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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

乳癌

Breast cancer

別名
乳がん
臓器系
腫瘍生殖・産婦人科
科目
OncologyPathologySurgery
トピック
腫瘍学 II-29:乳癌の疫学・病因・組織型・病期・症状・診断腫瘍学 II-30:乳癌の放射線療法腫瘍学 II-31:乳癌の外科治療と薬物療法病理学 C/78:乳腺の悪性腫瘍外科学 S-32:乳癌の診断と治療
鑑別疾患
肺癌良性乳房疾患
続発疾患
髄膜癌腫症深部静脈血栓症傍腫瘍性小脳変性骨髄癆性貧血
関連疾患
子宮体癌髄膜腫毛細血管拡張性運動失調症卵巣癌
治療薬
タモキシフェンアナストロゾールフルベストラントゴセレリンパルボシクリブトラスツズマブペルツズマブトラスツズマブ・エムタンシンドキソルビシンエピルビシンシクロホスファミドパクリタキセルドセタキセルカルボプラチンカペシタビンペムブロリズマブオラパリブエベロリムス
症状
骨痛浮腫
検査値
CA15-3
画像所見
マンモグラフィ石灰化
スコア
BI-RADSTNM分類
組織像
乳管内癌の微小石灰化(HE染色)浸潤性乳癌(非特殊型)浸潤性小葉癌非浸潤性乳管癌と乳頭Paget病乳癌(肉眼標本)浸潤性乳癌(非特殊型)の肉眼像浸潤性乳癌(非特殊型)の肉眼像(2)浸潤性乳癌(非特殊型)の浸潤診断基準浸潤性小葉癌の遺伝的背景と組織亜型DCISの微小石灰化パターンと核異型度乳癌の免疫組織化学による分子分類
原因となる疾患
Cowden症候群Li-Fraumeni症候群遺伝性乳癌卵巣癌症候群神経線維腫症1型
適応薬
エピルビシントラスツズマブビノレルビンペルツズマブ
禁忌薬
エストラジオールエチニルエストラジオールエチニルエストラジオール+レボノルゲストレルティボロンテストステロンウンデカン酸エステルデソゲストレルナンドロロンノルエチステロンメドロキシプロゲステロン酢酸エステル

🧠 全体像:乳癌診療は「」と「生物学的(ER/PR、HER2、)」の2軸で決まる。病期は局所の広がりと予後を、はどのが効くかを決める。診断は診察・画像・で確定し、局所治療(手術・放射線)と全身治療(・化学療法・免疫療法・など)を別に組み合わせる。

疫学・危険因子

乳癌は女性で最も頻度の高い悪性腫瘍の一つで、多くの先進国で女性の癌関連死の第2位(肺癌に次ぐ)を占める。症例の大部分は50歳超で診断され、40歳未満は少数派である。も存在するが稀である。

分類 主な危険因子
ホルモン曝露 早い、遅い閉経、、遅い初回満期妊娠、閉経後、閉経後肥満
遺伝性(5〜10%) BRCA1、BRCA2、PALB2、TP53()などの、強い家族歴
性の HER2(HER2/NEU)遺伝子増幅、p53・RB不活化、ERプロモーターの
乳腺の既往病変
生活・身体 飲酒、運動不足
医原性 若年期の胸部放射線治療歴

💡 では、BRCA1変異はとの関連が強く、BRCA2変異はとの関連が相対的に強い。いずれもDNA)に関わるで、2ヒット説に従い残存アレルの後天的不活化で発癌する。

⭐ 若年発症、両側性・多発性、、卵巣癌の家族歴、(特に60歳未満)、強い家族歴などは遺伝と生殖細胞系列検査の適応を示唆する。保有者では、強化(若年からのMRI併用検診)に加え、も選択肢となる。

