群大腸癌中毒性巨大結腸症腸間膜虚血(急性・慢性、虚血性大腸炎を含む)盲腸軸捻転
合併症
腹膜炎・消化管穿孔敗血症
関連疾患
腸回転異常・中腸軸捻転
症状
腹部膨満腹痛便秘嘔吐圧痛
検査値
乳酸動脈血液ガス血算
画像所見
くちばし徴候コーヒー豆徴候渦巻き徴候気液面遊離ガス像
原因となる疾患
シャーガス病ヒルシュスプルング病慢性巨大結腸症

🧠 全体像:は、過長で可動性の高いS状結腸が、狭いを軸に180度を超えてねじれることで生じる性のである。臨床の分かれ目はただ一つ、腸管が生きているか——虚血・穿孔・腹膜炎がなければ内視鏡で整復して減圧し、あれば整復を試みずに緊急切除へ進む。そして整復はあくまで緊急事態をに変える手段であって根治ではない。ねじれやすい解剖はそのまま残るので、整復に成功しても半数前後が再発し、同一入院中のが標準となる。

疫学と背景

のうちS状結腸型が60〜75%、盲腸型が25〜40%を占める1。頻度は地域で大きく違い、欧米ではの10〜15%にとどまるが、アフリカ・南米・東欧・中東・インドなどの「volvulus belt」では腸閉塞の13〜42%を占める。好発年齢も地域で反転し、欧米では70歳を超える男性、では40歳代以降の比較的若い男性(男女比4:1)に多い1。米国の全国入院データでも、は高齢男性・糖尿病・神経精神疾患の患者に多く、より若年の女性に多いとは別の集団に生じている2。

素因は「長く伸びたS状結腸が、狭いで支えられている」形に集約される。

素因 背景
腸管が長く、腸間膜の付着基部が相対的に狭い解剖。捻れの必要条件
慢性便秘・・下剤の常用 で重くなったS状結腸が回転しやすくなる
糖尿病・神経精神疾患・・施設入所 の低下とな便貯留
(、) 若年発症の背景。結腸全体が弛緩しているためが変わる

⭐ とは危険因子が逆を向く。 は低繊維食を背景とするが、ではが素因として挙げられている1。同じ結腸の疾患でも「便量が多く腸管が長く重い」ことが不利に働く点が異なる。

病態

180度までの捻れは生理的な範囲で、約2%は自然に整復する。180度を超えるとが完成し、以下が連鎖する1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='redundant sigmoid colon'>過長S状結腸</span>が狭い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mesenteric root'>腸間膜基部</span>を軸に180度を超えて捻れる<br>(70%は反時計回り)"] --> B["両端が閉じた<span class='jp-term jp-term-diagram' title='closed loop obstruction'>閉鎖係蹄</span>が完成し、内圧が上昇する"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mesenteric vein'>腸間膜静脈</span>がまず絞扼され、うっ血と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mural edema'>壁在浮腫</span>が進む"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary perfusion'>毛細血管灌流</span>が低下し、粘膜から虚血が始まる"]
    D --> E["細菌が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gut wall'>腸管壁</span>を越えて移行する"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transmural necrosis'>全層壊死</span>・穿孔"]
    F --> G["腹膜炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='septic shock'>敗血症性ショック</span>"]

💡 動脈より先に静脈が詰まるのが性閉塞の要点で、この段階では拍動が触れても腸管はすでに虚血に向かっている。が「拡張しているだけ」に見える時期でも、粘膜レベルでは虚血が進行しうる。

臨床像

  • 主症状は腹痛・便秘()・著明な腹部膨満で、嘔吐は遅れて出る所見である。
  • が空虚なまま非対称に膨満する像は特徴的とされ、では直腸内が空であることが多い1。
  • 30〜41%が過去にも腹部膨満のエピソードを経験しており、「前にも同じことがあって自然に治った」という病歴は診断を支持する1。
  • 発症から受診までの時間は地域差が大きく、欧米では3〜4日後の受診が典型である一方、では腹膜炎・ショックを伴って搬送される急性像が多い1。
  • 受診時点で5〜25%がすでに虚血・穿孔・腹膜炎・を伴う1。

⚠️ 圧痛・・頻脈・発熱がそろえば、それは「重症の捻転」ではなく穿孔・壊死を疑う所見である。 内視鏡整復の適応から外れる。

診断

初期評価では病歴・身体所見に加えて、の手がかりとして血液ガスと乳酸を含む採血を必ず行う(推奨1)1。

検査 位置づけ 所見
最初の一手(推奨2) 骨盤から起こり右上腹部へ頂点を向ける巨大な=、
胸部X線 穿孔の除外 の
造影CT 診断が不確かなとき、虚血・穿孔が疑われるとき(推奨3) 診断陽性率89%。捻転部の、造影での虚血を評価できる
現在は限定的 捻転部の。穿孔が疑われる場合は禁忌で、用いるなら

