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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

甲状腺髄様癌

Medullary thyroid carcinoma

別名
MTC甲状腺髄様がんC細胞癌
臓器系
腫瘍内分泌・代謝
科目
PathologyInternal MedicineSurgery
トピック
病理学 C/86:甲状腺腫瘍病理学 C/89:多発性内分泌腫瘍症(MEN)/カルチノイド症候群内科学 E-03:甲状腺結節と甲状腺癌内科学 L-79:甲状腺腫瘍外科学 B/03:甲状腺腫瘍(症状・診断・治療)外科学 S-03:甲状腺悪性疾患と治療
上位概念
甲状腺癌
関連疾患
多発性内分泌腫瘍症
治療薬
カボザンチニブ
症状
嗄声下痢顔面紅潮
検査値
血中カルシトニンCEA
画像所見
甲状腺結節
スコア
TNM分類
適応薬
セルペルカチニブバンデタニブ
禁忌薬
ティルゼパチド

🧠 全体像は、の中で唯一、ではなく由来のから発生する組織型である。がいずれも由来でヨードを取り込みうるのに対し、MTCはC細胞由来であるためヨードを取り込まずが無効という決定的な違いを持つ。C細胞が生理的に分泌するカルシトニンがそのままになり、術前診断・の軸になる。もう一つの核心は遺伝性の重み——性が約75%を占める一方、約25%はRETによる(MEN2A・MEN2B)に伴う家族性で、1例のMTCを診断したら必ずの評価につなげる姿勢が診療の入口になる。

病態:起源細胞と遺伝子異常

C細胞は鰓後体に由来するで、甲状腺内に散在性に分布し、血中Ca²⁺濃度の上昇に応じてカルシトニンを分泌しを抑制する生理的役割を持つ。MTCはこのC細胞がしたものであり、(いずれも由来)とは発生学的に全く別系統の腫瘍である。

項目 MTC(C細胞由来) 由来)
起源 由来の 細胞
分泌物・マーカー カルシトニン、CEA
ヨード取り込み なし(RAI無効) あり(でRAI治療の根拠)
主要な遺伝子異常 RET BRAFRASTP53など
間質の特徴 (カルシトニン由来、 通常みられない

の一種ではない」という誤解に注意する。由来のして生じる予後最不良の腫瘍だが、MTCは最初からC細胞由来の別系統であり、進行度もの種類に強く依存する。

RETをコードし、により恒常的なシグナル伝達を引き起こす。性MTCでは主に体細胞性の変異(M918Tが高頻度)、家族性MTC(MEN2A・MEN2B・家族性MTC単独型)では生殖細胞系列の変異が原因となる。コドンによって浸潤・転移速度が大きく異なり、この違いが後述するの時期を規定する。

疫学とMEN2との関係

全体に占めるMTCの割合は数%程度にとどまるが、性が約75%、家族性が約25%を占め、家族性のほぼ全例が(MEN2A・MEN2B)または家族性MTC単独型に伴う1。一見性に見える患者の6〜10%にも生殖細胞系列RET変異が同定されるため、家族歴が明確でなくても全患者でを行う1

MEN2A・MEN2Bの遺伝形式、責任コドン別の・副甲状腺病変との組み合わせ、の時期の目安は、の該当節に譲る。ここで押さえるべきは、MTCの診断=MEN2のスクリーニング開始のトリガーであるという一点である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid nodule'>甲状腺結節</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neck mass'>頸部腫瘤</span>でMTCを疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serum calcitonin'>血清カルシトニン</span>・CEA測定"]
    B --> C["FNA+カルシトニン免疫染色で確定"]
    C --> D["全患者でRET生殖細胞系列検査"]
    D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathogenic variant'>病的バリアント</span>を検出"}
    E -->|"陽性(家族性・MEN2)"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood relative'>血縁者</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presymptomatic testing'>発症前検査</span>へ"]
    E -->|"陰性(真の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sporadic'>散発</span>性)"| G["手術計画へ進む"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pheochromocytoma'>褐色細胞腫</span>の有無を先に評価"]
    H --> G

