組織病理学

組織病理学 · H2-096B

乳頭状甲状腺癌

Papillary thyroid carcinoma

描出疾患
甲状腺癌
疾患
非浸潤性甲状腺濾胞腫瘍・乳頭癌様核所見を伴うもの

🧠 全体像:(papillary thyroid carcinoma:PTC)はの中で最も頻度が高い組織型で、の有無ではなく特徴的な核所見によって診断される点が病理学的な要点である。に頸部リンパ節へ転移しやすいが、一般に予後は良好である。

診断の考え方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ionizing radiation'>電離放射線</span>曝露などの危険因子"] --> B["BRAF・RET遺伝子異常などの獲得"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular cells'>濾胞細胞</span>の腫瘍性変化"]
    C --> D["特徴的核所見の出現"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='papillary architecture'>乳頭状構築</span>を示す典型例"]
    D --> F["濾胞状構築を示す亜型"]
    E --> G["頸部リンパ節への転移"]
    F --> G

診断はの有無ではなく核所見に基づく。濾胞状の構築を示す症例でも、特徴的な核所見があればPTCと診断される。

💡 核所見に依るがゆえに、判定はぶれる。 経験を積んだ甲状腺病理医10人が87腫瘍を判定した研究では、10人全員が一致してと診断した頻度は39%にとどまった。診断に最も有用とされた所見は核内細胞質(偽)・豊富な・の3つであり、これらの主要所見や明らかな浸潤性増殖を欠く場合の診断には慎重であるべきとされる1。転移を有した症例に限ればは上がる(10人全員一致で66.7%)ため、判定のぶれは境界的な病変に集中する。

標本で確認される所見

所見 解釈
の軸を伴う増殖。典型例で認めるが必須所見ではない
(Orphan Annie eye nuclei) クロマチンが微細に分散し、核内が均一に淡く抜けて見える所見
・核内偽(pseudoinclusions) の陥入や細胞質の核内への様所見で、核所見診断の柱の一つ
硬化 線維化を伴う間質反応
の石灰化構造で、部にみられやすい
腫瘍・甲状腺組織の対比 周囲正常甲状腺実質との境界・の評価に用いる

分子病理と現行分類の要点

BRAF V600E変異が高頻度の主要なであり、放射線曝露関連例ではRET(RET/PTC)が知られる。496例の統合ではEIF1AX・PPM1D・CHEK2と多様な遺伝子融合が駆動異常として加わり、駆動異常が不明な症例の割合は25%から3.5%へ縮小した2。

⚠️ 2016年に「の」は癌の名を外された。 され浸潤を伴わない濾胞型は、2016年に「核所見を有する(noninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features:)」へ改称された。基準はまたは境界明瞭、で1%未満・なし・充実//胞巣状増殖30%未満、2〜3、・なし、なし、400倍10視野あたり3個以上の分裂像がないこと。改称の根拠は、例109例が中央値13年(範囲10〜26年)の追跡で全例無病生存だったのに対し、浸潤例101例では12例(12%)に有害事象(遠隔転移5例・2例)が生じたことにある3。第5版(2022年)はを「」というカテゴリーに置き、分裂像が2 mm²あたり3〜4個なら濾胞増殖優位の型へ、5個以上ならへ格上げする。BRAF V600Eまたは変異が検出されればの診断は除外される4。旧称の「」は実習・試験でそのまま問われうるので、名前が消えたのではなく癌のカテゴリーから外れたのだと位置づけて覚える。

臨床的特徴と治療

腫瘍であり、甲状腺内の無痛性腫瘤、またはとして初発することが多い。が主に血行性に転移するのに対し、は主にに頸部リンパ節へ転移する点が鑑別上重要である。治療はまたはに、リンパ節転移例ではを組み合わせ、必要に応じ放射性ヨウ素療法・を追加する。予後は一般に良好である。

