内科学

内科学 · S-32

ウイルス性肝炎

Viral Hepatitis

前提:病態
肝炎ウイルス:A・E型肝炎ウイルス:B・C・D・G型急性・慢性肝炎
疾患
ウイルス性肝炎

🧠 全体像:肝炎ウイルス A〜Eは伝播、慢性化、予防・治療が異なる。A・Eは主に糞口感染、B・C・Dは血液・体液感染である。は慢性化せず、・・HDVは肝硬変・へ進展し得る。診断は「抗体陽性」だけでなく、急性感染マーカーとウイルス核酸を使い分ける。

比較

ウイルス 伝播・慢性化 診断の基本 治療・予防
、慢性化なし 急性:IgM anti- 支持療法;ワクチン、曝露後ワクチン±免疫グロブリン
血液、性行為、周産期;慢性化あり HBsAg、anti-HBs、総anti-HBc/IgM anti-HBc; で活動性 慢性活動性はまたはなど1;ワクチン+適応時HBIG
主に血液;慢性化しやすい anti-でスクリーニングし、 で現感染確認 pangenotypic で大多数が治癒2;ワクチンなし
HDV をhelperとする血液・体液感染 HBsAg陽性者でanti-HDV、HDV ワクチンで予防;peg-IFNα、地域によりbulevirtideなど専門治療3
主に、zoonotic;免疫抑制で慢性化あり IgM anti-+必要時 多くは支持療法;慢性/重症選択例で;妊娠で重症リスク4

HBV血清学的検査

flowchart TD
    A["HBsAg+anti-HBs+総anti-HBc"] --> B{"HBsAg陽性"}
    B -->|"はい"| C["IgM anti-HBcで急性、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span> <span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alanine aminotransferase'>ALT</span>・線維化で活動性"]
    B -->|"いいえ"| D{"anti-HBs陽性"}
    D -->|"anti-HBc陰性"| E["ワクチン免疫"]
    D -->|"anti-HBc陽性"| F["既感染回復"]
    D -->|"anti-HBs陰性・anti-HBc陽性"| G["window期/既感染/偽陽性/occult <span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span>を追加評価"]

HBsAgが6か月以上持続すれば慢性感染である。は、 、線維化/肝硬変、年齢・家族歴、免疫抑制予定、妊娠などで決め、全HBsAg陽性者に一律投薬するわけではない。肝硬変・高リスク患者では治療中もを継続する。

💡 B型肝炎のは「拡大・簡素化」の方向へ動いている。 は2024年3月の改訂ガイドラインで、成人の治療基準を拡大・簡素化したうえで新たに思春期例の基準を設け、のための妊婦への抗ウイルス薬予防投与の対象も広げ、D型肝炎を誰にどう検査するかを明示した5。欧州のも2025年に改訂版を出し、ウイルス側・宿主側の因子によると個別化したを軸に据えている1。「全員に出す薬ではない」という原則は変わらないが、適応の線は年々下がっているので、閾値を覚えるときは版を添えて覚える。

💡 HBs抗原消失(functional cure)がとして置かれている。 は を強く抑えるが核内のcccDNAを除去しないため、HBs抗原消失に至る例は少なく、多くは長期投与になる。 2025は機能的治癒と部分的治癒の定義そのものが新しいとともになお動いている段階だと明記しており、「治癒」という語をC型肝炎と同じ意味で使わない1。

臨床管理

  • ではビリルビン、、ブドウ糖、意識を追跡する。延長+肝性脳症はとして移植施設へ緊急紹介する。
  • はanti-陽性後に を確認し、原則すべての現感染を治療する。治療前にをスクリーニングし再活性化リスクへ対応する。
  • HDVは/HDVより慢性化・重症化しやすい。はを抑えるがHDVを直接排除しない。
  • は妊娠、とくにの遺伝子型1/2で劇症化リスクが高い。臓器移植後などでは でを評価する。

💡 C型肝炎はジェノタイプ別治療からパンジェノタイプ治療へ移った。 ソホスブビル/ベルパタスビル配合錠12週投与の第3相試験(ASTRAL-1)では、代償性肝硬変19%を含む624例でジェノタイプ1・2・4・5・6を通じたが99%(95%CI 98〜>99)だった2。はこの世代の薬剤をもって2020年版を「最終改訂」とし、の掲げる「上のとしてのC型肝炎の排除」(2030年目標)が達成可能になった一方、達成の時期と実現性は地域差が大きいとした6。

