微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · ウイルス

Hepatitis C virus

C型肝炎ウイルス

分類
ヘパシウイルス / Hepaciviruses
性状
エンベロープあり Enveloped(+)ssRNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/35: Hepatitis viruses: B, C, D, G5/26: Normal flora of the genital tract. Pathogens of sexually transmitted diseases (list)3/34: Hepatitis viruses: A, E
原因となる疾患
ウイルス性肝炎ウイルス性関節炎クリオグロブリン血症肝硬変肝細胞癌膜性増殖性糸球体腎炎扁平苔癬脾辺縁帯リンパ腫
作用する薬剤
エルバスビルグラゾプレビルグレカプレビルソホスブビルダサブビルパリタプレビルピブレンタスビルペグインターフェロン アルファベルパタスビルボキシラプレビルリバビリン

🧠 全体像:を理解する鍵は「ワクチンが無い」と「ほぼ治せる」という一見矛盾する2つの現実が同居している点にある。ウイルス由来のポリメラーゼは(プルーフリーディング)機能を欠くため変異が蓄積しやすく、エンベロープ蛋白のを絶えず変え続ける——この変異速度の速さが、B型肝炎ウイルスと違って有効なワクチンの開発を阻んできた。ところが同じ変異のしにくさ(=標的の保存性)を突いた()の登場により、いまや8〜12週間の内服で95%以上が治癒する時代になっている。「予防はできないが、感染すればほぼ治せる」という組み合わせが、この10年でC型肝炎の臨床的な意味を一変させた。B型・D型と同じ「血液感染・慢性化しうる」グループに属し、A型・E型の「糞口感染・急性のみ」とは対極にある。

微生物学的な特徴

で、エンベロープを持つをとる。分類上はに属し、蚊・ダニなど節足動物媒介性の・と同じ科に属しながら、を持たず血液感染で伝播するという同科内では例外的な生態を持つ。

⚠️ ウイルス由来のポリメラーゼは3’→5’方向の(プルーフリーディング)機能を持つを欠く——複製のたびに変異が蓄積し、同一患者内でもを形成する。エンベロープ蛋白のが繰り返されるため、変異速度が速すぎて有効なワクチンが存在しない。6〜8の主要な遺伝子型(ジェノタイプ)に分かれるが、後述するとおり現行のレジメンの多くは遺伝子型を問わず使える(pangenotypic)。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["血液を介して肝細胞へ到達"] --> B["CD81(テトラスパニン)・SR-B1・<br>クローディン1などの受容体複合体に結合"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein'>LDL</span>をまとい<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein'>LDL</span>受容体経由で<br>侵入することもある"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='in the hepatocyte'>肝細胞内</span>で複製"]
    D --> E["感染肝細胞表面にウイルス抗原が発現"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CD8-positive T cell'>CD8陽性T細胞</span>が感染肝細胞を攻撃"]
    F --> G{"排除できるか"}
    G -->|"一部"| H["急性感染で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resolution'>終息</span>"]
    G -->|"多く(約70%)"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CD8-positive T cell'>CD8陽性T細胞</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exhaustion'>疲弊</span><br>→ウイルス排除できず慢性化"]
    I --> J["持続する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocellular injury'>肝細胞傷害</span>→線維化"]
    J --> K["肝硬変・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocellular carcinoma, HCC'>肝細胞癌</span>"]
    E --> L["免疫複合体形成"]
    L --> M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cryoglobulinemia'>クリオグロブリン血症</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='membranoproliferative glomerulonephritis, MPGN'>膜性増殖性糸球体腎炎</span>"]

💡 の病態はと同じ「がの主体」という構図を共有するが、免疫が破綻する理由が違う。 は免疫複合体によるが主体だが、ではがウイルス排除を試みる過程そのものが肝細胞を傷害し、さらにではT細胞がしてウイルスを排除できなくなる——「攻撃し続けているのに勝てない」状態が持続する肝炎と高い慢性化率の背景にある。

