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Disease Atlas · 消化器 · 先天性疾患

ヒルシュスプルング病

Hirschsprung disease

別名
先天性巨大結腸症先天性無神経節性巨大結腸症
臓器系
消化器
科目
EmbryologyPediatrics
トピック
発生学 14.5:消化器系:臨床小児科 3-36:Hirschsprung病小児科 15:便秘症(完全排便停止)、Hirschsprung病
鑑別疾患
メッケル憩室壊死性腸炎新生児黄疸・高ビリルビン血症胎便性イレウス中毒性巨大結腸症腸重積症嚢胞性線維症肛門直腸奇形
続発疾患
イレウス・腸閉塞短腸症候群
治療薬
ピペラシリンタゾバクタムメトロニダゾールセフトリアキソン
症状
便秘嘔吐
原因となる疾患
ダウン症候群(21トリソミー)

🧠 全体像は、へ頭側から尾側へ向かって移動する過程が完了する前に停止してしまうことで生じる先天性のである。移動が届かなかった最遠位の腸管(直腸を含み、へどこまで及ぶかは症例ごとに異なる)はを欠き、弛緩できずに攣縮性のとなる。「狭く見える無神経節部位」こそが病的な部位であり、そので拡張している腸管はむしろ正常——この対応関係を取り違えないことが理解の軸になる。新生児の胎便排泄遅延・腹部膨満・胆汁性嘔吐で疑い、で確定する。発熱・血便を伴う急激な腹部膨満はという独立した緊急病態であり、術前後を問わず致死的になりうる。

病態

ヒトのの大部分は、迷走神経レベルに由来するが食道付近からに入り込み、頭側から尾側(から肛門側)へ向かって増殖しながら移動し、胎生12週頃までに直腸まで到達することで形成される(発生学 14.5)。この頭尾方向の移動が完了する前に停止すると、移動が届かなかった最も尾側(遠位)の腸管——多くは直腸から始まりへ一定の範囲——で(Auerbach神経叢)と(Meissner神経叢)が欠如する。

flowchart TD
    A["迷走<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neural crest'>神経堤</span>由来神経芽細胞が頭側から尾側へ移動"] --> B{"直腸まで移動が完了したか"}
    B -->|"完了"| C["全腸管に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enteric plexus'>腸管神経叢</span>が分布(正常)"]
    B -->|"途中で停止"| D["最遠位(直腸中心)で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enteric plexus'>腸管神経叢</span>が欠如"]
    D --> E["無神経節部が弛緩できず攣縮性に持続収縮"]
    E --> F["無神経節部での<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional obstruction'>機能的閉塞</span>"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral side (proximal, toward the mouth)'>口側</span>腸管に便・ガスが停滞"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral side (proximal, toward the mouth)'>口側</span>結腸の拡張=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='megacolon'>巨大結腸</span>"]

⚠️ 無神経節部=狭小部が病変本体である。 造影やで目立つのはの拡張しただが、これは無神経節部が閉塞しているために二次的に拡張した正常な腸管にすぎない。治療対象として切除すべきは狭く見える無神経節部の方であり、拡張した腸管ではない。

罹患範囲による分類

無神経節部がどこまでに及ぶかで、以下の4型に分ける。いずれも直腸を起点としてへ連続的に広がる点は共通する。

病型 範囲の目安 備考
直腸最遠位のごく一部 症状が軽く、乳児期以降に診断されることがある
直腸〜S状結腸 最も頻度が高い(全体の大半を占める)
下行結腸を越えて より頻度は低い
結腸全体(まで及ぶこともある) まれだが罹患範囲が広く管理が難しい

関連症候群とRETシグナル伝達

の発生にはが中心的に関わり、RET遺伝子のの主要な感受性遺伝子である(家族性例の多く、孤発例の一部で同定される)。)、などとの合併が知られる。

💡 同じRET遺伝子でも変異の向きで表現型が正反対になる。 はRETの機能喪失型バリアントによる腸管の発生不全である一方、(MEN2)はRETの型(活性化)バリアントによるなどのである。同じ遺伝子を共有するが機序が逆であり、単純に同一として扱わない。

臨床像

時期 主な所見
生後48時間を超える胎便排泄遅延、腹部膨満、胆汁性嘔吐、
乳児期以降 難治性の慢性便秘、腹部膨満、ガス排出困難、体重増加不良・(罹患範囲が短いほど診断が遅れやすい)
の緊張亢進、空虚な直腸、抜指後に便・ガスが爆発的に排出される

胎便排泄が生後48時間以内にあってもを完全には否定できない。特にでは母乳栄養児の生理的な排便間隔の延長と便秘の鑑別が難しく、乳児期以降まで診断されないことがある。