⚠️ D型肝炎のはHDVを抑えるがHBs抗原には効かない。 第3相試験(MYR301)では、48週の(HDV が未満または2 log10 IU/mL以上低下+正常化)達成率が2 mg群45%・10 mg群48%に対し無治療対照群2%だった。しかし48週までにHBs抗原消失または1 log10 IU/mL以上の低下をきたした例は群には1例もなかった3。HDVを止めてもの土台は残るということである。

まとめ

  • /は主に、//HDVは血液・体液感染と整理する。
  • は三項目血清学的検査と 、は抗体後 で現感染を確かめる。
  • ・にはワクチンがあり、はで治癒可能、HDV・慢性は専門治療を要する。

出典

  1. 1.EASL Clinical Practice Guidelines on the management of hepatitis B virus infection(Journal of Hepatology(European Association for the Study of the Liver)・2025)EASLのB型肝炎ガイドラインは2025年版へ改訂され、診断、治療目標、治療適応、治療選択肢、肝細胞癌サーベイランス、特殊集団、HBV再活性化予防、移植後管理、予防戦略の10章立てで勧告を示した。慢性HBV感染は世界で2億5,000万人を超え、肝硬変と肝細胞癌による死亡が大きいこと、ウイルス側・宿主側の因子によるリスク層別化と個別化した抗ウイルス療法を重視すること、機能的治癒(functional cure)と部分的治癒の定義が新規バイオマーカーの登場とともになお変化している段階であることを明記している閲覧 2026-08-25
  2. 2.Sofosbuvir and Velpatasvir for HCV Genotype 1, 2, 4, 5, and 6 Infection(The New England Journal of Medicine・2015)代償性肝硬変19%を含む624例に1日1回のソホスブビル/ベルパタスビル配合錠を12週投与した第3相二重盲検プラセボ対照試験で、治療終了12週後の持続的ウイルス学的著効率は99%(95%CI 98〜>99)であった。重篤な有害事象は15例(2%)閲覧 2026-08-25
  3. 3.A Phase 3, Randomized Trial of Bulevirtide in Chronic Hepatitis D(The New England Journal of Medicine・2023)代償性肝硬変の有無を問わない慢性D型肝炎150例を1日1回皮下投与のブレビルチド2 mg群・10 mg群・無治療対照群へ1対1対1に割り付けた第3相試験(MYR301)。48週の主要評価項目(HDV RNAが検出限界未満または2 log10 IU/mL以上低下、かつALT正常化)の達成率は2 mg群45%、10 mg群48%、対照群2%(各群対対照でp<0.001)。48週時点でHDV RNAが検出限界未満になったのは2 mg群12%、10 mg群20%(p=0.41)。ALT正常化は対照群12%、2 mg群51%、10 mg群56%。一方、48週までにHBs抗原消失または1 log10 IU/mL以上の低下をきたした例はブレビルチド群にはなく、HDVを抑えてもHBs抗原には効かないことを示した閲覧 2026-08-25
  4. 4.EASL Clinical Practice Guidelines on hepatitis E virus infection(Journal of Hepatology(European Association for the Study of the Liver)・2018)HEVはかつて途上国に限られると考えられていたが、現在は大半の高所得国で常在し、主に人獣共通感染(zoonotic)であることが分かっている。地域内で感染したHEVは多くの欧州諸国で急性ウイルス性肝炎の最多原因になっている閲覧 2026-08-25
  5. 5.Guidelines for the prevention, diagnosis, care and treatment for people with chronic hepatitis B infection(World Health Organization・2024)WHOは2024年3月にB型肝炎ガイドラインを改訂し、成人の治療基準を拡大・簡素化したうえで、新たに思春期例にも治療基準を設けた。母子感染予防のための妊婦への抗ウイルス薬予防投与の対象も拡大し、point-of-careのHBV DNA定量やreflex方式のHBV DNA検査によって診断を改善すること、D型肝炎について誰にどう検査するかを示した閲覧 2026-08-25
  6. 6.EASL recommendations on treatment of hepatitis C: Final update of the series(Journal of Hepatology(European Association for the Study of the Liver)・2020)C型肝炎の治療勧告はこの2020年版をもって「最終改訂」とされた。病態理解、診断手技、治療と予防の進歩により、WHOが掲げる「公衆衛生上の脅威としてのC型肝炎の排除」が達成可能になったが、達成の時期と実現性は地域によって差があるとしている閲覧 2026-08-25