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アミノトランスフェラーゼ(AST・ALT)

Aminotransferase

別名
ASTALTGOTGPTAST・ALTトランスアミナーゼ肝酵素肝酵素上昇Aspartate aminotransferaseAlanine aminotransferase
臓器系
肝胆膵運動器
科目
PathophysiologyBiochemistryPathology
トピック
病態生理学 2-3:肝機能障害生化学 9/4:急性・慢性肝疾患病理学 C/47:急性・慢性肝炎
関連疾患
アルコール性肝疾患ウイルス性肝炎ライ症候群横紋筋融解症肝硬変急性肝不全自己免疫性肝炎腸管不全関連肝疾患非アルコール性脂肪肝疾患免疫関連有害事象薬剤性肝障害
監視対象薬
アセクロフェナクアニデュラファンギンアルベンダゾールエデト酸カルシウム二ナトリウムエトラナコゲン デザパルボベクオマベロキソロンギルテリチニブケトコナゾールサクシマーサトラリズマブジメルカプロールスチボグルコン酸ナトリウムセルペルカチニブチオプロニントレメリムマブパゾパニブバリシチニブビルダグリプチンフェゾリネタントプラルセチニブブレンツキシマブ ベドチンベキサロテンミカファンギンミルテホシン
影響する薬剤
エチオナミドエデト酸カルシウム二ナトリウムエトラシモドエトラナコゲン デザパルボベクオザニモドゲムフィブロジルサクシマーサリルマブニコチン酸(ナイアシン)パラアミノサリチル酸ピルフェニドンフォスタマチニブプロチオナミドベドリズマブリファペンチン
スコア
慢性GVHDのNIHコンセンサス基準

🧠 全体像:AST・ALTは「肝」と呼ばれることが多いが、実際に測っているのは肝細胞からの逸脱(傷害)であり、合成能や排泄能という「機能」ではない。ALTは肝への分布の偏りが強く肝特異的な傷害マーカーに近いが、ASTは心筋・骨格筋・赤血球にも豊富に存在するため単独高値では肝以外を必ず考える。AST・ALT・「」はいずれも同じ2つのを指す呼び名であり、本ノートで一括して扱う。

何を測っているか

AST(、GOT)とALT(、GPT)は、いずれもを触媒する酵素で、として(PLP、ビタミンB6の活性型)を必要とする。この依存性が、後述する測定法差やでの低値の背景になる。

  • AST:肝細胞の細胞質とミトコンドリアの両方に存在し、心筋、骨格筋、腎、脳、赤血球にも広く分布する。ミトコンドリア分画の逸脱は、細胞膜だけでなくミトコンドリア膜まで壊れる、より深い傷害を反映する。
  • ALT:主に肝細胞の細胞質に存在し、他組織での発現は乏しい。この分布の偏りが、ALTの方が肝特異性が高いとされる根拠である。

はALTが約47時間、ASTが約17時間とASTの方が短い。にはASTから先に低下するため、同じ傷害でも採血のタイミングで比率が変わる。

flowchart TD
    A["肝細胞:細胞質+ミトコンドリア"] --> C["AST"]
    B["心筋・骨格筋・腎・脳・赤血球"] --> C
    D["肝細胞:主に細胞質(肝特異性が高い)"] --> E["ALT"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue injury'>組織傷害</span>・細胞膜/ミトコンドリア膜の破綻で血中へ逸脱"]
    E --> F

💡 「肝」という言い方の落とし穴。 AST・ALTが評価しているのは肝細胞からの逸脱=傷害であり、肝が担う合成能(アルブミン)や排泄能(ビリルビン)という「機能」そのものではない。の終末期のように肝細胞がほぼ消失すると、逸脱する酵素自体が枯渇してAST・ALTが低下する一方、合成能・排泄能はむしろ悪化し続けることがある。数値の低下を短絡的に「改善」と読まない。

基準値と単位

は施設・測定法・年齢・性別で異なり、単一の正常値というものはない。

要因 内容
施設差 試薬・分析装置・PLP添加の有無でが変わるため、絶対値より施設に対する倍率で読む
性差 危険因子のない健常者集団での検討では、ALTは男性29〜33 IU/L、女性19〜25 IU/Lとされ、従来の基準より低い1
BMIとの関連 ・肥満・脂質異常・はこの「健常者」集団の除外基準であり、これらを背景にALTは上昇しやすい。内でもを除外できない
年齢差 小児は成長期のの影響でASTがやや高めに出ることがあり、成人基準をそのまま当てはめない

多くの検査室が現在も使っているは、必ずしも危険因子のない集団だけから設定されたものではない。従来の基準内でも、性差を踏まえた閾値では既に異常域に入ることがある。

高値の意味

機序で群分けすると解釈しやすい。

機序 代表例 手掛かり
肝細胞傷害(ウイルス性) 急性・慢性 ALT優位、ウイルス血清学
肝細胞傷害(・薬剤性) アルコール性肝障害、 飲酒歴・、経過とビリルビンの並行
肝細胞傷害(代謝性・自己免疫性) 危険因子、自己抗体、鉄・代謝
数千単位への急激な上昇と数日での急速な低下
激しい運動、 AST単独高値、の同時上昇
・赤血球由来 溶血 AST単独高値、ビリルビン・との整合
軽度のAST・ALT上昇、
測定上の 症状を伴わない持続高値