⚠️ 単純X線は診断の入口であって、虚血の有無は決められない。 を分けるのは造影CTと内視鏡下の粘膜所見である。

治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sigmoid volvulus'>S状結腸捻転</span>を疑う"] --> B{"虚血・穿孔・腹膜炎の所見があるか<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peritoneal signs'>腹膜刺激徴候</span>・乳酸上昇・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>の虚血所見・遊離ガス)"}
    B -->|"あり"| C["整復を試みず緊急<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sigmoid colectomy'>S状結腸切除</span><br>(腸管の操作は最小限にする)"]
    B -->|"なし"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flexible endoscope'>軟性内視鏡</span>で減圧・整復<br>粘膜の生存性を必ず観察する"]
    D --> E{"整復できたか、粘膜は生存しているか"}
    E -->|"高度の粘膜虚血・穿孔・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='irreducible'>整復不能</span>"| C
    E -->|"整復成功"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decompression tube'>減圧チューブ</span>を留置して<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reduced position (post-reduction alignment)'>整復位</span>を保つ"]
    F --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='megacolon'>巨大結腸</span>を合併しているか"}
    G -->|"なし"| H["同一入院中に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elective sigmoid colectomy'>待機的S状結腸切除</span>"]
    G -->|"あり"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subtotal colectomy'>亜全結腸切除</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sigmoid colectomy'>S状結腸切除</span>だけでは残存結腸で再発する)"]
    H --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical risk'>手術リスク</span>が禁忌的に高い例に限り<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='endoscopic fixation'>内視鏡的固定</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='percutaneous endoscopic colostomy'>経皮内視鏡的結腸瘻</span>)を考慮"]

内視鏡的整復(第一選択)

虚血・穿孔が臨床的にも画像的にも疑われない例では、による減圧が第一選択である(推奨4)1。

  • 成功率は60〜95%、合併症4%・死亡3%1。系統的レビューの統合値では率80.0%(95%信頼区間75.0〜83.0%)である3。
  • 粘膜の生存性を内視鏡で観察することが必須で、高度の虚血・穿孔・を認めた時点で整復を中止し緊急手術へ切り替える1。
  • 整復後はを留置してを保つ。
  • は最大24%で診断そのものと虚血を見落とすため、が優先される1。

緊急手術

整復が成功しない場合、および腸管が非生存・穿孔している場合は緊急の適応である(推奨5)1。壊死腸管では整復操作そのものが内毒素と細菌を全身に散らすため、捻れを戻さずに切除する。・分流を伴う吻合・単孔式()のいずれを選ぶかは、腸管の状態と全身状態で個別に決める。

待機的S状結腸切除(根治)

⚠️ 整復は根治ではない。 整復に成功しても再発率は43〜75%に達し1、系統的レビューの統合値でも33.9%(95%信頼区間19.5〜52.1%)である3。保存的治療のみで経過を見た場合の死亡率は9〜36%と報告される一方、の合併症・死亡はいずれも0〜12%にとどまる1。このため整復成功例には、可能なかぎり早期に、原則として同一入院中にを行う(推奨6)。

  • 整復・・といった非切除術式は再発予防で切除に劣り、避けるべきである(推奨7)1。
  • 手術が禁忌的に高リスクの症例に限り、()を考慮してよい(推奨8、弱い推奨)1。
  • を合併する例ではだけでは不十分で、残存結腸で捻転が再発するためを行う(推奨9)1。

米国の全国データでは、非減圧のみで管理された症例が17%、手術例の89%が切除術であり、はで9.44%だった。と腹膜炎、、年齢、、が死亡の強い予測因子であり、壊死に至る前に診断・減圧できるかが予後を決める2。

鑑別

疾患 見分ける手がかり
がないのに結腸が拡張する。で明確なを欠き、盲腸中心に拡張する。がする
を中心に非閉塞性にびまん性拡張。や Clostridioides difficile 感染などの重症炎症と全身症状を伴う
大腸癌による閉塞 経過が緩徐で体重減少・・貧血を伴う。で腫瘤性の移行部を認める
所見に不釣り合いな激しい腹痛が先行し、性の巨大なを欠く
新生児・乳児の胆汁性嘔吐。を背景にを軸に全体がねじれる別の病態で、のなどで診断する
から起こり頂点がを向く(拡張盲腸がへ転位するのはループ型=2型のときで、1型はにとどまる)。より若年の女性に多く、の成功率が低いためが中心になる

