病理学

病理学 · C/47

急性・慢性肝炎

Acute and chronic hepatitis

応用トピック
ウイルス性肝炎自己免疫性肝炎・原発性胆汁性胆管炎・原発性硬化性胆管炎急性肝不全・急性肝炎原発性・転移性肝腫瘍
疾患
ウイルス性肝炎
症状
クモ状血管腫手掌紅斑
検査値
アミノトランスフェラーゼ(AST・ALT)

🧠 全体像:急性/慢性の区別は6か月の持続期間で決まり、ウイルスごとに「どの病型まで至りうるか」が異なる。HAV/HEVは基本的に急性のみ、HBVは全病型(キャリアを含む)、HCVは慢性化の代名詞、HDVはがなければ感染できない。

定義

  • 肝炎 = 肝の炎症。
  • 急性と慢性は6か月の持続で区別。

ウイルス性肝炎の臨床転帰(5パターン)

  1. 無症状の急性感染 — 血清上昇のみで検出。
  2. 急性 — 4期:
    1. 潜伏期
    2. 症状期(非特異的:、疲労、悪心・嘔吐、発熱、体重減少)
    3. 黄疸期(黄疸、はあり、で約50%、では稀)
  3. — 組織学的な炎症+壊死を伴い6か月超症状・再発が続く、しばしば無症状。
  4. — 広範な壊死による。
  5. — 症状なしにウイルスを伝播、HBV、HCV、HDVのみ。

肝炎ウイルス — 比較

ウイルス 感染経路 急性 慢性 劇症 キャリア 潜伏期 ワクチン
HAV ✓ – ±(稀) – 15〜50日 ✓
HBV 非経口・垂直・性 ✓ ✓ ✓ ✓ 60〜90日 ✓
HCV 血液 しばしば不 ✓✓ – ± 7〜8週 –
HDV 非経口・性(が必要) ✓ ✓ ✓ ✓ 60〜90日 経由
HEV ✓ – ✓(妊娠!) – 4〜5週 –

ウイルスごとの要点

  • HAV:短期間、良性・自然軽快、肝細胞で複製 → アポトーシス。慢性・キャリアなし。ワクチンあり。
  • HBV:直接細胞傷害性でない — ゲノムを組み込む → 肝細胞表面のウイルス抗原 → アポトーシス。すべての病型(急性、慢性、劇症、肝硬変、キャリア)を来しうる。
  • HCV:慢性化しやすいのが特徴で、感染者の約30%(15〜45%)は6か月以内に自然にウイルスを排除するが、残る約70%(55〜85%)がへ移行する。例の20年以内の肝硬変リスクは15〜30%で、HCCリスクも増す2。ワクチンはないが、()で95%超が治癒する2。
  • HDV:の存在が必要(HBsAgをに利用)。。ワクチンで防御。
    • は通常自然軽快し慢性化は約2%にとどまるが、慢性感染者へのは最大90%でに至る3。
    • ⭐ 診断はHBsAg陽性者全員への抗HDV抗体スクリーニングと、陽性者でのHDV 測定で行う。 の診断はHDV による。抗HDV IgMは急性感染の2〜3週以内に現れ慢性化すると持続するための代替マーカーとされるが、の直接のマーカーではない3。
  • HEV:水系の、自然軽快、妊婦で高死亡率。⚠️ 免疫不全者(臓器移植後、化学療法中の、感染など)では慢性化しうる——A型・E型は基本的に慢性化しないという原則の例外である4。

急性肝炎

  • 前駆:インフルエンザ様(、筋痛、発熱、悪心・嘔吐)→ 黄疸+。
  • 形態:
    • 肝細胞の腫大()
    • 小葉構造の乱れ(lobular disarray)とCouncilman小体(アポトーシスに陥った肝細胞、好酸性の類円形)、のうっ滞。
    • 胆汁うっ滞 — 内の胆汁、肝細胞の褐色色素
    • 炎症を起こしたの
  • 病因:、、非ウイルス性感染、アルコール、毒素、薬物。
  • 検査:/(ASAT/ALAT)の著明な上昇+黄疸。

慢性肝炎

  • 6か月超続く炎症+壊死、持続または肝硬変へ進行しうる。
  • 原因:
  • 発生機序:は慢性化 → 肝硬変で悪名高い。
  • ⭐ はとという別々の軸で行う。 前者は可逆的な炎症の強さ、後者は蓄積した瘢痕の量を反映し、両者は独立に採点する。METAVIR分類はこの2軸を分離した代表的な体系で、線維化はF0〜F4(F4=肝硬変)で表す。活動性の判定には、10名の病理医が慢性C型肝炎の生検363例で検証したpiecemeal necrosis(界面肝炎)と小葉内壊死の2項目からなるアルゴリズムが提案され、病理医の総合判定との一致は84%(κ=0.75)だった。炎症も判別分析では独立に使われていたが、アルゴリズムの項目には入っていない5。同じく2軸で評価する体系としてIshak分類(fibrosisを0〜6に細分化)があり、日本では新犬山分類も用いられる。
  • ⭐ 界面肝炎(interface hepatitis、旧称piecemeal necrosis)——と実質の境界で肝細胞が壊死し炎症細胞に取り囲まれる所見——は慢性化・進行性の指標として重視される。より広範に実質が壊死し隣接する血管域どうしを線維化を伴って橋渡しする所見は橋渡し壊死(bridging necrosis)と呼ばれ、進行した病期を示す。
  • ⚠️ による線維化評価は、非侵襲的検査で代替されつつある。 ・・・年齢から算出するFIB-4は、単独感染者の生検847例の検証で、進行線維化(F3〜F4)と肝硬変の同定のがそれぞれ0.85・0.91だった。1.45未満なら進行線維化を94.7%で除外でき、3.25超なら82.1%で進行線維化を示す。この2つので847例の72.8%が正しく分類され、論文は1.45〜3.25の範囲外の値についてを簡便で正確な方法としている6。