⚠️ AST単独高値では肝以外を必ず考える。 ASTは心筋・骨格筋・赤血球にも豊富なため、ALTを伴わないAST単独の上昇は、肝疾患だけでなく・筋損傷・溶血・甲状腺機能異常を鑑別に挙げる。が同時に高ければを強く示唆する。

AST/ALT比(De Ritis比)

AST/ALT比は病因の手掛かりになるが、単独で確定診断はできない。

比の目安 示唆される病態
2以上 アルコール性肝障害を示唆する(ミトコンドリアAST漏出が優位)2
1未満 急性など、肝細胞質からのALT優位な逸脱を示唆する2
経過とともに上昇 線維化・肝硬変の進行で比がし得る2

⚠️ 比だけで病因を確定しない。進行した脂肪性肝疾患では比が1を超えることがあり、逆にがあっても急性期には比が低いことがある。

低値の意味

低値そのものが治療対象になることはほとんどない。

状況 解釈
・進行した ビタミンB6(PLP)欠乏によりAST・ALTの酵素活性が低下し、を下げて解釈する必要がある
進行した肝硬変・末期肝不全 肝細胞量そのものが減り、逸脱できる酵素が枯渇して低〜正常に見えることがある。臨床像の悪化と数値の乖離に注意する
高齢・ 筋量低下や欠乏を背景にの下限寄りになり得る

測定上の注意

  • ⚠️ 溶血:赤血球からASTが混入し、ALTを伴わないASTを作る。検体の外観と採血手技を確認する。
  • ⚠️ 激しい運動・筋損傷:骨格筋由来のASTが上昇し、肝疾患がなくてもAST優位の異常を来す。と合わせてを評価する。
  • PLP添加の有無:PLPを添加する測定法では、添加しない簡易法に比べ特に例(患者など)で値が高く出ることがあり、同じ検体でも測定法間で結果が一致しない。
  • :免疫グロブリンと結合した高分子AST複合体により、無症状のまま持続的にAST単独高値を示す。良性で経過観察でよい。
  • をそのまま適用すると異常の見落としにつながりやすく、施設によっては下方修正した基準を用いる。

経時変化とモニタリング

単回値よりも推移とパターンが情報を持つ。

パターン 典型例
数時間〜1、2日でに上昇し、数日で急速に低下 )、
緩徐に上昇し、ALTがASTより遅れて低下 急性(ALTの半減期がASTより長いため)
軽度上昇が数か月以上持続 慢性、脂肪性肝疾患、慢性アルコール性肝障害

を疑う場面では、上昇の程度と胆汁うっ滞所見の有無で対応を分ける。ALT・ASTがの3倍を超え、かつが2倍を超える(胆汁うっ滞所見に乏しい)組み合わせはHy’s lawの枠組みと呼ばれ、重症のリスクが高いとされる3

flowchart TD
    A["投薬中にALT・ASTが上昇"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper limit of normal (ULN)'>基準上限</span>の8倍を超えるか"}
    B -->|"はい"| G["中止し原因を評価"]
    B -->|"いいえ"| C{"3倍超かつ胆汁うっ滞所見に乏しいか"}
    C -->|"いいえ"| H["経過観察を継続"]
    C -->|"はい"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='total bilirubin'>総ビリルビン</span>が2倍超、または肝炎症状があるか"}
    D -->|"はい"| G
    D -->|"いいえ"| E{"5倍超が2週間以上持続するか"}
    E -->|"はい"| G
    E -->|"いいえ"| H

まとめ

  • AST・ALTは肝細胞からの逸脱(傷害)マーカーであり、合成能・排泄能という「肝機能」そのものは測っていない。
  • ALTは肝への分布の偏りが強く肝特異的、ASTは心筋・骨格筋・赤血球にも豊富なため、AST単独高値では肝以外を必ず考える。
  • には性差があり、危険因子のない健常者では従来より低い値が提案されている。
  • AST/ALT比はアルコール性で2以上、急性で1未満になりやすいが、単独で病因を確定しない。
  • 溶血・激しい運動・PLP添加の有無・は代表的な測定上の落とし穴である。
  • の評価ではHy’s lawの枠組み(著明なALT/AST上昇+胆汁うっ滞に乏しいビリルビン2倍超)が重症化リスクの目安になる。

出典

  1. 1.ACG Clinical Guideline: Evaluation of Abnormal Liver Chemistries(American Journal of Gastroenterology・2017)危険因子のない健常者集団でのALT正常上限を男性29〜33 IU/L、女性19〜25 IU/Lと提案し、性差を明示して再定義した閲覧 2026-08-01
  2. 2.Guidance for Industry: Drug-Induced Liver Injury: Premarketing Clinical Evaluation(U.S. Food and Drug Administration・2009)ALT・ASTの著明高値に胆汁うっ滞所見の乏しい総ビリルビン2倍超が伴う所見(Hy's lawの枠組み)を重症薬剤性肝障害の予測指標とし、治験での投与中止基準の考え方を示した閲覧 2026-08-01
  3. 3.Navigating Disease Management: A Comprehensive Review of the De Ritis Ratio in Clinical Medicine(Cureus・2024)AST/ALT比(De Ritis比)はアルコール性肝障害で2以上に上昇しやすく、急性ウイルス性肝炎など肝細胞傷害の初期では1未満になりやすいこと、線維化・肝硬変の進行で再上昇し得ることを整理した閲覧 2026-08-01