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Disease Atlas · 肝胆膵 · 疾患

新生児黄疸・高ビリルビン血症

Neonatal hyperbilirubinemia (jaundice)

別名
新生児黄疸新生児高ビリルビン血症
臓器系
肝胆膵
科目
Pediatrics
トピック
小児科 1-28:新生児黄疸小児科 09:新生児黄疸
鑑別疾患
ヒルシュスプルング病遺伝性・後天性溶血性貧血新生児敗血症先天性TORCH感染症先天性甲状腺機能低下症胆道閉鎖症嚢胞性線維症
関連疾患
総胆管嚢腫
治療薬
フェノバルビタールウルソデオキシコール酸
症状
黄疸核黄疸共同注視麻痺傾眠昏睡出血傾向発熱痙攣
検査値
経皮ビリルビン血算ビリルビン網赤血球
禁忌薬
セフトリアキソン

🧠 全体像を読む軸は2本しかない。①間接()優位か、直接(抱合型)優位かは「生理的でありうるが、高値では脳に入って不可逆の障害を残す」ものであり、は「生理的では絶対にありえず、を見逃せばに至る」ものである。②治療するかどうかは単一の数値では決まらない — 在胎週数・生後何時間か・の有無で層別化されたにTSBを当てはめて初めて判断できる。「生後72時間で15 mg/dLなら」という2004年版AAPの固定閾値の記憶は、2022年版AAPガイドラインで置き換えられている。

病態

は「肝が未熟だから」の一言では説明できず、産生・処理・再吸収の3つがすべて新生児側に不利に働いた結果として生じる。

  • 産生の亢進は寿命が短く(成人120日に対し約70〜90日)、出生時のも高いため、ヘム負荷が体重あたりで成人の約2倍になる。
  • 抱合能の未熟:肝のUGT1A1活性は出生時には成人値のごく一部で、生後数週かけて立ち上がる。
  • の亢進が未成熟でへ変換されない一方、腸管のβ-グルクロニダーゼ活性が高く、抱合されたビリルビンが腸管内でされて再吸収される。

💡 臨床的に効いてくるのは3番目である。哺乳がうまくいかない=便が出ないことが、そのままの亢進を通じてビリルビン上昇に直結する。摂取不足による黄疸の第一の治療が授乳支援であるのは、脱水を直すためだけでなく、便としてビリルビンを捨てさせるためである。

病的黄疸
ビリルビンの型 常に間接()優位 のいずれもありうる
発症時期 生後24時間以降 生後24時間未満でも出現しうる
上昇速度 緩徐 生後24時間以内で0.3 mg/dL/時以上、以後0.2 mg/dL/時以上なら溶血を疑う(AAP 2022)
遷延 通常は数週で軽快 人工栄養児で2週、母乳栄養児で3〜4週を超えて持続

⚠️ =抱合型」は誤りである。は必ず優位であり、優位の黄疸は生理的ではありえない。

間接優位と直接優位の鑑別

間接()優位 直接(抱合型)優位
定義の目安 1.0 mg/dL以下 1.0 mg/dL超(小児消化器・肝臓病学会の合同基準)
産生増加(溶血) ABO/Rh不適合、、敗血症
取り込み・抱合の障害
排泄・胆汁うっ滞 関連、敗血症、TORCH感染症、代謝疾患(
の亢進 摂取不足、消化管閉塞、、嚢胞性線維症(胎便排泄遅延)
緊急性 高値ならが危ない が危ない(の見逃し)

溶血性の原因は遺伝性・後天性溶血性貧血に、腸管通過障害は嚢胞性線維症に、遷延するに、につながる。

⭐ 鎌状赤血球症をはじめとするは、が優位なには典型的な黄疸の原因にならない。に溶血で目立つのは膜異常・酵素異常・である。

母乳に関連する2つの黄疸

摂取不足による黄疸は生後2〜5日ごろ、哺乳量不足による脱水・便回数減少・亢進として起こり、体重減少が大きく排尿・排便が少ない。は生後1週以降に目立って数週遷延しうるが、児は十分に哺乳し体重増加も良好である点で区別される。⚠️ いずれの型でも母乳を安易に中断しない中も授乳のため最大30分程度の中断は許容される)。断乳という不可逆的な不利益に対し、ビリルビン低下の利益は小さい。

ビリルビン脳症の成り立ち

アルブミンと結合していない遊離型のは脂溶性で血液脳関門を通過し、・海馬・脳幹聴覚核・に選択的に沈着して細胞死を起こす。

💡 したがって「同じTSB値なら同じ危険度」ではない。アルブミン<3.0 g/dL、敗血症、アシドーシス、低酸素、臨床的不安定性はいずれも分画を増やすため、より低いTSBで脳症を起こしうる。2022年版AAPが在胎週数とは別枠で「」を立て、閾値を1枚下げるのはこの理由による。