💡 同じ「」でも診療の型がまったく違う。 は内視鏡で減圧してに持ち込む成人・高齢者の疾患、は画像を待たずに開腹する乳児の疾患である。

特殊な状況

  • 妊娠:まれだが妊婦の腸閉塞の主要な原因の一つで、報告の多くは(約75%)の(約2/3)である。6〜12%・胎児死亡20〜26%と予後は不良で、診断の遅れが転帰を悪化させる。合併のない例ではが推奨されるがにはしにくく、妊娠週数と胎児予後を踏まえた多職種での方針決定を要する(推奨10)1。
  • :回腸とS状結腸が互いに巻きつく型で、術前診断できるのは20%程度、を70%に伴う。多くがを要する(推奨11)1。

まとめ

  • は、が狭いを軸に180度を超えてねじれて生じる性ので、の60〜75%を占める。
  • が先行して粘膜から虚血が進むため、拡張が目立つだけの時期でも虚血は進行しうる。
  • 診断は単純X線のから入り、診断が不確かなときや虚血・穿孔が疑われるときに造影CT()を追加する。血液ガスと乳酸を必ず測る。
  • 虚血・穿孔・腹膜炎がなければによる減圧が第一選択で、粘膜の生存性の確認との留置が伴う。所見があれば整復を試みず緊急を行う。
  • 整復は根治ではない。再発率が高いため、整復成功例には同一入院中のを行う。非切除術式は再発予防で切除に劣る。
  • を合併する例ではを選ぶ。だけでは残存結腸で再発する。

出典

  1. 1.WSES consensus guidelines on sigmoid volvulus management(World Journal of Emergency Surgery・2023)全文を閲覧。推奨2〜4(単純X線のコーヒー豆像から入り、診断が不確かなときや虚血・穿孔が疑われるときにCTを追加し、虚血・穿孔が疑われない例では軟性内視鏡による減圧を第一選択とする。いずれも1C)、推奨5(整復不成功例と非生存腸管・穿孔例には緊急S状結腸切除、1C)、推奨6(整復成功例には再発予防のためS状結腸切除を、可能なかぎり早期に、同一入院中に行う、1C)、推奨7(非切除術式は再発予防で切除に劣り避けるべき、1C)、推奨8(手術リスクが極めて高い例に限り内視鏡的固定を考慮してよい、2C)、推奨9(巨大結腸を合併する例は残存結腸で再発するためS状結腸切除では不十分で亜全結腸切除を行う、1C)を確認した。本文の記載として、大腸軸捻転のうちS状結腸型が60〜75%・盲腸型が25〜40%を占めること、欧米では大腸閉塞の10〜15%だが「volvulus belt」では腸閉塞の13〜42%に達すること、欧米では70歳超の男性・流行地域では40歳代からの若年男性(男女比4:1)に多いこと、素因が過長S状結腸・慢性便秘・高繊維食・下剤使用・糖尿病・神経精神疾患・施設入所・長期臥床・巨大結腸であること、180度までの捻れは生理的で約2%は自然整復すること、捻れの方向は70%が反時計回りであること、既往の腹部膨満エピソードを30〜41%が報告すること、CTの診断陽性率が89%であること、軟性内視鏡整復の成功率が60〜95%・合併症4%・死亡3%で硬性S状結腸鏡は最大24%で診断と虚血を見落とすこと、整復後に減圧チューブを留置すること、整復成功後の再発率が43〜75%であること、保存的治療のみの死亡率が9〜36%・待機的切除の合併症と死亡がともに0〜12%であること、5〜25%が虚血・穿孔・腹膜炎・敗血症性ショックを伴って受診することも確認した閲覧 2026-09-02
  2. 2.Colonic volvulus in the United States: trends, outcomes, and predictors of mortality(Annals of Surgery・2014)抄録のみを閲覧しており全文は未取得。米国 Nationwide Inpatient Sample 2002〜2010年の緊急入院を対象とし、腸閉塞の推計3,351,152件のうち大腸軸捻転が63,749件(1.90%)を占めたこと、S状結腸捻転は高齢(70歳)男性・アフリカ系米国人・糖尿病・神経精神疾患の患者に多く、盲腸軸捻転はより若年の女性に多いこと、盲腸軸捻転の発生率が年5.53%増加する一方S状結腸捻転は横ばいであること、非手術的減圧のみで管理されたのが17%、手術例のうち切除術が89%であること、死亡率がS状結腸捻転9.44%・盲腸軸捻転6.64%であること、腸管壊死と腹膜炎・凝固障害・年齢・人工肛門造設・慢性腎臓病が死亡の強い予測因子であったことを確認した閲覧 2026-09-02
  3. 3.Safety and Efficacy of Endoscopic Derotation in Colonic Volvulus Occlusion: Systematic Review and Meta-Analysis(Journal of Clinical Medicine・2026)内視鏡的整復の技術的成功率の統合値が80.0%(95%信頼区間75.0〜83.0%、15研究・1,738例、I²=87.5%)、初回整復に成功した後の再発率の統合値が33.9%(95%信頼区間19.5〜52.1%、17研究・3,285例、I²=97.5%)であることを確認した閲覧 2026-09-02