病理・分子分類

組織型

基底膜を越えるかどうかで(上皮内)と浸潤性に大別する。

区分 代表的組織型 特徴
(上皮内) 導管に限局。石灰化を伴いやすく、では壊死物質を認める。大導管病変はを来し得る
喪失、閉経前女性、しばしば両側性・多巣性。将来の浸潤癌リスクの指標
浸潤性(最多) 亜分類できない浸潤癌の大部分。により硬い腫瘤を形成
浸潤性 喪失により・一列縦隊配列。多中心性・両側性。ほぼ全例が陽性で、卵巣・子宮・消化管・髄膜など異型的な部位に転移しやすい
浸潤性・特殊型 パターンを示す浸潤癌(旧称: 境界明瞭、が豊富。悪性度の高い形態にもかかわらずNOSより予後良好
浸潤性・特殊型 (膠様癌)・ いずれも陽性率が高く、予後良好な特殊型
臨床病型 真皮リンパ管内により、明瞭な腫瘤なしに急速な発赤・浮腫・を呈する。予後不良で局所として扱う

分子(生物学的)サブタイプ

ER/PR、HER2、Ki-67(の指標)の組み合わせで、に直結するを規定する。

治療の軸
Luminal A ER/PR陽性、HER2陰性、Ki-67低値、低グレード が中心。多くは化学療法を要さない
Luminal B ER/PR陽性、HER2陰性(Ki-67高値・高グレード)またはHER2陽性 +リスクに応じ化学療法・。HER2陽性ならを追加
HER2陽性(HER2-enriched) HER2・増幅(IHC3+またはISH陽性) +化学療法が中心
ER・PR・HER2いずれも陰性 化学療法が中心。高リスク早期例は免疫療法、BRCA関連例はを検討

HER2-low/HER2-ultralowという新しい区分(2022年以降):従来HER2は「陽性(IHC3+またはISH増幅)」か「陰性」かので評価されてきたが、である(trastuzumab deruxtecan、T-DXd)の登場により、旧来「陰性」とされていた集団がさらに細分化された。

区分 HER2 IHC/ISH所見 治療上の意味
HER2陽性 IHC3+、またはIHC2+かつISH増幅 の適応
HER2-low IHC1+、またはIHC2+かつISH非増幅 従来は「HER2陰性」扱いだったが、転移例でT-DXdの適応となる
HER2-ultralow IHC0だが微弱・不完全な膜染色を10%以下の腫瘍細胞に認める HR陽性転移例でT-DXdの有効性を示すデータがあり、適応が広がりつつある
HER2陰性(真の0) IHC0で染色を全く認めない 現時点でHER2標的ADCの主な対象外

💡 このHER2-low/HER2-ultralowの概念は比較的新しく(2022年以降のDESTINY-Breast04・DESTINY-Breast06試験に基づく)、旧来の「HER2陽性か陰性か」というだけで学習していると見落としやすい。

臨床像・スクリーニング

  • 典型例は無痛性で硬く不整、可動性に乏しい腫瘤である。乳房左右差、、乳頭、血性分泌、を伴うことがある。
  • は腫瘤が不明瞭でも、びまん性の発赤・浮腫・を呈し得る。
  • 、呼吸器症状、神経症状は・遠隔転移を示唆する。

⚠️ 良性を示唆する所見や若年であることのみを理由に、持続する新規腫瘤を評価せず良性と決めつけてはならない。

検診(スクリーニング)

米国(2024年改定)は、平均リスク女性に対し40〜74歳2年ごとを推奨する(推奨グレードB)。これは従来の「50歳から」という基準から引き下げられたもので、若年層での上昇と転帰格差が背景にある。への追加検査の意義は今後の研究課題とされている。実際の運用は居住国・施設のプログラムに従う。高リスク群(保有者など)では若年からのMRI併用など個別の検診計画を立てる。乳房自己検診単独で死亡率を下げる根拠はないが、普段との変化への気づきは受診のきっかけとして重要である。

