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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

ウイルス性肝炎

Viral hepatitis

臓器系
感染症肝胆膵
科目
Medical MicrobiologyPathologyInternal Medicine
トピック
微生物学 3/34:肝炎ウイルス:A・E型微生物学 3/35:肝炎ウイルス:B・C・D・G型病理学 C-47:急性・慢性肝炎内科学 S-32:ウイルス性肝炎
合併症
肝硬変ウイルス性関節炎
続発疾患
再生不良性貧血胆道癌(胆管癌・胆嚢癌)肝細胞癌
関連疾患
先天性TORCH感染症
治療薬
テノホビルエンテカビルソホスブビルベルパタスビルリバビリン(PEG)インターフェロンα
原因薬剤
アダリムマブインフリキシマブ
原因微生物
A型肝炎ウイルスB型肝炎ウイルスC型肝炎ウイルスE型肝炎ウイルスHepatitis D virus
症状
肝腫大
検査値
AST・ALT
組織像
C型慢性肝炎B型肝炎C型慢性肝炎(活動性と線維化)B型肝炎
元疾患
新生児水痘
原因となる疾患
精神作用物質使用症(アルコール以外)
禁忌薬
イネビリズマブ

🧠 全体像:A〜Gは「感染経路」という1本の軸で二分できる。A・E型は糞口感染で口から入り胆汁を介して便へ戻る消化管完結型のサイクルを描き、急性感染のみで終わり慢性化しない。一方B・C・D・G型は血液・体液感染で、細胞傷害の主体がウイルスそのものではなく宿主の免疫応答(HBV)やな(HCV)にあるため慢性化・肝硬変・へ進みうる。この2グループの違いを軸に据えれば、5種類以上のウイルスの感染経路・臨床像・治療の使い分けが一気に整理できる。

病原体と分類

ウイルス 科 ゲノム エンベロープ
A型() () (+)ssRNA なし 。汚染された水・だけでなくヒト-ヒトの直接接触も主要経路で、2016年以降の米国の流行はではなくヒト-ヒト伝播が主体だった(薬物使用者・ホームレス状態の人・男性間性交渉者に集積)1
B型() 環状dsDNA あり 血液・性的接触・
C型() (+)ssRNA あり 血液・性的接触
D型(HDV) コルミオウイルス科・(リボザイウイルス界)2 環状(−)ssRNA あり(HBsAg借用) 血液・性的接触(感染が前提)
E型() (+)ssRNA なし (水系・豚/イノシシ生肉)

⭐ HDVは自前のエンベロープを作れず、感染性を持つためにのHBsAgを借りる必要がある。 この性質から長く「」と呼ばれてきたが、現在は独立した科・属(コルミオウイルス科・)として分類されている2。 感染がなければHDV感染も成立しない——は重症急性疾患、既存感染者へのは慢性HDV感染を起こすという違いを生む。

病態生理:なぜB・Cは慢性化し、A・Eはしないのか

flowchart TD
  A["ウイルス曝露"] --> B{"糞口感染か<br>血液・体液感染か"}
  B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fecal-oral'>糞口</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis A virus'>HAV</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis E virus'>HEV</span>)"| C["肝細胞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Kupffer cells'>クッパー細胞</span>内で増殖<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytolysis'>細胞溶解</span>を伴わない)"]
  C --> D["胆汁中へ放出→便中排泄"]
  D --> E["約1か月で自然軽快<br>慢性化なし"]
  B -->|"血液・体液(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis C virus'>HCV</span>・HDV・HGV)"| F["肝細胞表面にウイルス抗原が発現"]
  F --> G["宿主の免疫応答が肝細胞を傷害<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span>:免疫複合体・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type III hypersensitivity reaction'>III型過敏反応</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis C virus'>HCV</span>:CD8+T細胞が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exhaustion'>疲弊</span>し排除できない)"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='persistent infection'>持続感染</span>が成立すれば<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic hepatitis'>慢性肝炎</span>"]
  H --> I["肝硬変・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocellular carcinoma, HCC'>肝細胞癌</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocellular carcinoma'>HCC</span>)へ進展しうる"]
  • ・:摂取したウイルスはに到達し、肝細胞を直接破壊せずに増殖したのち胆汁中へ排出される。この「を伴わない増殖→排出」サイクルは慢性化する余地がない。
  • HBV:肝細胞そのものに対する直接的な細胞傷害性は乏しく、肝細胞表面のウイルス抗原に対する(・免疫複合体)がの主体になる。慢性化率は成人期の感染で5%未満、乳児期・幼児期の感染で約95%3——年齢が若いほど免疫応答が未成熟で排除できず慢性化しやすい。
  • HCV:ポリメラーゼがを欠くため変異が蓄積しやすく、ではがしてウイルスを排除できなくなる。慢性化率は約70%(55〜85%)とB型よりはるかに高く、ワクチンも存在しない4。裏を返せば約30%(15〜45%)は6か月以内に無治療で自然排除するので、抗体陽性だけでは現感染と言えず、 の確認が要る。
  • HDV:HBsAgを借りて複製するため、常に感染を前提とする。