全般は、過形成による結節との鑑別はを参照する。

まとめ

  • PTCの診断はではなく特徴的核所見(・・偽)に基づく。
  • は部でみられる支持所見である。
  • ・の濾胞型の一部は2016年にとして再分類され、第5版(2022年)では「」に置かれている。
  • にを来しやすいが、一般に予後は良好である。

出典

  1. 1.Observer variation in the diagnosis of follicular variant of papillary thyroid carcinoma(The American Journal of Surgical Pathology(Lloyd RV, Erickson LA, Casey MB, et al.)・2004)濾胞型乳頭癌87腫瘍を経験豊富な甲状腺病理医10人が判定した研究で、10人全員が一致して濾胞型乳頭癌と診断した累積頻度は39%にとどまったこと。転移を有した症例(24.1%、21例)では10人全員一致の累積頻度が66.7%、7人一致では100%に達したこと。診断に最も有用とされた所見が核内細胞質封入体(偽封入体)・豊富な核溝・すりガラス状核であったこと。主要な組織所見や明らかな浸潤性増殖を欠く場合には濾胞型乳頭癌の診断に慎重であるべきこと閲覧 2026-08-24
  2. 2.Integrated genomic characterization of papillary thyroid carcinoma(Cell(The Cancer Genome Atlas Research Network)・2014)乳頭状甲状腺癌496例のゲノム解析で、体細胞変化の頻度が他の癌腫に比べて低いこと。既知の駆動異常にEIF1AX・PPM1D・CHEK2と多様な遺伝子融合が加わり、駆動異常が不明な症例の割合が25%から3.5%へ縮小したこと。駆動異常の群ごとにシグナル伝達と分化の性質が異なる病理像へつながり、BRAF変異腫瘍の中にも異なる分子亜群が存在すること。以上から甲状腺癌を分子亜型で再分類する提案がなされたこと閲覧 2026-08-24
  3. 3.Nomenclature Revision for Encapsulated Follicular Variant of Papillary Thyroid Carcinoma: A Paradigm Shift to Reduce Overtreatment of Indolent Tumors(JAMA Oncology(Nikiforov et al.)・2016)非浸潤性の被包型濾胞型乳頭癌を「noninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features(NIFTP)」へ改称する提案、診断基準(被包または境界明瞭、濾胞状増殖で乳頭構造1%未満・砂粒小体なし・充実/索状/胞巣状増殖30%未満、核スコア2〜3、被膜浸潤・血管浸潤なし、腫瘍壊死なし、400倍10視野あたり3個以上の分裂像がないこと)、非浸潤例109例が中央値13年(範囲10〜26年)の経過で全例無病生存であったのに対し浸潤例101例では12例(12%)に有害事象(遠隔転移5例・原病死2例)が生じたこと、被包型濾胞型乳頭癌が欧州と北米の甲状腺癌の10〜20%を占めること、この再分類が世界で年間4万5千人以上に影響すると推定されること、NIFTPでは追加の全摘術や放射性ヨウ素療法の利益が乏しく病期分類も不要であること閲覧 2026-08-24
  4. 4.Update from the 2022 World Health Organization Classification of Thyroid Tumors: A Standardized Diagnostic Approach(Endocrinology and Metabolism (Seoul)(Jung, Bychkov, Kakudo)・2022)WHO第5版がNIFTPを「低リスク腫瘍(low-risk neoplasms)」というカテゴリーに置き、悪性度不確定濾胞性腫瘍・悪性度不確定高分化腫瘍・硝子化索状腫瘍を同じカテゴリーに含めること、乳頭構造1%未満という基準が維持されたこと、分裂像が2 mm²あたり3個未満ならNIFTPの診断は変わらず3〜4個では濾胞増殖優位の被包型乳頭癌へ、5個以上では非浸潤性高悪性度濾胞型乳頭癌へ格上げされること、BRAF V600EまたはTERTプロモーター変異が検出されればNIFTPの診断を除外すべきこと、1 cm以下のNIFTPと好酸性細胞型NIFTPが新たな亜型として認められたこと閲覧 2026-08-24