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Disease Atlas · 肝胆膵 · 先天性疾患

進行性家族性肝内胆汁うっ滞症

Progressive familial intrahepatic cholestasis

別名
PFIC
臓器系
肝胆膵小児
科目
Pediatrics
トピック
小児科 50:小児の胆汁うっ滞性肝疾患小児科 3-45:胆汁うっ滞・抱合型高ビリルビン血症
合併症
肝細胞癌肝硬変
関連疾患
妊娠性肝内胆汁うっ滞症
治療薬
フェニル酪酸ナトリウムウルソデオキシコール酸リファンピシンコレスチラミン
症状
黄疸掻痒下痢難聴
検査値
γ-GTPビリルビン
適応薬
フェニル酪酸ナトリウム

🧠 全体像:(PFIC)は、胆汁を作って排泄するための輸送体(トランスポーター)を作る遺伝子に変異があるために、乳幼児期から進行する胆汁うっ滞を来す一群の疾患である。学習の核心は1つだけ——「胆汁うっ滞なのにγ-GTPが上がらない」という一見矛盾した所見が1型・2型を強く疑わせるという点であり、γ-GTP高値の3型と対比させて覚えると病型分類が一気に整理できる。もう1つの重要な接点は、3型のABCB4の変異が、(ICP)という別の疾患の素因になるという、世代・病態を超えたつながりである。

病態:3つの輸送体、3つの表現型

PFICは、肝細胞の胆管側膜()に存在する胆汁成分の輸送体をコードする遺伝子の変異により、胆汁の生成・排泄が障害されるのである1。どの輸送体が障害されるかによって、と臨床像が大きく異なる。

flowchart TD
    A["胆汁排泄に関わる<br>輸送体遺伝子の変異"] --> B{"どの輸送体が<br>障害されるか"}
    B -->|"ATP8B1(FIC1)"| C["1型:リン脂質を膜の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inner layer'>内層</span>へ<br>戻す<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flippase'>フリッパーゼ</span>が障害され<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='canalicular membrane'>毛細胆管膜</span>の脂質非対称性が崩れる"]
    B -->|"ABCB11(BSEP)"| D["2型:胆汁酸の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bile canaliculus'>毛細胆管</span>腔への排出が障害"]
    B -->|"ABCB4(MDR3)"| E["3型:リン脂質<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phosphatidylcholine'>ホスファチジルコリン</span>)の排出が障害"]
    C --> F["γ-GTP 正常〜低値"]
    D --> F
    E --> G["γ-GTP 高値"]

⭐ 「胆汁うっ滞なのにγ-GTPが上がらない」ことが1型・2型を疑う最大の手がかりである。 通常、胆道系の閉塞・炎症があればの膜からγ-GTPが洗い出されて上昇するが、1型・2型では胆汁中へ出ていく胆汁酸そのものが減るため、このが起こらない。結果として高度の胆汁うっ滞があるにもかかわらずγ-GTPが正常〜低値にとどまる1。逆に3型ではリン脂質だけが欠けた胆汁の中で胆汁酸が裸のままを洗うため、γ-GTPが高値になる。この所見の乖離こそが、PFIC1・2型を他の小児から鑑別する出発点になる。

病型 遺伝子 蛋白 γ-GTP 特徴的な随伴所見
1型(FIC1欠損症) ATP8B1 FIC1(リン脂質) 正常〜低値 下痢・難聴などを伴う
2型(欠損症) ABCB11 () 正常〜低値 のリスクが高い
3型(MDR3欠損症) ABCB4 MDR3() 高値 胆石・を伴いやすい

1

💡 1型と2型は同じ「γ-GTPが上がらない胆汁うっ滞」でも、壊れている部品が違う。FIC1はをのへ移すであり、膜の脂質非対称性を保つことで()が働く土台を用意している1。つまり1型はそのものの異常ではなく、そのとなる膜環境の破綻である。さらにFIC1は肝臓だけでなく腸管・内耳など他臓器にも発現しているため、下痢や難聴といったを伴う点が2型と異なる。2型(ABCB11/)は胆汁酸そのものが排出できずに高濃度で蓄積するため、が強くのリスクが上昇する。3型(ABCB4/MDR3)はリン脂質が排出されないために胆汁中の胆汁酸に対する保護的なが障害され、胆汁酸がを直接傷害するためγ-GTPが上昇する。

近年ではこの3病型に加え、TJP2(4型)、NR1H4/(5型)、MYO5B(6型)など新たなも報告されており、PFICは3病型に限らない広がりを持つとして理解されつつある。

臨床像

1型・2型は〜乳児期早期に黄疸と難治性の掻痒で発症することが多く、3型は乳児期から若年成人期まで発症時期の幅が広い。いずれも治療しなければ進行性の胆汁うっ滞から肝硬変・肝不全に至りうる。

  • 難治性の掻痒は特に1型・2型で強く、生活の質を著しく損なう。
  • (A・D・E・K)のにより、・くる病・を来しうる。
  • 1型では下痢、、難聴、膵炎などを伴う。
  • 2型はが強く、若年で肝硬変・に進行するリスクが他の病型より高い。

診断

乳児期以降に持続する胆汁うっ滞(黄疸、、など)を認め、他の(など)を除外したうえで、γ-GTPの値を手がかりに病型を絞り込む。

flowchart TD
    A["乳幼児期からの持続する胆汁うっ滞"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extrahepatic'>肝外</span>閉塞(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biliary atresia'>胆道閉鎖症</span>など)を除外"]
    B --> C["γ-GTPを確認"]
    C -->|"正常〜低値"| D["1型・2型を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='extrahepatic manifestation'>肝外症状</span>の有無で鑑別を進める"]
    C -->|"高値"| E["3型を疑う"]
    D --> F["遺伝学的検査で<br>ATP8B1・ABCB11変異を確認"]
    E --> G["遺伝学的検査で<br>ABCB4変異を確認"]