臨床

💡 ポイント: HAV/HEV = 、急性のみ( → 妊娠で劇症)。HBV = 非経口/性/垂直、を組み込む、キャリアを含む全病型。 = 慢性化しやすい(約70%が慢性化、慢性例の15〜30%が20年以内に肝硬変、増加、で95%超が治癒)。HDVはが必要(診断は抗HDV抗体→HDV )。(>6か月):、Wilson、α1-AT、自己免疫、アルコール、薬物。の徴候:+。

まとめ

  • 肝炎は急性・慢性を6か月の持続で区別し、無症状感染からまで5パターンの臨床転帰がある。
  • ・は糞口感染で急性のみ(は妊娠時に劇症化しやすい)。は非経口/性/で全病型(急性・慢性・劇症・キャリア)を来しうる。
  • は感染者の約70%(55〜85%)が慢性化する慢性化の代表格で、慢性例の20年以内の肝硬変リスクは15〜30%、リスクも増す。で95%超が治癒する。の慢性化率は感染年齢で大きく異なる(成人期5%未満、乳幼児期約95%)。
  • HDVはの存在を必要とし、HBsAg陽性者全員を抗HDV抗体でスクリーニングし、陽性ならHDV でを診断する。慢性感染者へのは最大90%で慢性化する。
  • は/の著明な上昇と黄疸を特徴とする。
  • (6か月超)の原因はのほか、、α1-、、薬物、。
  • の徴候は+で、主要死因は肝硬変の合併症(肝不全、脳症、、)。

出典

  1. 1.Hepatitis B (fact sheet)(World Health Organization・2026)「成人期に獲得したB型肝炎感染が慢性肝炎に至るのは5%未満であるのに対し、乳児期・幼児期の感染では約95%が慢性肝炎に至る」「慢性B型肝炎はテノホビルやエンテカビルなどの経口薬で治療できる」との記載を確認した。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Hepatitis C (fact sheet)(World Health Organization・2026)「感染者の約30%(15〜45%)は6か月以内に無治療でウイルスを自然排除し、残る70%(55〜85%)が慢性HCV感染へ移行する」「慢性HCV感染例の20年以内の肝硬変リスクは15〜30%」「直接作用型抗ウイルス薬(DAA)はHCV感染者の95%超を治癒させうる」「C型肝炎のワクチンはない」との記載を確認した(2026-09-24取得のページ)。閲覧 2026-09-24
  3. 3.EASL Clinical Practice Guidelines on hepatitis delta virus(European Association for the Study of the Liver・2023)J Hepatol 誌上HTML全文(Wayback保存版、2023-09-18)で確認した。HBsAg陽性者全員に少なくとも1回、検証済みの測定法で抗HDV抗体をスクリーニングし(LoE 3、強い推奨)、抗HDV陽性者全員でHDV RNAを測定して活動性のHDV感染を診断する(LoE 2、強い推奨)としていること、抗HDV IgMは急性感染の2〜3週以内に出現し慢性化すると持続するため慢性D型肝炎の代替マーカーとされるが、HDV複製の直接のマーカーではなくモニタリングには適さないこと、HBV/HDV同時感染は通常自然軽快し慢性化は約2%にとどまるのに対し、慢性HBV感染者への重複感染は最大90%で慢性D型肝炎に至ることを確認した。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Hepatitis E Virus Infection(Clinical Microbiology Reviews・2014)E型肝炎ウイルス感染は通常は自然軽快する急性の疾患だが、先進国では臓器移植患者・化学療法を要する血液悪性腫瘍患者・HIV感染者において急速に進行する肝硬変を伴う慢性感染を起こすことを確認した。A型・E型は基本的に慢性化しないという原則の、免疫不全者における例外にあたる。閲覧 2026-08-27
  5. 5.An algorithm for the grading of activity in chronic hepatitis C. The METAVIR Cooperative Study Group(Hepatology・1996)抄録で確認した。METAVIR共同研究グループの10名の病理医が慢性C型肝炎の生検363例を検討し、壊死炎症活動性(activity)の判定にpiecemeal necrosisと小葉内壊死の2項目からなる簡便なアルゴリズムを提案したこと、病理医の総合判定(基準活動性)との一致は305例・84%(kappa=0.75)で実質的だったこと、判別分析ではpiecemeal necrosis・小葉内壊死・門脈域炎症の3項目が独立に使われていたが、統計モデルの一致(83%、kappa=0.73)はアルゴリズムとほぼ同じだったことを確認した。線維化(F0〜F4)の病期分類はこの論文の対象外である。閲覧 2026-08-27
  6. 6.FIB-4: an inexpensive and accurate marker of fibrosis in HCV infection. comparison with liver biopsy and fibrotest(Hepatology・2007)抄録で確認した。HCV単独感染者の生検847例を対象とした検証で、血小板数・AST・ALT・年齢から算出するFIB-4は、進行線維化(F3〜F4)の同定でROC曲線下面積0.85、肝硬変の同定で0.91だったこと、1.45未満は進行線維化の除外に陰性的中率94.7%(感度74.3%)、3.25超は陽性的中率82.1%(特異度98.2%)であり、この2つのカットオフで847例の72.8%が正しく分類されたこと、結論が「1.45〜3.25の範囲外の値について」FIB-4を簡便・正確・安価な方法としていることを確認した。閲覧 2026-08-27