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Disease Atlas · 呼吸器 · 腫瘍

肺腫瘍塞栓

Pulmonary tumor embolism

別名
肺腫瘍血栓性微小血管症PTTMpulmonary tumor thrombotic microangiopathyPTEpulmonary tumor embolism
臓器系
呼吸器循環器腫瘍
科目
Pathology (Histopathology)
トピック
組織病理 H1-086:肺癌性リンパ管症
鑑別疾患
癌性リンパ管症肺血栓塞栓症
合併症
肺高血圧症右心不全
治療薬
ベバシズマブイマチニブマシテンタンヘパリン
症状
呼吸困難乾性咳嗽血痰
検査値
Dダイマー
画像所見
すりガラス影小葉間隔壁肥厚
原因となる疾患
胃癌肝細胞癌乳癌

🧠 全体像:症(PTE)と肺腫瘍(PTTM)は⭐ 「腫瘍細胞そのものが肺血管の内腔に入り込み、詰まらせる」という一つの現象の、血管サイズとが異なる2つの姿である。PTEは腫瘍細胞塊がそのまま比較的太い肺動脈・を凝集的に閉塞する急性像で、PTTMはそれが引き金となって細動脈レベルで性内膜増殖が進み、びまん性にが狭くなっていく亜急性〜慢性像である1。⚠️ 「」という名前だが、はな肺塞栓像(大きな血管の)を示さないことが多く、診断は生前にはほとんどつかない——でのは1.4〜3.3%とされる一方、およそ80%が剖検で初めて診断される2。(リンパ管内の)と対をなす、血管内のという病態である。

病態生理——PTEからPTTMへの連続性

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary tumor'>原発腫瘍</span>(胃癌・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocellular carcinoma, HCC'>肝細胞癌</span>・乳癌など)"] --> B["腫瘍細胞塊が血流に乗り肺血管へ流入"]
    B --> C["肺動脈・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary vein'>肺静脈</span>の凝集的閉塞<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary tumor embolism'>肺腫瘍塞栓</span>症 PTE)"]
    C --> D["腫瘍細胞が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue factor'>組織因子</span>を放出<br>凝固系の活性化"]
    D --> E["血管<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth factor'>増殖因子</span>の産生"]
    E --> F["細動脈での<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrocyte'>線維細胞</span>性内膜増殖・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='smooth muscle proliferation'>平滑筋増殖</span><br>(肺腫瘍<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombotic microangiopathy, TMA'>血栓性微小血管症</span> PTTM)"]
    F --> G["びまん性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary vascular bed'>肺血管床</span>の狭窄"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='precapillary'>前毛細血管性</span>肺高血圧"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute right heart failure'>急性右心不全</span>"]

⭐ PTTMはPTEの「進行形」であって、別の病気ではない。 腫瘍細胞塊がを物理的に閉塞するだけでなくを放出してを活性化し、あわせて血管を産生することで、閉塞した血管の内膜が性に肥厚し、平滑筋が増殖する21。このがびまん性・多発性に細動脈へ広がることで、全体の抵抗が上がり、の肺高血圧と急性右心不全へ至る。

💡 PTEとPTTMは血管のサイズで住み分けている。 PTEは比較的太い肺動脈・を腫瘍細胞塊がそのまま塞ぐ像で周辺を通常伴わないのに対し、PTTMは細動脈レベルでのびまん性・の変化である1。同一患者の異なる時期・異なる血管で両者が併存することもあり、両者を「同じスペクトラムの異なる断面」として捉えるのが実務的である。

