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Disease Atlas · 呼吸器 · 疾患

肺静脈閉塞性疾患

Pulmonary veno-occlusive disease

別名
PVOD肺静脈閉塞症
臓器系
呼吸器循環器
科目
Pathology
トピック
病理学 C/23:肺高血圧症
上位概念
肺高血圧症
合併症
右心不全
原因薬剤
マイトマイシン
症状
労作時呼吸困難倦怠感

🧠 全体像:(PVOD)を理解する軸は⭐ 「臨床像はPAHとほぼ同じなのに、を使うと患者を溺れさせる」という一点にある。病変の主座が肺静脈・毛細血管にあるため、やのようなPAH治療薬で肺動脈だけを拡張すると、下流の狭くなった静脈側で流入血液が渋滞し、致死的な肺水腫を招く。この禁忌の理由を機序から説明できるかどうかが、この疾患を理解できているかの分かれ目である。稀な疾患だが確定診断は病理以外では極めて困難で、多くは後に初めて確定する。

WHO分類上の位置づけ——「1’群」は過去の呼び方

⚠️ PVODはかつての独立した「第1’群」とされてきたが、現行(2022年/)の分類ではこの呼び方を使わない。 静脈・毛細血管の関与を示す所見を伴うPAHとして、第1群(PAH)の中のサブグループ1.5に位置づけ直されている1。💡 「独立した特殊な群」ではなく「PAHの中の一亜型」という扱いに変わったこと自体が、PAHとの臨床像の近さを反映している。

病態

真の閉塞部位が肺動脈ではなく・毛細血管にある点が、PAHとの決定的な違いである。

flowchart TD
    A["中隔静脈・前中隔<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venule'>細静脈</span>のびまん性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrous thickening'>線維性肥厚</span>"] --> B["静脈・毛細血管レベルの内腔閉塞"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary capillary bed'>肺毛細血管床</span>の上流側で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrostatic pressure'>静水圧</span>が上昇"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effort dyspnea'>労作時呼吸困難</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatigability'>易疲労感</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exercise tolerance (capacity)'>運動耐容能</span>低下<br>(PAHと同様の臨床像)"]
    C --> E["肺胞への漏出リスクが常に高い状態"]
    F["PAH治療薬(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasodilator'>血管拡張薬</span>)で肺動脈側だけを拡張"] -.->|"下流の静脈狭窄はそのまま"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary capillary pressure'>肺毛細血管圧</span>がさらに上昇"]
    E --> G
    G --> H["致死的な肺水腫"]

病理では、中隔静脈・前中隔のびまん性のと内腔閉塞が特徴で、この閉塞が肺動脈側ではなく還流側にあることが、後述する治療上の禁忌をそのまま説明する2。

PAHとの臨床像の類似性——症状だけでは分けられない

⭐ ・・低下という症状は、特発性PAHとほぼ共通する2。この類似性こそが臨床上の危険の核心であり、「PAHらしい患者」を経験的にPAH治療薬で治療してしまうと、実はPVODだった場合に薬剤性肺水腫を招く。

禁忌の機序——PAH治療薬がなぜ肺水腫を誘発するか

⚠️⚠️ PVODが疑われる患者にPAH治療薬を投与すると、薬剤誘発性の肺水腫を来しうる。 報告では患者の20%超にこの薬剤誘発性肺水腫が生じており、機序は「小静脈のにより、の上昇に対応できない」ことにある2。

💡 ・・阻害薬など、どのクラスの薬剤でも起こりうる。 はいずれも肺動脈側の血流を増やす方向に働くが、PVODでは下流の静脈が狭いままなので、増えた血流の逃げ場が無くだけが押し上げられる。この一点の理解で、の添付文書が「を有する」を禁忌に掲げている理由が説明できる3。⭐ これはだけの特殊な注意ではなく、PAH治療薬に共通する禁忌である2。

鑑別:PAHとの分かれ目

PVOD 特発性PAH
症状 ・(共通) 同左
HRCT ⭐ 3徴:広範な・平滑な・腫大2 通常は特徴的な実質陰影を欠く
DLCO ⭐ PAHより顕著に低下する一方、はおおむね保たれる2 低下するがPVODほど顕著でないことが多い
PAH治療薬への反応 ⚠️ 薬剤誘発性肺水腫のリスク(20%超) 通常はされる
確定診断 病理(多くは後) 血行動態()

⚠️ の3徴だけで確定はできない。 これらの実質陰影は肺高血圧の発症前から存在しうるうえ、肺水腫・感染症などの他疾患とも類似する2。⭐ ()がPAHより顕著に低下し、はおおむね保たれるという対比は、と並ぶ重要な手がかりになる2。

診断の限界——確定診断は病理以外では困難

⚠️ 2022年改訂ガイドラインは、確定診断のためのを推奨していない。 生検自体が侵襲的でリスクを伴ううえ、PVODの脆弱なでは合併症のリスクも高いためである。そのため多くの症例は、後の摘出肺の病理で初めて確定診断に至る2。💡 生前に「確定診断」と言い切れないことが多い疾患だと理解する。 ・・臨床像から強く疑い、専門施設でと併せて総合的に判断する。