臨床像

ウイルス性肝炎の5つの転帰パターン

パターン 特徴
無症状の急性感染 血清上昇のみで検出
急性 潜伏期→症状期(・悪心・発熱)→黄疸期(はほぼ全例、で約50%、では稀)→
組織学的な炎症+壊死を6か月超認める。・・HDV・HGVで起こりうる
広範なによる。・HDVで、また妊婦ので起こりうる
無症状でウイルスを伝播しうる状態。・・HDVのみ(・は起こさない)

ウイルスごとの臨床的特徴

項目 HDV
慢性化 なし あり(成人期感染で5%未満・乳幼児期感染で約95%3) あり(約70%、55〜85%)4 あり(特にsuperinfection) なし(妊婦は例外)
劇症化 稀 あり 稀 あり 妊婦で高頻度
キャリア なし あり あり あり なし
病変 なし 、 、 — —
・肝硬変リスク なし あり 主要な原因 あり なし

⚠️ 妊婦のE型肝炎は劇症化リスクが高い。 健常成人では自然軽快する一過性感染にすぎないE型肝炎が、妊娠中(特に、の遺伝子型1/2)に感染するとへ進展し率が上昇しうる——A・E型の「急性のみ・慢性化しない」という原則の中で唯一の重要な例外である。

診断

HBV:抗原・抗体パターンの読み方

flowchart TD
    A["HBsAg+anti-HBs+総anti-HBc"] --> B{"HBsAg陽性?"}
    B -->|"はい"| C["IgM anti-HBcで急性か判定<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span> <span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alanine aminotransferase'>ALT</span>・線維化で活動性を評価"]
    B -->|"いいえ"| D{"anti-HBs陽性?"}
    D -->|"anti-HBc陰性"| E["ワクチン免疫"]
    D -->|"anti-HBc陽性"| F["既感染からの回復"]
    D -->|"anti-HBs陰性・anti-HBc陽性"| G["window期/既感染/occult <span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span>を追加評価"]
  • HAV:急性期の。
  • HBV:HBsAg(最初に出現、活動性の指標)→HBeAg(感染性の高さ)→抗HBc抗体(に陽性)→抗HBe抗体・抗HBs抗体(感染性低下・回復/免疫)という順で解釈する。HBsAgが6か月以上持続すれば慢性感染。
  • HCV:抗抗体でスクリーニングし、陽性であればHCV RNAで現感染を確認する。急性感染ではが上昇し6か月後にほぼ正常化するが、では6か月後もが血中に持続する。
  • HDV:HBsAg陽性者で抗HDV抗体・HDV を追加測定する。
  • HEV:抗 IgM/IgG抗体、必要時 (免疫抑制患者の評価にも用いる)。

治療

ウイルス 治療
特異的治療なし——自然軽快を待つ支持療法のみ
慢性にまたは(高の核酸/)。全HBsAg陽性者に一律投与するわけではなく、 量・・線維化・年齢・免疫抑制予定・妊娠などで適応判断する
pangenotypic(、例:ソホスブビル+ベルパタスビル)で大多数が治癒する。治療前にをスクリーニングし再活性化リスクへ対応する
HDV はを抑えるがHDVを直接は排除しない。高用量(PEG)、地域により専門治療(bulevirtideなど)、重症例では
多くは支持療法。慢性/重症の選択例で