臨床像

多くは無痛性のまたは頸部リンパ節腫大として発見される。進行すると嗄声による)や気道・食道圧迫症状を来す。進行・転移例ではカルシトニンやの過剰分泌により、水様性の下痢を来すことがあり、の内分泌症状として先に気づかれることもある。MEN2に伴う場合はによるや、MEN2Bに特徴的なが併存し得る。

診断

血清カルシトニンCEAはいずれもC細胞量と相関する診断・予後・治療反応性ので、の評価でMTCが疑われた時点で測定する。FNA検体へのカルシトニン免疫染色は、細胞診単独では判定が難しい症例でも術前診断を確定できる1

  • 約500 pg/mL以上であれば遠隔転移を念頭に・胸部CT、造影肝CT/MRI、など全身画像検索を行う1
  • では、カルシトニンが150 pg/mL前後を上回るかどうかを目安に、追加画像検索の要否を判断する1

💡 カルシトニンは加齢・喫煙・腎機能低下・他のなどでも軽度上昇しうるため、や進行性上昇でなければ単独の閾値だけで転移を断定しない。

病期分類と手術

MTCはするが、のような年齢閾値は用いず、通常のT・N・M因子の組み合わせでStage I〜IVに分類する。

外科的切除がMTCに対する唯一のであり、両側性・多発性が例の約10%、遺伝性ではほぼ全例にみられるためが標準術式となる1。頸部リンパ節郭清の範囲は術前値でおおむね決まる。

術前 郭清方針の目安
20 pg/mL未満 郭清を省略できることがある
50〜200 pg/mL 両側郭清を基本とする
200 pg/mLを超える 同側リンパ節転移があれば対側郭清も検討する

⚠️ MEN2に伴う症例で甲状腺・副甲状腺手術を計画する際は、必ず先にの有無を評価する。未評価のまま手術・麻酔を行うと、周術期に制御困難なを誘発しうる。があればを中心とした術前管理を先行させ、甲状腺手術より前に治療する。

全身治療(進行・転移例)

MTCはC細胞由来でヨードを取り込まないため、治療の適応にならない・進行性の転移例では全身薬物治療を検討する。

  • RET変異陽性例では(LIBRETTO-001試験、2020年FDA承認)が高いと長いを示し、の点でもより優先されることが多い1
    • ⚠️ プラルセチニブも2020年12月にMTCへ迅速承認されたが、2023年6月に米国でMTCの適応が自主的に取り下げられた2。安全性の問題ではなく、迅速承認の後要件である第III相確認試験(AcceleRET MTC)を開始できなかったことが理由である。現行の米国添付文書に残る適応はRET融合遺伝子陽性ので、RET変異によるMTCは含まれない——MTCの薬剤選択でこの2剤を同列に扱わないこと。
  • が使えない、または不応の場合は(ZETA試験)や(EXAM試験)を検討する。はMTC専用のとして、用のとは用量・服用条件が異なる点に注意する。

GLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1デュアル作動薬が禁忌となる根拠

ゲッ歯類への試験では、正常なC細胞にもGLP-1受容体が発現しているため、GLP-1受容体作動薬の慢性刺激により・投与期間依存性の(MTCを含む)が誘発された。この所見のヒトへの関連性は確立していないが、(GLP-1受容体作動薬)と(GIP/GLP-1)は、この結果を根拠とするFDAのにより、MTCの既往・家族歴またはMEN2の患者に禁忌となっている3

⚠️ は「例外」ではなく、製剤ごとに分かれる。 (Byetta、1日2回)にはも本禁忌も無いが、(Bydureon/Bydureon BCise、週1回)はを持ち、MTCの既往・家族歴とMEN2は禁忌である4域の曝露によりC細胞腺腫・C細胞癌の発生が・投与期間依存性に増加したことが根拠で、「はげっ歯類でが増えない」という理解は誤りである。MTC既往患者の薬剤選択では、分子名ではなく製剤名まで確認する必要がある。

