薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B35 Targeted cancer therapy / 分子標的薬 · 必修

プラルセチニブ

pralsetinib

分類
Targeted cancer therapy / 分子標的薬
商品名(EU)
Gavreto
科目
Pharmacology
トピック
B35: Drugs used in cancer treatment V (Small molecule signal transduction inhibitors. Retinoids)
承認適応
肺癌甲状腺癌
副作用
便秘下痢浮腫発熱咳嗽出血
監視検査値
AST・ALT
相互作用
イトラコナゾールリファンピシン

🧠 全体像:プラルセチニブはと並ぶ高選択性RET阻害薬で、ARROW試験を根拠に2020年12月、RET融合陽性肺癌・RET融合陽性陽性(MTC)の3適応で加速承認された1。ところがMTC適応は2023年6月に製造販売元が自主的に取り下げており、現在の適応はRET融合陽性肺癌とRET融合陽性)の2つに絞られている。取り下げの理由は安全性・有効性の問題ではなく、加速承認を本承認へ転換するために必要な検証的(AcceleRET-MTC)が実施可能性の面で開始できなかったという行政上の事情である。「プラルセチニブ=MTC治療薬の1つ」という2020年当時の理解のまま止まっていると、現在の適応と食い違う——この適応変遷そのものが、加速承認制度と検証的試験の関係を学ぶ好例になる。

薬効群の中での位置づけ

グループ 代表薬 標的の広さ 現在のMTCでの位置づけ
RETに高い選択性 MTCの適応を維持
プラルセチニブ RETに高い選択性(VEGFR2・FGFR2・JAK2への親和性はRETの十数〜40分の1) MTCの適応は2023年に取り下げ済み(肺癌・の適応は継続)
RET+VEGFR・EGFR等を同時阻害 MTCの適応を維持

同じ「」というクラス内でも、適応の現況は薬剤ごとに違う。 がMTC・肺癌・・その他固形腫瘍へと適応を拡大し続けているのに対し、プラルセチニブはMTCから撤退し肺癌・の2適応に集約された。分子薬理としての機序はほぼ同じでも、上の立ち位置は同一クラス内でも均一ではない。

機序

flowchart TD
    A["RET<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proto-oncogene'>プロト癌遺伝子</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='activating variant (mutation)'>活性化変異</span>または融合"] --> B["RET<span class='jp-term jp-term-diagram' title='kinase domain'>キナーゼドメイン</span>が恒常的にリン酸化・活性化"]
    B --> C["下流のRAS/MAPK経路・PI3K/AKT経路が持続的に活性化"]
    C --> D["腫瘍細胞の増殖・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='survival signal'>生存シグナル</span>が止まらなくなる"]
    E["プラルセチニブがRETの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ATP-binding site'>ATP結合部位</span>に結合"] --> F["野生型RETと融合型・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mutant'>変異型</span>RETキナーゼ活性を阻害"]
    F --> G["VEGFR2・FGFR2・JAK2などへの作用はRETより十数〜40倍弱い"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='downstream signal'>下流シグナル</span>を選択的に遮断→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor growth'>腫瘍増殖</span>を抑制"]

💡 との違いは「同じ土俵で少し配分が違う」程度で、作用機序そのものは実質的に同じ——どちらもRETのを占拠する経口であり、でのRET選択性(のキナーゼに対して十数〜40倍高い親和性)というも共通する。両者を分けるのはではなく、・承認の経過である。

薬物動態

項目 値・特徴
単回投与で約15.7時間、で約20時間
代謝 主にCYP3A4、一部CYP2D6・CYP1A2
約97%(濃度に依存しない)
食事の影響 空腹時投与が必要(服用前2時間・服用後1時間は絶食)

適応

適応 対象
肺癌 RET融合陽性の転移性(成人)
RET融合陽性の進行・転移性で、全身治療を要し抵抗性(12歳以上)

