病理学

病理学 · C/86

甲状腺腫瘍

Tumors of thyroid gland

応用トピック
甲状腺結節と甲状腺癌甲状腺腫瘍甲状腺結節・結節性甲状腺腫の評価と治療甲状腺の炎症性疾患・変性疾患・腫瘍甲状腺腫瘍(症状・診断・治療)甲状腺悪性疾患と治療
疾患
C細胞過形成甲状腺癌甲状腺髄様癌甲状腺濾胞腺腫中毒性腺腫非浸潤性甲状腺濾胞腫瘍・乳頭癌様核所見を伴うもの
検査値
カルシトニン刺激試験

🧠 全体像:は細胞の由来で性格が決まる——由来(・)は概して予後良好、由来()はカルシトニン・という独自のマーカーを持ち遺伝性症候群(MEN-2)と結びつき、したは同じ由来でありながら1年未満で死に至る最も悪性度の高い型になる。良性のはの有無だけでと鑑別される。

良性腫瘍

濾胞腺腫

形態

  • 単発、の病変。
  • 無傷の被膜で境界明瞭。
  • なし(癌と区別)。

臨床像

悪性腫瘍

概要

  • は比較的少ない。
  • 通常は軟らかい(他のと対照)。
  • 原因:遺伝(家族性)+環境(とくに小児期の)。チェルノブイリ原発事故後の疫学研究では、事故当時に小児・青年だった集団でに応じたリスクの明確な増加があり、増加は曝露時0〜4歳で特に顕著で、事故から25年後もリスクは有意に上昇したままだった。一方、成人期にした人のリスクは確定していない2。
  • 亜型:乳頭、濾胞、、未分化。

A)乳頭癌(>85%)

  • 最も多い。
  • あらゆる年齢、曝露が強いリスク。
  • 甲状腺内で単発または多巣性。
  • しばしば線維化+石灰化を伴う嚢胞性。

診断(核の特徴)

  • 「Orphan Annie eye」/「すりガラス」核(細かく分散したクロマチン)。
  • 偽(様の細胞質陥入)。
  • 。
  • (に石灰化した構造)。

臨床

  • → 無痛性のまたは。
  • (頸部リンパ節)。
  • 治療:甲状腺摘出+近傍リンパ節郭清 → 予後非常に良好(10年生存約95%)。
  • BRAF+RET/PTC変異。
  • 1 cm以下の(いわゆる微小癌)は、第5版(2022)では独立した亜型ではない。大きさではなく組織亜型で分類し直すので、高細胞型のような悪性度の高い亜型が1 cm以下で見つかることもある3。
  • (/第8版)は診断時年齢55歳で分かれる。55歳未満は腫瘍径やリンパ節転移にかかわらず、遠隔転移がなければI期、あればII期である4。臨床的な全体像はを参照。

⭐ 甲状腺の急増は「過剰診断」の代表例とされる。 韓国では超音波検診の普及に伴い1993年から2011年にかけてのが15倍に増加した一方、同期間の死亡率はほぼ横ばいだった。1999〜2008年の上昇の約94%は検診による20mm未満の小さな腫瘍の検出に起因すると推定されている——が急増しても死亡率が動かないこの乖離が、無症状のまま一生表面化しなかったはずの微小癌まで拾い上げていることを示す5。この考え方から、低リスクの微小癌(1 cm以下)には手術せず経過観察する「」が選択肢になった。 ただし進行リスクは年齢で大きく異なり、1,211例の観察研究では10年進行率が20代36.9%に対し70代3.5%、生涯(85歳まで)の推定進行確率も20代60.3%対70代3.5%と差が大きく、若年者ほど経過観察の適応は慎重に考える6。

⚠️ 「のない」は2016年に癌のカテゴリーから外れた。 され浸潤のないは、(noninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features:様核所見をもつ)へ改称された。根拠は転帰の差で、例109例は中央値13年の経過で全例無病生存だったのに対し、浸潤例101例では12例(12%)に有害事象(遠隔転移5例・2例)が生じている。は欧州・北米のの10〜20%を占め、この再分類は世界で年間4万5千人以上に影響すると見積もられた。提唱論文は、は即時の補完全摘術やの恩恵を受けにくく管理を縮小でき、も不要になると述べている(例109例のうち67例はのみで治療され、を受けた例は1例も無かった)7。旧称「」は消えたのではなく、癌のカテゴリーから外れたのだと位置づけて覚える。 分類第5版(2022年)は由来腫瘍を良性・低リスク・悪性の3群に分け、NIFTPを・・とともに「」に置いた。真のが1%未満であることという基準は維持され、BRAF V600EまたはTERTが検出されればの診断は除外される3。