まとめ

  • MTCはではなく由来のから発生するで、カルシトニン・CEAを分泌しヨードを取り込まない点がと根本的に異なる。
  • 性が約75%、家族性(MEN2A・MEN2B・家族性MTC単独型)が約25%を占め、見かけ上性でも6〜10%に生殖細胞系列RET変異が見つかるため、全患者でを行う。
  • 診断は・CEAとFNAのカルシトニン免疫染色、治療の根幹は値に応じたリンパ節郭清であり、RAIは無効である。
  • MEN2に伴う症例では、を除外・先行治療してから甲状腺手術に進む順序を誤らない。
  • 進行・転移例では)が優先されることが多く、)が次の選択肢となる。プラルセチニブは2023年6月にMTCの米国適応が取り下げられている。
  • GLP-1受容体作動薬はげっ歯類での誘発を根拠にMTC既往・MEN2で禁忌だが、由来のだけはこの禁忌を持たない。

出典

  1. 1.Genentech provides update on Gavreto (pralsetinib) indication for RET-mutant medullary thyroid cancer(Genentech・2023)2023年6月にGavreto(プラルセチニブ)のRET変異陽性甲状腺髄様癌に対する米国適応が自主的に取り下げられたこと、理由が安全性ではなく迅速承認の市販後要件である第III相確認試験AcceleRET MTCを開始できなかったことであり、RET融合遺伝子陽性の甲状腺癌・非小細胞肺癌の適応は影響を受けないことを確認した。あわせて現行のDailyMed添付文書の適応欄にMTCが含まれないことを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.BYDUREON BCISE (exenatide extended-release) injectable suspension - label(DailyMed (U.S. National Library of Medicine))徐放性エクセナチド(BYDUREON BCISE、週1回)が枠組み警告を持ち、ラットで臨床用量域の曝露により甲状腺C細胞腫瘍の発生が増加すること、および甲状腺髄様癌の既往・家族歴とMEN2が禁忌に挙げられていることを添付文書のBOXED WARNING・CONTRAINDICATIONS・発癌性の節で確認した。速放性エクセナチド(Byetta)にはこの警告・禁忌が無い閲覧 2026-08-10
  3. 3.Current Guidelines for Management of Medullary Thyroid Carcinoma(Endocrinology and Metabolism(大韓内分泌学会)・2021)血清カルシトニン500 pg/mL以上で全身画像精査、150 pg/mL前後を基準に術後サーベイランス画像を選択すること、散発性が約75%・家族性(MEN2)が約25%を占め見かけ上散発性の6〜10%に生殖細胞系列RET変異が同定されること、両側性・多発性が散発例の約10%・遺伝性ほぼ全例に及ぶため全摘出術が標準であること、術前血清カルシトニン値に応じた頸部郭清範囲の目安(20/50〜200/200 pg/mLを境に中央・外側区域郭清の要否を判断)、選択的RET阻害薬セルペルカチニブ(LIBRETTO-001試験、2020年FDA承認)・プラルセチニブ(ARROW試験、2020年12月FDA承認)とマルチキナーゼ阻害薬バンデタニブ(ZETA試験)・カボザンチニブ(EXAM試験)の奏効率・無増悪生存期間データを確認した。閲覧 2026-08-10
  4. 4.MOUNJARO (tirzepatide) injection, for subcutaneous use — full prescribing information(U.S. Food and Drug Administration / DailyMed(Eli Lilly and Company)・2026)ラットへの反復投与試験で用量依存性・投与期間依存性の甲状腺C細胞腫瘍(甲状腺髄様癌を含む)が生じたこと、ヒトでの臨床的関連性は確立していないとしつつ、甲状腺髄様癌の既往・家族歴またはMEN2の患者を禁忌とする記載を確認した。閲覧 2026-08-10