⚠️ ではビリルビン・・意識状態を追跡する。 延長+肝性脳症はとして移植施設へ緊急紹介する。

予防

  • HAV:(への渡航者、患者などに接種)、先進国での水源浄化。
  • HBV:HBsAg組換えワクチン(出生時・1か月・6か月の3回接種)。時は曝露後の投与とワクチン接種歴を確認する。ハイリスク新生児にはによる受動免疫も行う。
  • HCV:ワクチンなし(変異速度が速すぎるため)——スクリーニングと早期治療が対策の中心。
  • HDV:ワクチンで予防できるが、既にに感染している人には無効(は防げない)。
  • HEV:組換えワクチン(入手可能地域は限られる)、水源浄化、豚・イノシシ肉の十分な加熱。

まとめ

  • は「糞口感染・急性のみ(A・E型)」と「血液・体液感染・慢性化しうる(B・C・D・G型)」の2軸で整理するのが最も効率的。
  • は免疫複合体()によるが主体で慢性化率は成人期感染で5%未満・乳幼児期感染で約95%3、はCD8+により慢性化率約70%(55〜85%)と成人期感染のよりはるかに高くの主要原因となる。HDVはHBsAgを借りて感染性粒子を作るため感染が前提(かつての「」という扱いは分類上は現行でない)2。
  • 妊婦の感染は劇症化しうる、A・E型における唯一の重要な例外。
  • 診断はの抗原・抗体パターン読解との抗体→確認が中心。治療はに/、に(多くは治癒可能)、HDVに中心の専門治療。
  • ・のは肝硬変・へ進展しうるため、長期フォローとが必要になる。

出典

  1. 1.Prevention of Hepatitis A Virus Infection in the United States: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) / CDC, MMWR Recommendations and Reports・2020)全文(PMC8631741)で、HAVが糞口経路で伝播し通常はヒト-ヒトの直接接触または汚染された食物・水の摂取によること、2013年と2016年の小さな増加は汚染食品由来の集団発生だったが、"Beginning in 2016, greater increases in the number of reported cases occurred across the United States, primarily from widespread outbreaks of hepatitis A from person-to-person transmission" と述べられ、2016年以降の米国の大きな増加はヒト-ヒト伝播による広域アウトブレイクが主体であること、その背景集団として薬物使用者・ホームレス状態の人・男性間性交渉者が挙げられていること、ACIPが12〜23か月児への定期接種と未接種の2〜18歳へのキャッチアップ接種を勧告していることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.ICTV Virus Taxonomy Profile: Kolmioviridae 2024(Journal of General Virology(Kuhn JH, et al.; International Committee on Taxonomy of Viruses)・2024)Europe PMC の全文(PMC11145878)で、D型肝炎ウイルスがリボザイウイルス界・コルミオウイルス科・デルタウイルス属(種名 Deltavirus italiense)に分類されること、粒子が直径36〜43 nmの球形でヘルパーウイルス由来のエンベロープ蛋白をもつこと、ゲノムがリボザイムを含む約1.5〜1.7 kbの環状マイナス鎖RNAであることを確認した。⚠️ 本文に "satellite" の語は現れない。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Hepatitis B (fact sheet)(World Health Organization・2026)「成人期に獲得したB型肝炎感染が慢性肝炎に至るのは5%未満であるのに対し、乳児期・幼児期の感染では約95%が慢性肝炎に至る。これが乳幼児期のワクチン接種を強化・優先する根拠である」との記載を確認した。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Hepatitis C (fact sheet)(World Health Organization・2026)「約30%(15〜45%)が感染後6か月以内に無治療で自然にウイルスを排除し、残る70%(55〜85%)が慢性HCV感染へ移行する」「慢性HCV感染例のうち20年以内の肝硬変リスクは15〜30%」との記載を確認した。閲覧 2026-09-24