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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

肝細胞癌

Hepatocellular carcinoma

別名
HCC
臓器系
腫瘍肝胆膵
科目
PathologyOncologyInternal MedicineSurgery
トピック
病理学 C-51:肝腫瘍・腫瘍様病変腫瘍学 II-13:肝腫瘍の疫学・病因・組織・病期・症状・診断腫瘍学 II-14:肝腫瘍の放射線・外科・薬物治療内科学 L-77:肝臓の良性・悪性腫瘍外科学 S-13:原発性・転移性肝腫瘍
鑑別疾患
肝芽腫肝転移
治療薬
アテゾリズマブベバシズマブデュルバルマブレゴラフェニブソラフェニブレンバチニブトレメリムマブカボザンチニブ
原因微生物
Aspergillus flavusHepatitis C virus
症状
右季肋部痛黄疸倦怠感昏睡出血食欲不振静脈瘤出血体重減少腹痛肝腫大
検査値
血算
画像所見
動脈相高濃染
スコア
ミラノ基準
組織像
肝細胞癌肝細胞癌の肉眼型と臨床病理
元疾患
糖原病
原因となる疾患
アルコール性肝疾患ウイルス性肝炎ヘモクロマトーシス肝硬変非アルコール性脂肪肝疾患
適応薬
カボザンチニブソラフェニブトレメリムマブレゴラフェニブレンバチニブ

🧠 全体像は、ほとんどのと違い「まっさらな臓器」に生じるのではなく、肝硬変や慢性HBV感染という既に傷んだ肝臓の上にほぼ必発で発生する。だから臨床の主戦場は「症状で見つかった癌をどう治すか」ではなく、危険群を半年ごとに監視して無症状のうちに拾い上げ、造影パターンだけで(生検なしに)診断し、と残された肝機能を天秤にかけて治療を選ぶことにある。この「→非侵襲的診断→×」という一本の流れを幹として覚えると、BCLCも治療の使い分けも自然につながる。

疫学と危険因子

HCCは原発性肝悪性腫瘍として最も頻度が高い。ただし肝の悪性腫瘍全体で見れば、他臓器癌からのの方がHCCより多い——腫瘤を見たら「原発か転移か」を先に考える癖をつける。

危険因子群 具体例
ウイルス性 慢性HBV感染(肝硬変がなくても発癌しうる)、慢性HCV感染
アルコール・代謝性 あらゆる原因のアルコール関連肝疾患、
遺伝・疾患 欠損症
環境曝露 (ピーナッツ・カビた穀物のAspergillus由来、TP53変異を誘発)
背景病態 原因を問わない肝硬変そのものが最大の共通因子

💡 HBVは肝細胞への直接的な細胞傷害性が乏しく、肝細胞表面のウイルス抗原に対するの主体になる(の病態を参照)。この持続的な「傷害→再生」サイクル自体が発癌ドライバーであるため、HBVは肝硬変を経由しなくてもHCCを起こしうる——他の原因(HCV、アルコール、MASLDなど)は基本的に肝硬変を経てから発癌リスクが上がる点と対比して覚える。

病理・発生機序

肝硬変肝では、正常結節→結節→結節→HCCというが起こる。はHCCのであり、な細胞死・再生・炎症が背景にある。染色体のはほぼ普遍的にみられる。

肉眼形態は単発(しばしば巨大)、多発(多結節)、びまんに分かれ、組織学的は高分化から低分化まで幅がある。は特徴的な亜型で、肝硬変を伴わない若年患者に生じ、状の線維化を伴う多角形細胞からなり、通常型HCCより予後良好である。

⭐ 高リスク背景で偶発的に見つかる肝腫瘤では、HCC以外に以下の良性病変も鑑別に挙がる。

病変 特徴 対応
最多の良性肝腫瘍。境界明瞭な血管腔+間質、造影でから中心へfill-inする典型パターン 典型像・無症状なら経過観察のみ。生検は出血リスクのため禁忌
を伴う過形成肝細胞の結節。真の腫瘍ではなく血管傷害への反応性病変、悪性化リスクなし 典型像なら治療不要
経口避妊薬使用の若年女性に多い。大きな腫瘍は破裂・のリスク(特に妊娠)、β-変異を伴う亜型はしうる 原因薬中止、性別・径・増大で切除を判断

サーベイランス(監視)

高リスク患者(肝硬変全般、肝硬変を伴わない慢性HBV感染など)には、腹部超音波±AFPをおおむね6か月ごとに行う。半年より短い間隔にしても発見率は上がらず、逆に長くすると根治可能な段階を逃しやすい。

flowchart TD
    A["高リスク患者:肝硬変全般・慢性HBV感染など"] --> B["腹部超音波+AFPを6か月ごとに施行"]
    B --> C{"US病変が1 cm以上、またはAFP異常・上昇"}
    C -->|"いいえ"| D["1 cm未満の病変は3〜6か月後に再評価"]
    C -->|"はい"| E["多相造影CTまたはMRIへ進む"]
    D --> B

⚠️ AFP単独ではHCCを診断できない——正常値でもHCCを否定できず、上昇だけで確定診断にもならない。AFPはあくまで画像所見を補強し、治療後の再発監視に役立つ補助的マーカーである。

臨床像

早期のHCCは無症状のことが多く、で偶発的に見つかるのが典型的な臨床像である。進行すると、腫瘤触知、体重減少、感、、黄疸、腹水を来す。

⚠️ 急速な、腹水の突然の悪化・血性腹水、あるいは突然の腹痛・貧血・ショックは、を示唆する救急疾患であり見逃してはならない。進行例の死因としては、著しいのほか、門脈浸潤によるを伴う肝不全、による致死的出血がある。

