組織病理学

組織病理学 · H2-097A

乳腺線維嚢胞性変化の標本所見と過形成の鑑別

Fibrocystic disease

描出疾患
良性乳房疾患

🧠 全体像:乳腺を構成する個々の標本所見(嚢胞、化生、線維化、過形成)を対応づけ、通常型過形成と異型過形成・()とを分ける組織学的な鑑別点を整理する。分類の全体像・乳癌リスクによる層別化は乳腺を参照する。

flowchart TD
    A["正常<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mammary ductal epithelium'>乳管上皮</span>"] --> B["周期性刺激・小葉退縮の繰り返し"]
    B --> C["嚢胞形成・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apocrine metaplasia'>アポクリン化生</span>・線維化(非増殖性変化)"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mammary ductal epithelium'>乳管上皮</span>の増殖"]
    D --> E["細胞集団に多様性がある:通常型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactiferous ducts'>乳管</span>過形成"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monotone'>単調</span>で均一な細胞集団"]
    F --> G["異型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactiferous ducts'>乳管</span>過形成"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-grade'>低異型度</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ductal carcinoma in situ'>DCIS</span>"]

標本で確認される所見

所見 解釈
に拡張した 終末・腺房の拡張と液体貯留による非増殖性変化
好酸性細胞質と頂端突出を示す良性化生上皮
不規則な裂隙状内腔を示す過形成 通常型過形成に典型的な、不整な二次内腔(fenestration)
線維化 嚢胞周囲間質の性置換
高度な過形成(florid hyperplasia) 内腔を充満するほど著明な通常型過形成
+ 嚢胞内容への反応性と、浸潤癌との鑑別に重要なの残存
小型を覆う円柱上皮 円柱細胞変化。細胞異型を伴う場合は平坦上皮異型として別に評価する
大型嚢胞の萎縮性上皮 嚢胞内圧により・脱落した上皮
小葉構築を保ちながら腺房がにされる病変
嚢胞内漿液性液体 嚢胞形成に伴う分泌物の貯留

通常型乳管過形成とADH・DCISの鑑別

所見 通常型過形成 異型過形成・
細胞集団の性状 上皮細胞とが混在し、大きさ・向きに多様性がある で均一な細胞集団
内腔のパターン 不規則な裂隙状・窓状(fenestration)、き状(streaming)の配列 整った円形・幾何学的な二次内腔(punched-out spaces)
細胞境界・極性 不明瞭で流れるような配列 明瞭で規則的な極性を示す
病変の広がり 病変内でも所見が均一でないことが多い 病変全体で均一な細胞像を示す

💡 この線引きが、そのまま将来の乳癌リスクの段階になる。 Mayo Clinicの良性乳腺疾患9,087人・中央値15年の追跡では、乳癌のは非増殖性病変1.27(95%CI 1.15〜1.41)、異型を伴わない増殖性病変1.88(95%CI 1.66〜2.12)、4.24(95%CI 3.26〜5.41)と段階的に上がり、この上昇は生検後少なくとも25年持続した1。通常型過形成かかという上表の判定は、そのまま管理方針を決める判断になる。

⚠️ ところがこの線引きは、病理医の間で最も一致しにくい。 米国8州の病理医115人が乳腺生検240症例を判定した研究では、パネルの参照診断とのが浸潤癌96%、84%、異型を伴わない良性87%であったのに対し、はわずか48%(過大評価17%・過小評価35%)だった2。上表の基準を当てはめれば自動的に決まる問題ではないので、境界例では追加切片・第二意見を求める姿勢が要る。

⚠️ は小葉構築と・基底膜を保持する点が浸潤癌との最重要鑑別点である。にされた腺管だけを見て浸潤性増殖と誤認しないよう、の残存を確認する。

まとめ

  • 個々の標本所見は、非増殖性変化(嚢胞、化生、線維化)と増殖性変化(過形成、)に大別できる。
  • 通常型過形成は細胞集団の多様性と不規則な裂隙状内腔で、異型過形成・ので整った内腔と区別する。
  • やの残存は良性の反応性変化・の指標として重要である。
  • 分類の全体像とは乳腺、全般は乳腺の・良性腫瘍を参照する。

出典

  1. 1.Benign breast disease and the risk of breast cancer(The New England Journal of Medicine・2005)Mayo Clinicで1967〜1991年に良性乳腺疾患と診断された9,087人を中央値15年追跡したコホートで、組織所見は非増殖性病変67%、異型を伴わない増殖性病変30%、異型過形成4%であった。標準化罹患比による相対リスクは非増殖性1.27(95%CI 1.15〜1.41)、異型なし増殖性1.88(95%CI 1.66〜2.12)、異型過形成4.24(95%CI 3.26〜5.41)で、コホート全体では1.56(95%CI 1.45〜1.68)。上昇は生検後少なくとも25年持続した。乳癌家族歴は組織所見とは独立した危険因子で、家族歴がなく非増殖性所見のみの女性ではリスク上昇を認めなかった閲覧 2026-08-24
  2. 2.Diagnostic concordance among pathologists interpreting breast biopsy specimens(JAMA(Elmore JG, Longton GM, Carney PA, et al.)・2015)米国8州の病理医115人が乳腺生検240症例(浸潤癌23、非浸潤性乳管癌73、異型過形成72、異型を伴わない良性72)を判定し6,900件の診断を得た研究で、専門家パネルの参照診断との全体一致率は75.3%(95%CI 73.4〜77.0)だったこと。カテゴリー別では浸潤癌96%(95%CI 94〜97)、非浸潤性乳管癌84%(95%CI 82〜86、過小評価13%)、異型過形成48%(95%CI 44〜52、過大評価17%・過小評価35%)、異型を伴わない良性87%(95%CI 85〜89、過大評価13%)であったこと。乳腺濃度が高い女性の生検で不一致が有意に多かったこと閲覧 2026-08-24