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Disease Atlas · 耳鼻咽喉科 · 病態

聴覚ニューロパチースペクトラム障害

Auditory neuropathy spectrum disorder

別名
ANSD聴覚ニューロパチー聴覚性同期不全
臓器系
耳鼻咽喉科神経小児
科目
OtorhinolaryngologyPediatrics
トピック
耳鼻咽喉科 06:客観的聴力検査、ティンパノメトリー、誘発反応聴力検査耳鼻咽喉科 23:難聴・聾児の症状、検査、治療と乳児聴覚スクリーニング小児科 3-57:小児の耳疾患
上位概念
感音難聴
関連疾患
Charcot-Marie-Tooth病Friedreich失調症新生児黄疸・高ビリルビン血症
原因微生物
サイトメガロウイルス
症状
難聴
検査値
耳音響放射聴性脳幹反応純音聴力検査聴性定常反応
原因となる疾患
成人Refsum病

🧠 全体像:は、⭐ 「蝸牛のは生きているのに、そこから先の神経の同期が崩れている」というの乖離そのものが定義になっている病態である1。だからは記録されるのには異常という、一見矛盾した組み合わせが生じる。⚠️⚠️ この構造がそのまま最大の落とし穴になる——をだけで行うと、本症は「合格」して素通りしてしまう2。⭐ 患者の訴えもの閾値では説明できない(閾値のわりに語音がまったく聞き取れず、雑音下でさらに崩れる)ため、閾値だけを見ていると重症度を取り違える1。

定義——検査の「不一致」が病名になっている

診断は次の2つを同時に満たすことに基づく13。

見るもの 本症での所見 何を意味するか
/ 保たれている は働いている
異常(第V波の減弱または消失) それより中枢の神経同期が崩れている

💡 なぜ「同期」が問題になるのか。 蝸牛では、のが高速でグルタミン酸を放出し、ニューロンがそれにして発火することで、音の時間情報がされる1。⭐ この経路のどこか一箇所でも遅れやばらつきが入ると、音は「聞こえる」のに「聞き分けられない」——強度の知覚はおおむね保たれる一方、時間に依存する知覚(数の、、による)が選択的に壊れる1。

⚠️ は正常からまで一定しない。 特定のパターンは無く、閾値が40 dBを超えて変動することもある1。だから「閾値が軽度だから軽症」とは読めない。

⭐ 病変部位で分けると、治療の見通しが変わる

Shearerらは、症候名でなく分子的な病変部位で記載することを提唱している——で迂回できる場所かどうかがそこで決まるからである3。

部位 代表的な遺伝子 病態 の成績
(の) OTOF、CACNA1D、CABP2、SLC17A8 伝達物質の放出そのものが起こらない 良好(電極が壊れた場所を飛び越える)1
(の終末) OPA1、ATP1A3、DIAPH3、ROR1 の応答・軸索の変性 Shearerらの一覧ではいずれも良好(神経細胞体は保たれ電気刺激に応じうるため)3。⚠️ 一方で OPA1・DIAPH3 を含む群は性の群よりが有意に劣ったとする報告もある1
本体 MPZ・PMP22()、TIMM8A、AIFM1、NARS2 の脱髄・変性 不良になりやすい——TIMM8A と MPZ/PMP22 は不良と明記されている。⚠️ AIFM1・NARS2 は同じ一覧で成績欄が空白であり、不良と示されたわけではない3

⭐ **OTOF・SLC17A8・CACNA1D・CABP2 の症例は、OPA1・DFNB59・AIFM1・DIAPH3 の症例よりの成績が有意に良好であった1。💡 **理由は単純で、は電極からを直接刺激するため、とそのシナプスの故障は「迂回できる」が、自体の故障は迂回できない3。

⚠️ OTOF の一部変異はを起こす。 発熱時だけとなり、平熱では正常聴力または雑音下のが悪い程度にとどまる1。「熱が出ると聞こえなくなる」という病歴は作り話ではない。