臨床像

黄疸は頭側から尾側へ進行するが、で重症度を判断してはならない(皮膚色の濃い児ではとくに過小評価される)。以下は病的黄疸を示唆する赤旗である。

  • 生後24時間未満に出現する(原則として溶血を意味する)
  • 急速なTSB上昇、集中でも下がらない、いったん下がってする
  • 傾眠・・高調の・筋緊張の異常などの神経症状
  • =胆汁うっ滞)
  • 早産、溶血、アルブミン低値、敗血症、などの臨床的不安定性の併存

は3段階で進む。

病期 所見
早期 傾眠・覚醒低下、/、高調の
中期 、頸部後屈()、発熱
昏睡、痙性、哺乳不能、無呼吸、痙攣、死亡

⚠️ を疑う所見があれば、TSB値がいくつであっても緊急の適応である。閾値表を確認してから動くのでは遅い。

慢性期に残る(慢性。近年は kernicterus spectrum disorder と総称される)の4徴は、(錐体路ではなく障害による不)、は正常だがが異常という組み合わせをとるため、のみのでは見逃す)、)、である。いずれも不可逆である。

診断

  • ⭐ 2022年版AAPは、の有無にかかわらず全例で生後24〜48時間の間にTSBまたはを1回以上測定し、その値と時間別閾値との差で退院後のフォロー間隔を決めることを推奨する。
  • 生後24時間未満にがあれば直ちにTSBを測定する。TcBはスクリーニング用であり、TcBがの3 mg/dL以内、または15 mg/dL以上ならTSBで確認する。の実施中・終了直後のTcBは信頼できない。治療の判断は必ずTSBで行う。
  • 溶血を疑う場合は母児血液型・)・血算・を進める。母体がO型またはRh陰性なら を確認する。
  • G6PD活性は、原因不明の黄疸で集中にもかかわらずTSBが低下しない/いったん低下してする/エスカレーション閾値に達した場合に測定する。AAP 2022はルーチンの全例スクリーニングではなく、この状況での測定と保護者への誘因教育を求めている。
  • ⚠️ :人工栄養児で生後2週、母乳栄養児で生後3〜4週を超えて黄疸が続く場合は必ず総・を分画する(NICEは在胎37週以上で生後14日、早産児で21日を起点とする)。「だろう」で分画を省くことが、の発見を遅らせる典型的な経路である。
flowchart TD
    A["新生児の黄疸"] --> B["総/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct bilirubin'>直接ビリルビン</span>を分画<br>生後時間と在胎週数を確認"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct bilirubin'>直接ビリルビン</span><br>1.0 mg/dL超か"}
    C -->|"はい"| D["新生児胆汁うっ滞として緊急評価<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='acholic stool'>灰白色便</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dark urine'>濃色尿</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatomegaly'>肝腫大</span>・肝胆道超音波"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biliary atresia'>胆道閉鎖症</span>なら生後60日以内の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic portoenterostomy'>肝門部空腸吻合術</span>を目標に小児外科へ"]
    C -->|"いいえ"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indirect (unconjugated) predominance'>間接優位</span>として在胎週数・<br>生後時間別<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nomogram'>ノモグラム</span>に当てはめる"]
    F --> G{"生後24時間未満の黄疸<br>または急速上昇か"}
    G -->|"はい"| H["溶血の検索<br>母児血液型・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct antiglobulin test'>DAT</span>・血算・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reticulocyte'>網赤血球</span>・塗抹"]
    G -->|"いいえ"| I["哺乳・体重減少・便回数を評価<br>摂取不足性か母乳性かを判断"]
    H --> J{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phototherapy threshold'>光線療法閾値</span>を超えるか"}
    I --> J
    J -->|"はい"| K["集中<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phototherapy'>光線療法</span>を開始し原因検索を並行"]
    J -->|"いいえ"| L["閾値との差に応じ再検時期を決める"]

治療・管理

2022年版AAPは、在胎週数(35週から40週以上まで1週刻み)と生後時間を軸に、の有無で2枚に分かれたと、同じ構造の閾値を提示している。閾値の実数は暗記する種類の数値ではなく、その都度または計算ツールで読むものである(原図はAAPの2022年版ガイドライン本体のFigure 2・3にあり、AAPのページ https://www.aap.org/en/patient-care/hyperbilirubinemia/ から関連資料をたどれる)。は、在胎38週未満・アルブミン<3.0 g/dL・性溶血性疾患//その他の溶血性疾患・敗血症・直近24時間以内の明らかな臨床的不安定性の5つである。⭐ 2022年版の閾値は2004年版より全体に引き上げられた。実装研究ではの施行率が半減した一方で安全性は損なわれておらず、旧版が過剰治療を招いていたことが裏づけられている。⚠️ したがって「生後72時間で15 mg/dL」のような2004年版由来の固定閾値をそのまま使うと、現在の基準では不要なを行うことになる。

