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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

神経線維腫症1型

Neurofibromatosis type 1

別名
NF1von Recklinghausen病
臓器系
腫瘍神経皮膚
科目
HistopathologyPathologyBiochemistryPediatrics
トピック
組織病理 H2-112B:神経線維腫病理学 C/111:中枢・末梢神経系腫瘍生化学 15/1:増殖・分化・生存・血管新生・転移の中心的分子と創薬標的(第I部)病理学 C/88:副腎の機能異常・腫瘍組織病理 H2-097B:褐色細胞腫小児科 3-61:単一遺伝子疾患の遺伝形式
鑑別疾患
McCune-Albright症候群神経線維腫症2型
合併症
注意欠如・多動症(ADHD)知的発達症自閉スペクトラム症腎動脈狭窄症
続発疾患
褐色細胞腫中枢神経系腫瘍(成人・小児)軟部肉腫横紋筋肉腫乳癌白血病消化管間質腫瘍悪性末梢神経鞘腫瘍
症状
側弯症

🧠 全体像(NF1)は、17番染色体(17q11.2)にあるNF1によって起こる、の全身性疾患である。NF1がコードするはRasのGTPase活性化タンパク(Ras-GAP)としてRasシグナルを負に制御しており、どおり体細胞に残る正常アレルへ第二の変異が加わるとRas-MAPK経路が持続的に活性化し、など多彩な腫瘍を生じる。臨床像はという「見た目でわかる幹」から入り、2021年改訂の国際コンセンサス基準で診断を確定し、年1回の定期評価で合併症を先回りしつつ、症候性・手術不能なにはMEK阻害薬というへつながる、という一連の流れで理解する。両側性のを来すNF2とはも腫瘍の種類も異なる別疾患である点を、最初に区別しておく必要がある。

概要

NF1は出生2,000〜3,000人に1人程度とされる、としては高頻度な疾患である。を示すが、罹患者の約半数は家族歴のない新生バリアント(新生突然変異)による孤発例であり、家族歴がないことはNF1を否定する根拠にならない。は成人までにほぼ完全に近いが、同じ家系内・同じバリアントでも重症度は大きく異なる(の多様性)。歴史的にはvon Recklinghausen病と呼ばれ、この名称は今も別名として通用する。

分子遺伝学・発生機序

由来の細胞を含む多くの組織で発現し、Rasを活性型(GTP結合型)から(GDP結合型)へ戻す方向に働くRas-GAPとして、Ras-MAPK経路にブレーキをかける腫瘍抑制タンパクである。生殖細胞系列で片方のアレルにを持つ細胞は、もう一方の正常アレルにも第二の変異(体性消失)が加わって初めての機能を完全に失い、する。これがKnudsonのであり、(MPNST)はいずれもこの体細胞での「第二ヒット」を背景に生じる。

💡 Ras-MAPK経路の恒常的な活性化を来す一群の疾患はまとめてと呼ばれ、NF1はその代表格である。同じ経路の異常でも、PTPN11など)やHRAS)は別の遺伝子が原因であり、NF1と表現型が部分的に重なることがある。

flowchart TD
    A["NF1遺伝子(17q11.2)の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='germline pathogenic variant'>生殖細胞系列病的バリアント</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurofibromin'>ニューロフィブロミン</span>の機能が半量に低下(片アレルのみ異常)"]
    B --> C["体細胞で残る正常アレルに第二の変異(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heterozygous'>ヘテロ接合</span>性消失)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurofibromin'>ニューロフィブロミン</span>のRas-GAP活性が完全に喪失"]
    D --> E["Ras-GTPが蓄積し持続的に活性化"]
    E --> F["Ras-MAPK経路の恒常的な活性化"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neural crest-derived cells'>神経堤由来細胞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Schwann cell'>Schwann細胞</span>などの腫瘍性増殖"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Neurofibroma'>神経線維腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic pathway glioma'>視神経膠腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pheochromocytoma'>褐色細胞腫</span>・MPNSTなど多彩な腫瘍"]

臨床像

所見 特徴
平坦な淡。乳幼児期から出現し加齢とともに増加する
腋窩・などのに生じる小さな
(整容的問題にとどまる)・叢状型(全体を肥厚させ完全切除が難しく、MPNSTへ転化しうる)・の3型がある
。無症候で視力に影響しないが、スリットランプで観察できる特異的所見
に生じる低悪性度膠腫。小児期に多く、の原因になりうる
(特に脛骨)の前外側への・皮質菲薄化とそれに続く偽関節
家族歴 にNF1がいること

は無症候で経過観察のみでよいが、か叢状型かで臨床的な重みが全く異なるため、必ず型を区別して評価する。

診断:2021年改訂国際コンセンサス基準

旧来のNIH基準(1988年)に代わり、現在は2021年の国際コンセンサス改訂基準を用いる。 最大の変更点は、との鑑別を組み込んだこと、遺伝学的検査を独立した診断項目に追加したこと、の代替としてを認めたことである。

