組織病理学

組織病理学 · H2-097B

褐色細胞腫

Pheochromocytoma

描出疾患
褐色細胞腫
疾患
神経線維腫症1型

🧠 全体像:(pheochromocytoma)は副腎髄質の由来の腫瘍で、カテコールアミン過剰産生により高血圧を来す。遺伝性素因の関与が例外的に大きい腫瘍であり、かつて「多くは良性で、まれに悪性」と教えられてきたのに対し、現行の分類は良性・悪性の二分を用いず、すべてがをもちうる腫瘍として扱う。

病態

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='germline mutation'>生殖細胞系列変異</span>(RET・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Hippel-Lindau'>VHL</span>・NF1・SDHx等)または散発性変異"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chromaffin cells'>クロム親和性細胞</span>の腫瘍性変化"]
    B --> C["カテコールアミン合成・分泌の亢進"]
    C --> D["高血圧(発作性または持続性)"]
    D --> E["頭痛・発汗・振戦などの症候"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma free metanephrines'>血漿遊離メタネフリン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urinary fractionated metanephrines'>尿中分画メタネフリン</span>測定で診断"]
    F --> G["画像で局在診断"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Alpha-blockers'>α遮断薬</span>を先行させたのちβ遮断薬併用"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical'>手術的</span>摘出"]

遺伝性の背景

症候群 関連遺伝子
2型() RET
NF1
家族性・症候群 SDHx(サブユニット群)など

⚠️ はに「10%が両側性、10%が家族性症候群関連、10%が悪性、10%が副腎外発生」という「rule of 10s」で教えられてきたが、遺伝学的検査の普及により、を有する症例は従来考えられていたよりはるかに多いことが分かっている。家族歴のない271例のうち66例(24%)にRET・・SDHD・SDHBいずれかのが見つかり、そのうち61例(92%)は分子検査によってのみ同定され初診時にはを欠いていた。変異保有例でも多発性は66例中21例にとどまり、23例(35%)は30歳以降の発症だった——つまり「若年・多発・副腎外」という臨床的手掛かりだけでは遺伝性を除外できない1。現行のガイドラインもすべての患者で遺伝学的検査を検討するよう推奨し、ではSDHx、転移例ではSDHBの検査を求めている2。旧来の「rule of 10s」は暗記の枠としては残るが、家族性の10%という数字は現行の知見と合わない。

標本で確認される所見

所見 解釈
腫瘍細胞集団 を示す。核異型があっても直ちに悪性を意味しない
血管channel 豊富な血管網に富む間質。腫瘍細胞と血管の近接が特徴
細胞胞巣(cell balls、Zellballen) とその支持細胞が胞巣状に配列する特徴的構築
副腎皮質 隣接する正常構造で、腫瘍との境界・の評価に用いる

⚠️ 「良性/悪性」という二分をこの腫瘍では使わない。 分類は第4版(2017年)以降、・を良性・悪性に分けていない。どの病変もをもちうるうえ、転移挙動を確実に予測できる組織所見が存在しないためである。は、正常ならが存在しない組織(骨・肝・肺・リンパ節など)への転移によって定義され、被膜・血管・周囲組織への浸潤が見えただけで「悪性」とは呼ばない。逆に、転移がなくても重要構造への局所浸潤によって致死的となる腫瘍もある。PASS・GAPPといった組織学的スコアリングについては、より侵襲的な病変を拾う手掛かりとしての使用を推奨も否定もしていない3。したがって、核異型・・被膜への食い込みを見ただけで「悪性」としてはならない。

臨床的特徴と治療の安全性

発作性または持続性の高血圧が中心的徴候で、には頭痛・発汗・振戦を伴う。長期的には、心不全、腎障害のリスクが高まる。診断にはまたは・カテコールアミンの測定を用いる2。(VMA)測定が主要な一次検査ではない理由は感度不足にある——確定214人・否定644人のコホートで、感度は99%、97%に対し尿中VMAは64%にとどまった(VMAの特異度は95%と最も高いが、見落としが多い)。複数の検査を組み合わせても単独を上回る診断能は得られなかった4。

⚠️ 手術前の薬物治療では、必ずを先行して十分に導入したのちにβ遮断薬を追加する。α遮断が不十分な状態でβ遮断薬を先行させると、末梢血管の刺激が拮抗されずにを誘発しうるため危険である。ガイドラインは機能性の全患者で術前遮断を行うこと、術後低血圧を防ぐため高ナトリウム食と水分摂取を準備に含めることを推奨している2。