💡 の報告は、標準化された分類(Bethesda system)に従う。 6つの診断カテゴリー(不適正・良性・・・・悪性)それぞれに単一の名称が割り当てられ、カテゴリーごとに想定悪性リスクの目安が示される。2023年の第3版で用語が 2022年分類に整合させられた8。カテゴリーごとの悪性リスクの数値と対応はを参照。

B)濾胞癌(5〜15%)

  • 2番目に多い。
  • より高齢の女性。
  • と関連 → 地域で増加。
  • 典型的にはされた単発()の腫瘍(講義資料は「常に」と書く)。ただし下記のでは被膜がほぼ消失していることがある。

診断(との鑑別)

  • 。
  • 周囲実質+。
  • (で診断できない — 被膜全体の組織像が必要。)

浸潤の程度による分類(第5版、2022)

予後の層別のため、(および癌・)は浸潤の程度で次の3型に分ける3。

型 定義
微少 のみ
型 されているが血管侵襲がある。血管侵襲4か所未満の限局性と、4か所以上の広範に細分する
被膜が完全に消失またはわずかに残るのみ、および/または肉眼的に腺外へ浸潤する
  • 旧称「癌」は、第5版では癌と呼ぶ(「」を「」へ改めた)3。

臨床

  • → 肺、骨、肝。
  • 治療:腫瘍の外科的切除+甲状腺摘出。
  • RAS、PAX8-PPARγ変異。

C)髄様癌(5%)

  • 甲状腺の由来(疾患としての全体像はを参照)。
  • C細胞はカルシトニン分泌能を保持 → 診断+()。
  • 散発性(成人)または家族性(MEN-2A/2B → より若年)。
  • 両型でRET変異——に典型的なではなく、の機能獲得型変異である。NIH 3T3細胞への導入実験で、MEN2A型体は細胞膜上でにし恒常的に活性化することが直接示されている9。

形態

  • 単発結節または両葉に多巣性。
  • 間質の(カルシトニン由来、陽性で)。
  • 家族型:多中心性。
  • 第5版(2022)はに組織学的悪性度を導入した。核分裂数5個以上/2 mm²、、Ki675%以上のいずれか1つ以上があればとする3。

臨床

  • 、遠隔は稀。
  • カルシトニン増加にもかかわらずなし(代償)。
  • 治療:。
  • MEN-2 → +副甲状腺疾患をスクリーニング。

D)未分化癌(<5%)

  • 最も進行性の甲状腺悪性腫瘍。
  • (約65歳)。
  • 原因:やから()。
  • 組織像:高度に浸潤性の未分化細胞。
  • 進行性の局所増殖()による1年未満での死亡。

💡 とのあいだに「」の層がある。 第5版(2022)は、従来の低と、・・癌の分化した形態を保ちながらの増加やを示す新設の「分化型癌」とを、「由来癌」という1つの腫瘍型にまとめた。分化型癌は核分裂数5個以上/2 mm²および/またはで定義され、低(・の増殖を示す)では核分裂数の閾値が3個以上/2 mm²と低い3。

まとめ表

型 % 起源 播種 主な特徴 予後
乳頭 85% Orphan Annie核++、放射線、BRAF、RET/PTC 極めて良好
濾胞 5〜15% 血行性(肺、骨、肝) 典型的には、被膜+が腺腫と区別、、微少・型・ 良好
5% リンパ節 カルシトニン・()、RET、MEN-2 様々
未分化 <5% 未分化 進行性の局所 、、p53 非常に不良(<1年)

💡 ポイント: = 良性、、悪性はホットよりに多いが「コールド=癌」ではない、 = ホット、(に悪性はまれ)。診断 = FNAB(で報告)。NIFTP = 第5版の「」で癌ではない。乳頭 = 第1位(>85%)、放射線、Orphan Annie核+++偽、、BRAF/RET/PTC、予後極めて良好。濾胞 = 、、診断に被膜+が必要、血行性で肺/骨/肝へ。 = C細胞、カルシトニン+()、RET(MEN-2)。未分化 = 高齢、未分化、1年未満で死亡。