感染経路と疫学

  • 血液感染が中心:輸血・(先進国ではスクリーニングにより現在はまれ)、注射器の共用(が現在最大の経路)、医療従事者の、非のタトゥー・ピアスなど
  • 性的接触:よりは効率が低いが、者・などでは伝播リスクが上昇する
  • 母子感染():頻度はより低い(約5%程度)
  • 高リスク集団:、長期患者、1992年以前に輸血を受けた者、感染者

起こす疾患

疾患 押さえどころ
(急性) 多くは無症候〜軽症で黄疸をきたすことはまれ——急性期に気づかれないまま慢性化することが多い
約70%(55〜85%)が慢性化——よりはるかに高い慢性化率1
肝硬変 が進行すると発症しうる
世界的なの主要原因の一つ
・ 免疫複合体を介した病変
関連が報告されているが地域差が大きく、全例スクリーニングの根拠にはならない

診断

  • 抗抗体のでスクリーニングし、陽性であればHCV RNA(PCR)で現感染を確認する——抗体陽性だけではと既感染(自然治癒・治療後治癒)を区別できない点に注意
  • 急性感染:が上昇し6か月後にはほぼ正常化。:6か月後も が血中に持続
  • 定量検査で治療前後のウイルス量を評価し、遺伝子型(ジェノタイプ)検査はの一部として行われることがある
  • ⚠️ 急性感染と分かっても、自然排除を待って治療を先送りしない。 現行の指針は自然排除を待たずに治療開始を勧めており、レジメンはと同一でよい2
  • ・フィブロスキャンで線維化の程度を評価
  • (低温でする免疫グロブリン、多くはIgM)の検出は病変の評価に有用

治療と予防

  • ⭐ ()の登場でC型肝炎治療は一変した。 阻害薬ソホスブビル+ベルパタスビル、あるいは+などのpangenotypic(全遺伝子型対応)レジメンにより、8〜12週間ので(治療終了12週後にウイルスが検出されない=治癒)95%以上を達成する
  • 治療開始前に感染をスクリーニングする——治療中・治療後の再活性化リスクに備えるため
  • 旧世代治療(単独・、のボセプレビル・など)は有効性・ともにに劣り、現在は特殊な状況でのみ用いられるレガシー治療という位置づけになった
  • ⚠️ 有効なワクチンは存在しない(変異速度が速すぎるため)——予防はスクリーニング(曝露歴のある成人・一部地域では一律スクリーニングが推奨)と針の共有回避などのが中心。のような曝露後受動免疫(グロブリン製剤)も確立していない

まとめ

  • はので、同科のらと異なりを持たず血液感染で伝播する例外的な存在。
  • を欠くポリメラーゼにより変異が蓄積しやすく、有効なワクチンが存在しない。
  • による攻撃がの主体だが、ではT細胞がしてウイルスを排除できず、約70%(55〜85%)が慢性化——よりはるかに高い1。残る約30%(15〜45%)は6か月以内に無治療で自然排除する。
  • 肝硬変・の主要原因であり、・などの病変も起こす。
  • 診断は抗体スクリーニング→確認の2段階。pangenotypic レジメンにより8〜12週間で・95%以上が治癒する時代になった一方、ワクチンは無く予防はスクリーニングとに頼る。

出典

  1. 1.Hepatitis C (fact sheet)(World Health Organization・2026)「約30%(15〜45%)が感染後6か月以内に無治療で自然にウイルスを排除し、残る70%(55〜85%)が慢性HCV感染へ移行する」「慢性HCV感染例のうち20年以内の肝硬変リスクは15〜30%」との記載を確認した。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Management of Acute HCV Infection (HCV Guidance: Recommendations for Testing, Managing, and Treating Hepatitis C)(AASLD/IDSA・2023)急性C型肝炎では自然排除を待たずに治療を開始すべきであり(推奨度I・レベルB)、直接作用型抗ウイルス薬のレジメンは慢性感染と同一でよい(IIa・C)との推奨を確認した。閲覧 2026-08-15