原因は遺伝性だけではない

時期 原因
出生前 遺伝性、の低形成・無形成、(麻疹・・)、未熟性1
周産期・出生後 早産、重症黄疸・(・)、を要する低酸素、敗血症、、髄膜炎、遅発性に発症する遺伝性1
症候群の一部として 、、(ATP1A3)、(AIFM1)、(TIMM8A)13
栄養 ——補充で改善しうる数少ない可逆性の原因1

⭐ を退院した児は別枠で考える。 この集団の感音難聴の頻度は約1/50(は1/1000)で、⚠️ 本症は同集団の全感音難聴の最大30%を占める1。の病理では、に入院した児のうちのが早産児の27%・の3%に見られた1。

臨床像

  • ⭐ が閾値に不釣り合いなほど悪く、雑音下でさらに崩れる。 これが受診のになる1。
  • 両側性が約75%、片側性が25%1。
  • ⚠️ 聴力は変動する。 診断後1年目にとくに自然改善を示す児がいる1。一方で、低音域の難聴を示す例では中・高音域がに悪化すると報告されている1——⚠️ これは全例に当てはまる経過ではなく、特定のを示す一群についての記載である。1回の測定で確定させず、繰り返し評価する。

診断

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='speech discrimination'>語音弁別</span>が閾値に見合わない<br>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='newborn screening'>新生児スクリーニング</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refer'>要精査</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='otoacoustic emissions, OAE'>耳音響放射</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='auditory brainstem response (ABR / BERA)'>聴性脳幹反応</span>を<br>同一児で組んで測る"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='otoacoustic emissions, OAE'>耳音響放射</span>は<br>記録されるか"}
    C -->|"記録される"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='auditory brainstem response (ABR / BERA)'>聴性脳幹反応</span>は<br>正常か"}
    C -->|"記録されない"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cochlear microphonic'>蝸牛マイクロホン電位</span>を確認する<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='otoacoustic emissions, OAE'>耳音響放射</span>は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serial'>経時的</span>に消えうる)"]
    E --> D
    D -->|"異常(第V波の減弱・消失)"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='auditory neuropathy spectrum disorder'>聴覚ニューロパチースペクトラム障害</span>を疑う"]
    D -->|"正常"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='outer hair cell'>外有毛細胞</span>より末梢の障害を<br>通常どおり評価する"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrocochleography'>電気蝸牛図</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='auditory steady-state response (ASSR)'>聴性定常反応</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cortical auditory evoked potential'>皮質聴覚誘発電位</span>を追加する"]
    F --> I["頭部MRIで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cochlear nerve'>蝸牛神経</span>の<br>形成異常を評価する"]
    F --> J["遺伝学的検査で病変部位を推定する<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cochlear implant'>人工内耳</span>の成績予測に直結する)"]
  • ⚠️ が無いことは、本症の否定にならない。 経過とともに20〜80%でが減弱または消失し、とくに補聴器装用後に起こる1。⭐ だからが生きている証拠はのほうで取る——疎密相反する刺激で得たの差分として取り出す極性依存性の電位で、その存在が診断上決定的とされる1。
  • と・、、、を評価に含める1。はが消失していても記録されうるが、本症児の約3分の1では異常または消失する1。
  • ・末梢神経・中枢神経の形態異常を見るため頭部MRIと遺伝学的評価が推奨される1。

⚠️⚠️ 新生児聴覚スクリーニングでの見逃し

⭐ 本症ではが保たれるため、だけのスクリーニングは「合格」を返してしまう。 2施設264例のでは、でスクリーニングされた児のほうが早く診断されていた(診断時の平均月齢14.1週 対 27.3週、p=0.0397)2。

スクリーニング法・背景 診断時年齢の中央値
・入院児 4か月2
・5日を超える入院歴のない児 2.5か月2
・入院歴のない児 8か月2

⚠️ この研究は264例中244例(92.4%)がすでにでスクリーニングされていた集団であり、群は20例(7.5%)にすぎない。 差の大きさをそのまま一般化せず、「単独では遅れる方向に働く」という向きで読む。⭐ とくに入院児(本研究では36.8%)では本症の頻度が高いため、を含むプロトコルに従う21。