まとめ

  • は良性の病変で、がないことがとの鑑別点。
  • はの85%超を占め最多、曝露がリスク因子で、Orphan Annie核・・が診断的特徴、予後は極めて良好。
  • は2番目に多く、との関連があり、の確認が診断に必須で血行性に肺・骨・肝へ転移する。
  • は由来でカルシトニン・が特徴、と関連し家族性はMEN-2の一部。
  • は最も進行性でに多く、1年未満での死亡に至ることが多い。
  • 良性腺腫の評価には超音波+を用いる。に悪性はまれだが、コールドであること自体は悪性の診断にならない。
  • 第5版(2022)では、は癌ではなくに置かれ、1 cm以下のは独立した亜型ではなくなり、は浸潤の程度で3型に分けられ、にも悪性度が導入された。
  • の(/第8版)は診断時年齢55歳で分かれ、55歳未満は遠隔転移がなければI期である。

出典

  1. 1.2015 American Thyroid Association Management Guidelines for Adult Patients with Thyroid Nodules and Differentiated Thyroid Cancer(American Thyroid Association・2016)全文(PMC4739132)で、TSHが低値の結節では放射性核種シンチグラフィで高機能(hot)・等機能(warm)・非機能(cold)を判定し、高機能結節は悪性をまれにしか含まないため対応する結節がhotなら細胞診は不要とされること、FNAは等機能または非機能の結節について超音波所見に基づいて検討するとされること、悪性を示唆する病歴として小児期の頭頸部放射線治療や小児期・青年期の放射性降下物への曝露が挙げられることを確認した。閲覧 2026-09-24
  2. 2.The Chernobyl accident--an epidemiological perspective(Clinical Oncology・2011)全文(PMC3107017)で、チェルノブイリ原発事故後の疫学研究のレビューとして、事故当時に小児・青年だった集団で放射性ヨウ素の被曝線量に応じた甲状腺癌リスクの明確な増加があり、増加は曝露時0〜4歳で特に顕著で成人では増加がみられなかったこと、事故から25年後も若年被曝者の甲状腺癌リスクが有意に上昇したままであること、成人期・胎児期被曝のリスクは研究の限界から不確定であることを確認した。電離放射線を甲状腺癌の危険因子の中で「最も強い」と順位づける記述は本文に無い。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Update from the 2022 World Health Organization Classification of Thyroid Tumors: A Standardized Diagnostic Approach(Endocrinology and Metabolism (Seoul)(Jung, Bychkov, Kakudo)・2022)全文(PMC9633223)で、WHO甲状腺腫瘍分類第5版(2022年)が濾胞細胞由来腫瘍を良性・低リスク・悪性の3群に分け、NIFTPを乳頭癌の亜型ではなく「低リスク腫瘍(low-risk neoplasms)」に置き、悪性度不確定濾胞性腫瘍・悪性度不確定高分化腫瘍・硝子化索状腫瘍を同じ群に含めること(NIFTPの真の乳頭構造1%未満という基準は維持)、BRAF V600EまたはTERTプロモーター変異が検出されればNIFTPの診断を除外すべきであることを確認した。あわせて、1 cm以下の乳頭癌(微小癌)はもはや独立した亜型ではなく組織亜型で分類すること、濾胞癌・好酸性細胞癌・浸潤性被包型濾胞型乳頭癌を微少浸潤型(被膜浸潤のみ)・被包性血管浸潤型(血管侵襲4か所未満の限局性と4か所以上の広範に細分)・広範浸潤型(被膜が完全に消失またはわずかに残るのみ、および/または肉眼的な腺外浸潤)に分けること、「Hürthle細胞」を「好酸性細胞」へ改め好酸性細胞腺腫・好酸性細胞癌と呼ぶこと、髄様癌に悪性度評価を導入し核分裂数5個以上/2 mm²・腫瘍壊死・Ki67標識率5%以上のいずれか1つ以上を高悪性度とすること、低分化癌と新設の分化型高悪性度癌を「高悪性度濾胞細胞由来癌」にまとめたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Updated American Joint Committee on Cancer/Tumor-Node-Metastasis Staging System for Differentiated and Anaplastic Thyroid Cancer (Eighth Edition): What Changed and Why?(Thyroid・2017)全文(PMC5467103)で、AJCC/TNM第8版の分化型甲状腺癌では病期分類の年齢カットオフが診断時45歳から55歳へ引き上げられ、55歳未満は腫瘍径・リンパ節転移・腺外進展にかかわらず遠隔転移がなければI期、遠隔転移があればII期とされること、55歳以上ではN1はIII期ではなくII期となり、組織学的にのみ認める微少な腺外進展はT3の定義から外されたことを確認した。閲覧 2026-09-24