原発腫瘍

⭐ PTEとPTTMで多いが異なる。 PTEは・や、乳房・胃・肺・結腸の腺癌に頻度が高い一方、PTTMは胃癌()が最も頻繁に報告される原発である12。

PTTM59例を集めた解析では、の内訳は胃癌12例(20.3%)・乳癌7例(11.9%)・肺癌4例(6.8%)で、が25例(42.4%)と半数近くを占めた3。

病態 頻度の高い
PTE ・、腺癌(乳癌・胃癌・肺癌・)
PTTM 胃癌()が最多。ほかに肺癌・乳癌・膵

⚠️ のまま初発症状として発症することが珍しくない。 未診断の悪性腫瘍を背景にの呼吸困難で受診し、その精査でPTE/PTTMとが同時に判明する例が多い1。

臨床像

⭐ 共通するのは「数週間〜2か月で急速に進行する」である。 これに・が加わり、末期にはに至る1。ほかに胸痛・倦怠感・体重減少を伴うこともある2。

⚠️ 既知の悪性腫瘍が無い患者でも起こりうる。 未診断の胃癌・・乳癌が背景にあり、本症が初発症状となることがある1。

画像所見と診断の難しさ

⚠️ は「な肺塞栓像」を示さないため、診断が遅れやすい。 通常ののような太い肺動脈のではなく、軽度の・中心小葉性結節パターン、あるいは・びまん性間質性・散在性のという非特異的な陰影にとどまることが多い12。

💡 で末梢肺動脈の「」または「tree-in-bud様」外観が見られれば示唆的であるが、この所見自体が非特異的で見逃されやすい1。

診断確定には組織診断が要る。

  • 誘導生検・上部でを確認する
  • 気管支鏡下でPTTMに特徴的な性内膜増殖を確認する
  • 肺動脈部からの吸引細胞診は感度80〜88%・特異度82〜94%と報告され、によらず腫瘍細胞を捕捉できる有用な手技である1
  • でが低い肺高血圧を確認する(症例報告では19.4 という高値も記録されている)1

⭐ PTTM59例の解析では生前診断が31例(52.5%)・剖検診断が28例(47.5%)で、地域差もあった(中国例は51.6%、英語圏例は35.5%が生前診断)3。一方で別のレビューは「およそ80%が剖検で診断される」と報告しており2、⚠️ 報告集団によって生前診断率は大きく異なる。 共通するのは、の呼吸困難+非特異的な陰影+悪性腫瘍の既往または疑いという組み合わせを見たら、本症を積極的に疑わないかぎり生前に到達しにくいという点である。

治療と予後

⚠️ 確立された治療は無く、対症療法が中心である。 ・、循環不全に対する(・)、・などの、グルココルチコイド、適応がある場合のヘパリンによる、に対する化学療法・放射線療法が試みられる1。

⭐ とが有望な治療薬として報告されている。 は血管を、(阻害薬)はを標的とし、いずれもPTTMの内膜増殖という機序に理論的根拠を持つ2。59例の解析では抗凝固薬が27例(45.8%)、化学療法・分子標的薬が18例(30.5%)に施行され、+併用や、アパチニブ+併用の報告があった3。

⚠️ 予後はきわめて不良である。 あるレビューは発症後1週間以内にほぼ全患者が死亡するとし2、59例の解析でも生存期間中央値は9.5日にとどまった。⭐ ただしを使用した例では生存期間中央値が29.5日(最長106日)と、未使用例より延長する傾向が示された3。💡 「治せない」から「介入しない」にはならない。 支持療法・による時間の確保が、への治療を試みる窓を開く可能性がある。

鑑別

疾患 見分け方
塞栓子は。で太い肺動脈のという定型像を示す。の合併が多い
腫瘍がリンパ管の内腔に主座する。の不均一・肥厚が特徴で、そのものは通常保たれる
(他の原因) 慢性の経過と既知の心肺基礎疾患があり、の悪性腫瘍随伴パターンを欠く

まとめ

  • ⭐ PTE(肺動脈・の腫瘍細胞塊による凝集的閉塞)とPTTM(細動脈の性内膜増殖によるびまん性狭窄)は同一スペクトラムの急性像・亜急性像である。
  • PTEは・や腺癌に多く、PTTMは胃癌に最も多い。のまま発症することも多い(59例中42.4%)。
  • 臨床像は数週間〜2か月で急速進行する呼吸困難・・で、に至る。
  • ⚠️ はな肺塞栓像を示さず、・などの非特異的所見にとどまる。生前診断率は報告により大きく異なり(52.5% vs 約20%)、剖検で初めて診断される例が多い。
  • 確定診断には組織診断(気管支鏡下・肺動脈部吸引細胞診)とによる肺高血圧の確認が要る。
  • ⚠️ 治療は対症療法が中心で確立した根治療法は無い。・が理論的根拠のある治療薬として報告される。
  • 予後はきわめて不良(生存期間中央値9.5日)だが、の使用で中央値29.5日まで延びる可能性がある。