治療

⚠️ 一律の正解が無く、症例ごとに組み立てる1。柱は3つある。

  1. を上げる。 軽症例ではが有効で、教室環境での効果が繰り返し報告されている1。
  2. 補聴器。 ⚠️ 成績は概して悪い——増幅しても神経の同期不全そのものは解決しないためである13。本総説が引くBerlinらのでは、補聴器装用85例のうち「利益なし」が61.17%、「わずかな利益」が24.71%で、「大きな利益」はわずか3.53%であった1。
  3. ⭐ 。 同研究の49例では85%がのリハビリテーションに成功した1。高度〜での形態が正常なら、早期植込みが標準となる1。

⚠️ の形成異常や中枢神経病変の合併は禁忌ではないが、予後不良因子である。 術前で成績の限界を明確に伝える1。

まとめ

  • ⭐ 定義はの乖離そのもの——(または)が保たれ、が異常。は生きていて、その先の神経同期が崩れている。
  • ⭐ がに不釣り合いなほど悪いのが臨床像の核で、雑音下でさらに崩れる。閾値だけを見ると重症度を取り違える。
  • ⚠️⚠️ のみのでは合格して見逃される。 入院児などではを含むプロトコルに従う。
  • ⚠️ は経過とともに20〜80%で消える。 の証拠はで取り、が無いことを否定の根拠にしない。
  • ⭐ 病変部位が予後を決める。 ・シナプス(OTOF など)はの成績が良く、本体(MPZ・PMP22・AIFM1 など)は不良になりやすい。
  • 補聴器の利益は限定的(「利益なし」61.17%)で、高度〜ではが主軸になる。
  • 原因は遺伝性・周産期(・低酸素・早産)・・と多彩で、⭐ は補充で改善しうる可逆性の原因である。