鑑別(新生児・乳児期の完全排便停止=obstipation)

便・ガスを一切排出できない状態は「obstipation」と呼ばれ、以外にも複数のが原因になりうる。

疾患 特徴
で空虚・、直腸生検で
しばしばMeckel憩室などがになり続発、間欠的腹痛と血便を伴う
粘稠な胎便によるの閉塞。嚢胞性線維症消化器症状として代表的で、症状のみでは鑑別が難しくやCFTRでの除外が必要になる
直腸閉鎖・先天性 ・空腸閉鎖など、不全による構造的閉塞
に伴うLadd帯 盲腸を腹膜・肝臓に固定する異常線維物による狭窄・閉塞

診断

・造影注腸・はいずれも補助的検査であり、確定診断はによる。

  • 直腸内ガスの減少・消失、腸管の拡張、遠位閉塞像を示唆しうる。
  • 注腸: 攣縮した無神経節部(狭小)から拡張した腸管への、直腸S状結腸比の逆転、24時間後の造影剤遺残などを評価する。が明瞭でないことがあり、急性腸炎・穿孔が疑われる状況では施行を避ける。
  • 直腸をバルーンで拡張してもが弛緩しない(の欠如)ことを示すが、新生児では手技的に難しく偽陽性・偽陰性が出やすい。
  • (確定診断): から少しを採取し、の欠如と肥大したを確認する。施設によりまたはを補助的に併用する。採取部位・深さが不十分な場合は再検、あるいはを検討する。

が唯一の確定診断法である。 X線・造影・内圧検査はいずれも「疑う」ための検査にとどまり、の有無を直接確認できるのは生検のみである。

ヒルシュスプルング関連腸炎(HAEC)

発熱、急激な腹部膨満、悪臭を伴う爆発的下痢、血便、嘔吐、活気低下、循環不全などはを示唆する。

⚠️ HAECは手術の前後を問わず起こりうる緊急病態である。 診断確定前の乳児にも、pull-through手術後の患児にも生じ、進行するとに至る。腹部膨満・下痢・発熱を「単なる術後便秘」や「軽症の胃腸炎」として様子を見てはならない。

  • 初期対応: 絶食、による減圧、による循環蘇生を並行して行う。
  • を反復して糞便・ガスを排出させ、腸管内圧を下げる。
  • 抗菌薬: 嫌気性菌・グラム陰性桿菌を広くカバーする経験的/、あるいはセフトリアキソンメトロニダゾールなど)を、重症度・に応じて開始する。
  • 反復するHAEC、穿孔徴候、改善しない場合は外科的評価を急ぐ。

治療

急性期の腸閉塞症状に対しては、絶食・減圧・蘇生・で減圧と全身状態の安定化を図る。

確定治療は無神経節部を切除し、正常な神経節を持つ腸管を肛門まで引き下ろして吻合するpull-through手術である。のいずれの術式でも、罹患範囲が限られるではによる単一段階手術が現在の標準であり、開腹を要さずも回避できることが多い。一方、重症のHAEC、、著明な拡張、不良などがある場合は、まず一時的なして安全に減圧・を改善させたうえでに進む段階的手術を選択する。

⭐ 段階的なは「原則」ではなく、重症合併症がある場合の例外的な対応である。多くの症例では単一段階のpull-through手術が第一選択になる。

術後は以下を定期的に追跡する。

  • 腸炎: 術後もHAECは起こりうるため、発熱・下痢・腹部膨満のに注意する。
  • ・残存無神経節: 便秘・が続く場合は解剖学的な原因を再評価する。
  • 排便機能: と便秘のいずれも起こりうる。「術後便秘だから」と機能的問題のみで片付けず、狭窄・残存無神経節・偽性閉塞などを画像・生検で再確認する。

まとめ

  • は、が頭側から尾側へ向かう移動を完了できずに生じる先天性のであり、移動が届かなかった最遠位(直腸中心)が病変部位、そのの拡張したは二次的な正常腸管である。
  • 罹患範囲により(最多)・に分類し、RET遺伝子のを主要な感受性遺伝子として、などとの合併が知られる。
  • 新生児の胎便排泄遅延・腹部膨満・胆汁性嘔吐、でのから疑い、/を補助に)で確定する。
  • は術前後を問わず起こる緊急病態であり、・循環蘇生を急ぐ。
  • 確定治療は無神経節部切除+pull-through手術で、では経肛門単一段階手術が標準、重症腸炎・穿孔・著明拡張・栄養不良例では段階的なを経る。