出典

  1. 1.Pulmonary Tumor Embolism and Pulmonary Tumor Thrombotic Microangiopathy Causing Rapidly Progressive Respiratory Failure: A Case Series(Journal of Investigative Medicine High Impact Case Reports・2022)肺腫瘍塞栓症(PTE)が腫瘍細胞塊による肺動脈・肺静脈の凝集的閉塞であり周辺間質浸潤を通常伴わないのに対し、肺腫瘍血栓性微小血管症(PTTM)はPTEの進行形であって腫瘍細胞塊が引き金となる線維細胞性内膜増殖と平滑筋増殖により細動脈レベルでびまん性に血管を狭窄させること、PTEは肝細胞癌・腎細胞癌や粘液分泌腺癌(乳房・胃・肺・結腸)に頻度が高くPTTMは胃腺癌に最も頻繁に報告されること、両病態とも急速進行性の労作時呼吸困難・乾性咳嗽・血痰を呈し数週間〜2か月の経過で急性低酸素性呼吸不全に至ること、CT所見として軽度の中心小葉性結節パターン・小葉間隔壁肥厚、両側胸水・びまん性間質性隔壁肥厚・散在性すりガラス影、肺動脈造影CTでの数珠状またはtree-in-bud様外観が示唆的であること、右心カテーテル検査で肺動脈楔入圧が低い前毛細血管性肺高血圧を呈し得ること(症例1で肺血管抵抗19.4 Wood単位)、肺動脈楔入部からの吸引細胞診が感度80〜88%・特異度82〜94%と報告されること、治療として酸素療法・人工呼吸・強心薬・肺血管拡張薬/エンドセリン受容体拮抗薬・グルココルチコイド・適応のある場合の抗凝固療法・化学療法が試みられたが両症例とも治療に反応せず入院中に死亡したことを確認した閲覧 2026-09-07
  2. 2.A Rapid Review of Adenocarcinoma and Pulmonary Tumor Thrombotic Microangiopathy: A Deadly Duo(Cureus・2025)PTTMが腺癌に伴うまれな傍腫瘍症候群であり腫瘍細胞が血管を物理的に閉塞するだけでなく組織因子を放出して凝固系を活性化し血管増殖因子を産生して血管壁肥厚を引き起こすこと、原発腫瘍として胃腺癌が最も多くほかに乳癌・肺癌・尿路上皮癌が関連すること、剖検シリーズでの有病率が1.4〜3.3%でありながら生前診断と剖検診断の比率が不均衡でおよそ80%が剖検で診断されること、症状として咳・息切れ・胸痛・血痰・倦怠感・体重減少が一般的で肺動脈性高血圧が特徴であること、CT所見が非特異的で定型的な肺塞栓像を示さないため診断が遅れやすいこと、ベバシズマブとイマチニブが有望な治療薬として報告されている一方で発症後1週間以内にほぼ全患者が死亡するというきわめて不良な予後を確認した閲覧 2026-09-07
  3. 3.Pulmonary tumor thrombotic microangiopathy: Two case reports and literature review(Medicine (Baltimore)・2024)PTTM59例を集めた解析で、原発腫瘍の内訳が胃癌12例(20.3%)・乳癌7例(11.9%)・肺癌4例(6.8%)・その他11例(18.6%)・原発不明25例(42.4%)であったこと、生前診断31例(52.5%)・剖検診断28例(47.5%)で中国例は51.6%・英語圏例は35.5%が生前診断であったこと、治療として抗凝固薬が27例(45.8%)、化学療法・分子標的薬が18例(30.5%)に施行されベバシズマブ+ペメトレキセド併用やイマチニブ(PDGFR阻害薬)、アパチニブ+セレキシパグ併用の報告があったこと、全体の生存期間中央値が9.5日であった一方で肺血管拡張薬を使用した例では生存期間中央値29.5日(最長106日)であったことを確認した閲覧 2026-09-07