出典

  1. 1.Auditory Neuropathy Spectrum Disorders: From Diagnosis to Treatment: Literature Review and Case Reports(Journal of Clinical Medicine・2020)Europe PMCのPMC7230308で全文を取得して確認した。診断が「聴性脳幹反応の異常(第V波の減弱または消失)にもかかわらず外有毛細胞の反応である耳音響放射と蝸牛マイクロホン電位が保たれていること」に部分的に基づくこと、純音閾値に不釣り合いなほど語音弁別が悪く雑音下でとくに悪化し時間情報の符号化障害がその主因と考えられること、Starrらが1996年に10例で最初に記載したこと、有病率が難聴患者の1%未満から10%までと研究間で幅があること、新生児集中治療室を退院した児では感音難聴の頻度が約1/50(正期産児は1/1000)で聴覚ニューロパチースペクトラム障害は同集団の全感音難聴の最大30%を占めること、原因が出生前(遺伝性、蝸牛神経の形成異常、麻疹・ムンプス・サイトメガロウイルスなどの胎内感染、未熟性)と出生後(遅発性の遺伝性、早産、重症黄疸・核黄疸、機械換気を要する低酸素、敗血症、耳毒性薬、髄膜炎)に及ぶこと、新生児集中治療室に入院した児の側頭骨解析で内有毛細胞の選択的脱落が早産児の27%・正期産児の3%に見られたこと、チアミン欠乏による本症はチアミン補充で治療しうること、耳音響放射は経時的に20〜80%で減弱または消失し補聴器装用後にとくに起こるため蝸牛マイクロホン電位の存在が診断上重要になること、蝸牛マイクロホン電位が疎密相反する刺激による反応の差分で取り出せる極性依存性の電位であること、両側性が約75%・片側性が25%であること、閾値が40 dBを超えて変動しうること、診断後1年目にとくに自然改善を示す児がいること、聴性中間潜時・皮質聴覚誘発電位が本症児の約3分の1で異常または消失すること、Berlinらの多施設研究として補聴器装用85例のうち「大きな利益」3.53%・「ある程度の利益」10.59%・「わずかな利益」24.71%・「利益なし」61.17%であったのに対し人工内耳49例では85%が語音認識のリハビリテーションに成功したと報告されていること、Shearerらの検討として OTOF・SLC17A8・CACNA1D・CABP2 のようなシナプス前・シナプス障害の症例が OPA1・DFNB59・AIFM1・DIAPH3 のようならせん神経節障害の症例より語音認識の成績が有意に良好であったこと、OTOF 変異例の純音閾値が高度難聴75%・重度22%・中等度3%であること、OTOF の一部変異が発熱時にのみ高度難聴となる温度感受性難聴を来すこと、評価にインピーダンス測定とアブミ骨筋反射・電気蝸牛図・聴性定常反応・皮質聴覚誘発電位を含めるべきこと、軽症例ではFM補聴システムが雑音下聴取を改善しうることを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Newborn hearing screening methodology impacts the timing of diagnosis for auditory neuropathy spectrum disorder(American Journal of Otolaryngology・2023)Europe PMCで書誌情報と抄録を再取得して確認した(全文は未取得で抄録のみを閲覧している)。2010〜2018年に2施設で聴覚ニューロパチースペクトラム障害と診断された0〜18歳の264例の後方視的研究で、244例(92.4%)が聴性脳幹反応による新生児聴覚スクリーニングを、20例(7.5%)が耳音響放射によるスクリーニングを受けていたこと、診断時の平均月齢が聴性脳幹反応群14.1週・耳音響放射群27.3週で有意差があったこと(p=0.0397)、聴性脳幹反応でスクリーニングされた児の診断時年齢中央値が新生児集中治療室入院児で4か月・5日を超える入院歴のない児で2.5か月であったのに対し、耳音響放射でスクリーニングされた非入院児では8か月であったこと、97例(36.8%)が新生児集中治療室に入院し平均在室期間が6.98週であったこと、著者らが導入部で本症を小児難聴の10〜15%と記していること(これは本研究の測定値ではなく他文献の引用である)、耳音響放射は本症でしばしば保たれるため耳音響放射のみのスクリーニングでは見逃しと診断の遅れが生じうると著者らが述べていることを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Auditory synaptopathy, auditory neuropathy, and cochlear implantation(Laryngoscope Investigative Otolaryngology・2019)Europe PMCのPMC6703118で全文を取得して確認した。聴覚ニューロパチーが「外有毛細胞の機能が正常な難聴」を指す語であり耳音響放射または蝸牛マイクロホン電位が正常であるのに聴性脳幹反応が異常となることで示されること、病変部位が内有毛細胞のグルタミン酸放出部位・シナプス・シナプス後の伝達物質受容部位・終末樹状突起での興奮性シナプス後電位の発生部位・らせん神経節から脳幹への伝導路のいずれにもありうること、この同期不全のため音の時間情報処理が障害され語音知覚と音源定位が損なわれること、補聴器で刺激強度を上げても神経信号伝達そのものが障害されているため利益が限られること、著者らが分子的な病変部位(シナプス障害か神経障害か)に基づく記載を提唱し人工内耳の成績予測に用いるべきとしていること、人工内耳で迂回できる感覚器・シナプスの病変では成績が最良で聴神経そのものの病変では成績が不良であること、OTOF 変異が常染色体潜性非症候性難聴DFNB9の原因として約20年前に同定されたこと、1,119例の多民族難聴コホートで OTOF 変異が診断の2.4%を占め12番目に多い原因遺伝子であったこと、スペインでは創始者効果により常染色体潜性非症候性難聴の最大8%が OTOF によること、OTOF 例の人工内耳成績が良好〜非常に良好であること、ATP1A3 変異がCAPOS症候群を起こしシナプス後性の聴覚シナプス障害を示すこと、MPZ・PMP22 がCharcot-Marie-Tooth病に伴う聴覚ニューロパチーと関連すること、AIFM1 変異がX連鎖性聴覚ニューロパチーとCowchock症候群を起こし遅発性の末梢感覚神経障害(しびれ・不安定感・反射消失)を伴うこと、NARS2 変異が聴覚ニューロパチーとLeigh症候群に関連することを確認した。閲覧 2026-09-03