遺伝性・環境因子

  • 遺伝性PVOD:EIF2AK4遺伝子のによる。とみられたPVOD症例81例中7例(9%)に変異が同定され、は非保有者より診断時年齢が若い(中央値26歳 対 60歳)2。
  • :有機溶媒(とくにトリクロロエチレン、PVOD患者の42%に曝露歴)へのが有意に関連する(12.8)2。
  • 薬剤性:Cなどのを含む化学療法が、薬剤性PVODの原因として頻繁に報告されている2。

治療

⭐ は両側である。 内科的治療で病態そのものを止める手段は無く、移植施設への早期紹介が強調されている2。PAH治療薬は、専門施設でリスクとを慎重に検討したうえで低用量から極めて注意深く用いられることがあるが、⚠️ 薬剤誘発性肺水腫のリスクを常に念頭に置く——これがなどの添付文書がPVODを禁忌とする理由である23。進行すれば右心不全に至る。

まとめ

  • PVODは・毛細血管レベルのによるPAHの一亜型。⚠️ かつての独立した「第1’群」という呼び方は現行分類では使わず、第1群(PAH)のサブグループ1.5として位置づけられている。
  • 症状は特発性PAHとほぼ共通し、臨床像だけでは鑑別できない。
  • ⚠️⚠️ PAH治療薬(・・阻害薬のいずれも)は薬剤誘発性肺水腫を20%超の頻度で誘発しうる——静脈側の閉塞はそのままに肺動脈側だけを拡張するため、が押し上げられる。これがPVODでPAH治療薬が禁忌とされる機序である。
  • 鑑別の手がかりはの3徴(・・腫大)と、PAHより顕著な低下(は保たれる)。ただしいずれも確定診断の代わりにはならない。
  • 確定診断は病理以外では困難で、多くは後に確定する。は現行ガイドラインで推奨されない。
  • 遺伝性PVODはEIF2AK4のによる(孤発例の9%)。有機溶媒曝露・などの化学療法も原因になる。
  • は両側で、早期の移植施設紹介が重要。

出典

  1. 1.2022 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(European Society of Cardiology / European Respiratory Society・2022)臨床分類Table 6で、静脈・毛細血管の関与を示す所見を伴うPAH(PVOD/PCH)が第1群(PAH)のサブグループ1.5として位置づけられ、1.1は特発性PAHであることを確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Pulmonary veno-occlusive disease: illustrative cases and literature review(European Respiratory Review・2024)PVODが「静脈・毛細血管の関与を示す所見を伴うPAH」と定義され、病理では中隔静脈・前中隔細静脈のびまん性の線維性肥厚と内腔閉塞を特徴とすること、WHO臨床分類上は従来の独立した1'群という扱いから、現行(2022年ESC/ERS)の分類では**肺高血圧症第1群(PAH)の中のサブグループ1.5**(静脈・毛細血管の関与所見を伴うPAH)として位置づけ直されていること(引用元のLechartier ERR 2024はこれを「サブグループ1.1」と誤記しているが、2022年ESC/ERSガイドライン本体Table 6ではサブグループ1.1は特発性PAHであり、PVOD/PCHは1.5である)、症状は労作時呼吸困難・易疲労感・運動耐容能低下などPAH(特発性PAH)と共通し臨床像だけでは鑑別が難しいこと、PAH治療薬(血管拡張薬)による薬剤誘発性の肺水腫が患者の20%超で報告されており小肺静脈の閉塞性病変により肺毛細血管圧の上昇に対応できないことが機序であること、HRCTでは広範な小葉中心性のすりガラス影・平滑な小葉間隔壁肥厚・縦隔リンパ節腫大の3徴を示すが、これらの実質陰影は肺高血圧の発症前から存在しうるうえ肺水腫・感染症などとも類似すること、PVODでは肺気量がおおむね保たれる一方で一酸化炭素拡散能(DLCO)が低下するという対比を示すこと、2022年改訂ガイドラインでは確定診断のための肺生検は推奨されず、多くは肺移植後の病理で確定診断に至ること、遺伝性PVODはEIF2AK4遺伝子の両アレル性病的バリアントによる常染色体潜性遺伝で、孤発性とみられたPVOD症例81例中7例(9%)に変異が同定され変異保有者は非保有者より診断時年齢が若い(中央値26歳 対 60歳)こと、有機溶媒(とくにトリクロロエチレン、PVOD患者の42%に曝露歴)への職業曝露がPVODと有意に関連する(調整オッズ比12.8)こと、マイトマイシンCなどのアルキル化剤を含む化学療法がPVODの薬剤性原因として頻繁に報告されていること、両側肺移植がPVODの根治的治療であり移植施設への早期紹介が必須であることを、NCBIが到達不能だったためEurope PMCのfullTextXML(PMC10792437)で確認した。閲覧 2026-09-07
  3. 3.ウプトラビ錠0.2mg/0.4mg 添付文書(2026年2月改訂・第6版)(日本新薬株式会社(医薬品医療機器総合機構 掲載)・2026)セレキシパグ(ウプトラビ)の禁忌に「肺静脈閉塞性疾患を有する肺高血圧症」が明記されていることを確認した。閲覧 2026-08-10