副腎髄質・皮質の機能異常と腫瘍全般は副腎の機能異常・腫瘍、などのは(MEN)/を参照する。

まとめ

  • はのカテコールアミン過剰産生により高血圧を来す。
  • 「rule of 10s」の家族性頻度は過小評価であり(にみえる症例の24%に)、全例で遺伝学的評価を検討する。
  • 良性・悪性の二分は用いず、が本来存在しない組織への転移の有無でを判定する。局所浸潤だけでは「悪性」と呼ばない。
  • 診断は血漿遊離・測定を中心に行う。
  • 術前はを先行させてからβ遮断薬を用い、を避ける。

出典

  1. 1.Germ-line mutations in nonsyndromic pheochromocytoma(The New England Journal of Medicine(Neumann HPH, Bausch B, McWhinney SR, et al.)・2002)家族歴のない非症候群性褐色細胞腫として発症した271例のうち66例(24%、平均年齢25歳)にRET・VHL・SDHD・SDHBいずれかの生殖細胞系列変異が見つかったこと(VHL 30例、RET 13例、SDHD 11例、SDHB 12例)。若年発症・多発性腫瘍・副腎外腫瘍が変異保有と有意に関連したものの、変異保有66例中多発性褐色細胞腫は21例にとどまり、23例(35%)は30歳以降の発症であったこと。変異保有66例のうち61例(92%)は分子検査によってのみ同定され、初診時に随伴する徴候・症状を欠いていたこと。したがってRET・VHL・SDHD・SDHBの日常的な変異解析が適応となること閲覧 2026-08-24
  2. 2.Pheochromocytoma and Paraganglioma: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society(J Clin Endocrinol Metab、Lenders JW et al.)・2014)初期生化学検査には血漿遊離メタネフリンまたは尿中分画メタネフリンの測定を推奨すること、初回画像はCTを提案しMRIは転移例や被曝を抑えるべき例で優れること、123I-MIBGシンチグラフィが転移性PPGLで有用であること、認定検査機関による遺伝学的検査を全患者で検討するよう推奨すること、パラガングリオーマ患者ではSDHx変異を、転移例ではSDHB変異を検査すべきこと、機能性PPGLの全患者で周術期合併症を防ぐため術前遮断を行うべきこと、術後低血圧を防ぐため高ナトリウム食と水分摂取を準備に含めること、多くの褐色細胞腫では低侵襲副腎摘除術を、多くのパラガングリオーマでは開腹切除を推奨すること、再発・転移の検出のため生涯にわたる経過観察を提案すること閲覧 2026-08-24
  3. 3.Overview of the 2022 WHO Classification of Paragangliomas and Pheochromocytomas(Endocrine Pathology(Mete O, Asa SL, Gill AJ, Kimura N, de Krijger RR, Tischler A.)・2022)WHO内分泌・神経内分泌腫瘍分類第5版において、パラガングリオーマは第4版以降もはや良性・悪性に分類されないこと。理由はどの病変も転移能をもちうるうえ転移挙動を予測できる明確な所見が存在しないためであり、転移がなくても重要構造への局所浸潤によって致死的となる腫瘍もあること。WHOは各種の組織学的スコアリングシステムを推奨も否定もしていないこと。褐色細胞腫は副腎内パラガングリオーマ(古典的な交感神経型)を指す用語であること。この腫瘍群が例外的に高い遺伝的素因をもち、SDHx・VHL・FH・MAX・MEN1変異や偽低酸素経路の同定に分子免疫組織化学が有用であること。転移の判定は複雑で、肺や肝など通常と異なる部位のパラガングリオーマも原発でありうるため転移の証明にならないこと。AJCC第8版の病期分類が新たに収載されたこと閲覧 2026-08-24
  4. 4.Biochemical diagnosis of pheochromocytoma: which test is best?(JAMA(Lenders JWM, Pacak K, Walther MM, et al.)・2002)4施設で1994〜2001年に褐色細胞腫の検査を受けた患者(確定214人、否定644人)のコホート研究で、感度は血漿遊離メタネフリン99%(95%CI 96〜100)、尿中分画メタネフリン97%(95%CI 92〜99)、尿中カテコールアミン86%(95%CI 80〜91)、血漿カテコールアミン84%(95%CI 78〜89)、尿中総メタネフリン77%(95%CI 68〜85)、尿中バニリルマンデル酸64%(95%CI 55〜71)であったこと。特異度は尿中バニリルマンデル酸95%(95%CI 93〜97)が最も高く、血漿遊離メタネフリンは89%(95%CI 87〜92)であったこと。複数の検査を組み合わせても血漿遊離メタネフリン単独を超える診断能は得られず、血漿遊離メタネフリンが第一選択の検査とされること閲覧 2026-08-24