⚠️ は2020年12月のARROW試験に基づく加速承認時には適応に含まれていたが、確証的な(AcceleRET-MTC)を実施できなかったため2023年6月に製造販売元が米国適応を自主的に取り下げている2。安全性・有効性上の懸念による撤退ではなく、他の2適応には影響しない2

用法・用量

1日1回400mgを空腹時にする(服用の少なくとも2時間前から1時間後まで食事を摂らない)3

禁忌・注意

禁忌は特に定められていない(CONTRAINDICATIONS節は「なし」)3。以下は投与前・投与中のモニタリングと・減量・中止の判断が必要な項目。

  • :Grade 1〜2では回復後に減量再開、再発や Grade 3〜4では永続的に中止する
  • 高血圧:コントロール不良の高血圧には開始せず、事前に血圧を最適化する
  • 肝毒性:投与開始前、最初の3か月は2週ごと、以後は月1回を目安にAST・ALTを測定する
  • 出血:重篤・生命を脅かす出血では永続的に中止する
  • ・創傷治癒遅延の5日前から
  • :妊娠可能な女性には非の有効な避妊を指導する

副作用

高頻度(25%以上)にみられるのはの痛み、便秘、高血圧、下痢感、浮腫発熱咳嗽である3と異なりQT延長は独立した項目として掲げられていないが、・肝毒性・出血など重篤化しうる有害事象への定期モニタリングは共通して重要である。

まとめ

  • プラルセチニブはと並ぶ高選択性RET阻害薬で、機序・選択性の考え方はほぼ共通する。
  • ARROW試験を根拠に2020年12月、肺癌・・MTCの3適応で加速承認されたが、MTCの適応は2023年6月に自主的に取り下げられ、現在の適応は肺癌・の2つのみ。
  • 撤退の理由は安全性・有効性ではなく、加速承認を本承認へ転換するための検証的試験が実施できなかったという行政上の事情である。
  • 明確な禁忌はないが、・高血圧・肝毒性・出血など多岐にわたる有害事象を定期モニタリングで管理する。
  • CYP3A4で主に代謝されるため、強い/中等度のCYP3A4阻害薬・との併用は避け、空腹時投与を守る。

出典

  1. 1.GAVRETO (pralsetinib) capsules, for oral use — full prescribing information(U.S. Food and Drug Administration / DailyMed (Genentech)・2023)GAVRETOに枠組み警告が存在しないこと、現行の適応がRET融合陽性NSCLC(成人)とRET融合陽性甲状腺癌〈RAI抵抗性、12歳以上〉の2つであり、RET変異陽性MTCの適応が2023年6月29日にMTC適応の自主的取り下げが公表され、現行添付文書の適応欄にMTCが含まれないこと、用量(1日1回400mg、空腹時投与)、禁忌が「なし」であること、警告(間質性肺疾患・高血圧・肝毒性・出血・腫瘍崩壊症候群・創傷治癒遅延・胎児毒性)、CYP3A4基質としての相互作用、消失半減期約15.7〜20時間を確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Genentech Provides Update on Gavreto U.S. Indication for Advanced or Metastatic Medullary Thyroid Cancer(Genentech, Inc.・2023)2023年6月29日、GenentechとBlueprint MedicinesがGAVRETOのRET変異陽性甲状腺髄様癌(MTC)に対する米国適応を自主的に取り下げたこと、理由は安全性・有効性データによるものではなく、加速承認を本承認へ転換するための検証的第III相試験(AcceleRET-MTC)を開始できなかったためであること、NSCLC・甲状腺癌の適応には影響しないことを確認した閲覧 2026-08-11
  3. 3.Current Guidelines for Management of Medullary Thyroid Carcinoma(Endocrinology and Metabolism(大韓内分泌学会)・2021)選択的RET阻害薬プラルセチニブ(ARROW試験、2020年12月FDA承認)がMTCに対しても高い奏効率と長い無増悪生存期間を示し、マルチキナーゼ阻害薬に比べ忍容性の点で優先されることが多かったことを確認した(当時の承認範囲にMTCが含まれていた時点の記述)閲覧 2026-08-11