家族にNF1既往のある親がいない場合、以下の7項目のうち2項目以上を満たせばNF1と診断する。

項目 具体的な基準
6個以上、最大径が思春期前で5mm超、思春期後で15mm超
腋窩またはに存在
型を問わず2個以上、または1個
存在すること
病変 2個以上、または2個以上
特徴的な 、脛骨の前外側の偽関節のいずれか
遺伝学的所見 正常組織でのバリアントアレル頻度約50%の、NF1

親がすでにNF1のを満たしている場合は、子は上記7項目のうち1項目以上を満たせばNF1と診断できる。

(分節型)NF1は、①血液など正常組織でのバリアントアレル頻度が明らかに50%未満+他の1項目、②独立した2つの罹患組織で同一のを確認、③またはの明らかな分節分布+他の1項目、④単独の1項目のみを満たす親から、上記基準を完全に満たす子が生まれた場合、のいずれかで診断する。

⚠️ との鑑別は2021年改訂の核心。 SPRED1によるは、両側性に分布する6個以上のと腋窩・のみを呈し、・特徴的を伴わない。のみでを伴わない若年患者では、を積極的に鑑別し、SPRED1の遺伝学的検査を検討する。

合併症

合併症 要点
生涯リスク約8〜13%。多くはからので、急速な増大・新規または持続する疼痛・の出現は転化を疑う徴候
学習障害・(ADHD) 知能指数が正常範囲でも特異的学習障害を伴うことが多く、ADHDは小児の約3〜5割、は約4分の1に合併する。(IQ70未満)自体は少数(1割未満)にとどまる
家族性の一つ。頻度自体はMEN2やより低いが、原因不明の高血圧・発作性症状があればで評価する
頻度は低いが、幼小児のNF1患者では一般人口に比べ著明に発症率が高い白血病であり、早期からの血算異常に注意する
成人NF1患者で頻度が上昇する消化管で、例と異なり多発性のことがある
乳癌 NF1の女性は50歳未満での乳癌リスクが一般人口より明らかに高く、通常より早期からの検診が推奨される
NF1に特有の血管壁病変()がに生じると、の原因になる
骨格病変の一つで、のものは特に注意深いフォローを要する

経過観察・治療

管理の軸は年1回の定期的な全身評価である。 皮膚・、血圧測定、小児では眼科的評価(のスクリーニング)と発達・学習の評価を組み合わせ、成人では乳癌検診の開始年齢を一般より前倒しする。には遺伝と発症前評価を提供する。

症候性で手術不能なに対しては、MEK阻害薬(Ras-MAPK経路の下流を阻害する分子標的薬)であるが承認されている。から治療薬へ一直線につながる好例で、いずれも腫瘍体積の縮小、疼痛やQOLの改善が確認されている。は小児患者への承認が先行し、その後成人患者にも適応が拡大された。は成人と小児の双方を対象に承認された。具体的な適応年齢・承認範囲は国・時期によって変わりうるため、実地では最新の添付文書を確認する必要がある。外科的切除が可能な病変では、機能温存を優先しつつ切除を第一選択とする。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='café-au-lait spot(s)'>カフェオレ斑</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='freckling'>そばかす様色素斑</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Neurofibroma'>神経線維腫</span>などに気づく"] --> B["2021年改訂国際コンセンサス基準で評価"]
    B --> C["NF1と確定診断"]
    C --> D["年1回の全身評価(皮膚・神経・血圧・眼科・発達)"]
    D --> E{"症候性・手術不能な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plexiform neurofibroma'>叢状神経線維腫</span>があるか"}
    E -->|"あり"| F["MEK阻害薬または外科的切除を検討"]
    E -->|"なし"| G["経過観察を継続"]
    F --> H["急速増大・新規疼痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='induration'>硬結</span>があればMPNSTを疑い画像・生検"]
    G --> H

鑑別診断

疾患 NF1との違い
(NF2) NF2 両側性のが中心で、は特徴的ではない。NF1でCNS腫瘍として頻度が高いのはであり、はNF2側の特徴である
SPRED1 のみで、を伴わない
GNAS(体細胞モザイク) は分節状で境界が不整(「メイン州の海岸線」様)かつを越えない片側性、の自律機能亢進(など)を伴う
(多発性を伴う型を含む) PTPN11など 特徴的などのを伴うが、は特徴的ではない

まとめ

  • NF1はNF1遺伝子(、産物はRas-GAPの)のによる疾患で、約半数は新生バリアントによる孤発例である。
  • 体細胞での第二ヒット()によりRas-MAPK経路が持続的に活性化し、など多彩な腫瘍を生じる。
  • 診断は2021年改訂国際コンセンサス基準(親の既往なしなら7項目中2項目、既往ありなら1項目)で確定し、のみの症例ではを鑑別する。
  • 主な合併症はからのMPNST転化(生涯リスク8〜13%)、学習障害・ADHD・、若年発症乳癌、によるである。
  • 管理は年1回の定期的な全身評価が軸で、症候性・手術不能なにはMEK阻害薬というが承認されている。
  • 両側性を来すNF2とは・腫瘍の種類が異なる別疾患であり、混同しない。