確定診断には遺伝学的検査が必要であり、の所見(1型の粗胆汁、2型の無定形胆汁など)や免疫染色(発現の欠如など)が補助診断として用いられる。

治療

⚠️ 第一選択はだが、効果不十分例が多く、次の段階として(IBAT阻害薬)が近年の治療の中心に加わっている。

治療 位置づけ
第一選択。胆汁うっ滞・掻痒を軽減する
(IBAT阻害薬) での胆汁酸再吸収を阻害しを低下させる。難治性掻痒に対する非選択肢として承認されている2
リファンピシン・ 難治性掻痒への
(部分的外瘻・内瘻) 薬物療法に抵抗する掻痒・進行例に対する外科的選択肢。IBAT阻害薬の登場により位置づけが変化しつつある
肝硬変・肝不全への進行例、難治性掻痒例の

⭐ IBAT阻害薬は、での胆汁酸再吸収を選択的に阻害することでを低下させるであり、ではプラセボ群と比較して掻痒の改善・胆汁酸値70%以上の低下を達成した患者が有意に多く、に代わる非選択肢として位置づけられている2。

(A・D・E・K)の補充、栄養管理も全病型で重要な支持療法である。

⚠️ ABCB4ヘテロ接合体と妊娠性肝内胆汁うっ滞症(ICP)との関係

PFIC3型のABCB4は、両アレルに変異があればPFIC3型を発症するが、片方のアレルだけに変異を持つ(=PFICを発症しない保因者)では、(ICP)の素因になることが分かっている3。

  • ICP患者の約10%がABCB4の変異を有する3。
  • ABCB4がコードするMDR3はリン脂質()を胆汁中へ排出する輸送体であり、でも機能が部分的に低下することで、のホルモン負荷が加わったときにICPとして顕在化すると考えられている。
  • PFIC3型そのもの()とICPの素因(片アレル変異)は同じ遺伝子の異なる変異量によって生じる、連続したスペクトラムとして理解できる。

💡 この関係は、「同じ輸送体遺伝子の変異が、変異が両アレルに及ぶか片アレルにとどまるかとライフ(乳幼児期か妊娠期か)によって、まったく別の疾患名で顕在化する」という好例である。なお「両アレルに変異」とは同一の変異を2つ持つとは限らず、両アレルにそれぞれ別の変異を持つの形をとることも多い。

予後

1型・2型は無治療では乳幼児期から学童期に肝硬変・肝不全へ進行することが多く、特に2型はのリスクが高いため定期的な画像・によるを要する。3型は発症年齢の幅が広く、緩徐に進行する例から成人期に・として顕在化する例まで多様である。IBAT阻害薬の登場により、を経ずに症状を制御できる患者が増えている一方、進行例ではが唯一のとなる。

まとめ

  • PFICは胆汁排泄に関わる輸送体の遺伝子変異による、乳幼児期発症の進行性胆汁うっ滞である。
  • 1型(ATP8B1/FIC1)・2型(ABCB11/)はγ-GTP正常〜低値、3型(ABCB4/MDR3)はγ-GTP高値という所見の違いが病型分類の最大の手がかりである。
  • 1型は下痢・難聴などの、2型はのリスク上昇が特徴的で、近年は4型(TJP2)以降も報告されている。
  • 治療はが第一選択で、が難治性掻痒への非選択肢として位置づけを広げており、進行例では胆汁分流術・を検討する。
  • PFIC3型のABCB4の変異(保因者)は、(ICP)の素因になる。

出典

  1. 1.Progressive Familial Intrahepatic Cholestasis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)が胆汁分泌機構の遺伝子異常による一群の疾患であること、1型(ATP8B1、アミノリン脂質の細胞膜分布を保つFIC1をコードし、毛細胆管膜だけでなく胆管上皮・小腸にも発現する)・2型(ABCB11、胆汁酸を胆汁中へ排出するBSEPをコードする)が正常〜低値のγ-GTPを呈すること、3型(ABCB4、リン脂質排出に関わるMDR3をコードする)がγ-GTP高値を呈すること、治療の第一選択がウルソデオキシコール酸であり外科的胆汁分流術・最終的には肝移植が選択肢となることを確認した。閲覧 2026-08-19
  2. 2.Odevixibat: A Novel Bile Salt Inhibitor Treatment for Pruritus in Progressive Familial Intrahepatic Cholestasis(Cureus・2024)回腸胆汁酸トランスポーター阻害薬odevixibatが回腸末端での胆汁酸再吸収を阻害し血中胆汁酸を低下させる経口薬であること、PFIC患者の掻痒治療薬として承認され外科的胆汁分流術に代わる非手術的選択肢となっていること、第III相試験で掻痒の改善・血中胆汁酸の70%以上の低下がプラセボ群より有意に多く達成されたことを確認した。閲覧 2026-08-19
  3. 3.An expanded role for heterozygous mutations of ABCB4, ABCB11, ATP8B1, ABCC2 and TJP2 in intrahepatic cholestasis of pregnancy(Scientific Reports・2017)ABCB4が肝細胞のリン脂質輸送体MDR3をコードし、両アレルの変異でPFIC3型を来す遺伝子であること、ICP患者の約10%がABCB4のヘテロ接合体変異を有すること、ABCB4のヘテロ接合体変異が妊娠性肝内胆汁うっ滞症(ICP)の素因になることを確認した。閲覧 2026-08-19