AAPとNICEの数値体系の違い

実務では両方の系統の数値を目にするため、どの基準系の数値かを必ず明示する

項目 AAP 2022(米国) NICE CG98(英国)
単位・対象 mg/dL、在胎35週以上 µmol/L、在胎23週〜38週以上(早産児も同一体系)
層別化 在胎週数 × 生後時間 × 在胎週数 × 生後時間
の強化 閾値の2 mg/dL以内(エスカレーション) 上昇速度>8.5 µmol/L/時、または生後72時間以降で閾値の50 µmol/L以内
在胎週数・リスク因子別 在胎38週以上で450 µmol/L超
の中止 開始時の時間別閾値より2 mg/dL以上低下 より50 µmol/L以上低下
再検の目安 退院時TSBと閾値との差で決定(下表) 閾値の50 µmol/L以内なら18〜24時間以内に再検

光線療法

  • 460〜490 nmの青緑色光を用い、集中は照射強度30 µW/cm²/nm以上・最大への照射と定義される。LED・蛍光管・いずれも適切な波長と強度があれば有効。
  • ⚠️ 日光浴は治療ではない。照射強度も体温も紫外線曝露も制御できず、NICEは明示的に禁じている。全例へのルーチンも不要で、脱水・経口摂取不良・エスカレーション時に補液し、体温・体重・水分出納を監視する。
  • 禁忌(重篤な)。が上昇している児では、まれに(灰褐色の皮膚)を生じる。
  • 中止は開始時の時間別閾値より2 mg/dL以上低下したとき。生後48時間以内に開始した児や陽性児はリバウンドを起こしやすく、中止後6〜12時間で再検する。その他の児も中止翌日に再検する。

エスカレーション・オブ・ケアと交換輸血

⭐ エスカレーション・オブ・ケアは2022年版で明文化された概念で、閾値の2 mg/dL手前に達したTSB、または集中下でも上昇を続けるTSBが対象となる緊急状態である。新生児科への緊急コンサルトとNICUなど医療への移送、最大限の集中、アルブミン測定、2時間ごとのTSB再検の準備を同時に進める。

の適応は、TSBが在胎週数・リスク因子別の閾値以上に達した場合、またはの徴候がある場合(後者はTSB値によらず緊急)である。ビリルビンと抗体を同時に除去できる唯一の方法だが、合併症は10%を超え、非溶血例でも死亡率は1000例あたり3〜4例、溶血例では1〜3%に達する。は母児のABO/Rh型・抗体特異性・に基づいて輸血部門と選択するもので、「ABO適合かつRh陰性」を一律に指定するものではない。

陽性の性溶血性疾患に限り、集中にもかかわらずTSBがエスカレーション閾値を超えて上昇を続ける場合に0.5〜1 g/kgを検討する。を減らす利益は不確実で、などの有害事象も考慮する。かつてのようにルーチンで用いる薬ではない。

退院後のフォロー間隔(AAP 2022年版)

退院時のTSBが、その時点の時間別からどれだけ低いかで決める。閾値以上であれば退院させない。

閾値との差 再評価の目安
3.4 mg/dL以内 4〜24時間後にビリルビンを再検
3.5〜5.4 mg/dL低い 1〜2日後に再検
5.5〜6.9 mg/dL低い 臨床的に必要なら2日後に受診
7.0 mg/dL以上低い 臨床的に必要なら3日後に受診

保護者には黄疸の増強・・傾眠・高調の・発熱を受診の合図として説明する。

直接ビリルビン優位の場合

も適応ではなく、原因検索そのものが治療である。は生後60日以内の(葛西手術)で自己肝が最も良好で、生後90日を超えると黄疸消失率・自己肝がいずれも有意に低下する。の確認を「様子を見ましょう」で先送りしない。胆汁うっ滞には補充、栄養管理を並行する。なおII型ではによるUGT1A1誘導がするが、I型では無効であり両者の鑑別点になる。

まとめ

  • は必ず優位で生後24時間以降に出現する。>1.0 mg/dLは常に病的で、を念頭に緊急で評価する。
  • 治療閾値は単一の数値ではなく、在胎週数 × 生後時間 × で層別化されたで判断する。2022年版AAPは2004年版より閾値を引き上げており、「生後72時間で15 mg/dL」といった旧来の固定値は過剰治療につながる。全例で生後24〜48時間にTSBまたはTcBを測定し、閾値との差で退院後のフォロー間隔を決める。
  • 閾値の2 mg/dL手前がエスカレーション・オブ・ケアの起点で、NICU移送・2時間ごとのTSB再検・準備を同時に進める。の徴候があればTSB値によらず緊急を行う。
  • )はいずれも不可逆であり、これを防ぐ仕組みが退院前スクリーニングと退院後フォローである。数値を扱うときはAAP(mg/dL)とNICE(µmol/L)のどちらの基準系かを必ず明示する。