診断・病期分類

flowchart TD
    A["乳房腫瘤・乳頭変化・検診異常"] --> B["病歴と乳房・腋窩の診察"]
    B --> C["診断<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mammography'>マンモグラフィ</span>+超音波<br>(高リスク・選択例は造影MRI)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Breast Imaging Reporting and Data System'>BI-RADS</span>で評価"]
    D --> E{"画像は疑わしいか?"}
    E -->|"はい"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='image-guided'>画像ガイド下</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='core needle biopsy'>コア針生検</span>"]
    E -->|"低<span class='jp-term jp-term-diagram' title='suspected diagnosis'>疑診</span>だが触知病変が持続"| G["臨床・画像の不一致を再評価"]
    G --> F
    F --> H["組織型・グレード・ER/PR・HER2・Ki-67"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clinical stage (cTNM)'>臨床病期</span>+遺伝性リスクを評価"]
    I --> J["多職種で手術先行または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoadjuvant systemic therapy'>術前薬物療法</span>を決定"]
  • 細胞診()は浸潤の評価や受容体検査に限界があるため、疑わしい病変ではが基本となる。画像と病理が不一致ならを検討する。
  • CA15-3・などのは無症状者の診断・検診には用いない。
  • 早期無症候例に一律のCT・PET-CT・を行わず、進行病期・症状・検査異常に応じて遠隔病期評価を選択する。

TNM病期分類

現行のAJCC/分類(第8版、2018年導入)は解剖学的病期(T・N・M)に加え、グレード・ER・PR・HER2・多(Oncotype DXなど)を統合したを用いる。肺癌のようにそのものが新版へ全面改訂された動きは、2026年時点で乳癌には生じていない。

区分 要点
T1 最大径2 cm以下(T1miは微小浸潤1 mm以下)
T2 >2〜5 cm
T3 >5 cm
T4 大きさを問わず胸壁または皮膚へ進展。を含む
N1 1〜3個
N2 4〜9個、または腋窩転移を伴わない転移
N3 10個以上、下、、または腋窩+
M1 遠隔転移あり

は骨、肺、肝、脳へ好発する。では卵巣、子宮、消化管、髄膜などの部位への転移も念頭に置く。

治療

局所治療(手術)

手術 要点
腫瘍をで切除し、通常はを併用。多くの早期癌で乳房切除術と同等の生存成績
多中心性、広範病変、温存困難、患者希望などで選択。即時/二期再建が可能
臨床的腋窩陰性例の基本。陰性ならを省略
広範な腋窩病変、センチネル節転移量が多い例などに限定。+全乳房照射でセンチネル1〜2個陽性なら郭清を省略できる場合が多い

⚠️ 「は断端2 cm」のような固定切除幅や、「センチネル陽性なら全例ALND」という考え方は現行基準ではない。断端評価は浸潤癌ではno ink on tumorを原則とし、腋窩治療も縮小方向にある。

局所治療(放射線療法)

  • 後は原則として全乳房照射を行う。が多くの症例で標準となっている。
  • 適格な早期低リスク例にはを選択できる。
  • 乳房切除後の胸壁・領域リンパ節照射は、腫瘍径、断端、リンパ節転移数・部位、反応を統合して決める。
  • 左側乳癌では(DIBH)などで心臓線量を低減する。

⚠️ 「70歳超・pT1N0・ER陽性なら放射線療法を省略する」という判断は自動的な規則ではなく、を受ける低リスク高齢者に限り、局所再発リスク増加と治療負担を比較したとして検討する。

全身療法(サブタイプ別)

flowchart TD
    A["病期+ER/PR+HER2+Ki-67を確定"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoadjuvant therapy'>術前治療</span>が必要?"}
    B -->|"HER2陽性、TNBC、局所進行など"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Subtype'>サブタイプ</span>別術前<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic therapy'>全身療法</span>"]
    B -->|"不要"| D["手術+腋窩病期評価"]
    C --> E["治療反応を評価して手術"]
    D --> F["病理学的リスクに応じ術後療法"]
    E --> F
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endocrine therapy'>内分泌療法</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-HER2 therapy'>抗HER2療法</span>・化学療法・放射線療法を統合"]