  5. 5.Korea's Thyroid-Cancer "Epidemic"--Screening and Overdiagnosis(The New England Journal of Medicine・2014)韓国では超音波検診の普及に伴い1993年から2011年にかけて甲状腺癌の罹患率が15倍に増加した一方、同期間の甲状腺癌死亡率はほぼ横ばいだったこと、1999〜2008年の罹患率上昇の約94%は検診による20mm未満の小さな腫瘍の検出に起因すると推定されたことを確認した。罹患率急増と死亡率不変というこの乖離は、甲状腺癌検診による過剰診断の代表例として引用される。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Estimation of the lifetime probability of disease progression of papillary microcarcinoma of the thyroid during active surveillance(Surgery・2018)低リスク乳頭癌微小癌1,211例(20〜79歳)の積極的経過観察で、10年時点の進行率は20代36.9%・30代13.5%・40代14.5%・50代5.6%・60代6.6%・70代3.5%であり、生涯(85歳まで)の推定進行確率は20代60.3%・30代37.1%・40代27.3%・50代14.9%・60代9.9%・70代3.5%であったこと、進行リスクは若年ほど高いことを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Nomenclature Revision for Encapsulated Follicular Variant of Papillary Thyroid Carcinoma: A Paradigm Shift to Reduce Overtreatment of Indolent Tumors(JAMA Oncology(Nikiforov et al.)・2016)全文(PMC5539411)で、非浸潤性の被包型濾胞型乳頭癌を「乳頭癌様核所見をもつ非浸潤性濾胞性甲状腺腫瘍(NIFTP)」へ改称し名称から「癌」を外す提案、非浸潤例109例(67例は葉切除のみ・放射性ヨウ素アブレーションは0例)は中央値13年の経過で全例無病生存であったのに対し浸潤例101例では12例(12%)に有害事象(遠隔転移5例、うち2例が原病死)が生じたこと、被包型濾胞型乳頭癌が欧州・北米の甲状腺癌の10〜20%を占めこの再分類が世界で年間4万5千人以上に影響すると著者らが推定したことを確認した。管理については「即時の補完全摘術と放射性ヨウ素療法の恩恵を受けにくく、管理を縮小できる」「病期分類は不要になる」という示唆の形で述べられている。閲覧 2026-08-27
  8. 8.The 2023 Bethesda System for Reporting Thyroid Cytopathology(Thyroid(Ali SZ, Baloch ZW, Cochand-Priollet B, Schmitt FC, Vielh P, VanderLaan PA)・2023)甲状腺細胞診のBethesda報告様式第3版が6つの診断カテゴリー(不適正・良性・意義不明な異型・濾胞性腫瘍・悪性疑い・悪性)それぞれに単一の名称を割り当てたこと、各カテゴリーの想定悪性リスク(ROM)が平均値に加え予想範囲で示されるようになったこと、用語が2022年WHO甲状腺腫瘍分類に整合させられたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  9. 9.Mechanism of activation of the ret proto-oncogene by multiple endocrine neoplasia 2A mutations(Molecular and Cellular Biology・1995)NIH 3T3細胞へのトランスフェクション実験で、MEN2A型RET変異体が細胞膜上でリガンド非依存性の二量体化を起こし、170kDaのRETタンパク質が恒常的にチロシンリン酸化された状態で高い形質転換能を示すことを確認した。RET変異は腫瘍抑制遺伝子に典型的な機能喪失型変異ではなく、受容体型チロシンキナーゼの機能獲得型変異であることを直接示した実験である。閲覧 2026-08-27