診断

肝硬変などの高リスク背景があるかどうかで、診断の進め方が分かれる。

flowchart TD
    A["肝腫瘤を検出"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic liver disease'>慢性肝疾患</span>・肝硬変の背景があるか"}
    B -->|"あり"| C["多相造影CTまたはMRIを施行"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arterial phase'>動脈相</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonrim'>非辺縁性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperchromasia; strong (contrast) enhancement'>濃染</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='portal venous phase'>門脈相</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='delayed phase'>遅延相</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='washout'>ウォッシュアウト</span>など典型像"}
    D -->|"典型的"| E["生検なしにHCCと診断可能"]
    D -->|"非典型・混合腫瘍の可能性"| F["別の造影<span class='jp-term jp-term-diagram' title='modality'>モダリティ</span>、または生検を検討"]
    B -->|"なし"| G["非肝硬変肝の腫瘤として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary tumor'>原発巣</span>検索・画像・必要時生検"]
  • 画像診断が中心:多相造影CT・MRIでとそれに続くという典型パターンを確認する。この所見を体系的に判定するための分類がである。肝硬変などの高リスク背景があれば、この典型像だけでを経ずにHCCと確定できる。
  • AFP:診断を支持し治療後の経過観察に有用だが、単独では診断も除外もできない。
  • 生検が必要になる場面:画像所見が、非肝硬変肝に生じた腫瘤、混合型腫瘍(HCCとの混合など)の可能性、またはを始める前に組織学的確証がを変える場合。
  • 血算、肝腎機能、凝固能、HBV/HCV検査で背景肝機能と治療性を評価する。

病期分類(BCLC)

病期は腫瘍径・個数・血管侵襲・だけで決まらず、(Child–Pugh)、門脈圧亢進、全身状態(performance status、PS)を統合するBarcelona Clinic Liver Cancer(BCLC)分類がに直結する。

BCLC病期 主な条件 主な治療の方向性
0(超早期) 単発2 cm以下、Child–Pugh A、PS 0 (切除も選択肢)
A(早期) 単発、または3個以内・各3 cm以下、肝機能良好、PS 0 肝切除、、Milan基準内なら
B(中 に限局する多発病変、肝機能温存、PS 0 に応じて個別化
C( 肉眼的血管侵襲または、PS 1〜2 を含む
D(末期) 高度肝不全(Child–Pugh C相当)、PS 3〜4 な支持療法

⭐ BCLC-Bは近年、と肝機能でさらに細分化され、TACEが効きにくいの多いB期では早期からへ切り替える判断も行われる。単純な「病期=治療法」の一対一対応ではなく、多職種で再評価しながら局所治療と全身治療を行き来させる。

治療

flowchart TD
    A["HCCを診断"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor burden'>腫瘍量</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic functional reserve'>肝予備能</span>・全身状態を統合評価"]
    B --> C{"根治的局所治療が可能か"}
    C -->|"早期・肝機能良好"| D["肝切除または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='local ablation'>局所焼灼</span>"]
    C -->|"移植基準内、または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decompensated cirrhosis'>非代償性肝硬変</span>"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liver transplantation'>肝移植</span>を評価"]
    C -->|"不可・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrahepatic'>肝内</span>多発"| F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic artery'>肝動脈</span>治療で対応可能か"}
    F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transarterial chemoembolization (TACE)'>肝動脈化学塞栓療法</span>など"]
    F -->|"いいえ:血管侵襲・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extrahepatic metastasis'>肝外転移</span>"| H["免疫療法を含む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic therapy'>全身療法</span>"]
    D --> I["反応・再発を再評価"]
    E --> I
    G --> I
    H --> I
  • 肝切除:非肝硬変肝、または肝機能が良好で十分なを確保できるが対象。必要な残肝量は・肝硬変の程度や化学療法後の肝障害で増えるため、一律の割合だけで判断しない。
  • など。小型では切除に匹敵する根治を目指せる。
  • :腫瘍と背景の肝疾患を同時に治療できる唯一の方法。古典的Milan基準は単発5 cm以下、または3個以内で各3 cm以下、かつ肉眼的血管侵襲・がないことで、後の移植やは移植施設ごとの専門的判断による。
  • :HCCが主に血流を受ける性質を利用し、薬剤投与と虚血を組み合わせる。肝機能が保たれた多発病変の代表的治療。(Y-90などによるTARE)やも、局所治療が困難なで個別に検討される。
  • :進行HCCの一次治療は、適格例で、またはなどの併用療法が中心となっている。これらが禁忌となる場合の代替として、が選択肢になる。多くのはChild–Pugh Aの患者を対象としており、では個別に慎重な判断が必要である。

⚠️ 併用前には食道・による出血リスクを評価し、未治療の高リスク静脈瘤があればなどで管理してから開始する。出血リスクが高い、あるいはが使いにくい場合は、が代替になりうる。

まとめ

  • HCCはほぼ必ず・肝硬変を背景に発生し、危険因子はHBV(肝硬変がなくても発癌しうる)・HCV・アルコール関連肝疾患・MASLD/MASH・遺伝性疾患・など。
  • 高リスク患者には腹部超音波±AFPを6か月ごとに行い、無症状のうちに拾い上げるが診療の出発点である。
  • 肝硬変などの高リスク背景があれば、でのという典型像だけで生検なしに診断できる。AFP単独では診断も除外もできない。
  • 病期はBCLC分類で・全身状態を統合し、早期は切除・・移植(Milan基準)、中はTACE、併用を中心とするという段階的な使い分けを行う。
  • ・FNH・など良性肝腫瘤との鑑別、という緊急事態の見逃し防止も臨床像の理解に含める。