HR陽性/HER2陰性(Luminal)

が治療の軸である。

  • 閉経前:単独、または高リスク例ではなど)を併用したなど)。
  • 閉経後:が中心。進行・転移例ではも用いる。
  • 高リスク早期例(病理学的節転移陽性、または節陰性でも高リスク特徴)には、を2〜3年併用する。

⚠️ 3剤(、リボシクリブ、アベマシクリブ)は互換ではない。アベマシクリブリボシクリブ)での改善が確認され、リボシクリブは対象がより広い高リスク節陰性例にも及ぶ。一方設定の複数ので有効性を示せず、現在は転移性乳癌の治療に位置づけが限定される。

  • 病期・グレード・リンパ節・多遺伝子発現検査(Oncotype DXなど)・閉経状態を統合して化学療法の追加利益を判断する。固定した腫瘍径のみで一律に決めない。
  • 転移例ではが多くで一次治療の軸となり、では迅速な腫瘍縮小を優先し化学療法を選ぶ。耐性後の選択肢である。HER2-lowまたはHER2-ultralowの抵抗例では、などのADCも選択肢となる。

HER2陽性

を軸とし、病期に応じによる二重阻害)に化学療法を組み合わせる。

  • 局所進行・II〜III期では(化学療法+)を優先することが多く、・残存病変が術後治療の選択に役立つ。
  • 後に浸潤性残存病変がある例では、術後に(T-DM1)へ変更する。
  • 小さな節陰性腫瘍では、による治療強度を抑えたレジメンも選択できる。
  • 転移例では抗HER2薬を中心にレジメンを組み、進行時にはなどのADCが位置づけを持つ。

トリプルネガティブ

化学療法が治療の軸である(、BRCA関連や高リスク例ではを含む)。

  • 高リスクの早期(II〜III期)では、)を含む術前・術後化学免疫療法を検討する。
  • 後に有意な残存病変がある例では、術後にを追加する選択肢がある。
  • 生殖細胞系列BRCA関連の高リスク早期・転移例では)を検討する。としてのは、長期追跡でもの改善が確認されている。
  • 転移例ではPD-L1発現、BRCA変異、HER2-lowなどのと既治療歴に応じ、免疫療法、(サシツズマブ ゴビテカンなど)を選ぶ。

支持療法・モニタリング

  • では、治療前・治療中に心機能をモニタリングする。固定したの閾値だけでなく、変化量と症状を評価する。
  • の有害事象:・子宮内膜病変・・関節痛・心血管代謝リスク、・妊孕性への影響を伴う。

⚠️ によるのリスクは、そのものがの危険因子であることと合わせて評価する。

予後・フォローアップ

予後はサイズ、リンパ節転移の有無・個数、遠隔転移の有無、、組織型(特殊型は良好)、陽性(良好)、HER2登場前は不良だが現在は治療可能)などで規定される。

後の・診察とが中心で、無症状者に胸部X線、腹部超音波、を一律に反復しない。

まとめ

  • 乳癌の治療は「病期(TNM・)」と「(ER/PR、HER2、Ki-67)」の2軸で決める。
  • 診断は診察・画像(+超音波、選択例で造影MRI)・で行い、必ずER/PR/HER2/Ki-67を確認する。
  • HER2はもはや陽性/陰性のではなく、HER2-low・HER2-ultralowをADCの標的として区別する時代になっている。
  • 局所治療は+放射線療法または乳房切除術、腋窩治療は縮小方向にある。
  • はHR陽性/HER2陰性では+(高リスク例で)無効の点に注意)、HER2陽性では+化学療法、では化学療法±免疫療法・別に選ぶ。
  • BRCA1/2などのでは、強化・リスク低減手術・が管理の柱となる。